へビィマウス破壊作戦
『フフ~ン、恐れおなのきなっさ~い。これがイグリーシア史上初の超大型戦車――へビィマウスで~す!』
これでもかってくらいに自身が搭乗する戦車を見せつけてくる戦車。確かにこんなデケェ兵器は今までなかっただろう。精々がエイシェントドラゴンだろうな。
「気をつけて下さいマサルさん。奴が操縦しているへビィマウスは並の攻撃ではキズ1つ付けられません。その強固さは力でさえ舌打ちするほどですから」
「ビガロですら!?」
思った以上の強敵だ。チマチマした攻撃で倒せるのか? いや、やってみるしかないだろう。
「リュウイチ、へビィマウスを火ダルマにしてやれ。お前ならできるだろ?」
「やるだけなら簡単です、ザ・サンの名にかけて」
「グロウスはウインドドラゴンのスキルで火を煽ってくれ。風を飲み込んでくれれば威力が増すはずだ」
「やってみよう」
「クリスティーナとユキノはグロウスと一緒に上空で待機だ」
「モチのロンやで。けどマサルはどないするん?」
「俺か? あのデカブツを歓迎する準備をしてくるのさ」
グロウスたちを空中に残し、俺とロージア、そしてリュウイチとでへビィマウスに向けて下降していく。その最中にもう1度砲撃を受けるも難なく回避。反撃とばかりにリュウイチの手から炎が延びた。
「熱せよ――我に仇なし不確かなる俗物よ」
ボーーーーーーゥ!
『ハッハッハッハーーーッ! ま~たその手ですかザ・サ~ン。言ったはずで~す、へビィマウスの装甲は~、断熱性ば~つぐんで~す!』
ムカつく程のドヤ顔で高をくくる戦車。だがそれは想定内。俺の目的は別にある。
「リュウイチ、その調子でへビィマウス全体を炎で包んでくれ」
「分かりました」
視界を覆ってしまえば攻撃も前進もできないだろう。後は周りの戦車だが……
「ロージアは近くの戦車を――」
「既にやっています」
「――え?」
まだ何も言ってないのに、まるで俺の考えを理解しているかのように他の戦車を氷漬けにしてるじゃねぇか。
「私たちは2人で恋愛なのです。その気になれば思考を共有することだってできるのですよ?」
「そうなのか!」
ソイツは便利だ。つまり俺が対戦車用地雷を仕掛けようとしているのも分かってるんだな。
いや待てよ? もし思考が読めるなら、ロージアのエッチィ妄想とかしたら……
バチッ!
「いだっ!?」
「ふざけていないで成すべきことをしてください。油断して勝てる相手ではありません」
「す、すまん、ちょっと魔が差した」
雑念を振り払い、次々と地雷を設置していく。トラップを使うのが久々な気もするが、思えばたったの数日だ。感覚はキチンと覚えてるぜ。
「マサルさん、やはりボクの炎では効果を望めそうにありません。ウインドドラゴンも援護はしてくれましたが……」
「あのデカさは伊達じゃないってか。俺の方は準備できたし、一旦引き上げるぞ」
リュウイチとロージアを連れてグロウスの下へと帰還した。やがて炎が収まると、へビィマウスはゆっくりと前進を始める。
――が、次の瞬間!
ドォォォォォォン!
ド派手な音と共にへビィマウスの下から煙が上がる。対戦車地雷が発動したようだ。しかし思った程の威力はなかったようで、再び前進を開始して爆音を轟かせていく。
「マジか!? あんだけ地雷を踏み抜いて無傷かよ!」
「ボクも色々と試したのですが、いずれも効果はありませんでした。剣も魔法も通じない、正に無敵の要塞です」
「ほな直接本人を叩けばええんちゃう? あん中に引きこもっとる陰キャなんやし、引きずり出せば楽勝やん!」
「中に侵入……いけるか!?」
クリスティーナの案に活路を見出だせる――と思ったんだが、リュウイチは静かに首を振り……
「戦車は皇帝の手で改良を施されました。その結果誕生したのがへビィマウスと一体化した戦車。あの戦車そのものがエルドリッヒなのです」
それを聞いて皆が絶句。いくら俺でも他人の身体には入り込めねぇ。どうする、どうやったら奴を止められる!?
焦る俺の脳裏にアイリからの念話が響く。
『何やってるのマサル、早くあのデカブツを倒して! もう首都が目の前よ!?』
『何っ!?』
もう1分も経たずに首都に入るところまで来ている! 情けないけどアイリに頼むか?
そう決断しようかというところで、クリスティーナが前のめりになり……
「あかん、首都に入られる、こうなったら挑発や! マサル、あの陰キャ野郎に伝えることできるか?」
「やれなくはないぞ? クリスティーナの思考をロージアが読み取って、俺が奴の近くで大音量で流してやればな」
「ナイスや! ほな派手に挑発したるで~」
俺はクエスチョンマークを浮かべながらも戦車に向けて再び降下。そこへロージアが読み取ったクリスティーナのメッセージを拡声器で垂れ流した。
「や~い、クソ陰キャのエルドリッヒ、半世紀ぶりのシャバの空気はどないや? アンタみたいにヒッキーなニートには新鮮過ぎなんちゃうか? あ、でも鉄の塊に囲まれてたら新鮮もクソもないか~。それは可哀想やなぁ、勿論アンタやなくて周りがな。まっさかこの国も引きニートに八つ当たりされるん思ってなかったと思うで? アンタもいい歳こいたオッサンなんやし、無職気取ってないで真面目に働きぃ。何やったら実家の商会で雇ってもええで? アンタみたいな使えないオッサンでも馬の代わりにはなるやろ。あ、勿論エサは家畜用やから大した出費にはならへんで。それでも穀潰しにはご馳走やろ? 遠慮せんでええで^^」
よくそこまでスラスラ出てくるもんだと感心する。引きこもりかどうかは別として、大役職がここまで挑発されちゃ黙っちゃいられないだろう。
でもってさっそく効果が表れたようで、顔を真っ赤にしたエルドリッヒが透かさず投影された。
『ヌォォォォォォォォォォォォ! オ、オデは引きこもりじゃないんだな! こうやって外の世界で活躍中なんだな! 転生前だって1年ぶりに近所の奥さんと会話したんだな! かなり驚かれたけど、【まだ生きてらしたんですね】って労ってもらえたんだな! お陰で少し自信がついたんだな! この調子でイグリーシアでも成果を上げて見せるんだな!』
どうやら本物のヒッキーだったらしい。気のせいか口調まで変わってるし。しかも奥さんの台詞、労いになってねぇ。
いや、そんなことよりへビィマウスが前進を止めたのは大きい。
「よし、動きが止まった。後はどうやって倒すかだが…………え?」
へビィマウスに搭載された全ての砲塔が上空へと向いた。
『声の主はそこだな!? オデをバカにしたことを後悔させてやるんだな!』
マズイと思ったが時既に遅しで、グロウスたちが集中砲火を浴び始めた。
「グロウスーーーッ!」
「クッ! この数はマズイ、全てを防ぎきるのは無理だ!」
打つ手はない、俺が出ていったところで的になるだけだ。正に万事休すな状況。
だがそこで1つの奇跡が起こる!
シュゥゥゥゥゥゥ……
『そ、そんな! オデの……オデのへビィマウスがおかしいんだな!? どうして縮んでいくんだな!?』
あれだけ有った砲塔が徐々に数を減らし、ついには1つだけとなった。更に高層ビルと見違える程の大きさからドンドン小さくなっていき、ついには普通よりやや大きい程度のサイズへと落ち着く。
「こりゃいったい……」
「マサル、これはユキノさんの力です」
「ユキノの?」
「はい、ボクがやりました。但し普通に発動させると周囲を巻き込んでしまうので、ロージアさんを介してマサルさんの視点に切り替え、あの戦車にだけ影響するようピンポイントでダンジョン機能を発動してみました」
そうか、ユキノは時のダンジョンという特殊なダンジョンの持ち主だ。その力でへビィマウスを改良前に戻したんだな。
「お手柄だぜユキノ、後は俺に任せとけ!」
「はい、カッコ良く決めちゃって下さい!」
今のエルドリッヒはへビィマウスと分離している――なら!
『ク、クソゥ……でも作戦は続行なんだな、オデが願いを叶えるんだな!』
諦めていないエルドリッヒが尚も前進を開始。だがそうはさせない。
チュドドドドドドドドーーーーーーン!
『うえっっっはぁあ!?』
地雷を踏み抜き、へビィマウスが上空へと打ち上がる。複数の対戦車地雷を同じ場所に重ねたんだ、その威力は凄まじいものさ。
「クソクソクソッ! こんなはずじゃなかったのに!」
へビィマウスからエルドリッヒが飛び出し、地雷原を避けるように後方へとグライダーで降下する。
――が、待っているのは……
スタッ!
「ボ、ボクは死にましぇ~~~ん! 取り敢えずは仕切り直しで~す。この敗戦を糧とし~、再度進撃を……」
「そいつは無理ってもんだ。何故ならお前に未来は――」
ザスザスザスザスザスッ!
「ギィョァァァァァァ!?」
「――フッ、ないんだからな」
コイツの着地地点は予想できたからな。そこへ剣山トラップを仕掛けることで、難なくトドメを刺せた。
「やりましたねマサルさん、あの戦車を倒すなんて流石です!」
「カッコ良かったでマサル!」
「いや、今回はユキノとクリスティーナのお陰だよ」
正直ユキノが居なかったらマジで手詰まりだった。
「あ、あの……ボクでもお役に立てた……でしょうか?」
「大活躍だったぞユキノ。なぁロージア?」
「ええ。これなら上手くサポートできそうですし、この先もユキノさんに手伝ってもらいましょう。私たちが留守の間に多くのDPが食べ物に消費されていましたし、今朝だってマサルさんの分の朝食も勝手に平らげてしまったことですし……ね?」
「は、はい……ですぅ……」
俺の朝食に手をつけたのをロージアは怒ってるっぽい。大した気にしてないんだけどな。
あ、アイリたちも戦車の掃討を終えたみたいだ。
「やったわねマサル。もしもの時はアンジェラの出番だったけど、必要なかったみたいね」
「いや、最初からアンジェラに頼みたかったくらいなんだが」
「うむうむ。お主の素直なところ、妾としても気に入っておるぞ。もし力添えを望むのなら考えてやらんでもない。そうじゃな、久々にタフなサンドバッグが欲しかったところじゃ。お主さえよければ――」
こ、これは悩ましい。が、戦力は増強できるものの失うものがデカ過ぎる!
「あの、ボランティアとかは……」
「それはダメじゃ」
「チッ……」
「な~に楽しようとしてんのよ。これからアレクシス王国の救済に向かわなくちゃならないんだから、そんな事でどうすんの!」
「アレクシス王国? ああ、あっちにも大役職が現れたのか」
「そうよ。でもちょっと厄介でね、エーテルリッツに煽られた領主たちが内戦を始めちゃったのよ」
「内戦だって!?」
アレクシス王国には取り残された仲間がいるんだ。アイツらを助けなきゃ。
「アイリ、直ぐにアレクシス王国に!」
「落ち着いて。アンタの仲間の所在は掴んであるから安心しなさい。ちゃんと生きてるから。それよりマサルたちには向かってほしいところが有るのよ」
「この非常時にか?」
「だからこそよ。向かってほしい場所はオルロージュ帝国で隠居生活をしているリーザっていう魔族のところなの。何せ彼女は勇者アレクシスと仲間のリーガの血を受け継いでいる子孫だから」
「ザ・スターの1人か!」
「ええ。彼女の下にも大役職が向かってる可能性は高いわ。手遅れになる前に保護しないと」
アイリによると、俺の仲間は無事らしい。代わりにザ・スターの1人の身が危ういと知り、俺たちはアイリたちと分かれてオルロージュ帝国へと向かうことにした。
キャラクター紹介
戦車
:エーテルリッツに加わっていた大役職の中年男で、前世はエルドリッヒ・ロンメルという名のドイツ人。組織の中ではハーミットに並ぶ戦力として見られていた。
塔を攻略している中で攻略した者は1つだけ願いが叶うという事実を知り、その時から他の者を出し抜こうと画策していた。ミネルバの死亡後は露骨になり、他の大役職の排除に出た。皇帝から改良措置を受けた戦車は法王と力を圧倒するも、彼らには上手く逃げられた代わりに、ザ・サンに重傷を負わせることに成功。ハーミットも既に負傷していたことから、ザ・スターの5人を揃えるため行動を開始。準備万端でグロスエレム教国を襲撃するもマサルたちにより阻止され、最後は剣山トラップで死亡した。