誓いの意味
「私は今まで樹もどきで、きっとこれから先ももどきなの。
新しい樹が来てここを導いてくれてももどきは何かしら天界を支えることになる。その度にこうして意識を失ってアンセを待たせてしまう。数日かもしれないし、何年も寝たきりかもしれない。
そんな私でもいいの?アンセにはずっとそばに居て長く一緒に居られる人に巡り会えるよ。」
「一年待って思ったんだ。咲が居ないと何をしてても毎日に意味がない。世界が全てモノクロなんだ。仕事は作っていて楽しくないし何も思いつかない。飯も何を食べても美味くない。樹以外は周りは俺を腫れ物を触るみたいに扱ってくるし正直疲れた。」
「だったら尚更そんな思いをまたして欲しくない。私はこれからも同じ様に意識を失ってしまう事もあるよ。」
「必ず目覚めるなら良いんだ。出来れば毎回一年も眠られるのは勘弁して欲しいが、そうならない様にこれからは守るから良いさ。」
「大いなる力が天界の魂を守るって言っていたから多分意識を失ったまま消えたりはしないと思うけど、シャドー退治はするよ、木々と話したいし。木々に呼ばれたら音信不通にだってなるよ。私ここの常識全然知らないから迷惑かけるし、料理あんまり上手ではないし、生野菜は食べないし。」
「今更だろ。他には?」
「…分からない、でもそれでもいいの?」
「いいよ。今言った件はもう全部知っている。で、咲は?咲はどう思う?」
「私、私は…このままでいいって言ってもらえるなら…一緒に居たい。」
「おおおおおおお!じゃあ、いつ結婚式やる?」
「ん?何言ってるの?おかしいでしょ?」
「おかしくないだろ。俺は咲に誓いを立ててもう一年半くらい待ったし。」
「え?」
「ん?今俺が再度求婚して咲が受け入れたんじゃ無いのか?」
何かがおかしい。付き合ってからの結婚じゃ無いの?ここでは常識が違う?でもアンセは地上の人だから私の違和感分かるよね。
「そもそも誓いを立てたって一体何?記憶がないんだけど。」
「忘れたのか?南の街で誓ったろ?」
「思い出す、ちょっと待って。えーっと…もしかして嘘つきません、って大いなる力に誓ったやつのこと?結婚と何の関係があるの?」
「そんな子供の約束みたいに軽いやつじゃ無いけど、それだ。あの時咲に誠意を持って愛し続けると大いなる力に誓った。」
「そんな意味があったの?」
「そう誓ったの聞いていただろう?断らなかったから考えてくれているんだと思ってた。」
なんだか色々食い違っている。
「結婚はやだ。」
突然の拒否にアンセの顔が引き攣る。大いなる力に誓ったのか知らないけど私からしたら突然すぎる。確かに沢山一緒に居たし、好きだけどでも恋人をすっ飛ばして結婚とかなんかやだ。このなんか、をどう説明したら分かってもらえる?しかもアンセにとっては1年半でも私からしたらつい最近だ。
「…聞くよ。」
「アンセのこと好きだし一緒に居たいけど、いきなり結婚はなんかいや。」
「なんか嫌…俺はどうしたら良い?」
「アンセはどうして結婚を急ぐの?」
「横取りされないために決まっているだろ。大いなる力が虎視眈々と狙っているのにふらふらと咲が惹きつけられないとも限らない。誓い合えばその力は及ばないはずだ。」
「んーじゃあ、私も誓えば良いの?結婚しなくても。」
「誓ったら絶対破れないぞ。」
「相手がいいよ、って言えば解消出来るんじゃ無いの?」
…まあ、双方合意が取れれば出来ないこともないけどとさっきの勢いはどこへいったのか、ごにょごにょと口篭っている。
「大体私が受け入れた記憶もないのになんでアンセは私に誓っているの?もしかしたら知らない間に誰かが私に何かを誓っているとか気持ち悪いことがあるの?」
「いや、誓う時は本人が目の前にいて光の範囲に居ないと出来ないから知らない間に誓われることはない。それに嫌ならその場で言霊を止めたらいい。」
「ねえ、私はそれを知らないのにアンセ、勝手に誓ったの?」
「いや、なんだ、それは、だって嘘つきって言うからもう疑われない様に必死だったし。」
「じゃあ、結婚関係ないじゃない。結婚に拘るなら誓いは要らない!」
「それは困る。だって大いなる力は誓っている魂が居るからって返してくれたんだろ。無かったら一年で帰れたかどうか。」
「うーん。確かにそれは私も困るな。じゃあ、誓いはこのままでも結婚は保留、いいよね。」