客寄せパンダは飽きていた
客寄せパンダは飽きていた。
今日も今日とて、笹を食む。
その様見詰める観衆は
己を愛でて去って行く。
来るもの拒まず、媚びもせず。
ただそこに在る笹を食む。
なのに旗だと担がれる。
いつか己の命尽き
別のパンダに代わるだけ。
好きに生きよと今決めた。
そっと柵を抜け出した。
月の綺麗な夜だった。
隣の虎は眠ってた。
のしのし大地を踏みしめば
アスファルトの火照りが足を刺す。
こりゃ敵わんと涼しげな
水族館に逃げ込んだ。
チンアナゴがワラワラと
物珍しげに寄ってくる。
あちらは提灯鮟鱇が
ぼんやり光って笑ってた。
ここは水の檻の中。
故郷に戻る術も無し。
陸の檻と変わらずに
パンダははらりと涙した。
月の綺麗な夜だった。