夏 あるいは選べる太陽
朝、ひぐらしが鳴いていた。
昼を暮れさせるという意味のこの蝉の声を、今年初めて聞いた。
夏だ。
夏と言えば、私淑するバンドの初期に、そのタイトルのアルバムがあって、中学生のころから何度も聴いている。こないだのライヴでも、その一曲目をやってくれた。イントロのギターのリフを聞いただけで心踊る。
このバンドを教えてくれたのは、中学の同級生だった。運動場で三角ベースをするような関係の友達だったけれど、ある日誘われてその家に行ったのだった。こじんまりとした一戸建て。中の下と言った感じ。それでも、うちよりは立派だった。
ラジオからカセットに録音したのだというアルバムを何枚分か聞かせてくれた。そのとき初めて、エアチェックというものを知ったのだった。エフエムラジオからカセットに録音するということだった。
私のうちのステレオセットは壊れていた。小学校に入るか入らないかのころに買ってもらったものだった。このステレオで、東京こどもクラブや特撮やアニメのレコードを聴いていた。小学校の高学年くらいまでは、聴いていたと思う。もしかしたら、ステレオの故障と、文庫本との出会いがリンクしていたのかも知れない。
私は、このバンドのエルピーを二枚買って、ポータブルのレコードプレイヤで聴いた。このプレイヤは特別に買って貰ったものか、たまたまあったのか憶えていない。友だちの家で聴いたデビューアルバムと、出たばかりだった二枚目と。コマーシャルで聴いたような曲が何曲かあった。
中学生のうちに、すぐに新しいステレオセットを買ってもらった。プレイヤとカセットデッキとテューナとアンプの分かれたフルセットだった。そんなに裕福なうちではなかったけれど、こういうのはいつもすぐに買ってくれたなあ。
同じバンドの三枚目のアルバムと、カヴァー曲のソロアルバムが出て、これをカセットテープの両面に録音して繰り返し聴いたのは高校生の頃だっけ。
ほかにもテレヴィによく出ていた人気バンドのアルバムも買って聴いていた。シングルカットも買って、ヘッドフォンをしながら大きな声で歌っていた。カラオケは、まだ出始めで、大人たちがスナックで歌うものだった。クラシックギターを買ってもらったので、弾き語りで歌ったりし始めた。こっちの人気バンドの方も、ずいぶん長い間追いかけていたけれど、フクシマのメルトダウンがあってから聴かなくなったし、持っていたコンパクトディスクもすべて売ってしまった。
大学生のころ、バンドブームがあって、その中からいくつかのバンドのコンパクトディスクも聴くようになった。渋谷のライヴハウスにも通った。女子大の学園祭のコンサートにも聴きに行ったっけ。就職してからも、ライヴや小劇場には行っていた。大学生の四年間、そして卒業してから四年間、東京のベッドタウンに住んでいたけれど、失業したのをきっかけに、地元に帰った。
バンドのアルバムはずっと買っていたけれど、ライヴには行かなくなっていた。それがまた行くようになったのは、二十世紀の終りごろだった。失業していたころは、渋谷や小田原のライヴに行ってムーンライトながらで帰ってきた。仕事をしているころは、休みの日にライヴがあるときだけ出かけた。年に数回のことだった。仙川や横浜のフェスにも行くようになっていた。
毎月オンラインでライヴが聴けるようになったのは嬉しいことだ。それがパンデミックのおかげだとしても。