オールタイムベストその2
都筑道夫の名前は、エラリー・クイーンズ・ミステリマガジン日本語版の初代編集長として入ってきた。今となっては朧な記憶だけれど、事ある毎にその名を見たようだった。
文庫本との出会いから、初めのうちは馴染みのあったシャーロック・ホームズやアルセーヌ・リュパンのものを読んでいて、そのあとは同じ訳者のガストン・ルルーや薄さで選んだジェイムズ・ケインなどに手を出していた。薄いものを選んだというよりも、安いものを選んだといった方が本当は正確だろう。当時の私の小遣いは一週間二百円だったので、その範囲で買えるものが良かったのだ。一週間に二冊ペースで読んでいたので、それでは計算が合わないんだけれど。
そのうちガイドブックのようなものを入手して、そこに載っている作品を選び始めたころに、その名前をたびたび目にするようになったのだと思う。翻訳物のミステリをよく読んでいて、日本のものは読んでいなかった。エラリー・クイーンが選んだ日本版ゴウルデン・ダズンくらいか。しかし、そこから派生して読むことはなく、むしろアンソロジーつながりで筒井さんのものを読むようになったのだと思う。その後、角川映画の影響で文庫本が書店の主流になっていったのだけれど、都筑道夫の文庫本は、ショートショート集が数点出ているだけだった。
それがいつごろからか続々と出るようになって、文庫本以外は殆ど目にしなかったので入手困難になってしまったものを古書で手に入れたのも含めて、殆どは読んだと思う。私は初期の、メタフィクションと言ってもいいトリッキーな長篇群が好きだったけれど、名探偵物のシリーズもどれもこれも面白かった。しかし、本当に感銘を受けたのは、晩年に出た二冊の短篇集だ。現代の怪談として書かれたものらしいけれど、もっと深層の人間心理と幻想の淡いを描いた他の人には書けないものだったと思う。ここにはその二冊の書名を挙げておく。
骸骨
袋小路
二冊とも徳間文庫オリジナルで出ていたものだけれど、今は品切れだろう。古書店なら割と見つかるかもしれない。インターネットの検索などという便利なものもあるしね。