このはしわたるべからず
エンジェルズの試合は、近所のスーパーが開く時刻より早く始まった。長さはおよそ三時間。去年まではもっと時間のかかるのも多かったんだけど、今年からほぼ三時間で終るようになった。ルールが変わったから。
ピッチクロックが導入されて、ピッチャーもバッターも制限時間を課せられた。また、牽制球の回数も決められた。牽制球って本当に必要か。とは、私も思っていた。アウトにしようと思って投げるのならいいんだけど、そうでない山なりの牽制球も多かった。時間稼ぎや駆け引きも見ててそんなに面白くない。いやまあ。本当に駆け引きなら面白くないこともないんだけれど、単にタイミングをずらそうとしているようにしか思えない。
私は今の、テンポよく進むゲイムの方が好きだ。
延長に入ったところで、私は出かけた。
本当にこの監督は学習というものをしない。今のクローザは、セイヴ・スィテュエイションは百パーセント成功させているけれど、それ以外、四点差以上離れているときや同点で出てきたときはいつも打たれているではないか。追加点を入れて四点差になったところで、別のピッチャーに切り替えるかと思ったのに、そうしなかった。結局同点にされて、その別のピッチャーをタイブレイクで使うことになる。
歩いて二十分くらいのところにある書店が開いている時刻となっていたので、行くことにした。偶にしか行かないので、道順をはっきりとは覚えていない。行く方法はいくつかあるんだけれど、坂を上り下りするのは嫌なので、平らな道を行きたい。それに、日差しが強いのでなるべく日陰を歩きたい。後者の望みはあまり叶わなかった。
途中で輸送用のトラックに道をふさがれた。これ幸いと立ち止まって、ペットボトルに入れていた昨日の残りの麦茶を飲んだ。川を渡らなければならないので、ルートはいくつか限られるが、書店に最も近い橋を渡る。この橋は比較的大きくて歩道も、片側だけれどついていて渡りやすい。週末にある夏祭りの強酸幟がずらっと並んでいた。これって宣伝効果はいかほどか。本当にあるんなら私も出すのに吝かではないんだけれど。
なんだか工事をやっているのを横目に、書店の駐車場に入って行く。新しい看板がついていた。アニメショップを併設したらしい。入り口のところで店員が商品券の幟を立てようとしていた。うちでも立てたやつだ。うちのは風でくるくる巻かれてしまっているけれど。中に入るとだいぶレイアウトが変わっていた。
新刊コーナーはすぐに目について、目当ての人気作家のミステリはすぐ手に取ることができた。他に、別の作家の、新刊のときは図書館で借りたのがとっくに文庫本になっているので、あったら買おうかと思って探した。まず、出ている文庫の種類のがどこに在るのか判然としなかった。確かに超メジャーな出版社ではないが、かといって全く知らないようなところでもないので、小さいながらもそのコーナーはぐるぐる歩き回った末に見つけることができた。でも、探していた作家のものは一冊もなかった。最近ドラマ化やアニメ化が相次いでいる作家なんだけどな。注目していないのかな。あるいは旅先のエキナカ書店と同じで、入荷負けしているのかな。
そこからさらに足を延ばして、いつもは行かないスーパーに行ったんだけれど、これは後悔した。ものすごく混んでいたけれど、その理由がわからなかった。特に品ぞろえがいいわけでも、特に安いわけでもなかった。それでも、翌日は買い物に出たくなかったので、がんばって二日分の食料をさがした。ポストペイのカードが使えたのは嬉しかった。生鮮食品も買ったので、氷を貰おうと思って氷コーナーに行ったら、なにやら不平を言っている老人たちがいた。氷が奥の方にしかなくて取りにくいというのだった。掃除の係の人が気を利かせて掻き出した。
そして、さらに帰りの道順がよくわからない。結局家を出てから帰宅するまで都合一時間以上かかっていた。
自転車で行けばいいんだけれど、自転車は数年前に故障したままうちの駐輪場に放置している。修理費が出せないんだ。先日、補助金で買おうと思って申請したけれど、抽選に外れてしまって買い換えられなかった。
帰りはスーパーに近い方の橋を渡ったけれど、この橋は狭くて手摺が低いので、車が来たら端っこを歩くことになる。私は実は橋が嫌いだ。落ちそうな気がして怖いのだ。だから真ん中を歩きたい。このはしわたるべからず。運よく自動車は、渡りきるまで来なかった。渡り切った直後に対向車がやってきた。