合体!
アイリの妹(←微妙に違うがそういう事になっているらしい)であるアイカからロージアが大変なことになっていると告げられた。急を要する事態だと捲し立てられ、アイカと共にアイリーンへと転移することに。その際ライザとリオンさんとは別れ、クリスティーナとユキノを同行させた。いや、させたというより不安だからって理由でついてきたんだけどな。
「それで、何が大変なんだ? 見たところロージアもアイリも居ないようだが」
「コアルームを拡張した場所ですからね、ここには何もありません。問題は下の15階層で、そこでお姉様とロージアが戦っているのですよ」
「アイリとロージアが!? いったい何のために! まさかアイリまでロージアを狙っているんじゃないだろうな!?」
「落ち着いて下さい。だとしたらわざわざ貴方をお連れしたりはしませんよ。そもそも戦いを挑んできたのはロージアであり、お姉様はダンジョンを護っているに過ぎません」
ロージアがアイリーンに攻め入る? そんなバカな……。
「まるで聞く耳持たずな状態で、話し合いの余地すら残されていませんでした。念話も試しましたが結果は同じ。今は辛うじて抑えつけていますが、いつまで持つかは分かりません。最悪はロージアを……」
「ま、待ってくれ! あのロージアが自分の意思でやってるとは思えない。きっと何らかの事情があるはずだ。俺が説得してみせるから、早まった真似はするな!」
必死な俺にアイカには若干引かれたが、熱意が通じたのか納得した表情になり……
「分かりました。ついてきて下さい」
焦る気持ちを強引に抑えつつアイカの後をついていく。下に近付くにつれ何かがぶつかり合う衝撃音が大きくなっていき、着いた時にはリュウイチやグロウスが足を踏み入れるのを躊躇うほどの激しい戦闘が目前に。
「これは……ど、どういうことですか? 温厚だと思われたロージアさんが、人が変わったように暴れているなんて。それに世界――いや、アイリさんでしたか? あちらの女性も全力で戦っているように見えます」
リュウイチの言う通り、剣と魔法が飛び交う全力の戦いがそこにあった。のどかな平原が広がっていたであろう15階層のあちこちに隕石が落下したようなクレーターが出来上がり、所々に氷の欠片が散乱しているのが見受けられる。またあるところにはマグマの川まで流れ始め、その真上をアイリとロージアが戦いながら通過することで川底がひっくり返される事態にまで発展している。
「う~む……アイリめ、あの時より更に強くなっているな。いつかは超えてやろうと思い長きに渡る修行を積んできたのだが、それでもまだ奴の域には達することはできんようだ」
昔のアイリを知っているらしいグロウスが染々と語る。いや語ってる場合じゃないんだけどな。ドラゴンをテイムするほどの実力者でも、二人の戦闘に割って入るのは難しいんだろう。
「いや、そんなことより早く止めないと。二人とも止め――」
「止めても無駄だぜ」
「――ってアニキ!?」
いつの間にか真横に立っていたモフモフのアニキに腕を掴まれた。
「リードロールってやつだろ? ロージアがそれに目覚めちまってよ、この世界を統一するとか抜かし出してな」
「それって……世界征服!?」
「うむ。早い話がそういう事じゃの。確かコズミックだったか? それを生み出したのがアイリらしくてな、アイリを倒せば世界が手に入ると言うとったのぅ」
アニキと同じように気配を感じさせずに現れたアンジェラが相槌を打つ。やはり本来の人格とは無関係にアイリを襲い始めたようだ。
「でもそれってアイリを殺そうとしてるってことだろ? だったら尚更止めないと!」
「それができれば苦労せんねん」
いつもの元気がないチャラ男のホークさんが神妙な面持ちで答える。
「アイリはん、どうやら責任を感じてるらしくてな、自分のせいやから言うて1人でロージアはんを抑えようとしとるんや」
「そんな無茶な!」
「でも~、命令されて~、しまいましたから~、手出しは~、出来ないんです~」
「心配だけど見守るしかないど……」
「……右に同じ」
「……左に同じ」
他の眷族も不安そうに答える。そういえばラフィーネが言ってたな、俺が転生したのもアイリが原因だと。それを知って1人で解決しようとしてるのか。
「ところでマサルッチ、その中二病くさい格好は何なんスか?」
「何って……俺だって好きでこうなったわけじゃな――」
『世界を倒せ』
「――え?」
『宇宙を倒せ』
「はぁ? 何言って――」
『ワールドを倒せ、コズミックを倒せ、ワールドを倒せ、コズミックを倒せ、ワールドを倒せ、コズミックを倒せ――』
「なっ!? やめろ、俺は戦わねぇぞ!」
『ワールドを倒せ、コズミックを倒せ、ワールドを倒せ、コズミックを倒せ、ワールドを倒せ、コズミックを倒せ、ワールドを倒せ、コズミックを倒せ、ワールドを倒せ、コズミックを倒せ、ワールドを倒せ、コズミックを倒せ、ワールドを倒せ、コズミックを倒せ――』
「や、やめろ、勝手に力を解放するな!」
「「「マサル!」」」
「「「マサルさん!?」」」
耳を塞いで踞る俺を、皆が取り囲む。身体を揺すったり必死に呼び掛けられてはいるが徐々に気が遠くなっていく。
このままだと乗っ取られる! もう長くは持たないだろう。今のロージアもだいぶ前に乗っ取られちまったに違いない。それを考えればよくここまで持ったほうか。
「ロー……ジア……」
意識が朦朧としかけている中、アイリと火花を散らしているロージアを視界に収める。完全に死神となった俺は、ロージアとアイリを手に掛けるだろう。だがせめて今、ロージアには伝えておきたい事がある。
ザッ!
「「「マサル!?」」」
地を蹴り、ロージアに向かって一直線に飛んでいく。右手には厳つい鎌が現れ、気を抜けばすぐにでも殺っちまいそうだ。
「ア、アンタ、マサル!?」
「!!!」
接触する直前で二人が気付く。それはコンマ何秒という停戦の時間。それを利用し、手前にいたアイリを弾き飛ばす。
「すまん!」
「――は? ――へぶっ!?」
飛んでいくアイリを放置し、いまだ硬直しているロージアへ……
ギュッ!
「えっ!?」
本能のままおもいっきり抱きつく。右手の鎌を宙に浮かせ、両手でしっかりと抱き締めていた。もう二度と離さないという強い意思を前面に出して。
だがそれで終わりじゃない。我に返ったロージアが何かを言いかけたところへ……
「受け取れぇ!」
スッ……
「あむっ!?」
ロージアの口をしっかりと塞いでやった。もちろん俺の口でだ。最初は暴れて引き離そうとしてきたが、ある瞬間唐突に動きを止め、今まで無表情だったロージアの瞳に生気が篭る。
「ん……んんん!?」
「プハァ! ――ロ、ロージア、元に戻ったんだな!」
俺は確信していた、いつものロージアが返ってきたと。そう叫ぶとロージアはみるみるうちに頬を真っ赤に染め上げていき……
「この――」
「――恥知らず!」
バチ~~~~~~ン!
「あぅち!」
おもいっきりビンタで返された……。
「な、何を考えてるんですかマサルさん! こんな人前で堂々と、キ、キキ、キ――キスをするなんて!」
「まままままて、落ち着け、これは只のキスってわけじゃない!」
「だったら何なんです!?」
「ディープキスだ!」
「余計に恥ずかしいです!」
バチバチバチ~~~~~~ン!
「ほげげげっ!?」
もう数発おかわりしちまった。いや、もういいです、お腹いっぱい……。
「ところで私、どうしてアイリさんのダンジョンに? 確かラフィーネ様に任意同行を求められ、それで……」
「連行途中で宇宙に覚醒しちゃったのよ。世界である私を倒して世界を手にするつもりだったんでしょう。アンタの意思とは関係なくね」
戻ってきたアイリが会話に加わる。
「プッ……っと、失礼。でも何だって正気に戻ったんだ? 纏ってる衣装は別として、俺もロージアも元通りだよな? ププッ!」
「そ、そう、ですね。完全に元通り――フフ」
「ちょっとアンタたち、何でさっきから笑ってんのよ?」
「だってお前、その顔!」
そりゃアイリが鼻血をたらしながら真面目な話をしてるからだ。俺とロージアは悪くねぇ。
「ふざけんな! アンタが体当たりしたからでしょ!」
ドゴッ!
「ウゴッ!?」
アイリめ、わりとガチめに蹴りやがった。しかも男の象徴を。死神になってなきゃ潰れてたぞ!
「ったく、そんなことより大丈夫なの? 正気に戻ったとは言え、見た目はそのままじゃない」
「それは俺にも分かんねぇ」
「このまま――というわけにはいきませんものね……」
どうしたものかと三人で首を捻る。地上に戻って他の面子にも聞いてみたが、やはり詳しく知る者はいない。いや、1人だけいた。
「グロウス、アンタなら何か知ってるんじゃないの?」
「大役職とはイグリーシアの世界維持に必要な役職だ。欠員が出れば他の候補者が成り上がるだろう。しかし生存しているのなら話は別だ。問題となる大役職が生きている限り進展はないだろう」
「それじゃ死ぬしかないのか? 冗談じゃねぇぞ……」
好きで死神になったんじゃねぇのに解放されるには死ぬ以外にないときた。ロージアだって同じだ、好きで宇宙になったんじゃないってのに。
「理解しましたか? 貴方が生きている限り、イグリーシアに平和は訪れないと」
「ラ、ラフィーネ!」
不意に現れたのは、あのいけ好かない女神だ。
「封印が解けかかっていますね? 神の封印を解くなど通常ではあり得ない。マサル、やはり貴方は危険な存在です。今この場で永遠の眠りにつかせてあげましょう」
「そんな!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
俺を護るようにロージアとアイリが飛び出してきた。
「そもそもマサルさんを生き返らせたのは私、ならば此度の件は私の責任です。罰するなら私を!」
「ロージア、何をバカなことを!」
「その通り。貴女を罰したところでマサルをどうにかできるわけではありません」
ロージアの申告もバッサリと切り捨てられた。明らか俺のことを危険視してるな。
が、アイリの指摘により、ラフィーネから余裕の笑みが消える。
「ラフィーネ、随分とアンフェアな真似してくれるじゃない。人を騙すのが神のやり方なわけ? 神のくせに小賢しいやつね」
ラフィーネが人を騙したと受け取れる発言だ。
「……何の事でしょう?」
「とぼける気? 姑息な真似をしてマサルを嵌めたくせに」
俺を嵌めただって?
「アイリ、話が見えないんだが……」
「ロージアが施した時間の巻き戻しよ。それでマサルを生き返らせたのが神への冒涜だとか言ってロージアを連れ去ったんでしょう? そもそもね、時間の改変くらいで神が出てきたりはしないのよ」
時間の改変ってけっこう大それた事だけどな。それでもイグリーシアだとそうでもないって事か。
「転移だって時空を歪めて移動するんだから、転移した奴らは私を含めて全員ペナルティを食らう事になる。それに稀少ながらも魂を呼び戻す蘇生薬だって存在するし、心臓マッサージで息を吹き返した奴らも全員ペナルティを食らうわ。こんなのおかしいじゃない」
言われてみりゃそうだ。
「神が下界の者に直接手出しするのは禁じられている。手出しできるのは相手から挑まれた場合のみ。ラフィーネはマサルを何とかしたいけど手が出せない。そこで事案を利用してロージアを連れ去り、マサルから仕掛けるように仕向けた。結果は思惑通りで、マサルを返り討ちにして能力を封印した。こんなところかしらね」
「それじゃあ俺はコイツの掌で転がされてたってのか!? このクソ女神め!」
「マサルさん!」
頭に血が昇り、殴りかかろうとする俺をロージアが止める。そして手を掴まれた瞬間……
シュィィィィィィィィィィィィン!
「――え?」
「な、なんだこの光は!?」
俺とロージアが謎の光に包まれたんだ。状況が飲み込めずに周囲が呆然と見守る中、更に困惑するメッセージが脳裏に流れた。
『死神と宇宙の接触を確認。二つの大役職が交わり、恋愛を新たに誕生させる』