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プロローグ『貴族と平民』

 それは、途轍もなく大きい門だった。


 空を見上げなければ天辺を視界に入れることすら出来ず、横幅は人が余裕を持って並んだとしても二十は軽く潜れる程。厚さなんて両腕を広げた程度では決して届かないであろう。当然、人力での開閉は出来ないだろう。


 精霊術を使う。


 精霊術とは、この世界に満ちる精霊達の残留に呼び掛け、その身に集約させ、力へと変換させるもの。この大陸では人々の生活に欠かせない最も重要なものである。


 とはいえ、全員が全員精霊術を扱えるとは限らない。才能を持ちながら、その扱い方を知らないものも少なからずおり、扱い方を理解したとしても凡そ術と呼べる程の力を出せないものも多くいる。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・。まに、間に合ったか・・・?」


 ステインもその一人だった。


 彼が使えるのはほんの一秒、指先に爪ほどの大きさの炎を灯す程度。全く使えないというわけではないが、それを行使した後の疲労感を考えると、別の手段を取ったほうが楽だし効率的だ。


「大丈夫。時間までまだ二十三分あるから」


 対するディアとウィネクトは優秀なもので、器用に風を操れる。・・・正直な所、他の優秀な精霊術師をステインは知らないため、本当に優秀なのかを相対的に見れないが、まぁ、学園に入学出来ているのだからやっぱり優秀なのだろう。


 事実、ここまで全力で走り、息も絶え絶えで膝に手を付くステインに対して、同じ距離を同じ速度で走った二人は汗どころか息も一切切らしてない。これが精霊術のおかげなのだというのだから、なんと便利なものだろう。


「肩貸そうか?」


「いや・・・大丈夫だディア。それよりほら、中入るぞ。紙出しとけ」


 なんとか息を整え、体を起こす。そして、相変わらずな眼の前の光景に乾いた笑みを零してしまう。


「まじ、デカすぎんだろ、この学院の門・・・」


 普段は閉じている荘厳な学院の門は、新しい息吹を迎え入れるために大きく開かれている。


 人が学ぶために作られたはずの学院なのに、どうしてこうも馬鹿でかい門を作るのだろうか。これも権力というやつのためか、なんて勘ぐる市民代表だが、一切理解は出来なかった。その隣にはちゃんと人が楽に通れるようにと、普通の扉も用意されているのも拍車をかけている。あれでいいやん、と思ってしまう。


 門の前には二台の馬車が並んでいた。どちらも学院の入学生とその身内なのだろう。見るからに貴族が乗っていそうな、豪華で煌びやかな馬車。その後ろに三人も並ぶ。


「場違い感半端ねぇ・・・」


「どこが?」


「いやいやどこがってウィンちゃんよぉ、こんなアホみてぇな門の前でアホみてぇな馬車の後ろに立つとかさぁ・・・。もうスケールが違いすぎて世界違いすぎるじゃん?」


「ステイン、世界は一つしかないよ?」


「そうじゃねぇんだよなぁ・・・」


 本当に意味が分からなさそうに、こてんと首を傾げる二人。もはや呆れを通り越して尊敬の念が浮かぶ。


「ホントお前らつえぇなぁ」


 ポンポンと二人の頭を叩く。どうか質の悪い貴族達に潰されないようにと願いを込めながら。


 実際に確認した訳では無いが、恐らくこの先の門をくぐれば、待っているのは全員貴族だろう。平民がこの学院に出入りしている、なんてことは耳にしたことがない。


 貴族は平民を軽視する傾向がある。


 実力の差によって分けられた立ち位置故に、平民を下に見てしまう人が多い。もちろん、実力のある平民が貴族にならずにいるということもあるわけだが。


 そして、ここフェルドルナ精霊術学院は、その貴族すら入りたくても入れるような場所ではない。そんなところに平民であるディアとウィネクトが立っていては悪い意味で目立ってしまうことは避けられないだろう。普通の平民なら、貴族達の圧に潰されて心を砕かれても不思議ではない。


 まぁこの二人は普通ではないし、幸が不幸かその無知ゆえに何も感じてはいないのだろうが。


「お前ら、ここに通ったら誰か友達見つけて色々教えてもらえよ?」


 出来うることなら、彼らにちゃんと教育を施してからこの学院に望ませたかった。


 だがステインには貴族との繋がりなどなければ、そこに対する知識も並以下だった。どれだけ人間生活での常識を教えたところで、それは平民間での話でしかない。一つ上の世界については、何も語れなかったし、なけなしの噂程度の知識すら、それが本当かどうかを確かめる術がなかったため、下手に教えられなかった。


 天に祈るしかなかった。


 どうかこの学院に二人の味方が現れますように、と。


「お、そろそろだな」


 気付けば前に鎮座していた馬車が門を潜ろうとしていた。門番での手続きが終わったのだろう。


 三人は歩を進めて門番の下へと向かう。


そこには同じ姿をした二人の門番が立っていた。見た限り一人が受付をし、もう一人がその補佐役なのだろう。


 重甲な鎧をまとっているその姿は、あらゆる攻撃を弾き返せるほど強固のものに見える反面、素早い動きは出来そうに思えない。そんな点も、門番という役目ならば軽視できる程度のデメリットなのかもしれない。それこそ、何かしらの精霊術が施されているのかも。


 あまり動かないとはいえ、あんな重そうなものを身に着けた状態でずっと立っている事に同情していた瞬間、突然彼らの持つ槍の鋒が三人に向けられた。


 門番から向けられるその瞳に映る、ゴミを見るような侮蔑の感情は嫌がおうにも感じ取れてしまった。


「ちょっと! なんですかっ! まだ入学証も見せてないでしょ!」


 この門を潜るには、事前に送られた入学証明書を門番に提示する必要がある。どうやらその証明書には高度な精霊術が組み込まれているらしく、それが本物か偽物か、持っているのが本人か別人かというのを証明出来るようになっているとのこと。もちろん理屈は分からない。そして当然、その入学証明書はディアが学院から送られたものだし、何なら今手に持っている。


 この門番は、その証明書を見ることなく、三人の足を止めたのだ。


「・・・貴様、どこの貴族の者だ?」


 門番のその問いには、まるで貴族に対する敬意が込められていない。その服装から、既に三人を貴族でないと理解しているのだろう。


「・・・・・・・・・・・・」


 ステインは言い淀む。


 本来なら喧嘩上等で叫び散らかしてるところだった。悪い事など一切していないし、学院から送られた資料も、幾度ともなく穴が開く程読み込んだか分からない。


 何度も何度も繰り返し読んで、今日ここに参加しても問題ないと判断してここまで来たのだ。


 悪いのは完全に向こう側。


 だが、その正論をかざして突っかかったとして、一番被害を被るのは恐らく入学生であるディアの方だろう。下手に騒ぎを大きくして、あることないこと言い触らされた時、平民であるこちらの意見が通るとは到底思えない。


 腹が立つからこそ、慎重にいかなければならない。


 視界に入る二人の兄妹達が、暴れ出す心を落ち着けてくれた。


「・・・生憎と貴族じゃないです」


「ならばここは通せない」


「何故ですか? ちゃんとこっちには試験に合格して、入学証明書を持ってきてます。そして入学式には親族二人までの参加が認められてるはずです」


 なるべく冷静に、怒りを滲ませないように淡々と言葉を並べるステイン。


 そんな姿が気に入らないのか、フンと鼻で一蹴する。


「貴様はここがどこか知っているのか? ここはこの国、この大陸が誇る最も高貴なる学院! 選ばれし僅かな者しか赦されぬ神聖な学び舎! それを醜く穢らわしい平民如きが跨いで良い場所ではないッ!」


 喋りながら興奮しているのか、門番は突きつけた槍を更にグッとステインの方に突き刺し威嚇する。


 流石に武器を突き付けられてはたじろぎざるを得ないステインは、情けなくも一歩下がってしまう。


挿絵(By みてみん)


 その姿に満足したのか、門番は勢いよく口を開く。


「我々はこの神聖なる場所を守護するために存在する! 下賤なるものが視界に入れるのも烏滸がましい! 何故ここを潜れると思い至れるのだッ! 身の程を弁えろッ!」


 理不尽だ。


 まさか、ここまで話が通じないとは思っていなかった。


 多少のいざこざはあるだろうとは思っていたステインだったが、こちらが正規の手段を取っていれば、軽い嫌味を言われる程度で終わるものだと思っていた。頭を下げれば、それで済むものだと。


 認識が甘すぎた。


 誰かに助けを乞おうにも、近くにいる話を聞いてくれそうな人はステイン達と平民。何かが変わるとは思えない。


 この門番よりも上の立場の人を見つけようにも、そんな人物は恐らくこの門の向こう。


 そして頼みの綱のもう一人の門番はというと、遠巻きにただ見ているのみ。人を見下す嫌な笑みを絶えず浮かべてる様子から、完全に向こう側。


 何か手はないのかと必死に思考を巡らせるが、その度に怒りが塗り潰しにきて上手くまとまらない。


 もういっそ強行突破してしまうか?


 こちらには一切非がない上に、入学を認めたのは学院側だ。こんなトラブルがあったとしても、証明書がこの手にあるのだから流石に学院側はこちらの味方をしてくれるはず。


 心を決め、二人に手を伸ばしたその瞬間――


 ドゴォァァァァッッッ!!!


 体の芯を震わす程の轟音が響き渡る。


「えっ、はあぁっ・・・?」


 あまりに突然なことに、ステインの口から素っ頓狂な声が零れ落ちた。


 そう、轟音に気を取られている間に、いつの間にか槍を向けていた方の門番が地に伏せっていた。起き上がろうとしているのか、手足がピクピクと動いているが、それ以上動くことはなく、ただひたすらに鎧の軋む音を奏でるだけだった。目には見えないが、まるで何かに押さえつけられているようにも見えた。


「何をしている?」


 門の向こう側から、声が聞こえた。


 怒りに表情を支配された、少女がそこに立っていた。

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