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禁酒と玉子スープ

 禁酒をしている。いつ以来だろうか。半年くらい前に風邪をひいたとき以来か。

 先週の、火曜日と水曜日は、呑まなかった。呑まないでいて、一番不安なのは、夜眠れるかどうかということだった。そこで、考えたのは、玉子スープを作るということだった。

 私が、玉子スープというものにこだわり始めたのは、何年か前にある中華料理屋で頼んでからだった。

 電車で三十分くらい行ったところにある、隣の県の駅前に、その中華料理屋はあった。駅から、百貨店に向かう二百メートルくらいのアーケードの、数軒目にそれはあった。せせこましく小さなテーブルが並んだ小さい店だ。

 セットものや定食が安くて人気だということだったが、私は米飯というものを食べなくなっていたから、単品を頼むことにしていた。まずは、唐揚げだ。

 私は美味い唐揚げを求めていた。

 というのも、子供のころ伯母の家があった、これは隣の隣の隣の県の駅前にある中華料理屋で、食ったら美味かったからだ。昔はそこでは中華焼そばを食べるのが習いだった。例によって、麺類も食べなくなっていたから、私は野菜炒めを頼んだ。その野菜炒めは、肉がほとんど入っておらず、もやしが中心の野菜と、竹輪がメインだったが、懐かしい味がした。一方で、ついでのように頼んだ唐揚げが本格的な中華料理の唐揚げで、これがめっぽう美味しかったのだ。

 それ以来、私はうまい唐揚げを求めて、いたるところで唐揚げを注文するようになった。隣の隣の隣の県に行くのは、なかなかしんどかったので、もっと近場か、あるいは旅行先で中華料理屋に入ると頼むのはもちろん、スーパーやなんかでも買ってみた。

 結論として、スーパーのは殆ど美味しくなく、それは冷めているからというのが一番大きくて、では温めればいいではないかということだが、うちの電子レンジは使えなくなっていた。

 だから、そこでも唐揚げを頼んだのだ。しかし、それ一品というわけにもいくまいと思ってメニューを見ていくと、玉子スープというものがあったので、それも頼んだのだった。

 この店の、唐揚げは、丸いものではなくて、腿肉を大きなまま揚げてから切り分けたものだった。本格中華という感じではなかったが、これはこれで非常に美味しかったのだ。

 しかし、何よりも驚いたのは、玉子スープのうまさだった。数種類の野菜の細かく刻んだのと、何段階かに分かれた玉子、スープに溶けたものから、筋状に固まったもの、さらに別に湯がいてから入れたと思しきものの、食感と味わいは絶品だった。

 だから、私はその店に行くたびにそれらを頼むようになったのだけれど、唐揚げがいつも同じ味なのに対して、玉子スープの具はいつも違うのだった。それは、恐らく残り物の野菜を使っているからだろうと思われた。木耳、白菜、人参、韮、葱、あと何かもっと高級そうなもの。これらが全部入っているのではなく、そのときによって違った。

 私はその店に年に数回行くことになった。

 あれを家でも再現してみようと試みたことはあったが、到底及ばなかった。どうも卵の扱いと量が異なるようだったが、まあそれはそれで、適当に作って食べていたのだったが、お腹にずしっと来るような気がしたので、酒類の代わりに食しようと考えたわけだった。

 まずは白菜を入れた作ってみた。味は、鶏がらスープの素を入れたのだが、薄かった。それに比して、分量は多くて、すごく胃に負担がかかったような気がする。おかげで眠れたわけだが。

 よく眠れたというほどではなかったが、夜中に数回起きただけで、いつもの起床時刻ぐらいまでは眠ることができた。水曜日は、アスパラガスが投げ売りで、一束五十円で売っていたので、これを細かく刻んで玉子スープの具とした。味は結構いいように思ったが、鶏がらスープといりこ出汁を少し入れたのが、やはり薄く感じた。恐らく店ではもっとドバっと入れているのだろうと思われた。

 そして、やはり量が多かった。げぶっとしてしまう。

 木曜日は、たまたま休みだったので、昼食を取りながらワインを呑んでしまった。禁酒失敗。

 金曜日は再び、玉子スープを作った。具は、油揚げとマッシュルームだったかな。分量を、それまでは、丼ぶりで量を計っていたのをやめて、味噌汁用のお椀で計って入れたから、少なくなったはずだったが、しかし出来上がりは、以前の八割くらいの量で、大して変わらんのだな。しかし、やはり食べてみると、多過ぎる、という感じはしなくなって、まあこれくらいなら。鶏がらスープは使い果たしてしまった。まだ少し薄く感じたので、塩も入れて見たらだいぶ味がした。土曜、日曜も禁酒した。日曜は玉子スープではなくてカレーにした。もちろんライスは食べないので、代わりに大豆の煮たのを食べた。

 そもそも、なぜ禁酒をしようと思ったのか。

 お金が無いからだった。店の利益よりも生活費の方が多くて、このままでいくとニュートン算的に、いつか預金がゼロになるのだった。きちんと計算したことはないが、私は酒類に一日平均、千円くらい使っているので、だったら、それをやめてしまえば一か月に三万円浮く計算になる。こいつは大きい。しかし、今まで、禁酒をする自信がなかったのでやってなかったのだ。それを、実際にやってみようと思ったのは、尻に火がついたからに他ならない。

 まあ、やってみればできなくはないということは分った。

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