初陣! マサルVSオグリ
「皆さ~ん、こ~んに~ちわ~! 只今より第一回、どっちの眷族が強いのかチキチキガチンコ対決を始めたいと思いま~す! 司会はわたくし天使族のアズラと申しま~す。どうぞ宜しくお願い致しま~す!」
やたらとハイテンションのケモ耳フードを被った女の子が俺とオグリの間に立つ。彼女はダンジョンバトルの審判として邪神レグリアスに派遣されて来たらしい。
邪神と言っても邪悪な存在ではなく、ダンマスたちを監視及び管理している、言わばまとめ役なのだとか。その下で働くのが天使族及びに悪魔族だってさ。
天使族と悪魔族の違いは――ぶっちゃけ今はどうでもいいからスルーしとこう。
「さて、今回の対決場所は、バトルを挑まれた側のマサルさんのダンジョンで行いたいと思いま~す! いよっ、凄いよマサルさ~ん!」
「意味分からん……」
「何が凄いって、新人でありながら5000ポイントものDPを賭けちゃうんですから、太っ腹だな~って思うじゃないですか~」
「ちょっと待て。俺は負ける気なんて更々ないぞ? 当然勝つ気でいるんだから、そこんとこ気をつけてくれな」
「へ~ぃ、なかなか言うじゃんかマサル~。それでこそ俺のライバルじゃ~ん」
しれっとライバルになってるんだが……。いや、結果次第ではライバル以下に格下げされるかもな。
それにDP5000を失うのは大損害だし、以後の生活も苦しくなりそうだ。
「マサルさん。表情が硬いですけれど、緊張してるのですか?」
「あ、まぁ……ね。でも安心してくれロージア。俺は絶対に勝つからさ!」
「お~お~、早くも勝利宣言来ましたか~? しかし、そうでなくては盛り上がりません。他のダンマスも観戦できるのですから、ハラハラワクテカな展開を期待してますよ~!」
ゲッ、他の奴らも見てやがんのかよ。こりゃ無様な戦いはできねぇぞ……。
「ではでは、最初の対決はこちら~! マサルさんからはプロトガーディアンのジャニオ。無駄にイケメンなのが悩ましいところです」
「ハハッ、ファンの子たち、ボクの活躍を期待して待っていてくれたまえ」
爽やかな顔で手を振る(つか誰に向かって振ってんだ……)ジャニオ。名前はテキトーにつけた。放っておいたらロージアがジャニーズJrの名前をつけようとしたからな。
というか何でWE○TとかPr○nseとか知ってんだ? そっちのが不思議だよ……。
「対するオグリさんからは――」
ドス~ン!
オグリの背後から身長3メートルはある野獣みたな奴が現れた。
「――ウェアボアのボアース選手で~す!」
こいつは人間形態の猪モンスターで、ランクは…………Cランクだって!?
「はん、コイツが相手だと? たかがプロトガーディアンが俺様に勝てるはずはねぇ!」
手にした斧を天に掲げたウェアボアが吠える。ああクソッ、しくじった! まさかCランクの魔物を持ってやがるなんて。
「では始めましょう。レディ~~~」
「ファイ!」
――の声と共に試合が始まった。アズラを含む俺たちはコアルームに強制避難し、モニターを通して試合を観戦する。
格上相手なら先手必勝かと思ったが、予想に反してジャニオの野郎は髪をフッと掻き上げてて……
「フッ、ボクは寛大だから先手は譲るよ。いつでもかかって――」
「フンガァァァ!」
ドゴン!
「あべしっ!」
ジャニオ対して振り下ろされる斧。カウンターでも発動させる気かと思ったがそんな事もなく、そのまま斧は脳天に直撃。結果ジャニオは宙を舞を舞い、光の粒となって消えていく。
これはアズラが特殊なフィールドを展開してくれてるからで、瀕死の状態や即死と判断された場合に救済してくれる仕組みらしい。
つ~かそんな事よりあのバカ、無抵抗に負けやがって!
「ジャニオが早くもKO~! よってボアースの勝利で~す!」
「グォォォォォォ!」
勝利の雄叫びを上げるボアースを横目に、オグリが勝ち誇った顔を向けてきた。
「へへ、まずは1勝じゃ~ん」
「ぐぬぬぬ……」
まさかジャニオが負けちまうとは。これじゃ俺の計算が狂うじゃねぇか。他に強い魔物はいねぇし、こうなりゃアノ手で……
「どうするのですかマサルさん。新たに強い魔物を召喚してる余裕はありませんよ?」
「大丈夫だ。一つ考えがある」
あまり使いたくはなかったけどな。
「それでは次の対戦カードで~す。オグリさんからはブレイブガゼルですね~」
どれどれ……Dランクで鹿のモンスター。突進を得意とする――か。
ちぇ、コイツならジャニオで勝てたかもしれないのに、とことんついてない……。
「さぁ、対するマサルさんからは――」
「――って、ちょっと待ってください! 何ですかクロコゲ虫って! ガチでふざけてませんかマサルさん!?」
そう、俺が出した魔物はクロコゲ虫――通称ゴキブリだ。
「何か問題でも?」
「問題大有りですよ~! こんなGランクの雑魚――しかもゲテモノを出すなんて、バカなんですか? 死ぬんですか? 頭おかしいんじゃないですか!? そこの女性も何か言ってやってください!」
「私たちの勝ちにしてくれるのなら引っ込めますよ? 私としても目障りですし」
「それは無理です~ぅ! うぇ~ん、なんでこんなゲテモノの実況なんか……」
散々な言われよう……。だがコイツこそが俺にとっての救世主となるんだ。
「こっちは後が無いんだ。早く試合を進めてくれ」
「はぁ、もう分かりましたよ。やればいいんでしょやれば……。は~い、じゃあ第二試合開始で~す」
ぶつくさ言いながらもアズラがダルそうに試合開始を宣言。
「へ~い、勝ちは貰ったも同然じゃ~ん。さぁ試合を決めろ、一緒にヴィクトリードリームじゃ~ん!」
「キュィ!」(←鹿ってこんな風に鳴くもんだっけ?)
オグリの声援に応えるかのように、ブレイブガゼルが突進していく。たかがGランクに対して大人気ないと思うところだが、俺としては好都合。なぜなら……
ガコン!
「キュイ!?」
突如床が開き、ブレイブガゼルは穴の中へと急速落下。かなり深いため、自力で這い上がるのは困難だろう。
数秒後、突然の事に驚きを隠さないオグリがハッと我返り、俺に掴みかかってきた。
「どういう事だぜマサル! タイマン勝負で罠の使用は卑怯じゃ~ん!?」
「いや、別に禁止してなかったし」
「けど横やりは禁止のはずじゃ~ん? どうなんだい、審判の姉ちゃ~ん!?」
「う~ん、そうですね~。罠の使用はダンマスによる横やりとも言えますし、そうなると反則とも言えますね~。まぁわたくしとしては見た目で失格にしたいところですけど~」
「へ~ぃ、アズラの姉ちゃんもこう言ってるじゃ~ん!」
ヤバッ、このままじゃせっかくの勝利が取り消されちまう! ここは1つ……
「あの~、アズラさん。実況で喉が渇いたでしょ? 良かったらこの果実水をどうぞ」
「いえ、お気になさらず。お酒なら有りがたくいただきますけどね~」
「ならこちらを。襲ってきた海賊が持っていた年代物のワインです」
「ほうほう! これは帰ってからじっくりと堪能しなければ!」
涎を垂らして受け取るアズラ(つ~か汚ねぇなおい)。こうなればこっちのもんで、文句を言っていたオグリに対してまぁまぁと宥め出す。
「まぁ良いじゃないですかオグリさん。マサルさんは初めてのダンジョンバトルですし、少しくらい大目にみましょう」
「ファッ!?」
目を丸くして驚くオグリ。これで1対1ってことで最終戦に繋がったな。
しかし、最終戦の前にオグリが条件を出してきた。
「ちょっと待つじゃ~ん。最後は俺のダンジョンでやってほしいじゃ~ん。罠だらけのボス部屋なんか御免じゃんよ~」
「一理ありますね~。では最終戦はオグリさんのダンジョンで行いま~す!」
素直に了承し、オグリのダンジョンへと移動した。
「へぃ、マサル。まさかここまで手こずるとは思わなかったじゃ~ん」
「その反応。さてはお前も出せる魔物がいないと見た!」
「いや、お前と一緒にされても困るじゃん。割とマジで」
「って事は……」
「へへん。最後の相手もボアースにしてもらうじゃ~ん!」
「はぁ!?」
ボアースって、さっきジャニオを負かした奴じゃねぇか!
「何を驚いてるじゃ~ん? 同じ魔物を使ってはいけないというルールは無かったはずじゃ~ん」
「くっ……」
なんだかDQN返しみたいな真似をされちまった。
「では最終カードを始めま~す。オグリさんからはウェアボアのボアース選手。マサルさんからはマサル選手です」
まさか俺が出てくるとは思わなかったようで、再度オグリが驚愕する。
「へぃ、正気かいマサル? 幾ら死なないからといっても痛みは感じるじゃ~ん?」
「そりゃ痛いだろうな。けど俺だって負けるつもりはねぇし、結果は終わるまで分からないぜ?」
そこまで言ってボアースと対峙する。
「それでは最終戦。レディ――――ファイ!」
試合開始と同時にノッシノッシと近付いてくるボアース。俺がビビって動けないとで思ってるようで、手にした斧を俺の足元に放り投げてきた。
ゴトン!
「そんな貧弱な剣じゃ俺は倒せねぇぜ? 特別にハンデとして俺様の斧を貸してやる。そいつで俺をブッた斬ってみなぁ!」
コイツとことん舐めてやがるな。見るからに重そうだし、俺じゃ使えないとでも思ってやがるんだろう。
だが俺には切り札がある。
「そんじゃ遠慮なく貸してもらうぜ。但し、俺とお前の――」
「――決戦の舞台でな!」
フィキーーーーーーン!
俺の取って置きを発動し、ヒョイと斧を拾い上げる。
「何っ!? たかが人間が俺様が愛用する斧を軽々と持ち上げるだとぉ!?」
「残念だったなボアース。今この場所は俺が発動したギフトの影響下にある」
「ギフトだと?」
「ああ。このギフトは相手と同じステータスを獲て、更に第三者からの横やりは一切入らないのさ。俺かお前かどちらかが勝つまでな!」
「く、くそぉぉぉ!」
破れかぶれでボアースが殴りかかってくるが、小柄な分俺の方が避けやすい。
ヒョイ!
「くっ!?」
回避に成功した事でボアースが隙だらけに。当然それを見逃すはずはなく……
「残念だったなボアース。お前の負けだ!」
ズバン!
「ギャァァァァァァ!」
グロテクスな中身を披露しつつボアースが光の粒となる。
「し、試合終了です。結果はマサルさんの勝利となりました~~~!」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!」
ふぅ、危ねぇ危ねぇ。もう少しで5000ポイントが無駄になるところだったぜ。
「おめでとう御座います。やりましたねマサルさん! 私は勝てると信じてましたよ」
「ありがとうロージア」
「さすがマスター。ボクも信じてましたよ」
「つ~かジャニオ、お前が負けなきゃ俺が出る事もなかったんだけどな」
「それはご勘弁を。何せ相手は格上でしたので」
それもそうか。まぁ勝ったんだし良しとしよう。
「へぃマサル。なかなかクールに決めてくれるじゃ~ん? お前がそんなに強いとは思わなかったじゃんよ」
「おぅ。というかさっきは卑怯な真似して悪かったな」
「ハハッ、いいって事よ。それよりこれからが大変じゃ~ん?」
ん? 大変?
「何の事だ?」
「何って……試合は他のダンマスも観戦できるって知ってるじゃん? ダンマス本人でCランクの魔物を倒せる奴が世界どれだけ居るっていうんだ。今頃ダンマスの間で噂になってるじゃ~ん」
「それだけ聞くと別に大変でもないような気がするが」
けどアズラも同じ考えだったらしく、分かりやすく教えてくれた。
「挑戦者が増えるって事ですよ。世の中には娯楽に飢えてるダンマスが5万と居るって噂ですから」
「そんなに!?」
「5万は嘘ですけど、百人はいるのでは?」
「数値の差が激しい!」
でもそうか。戦いが好きなダンマスが百人も居るんなら、きっとこれからも挑まれるんだろうな。
「上等だ。誰の挑戦でも受けて立つぜ!」
けれど強すぎる相手は勘弁な。適度に稼ぎたいし(←おい)。
キャラクター紹介
オグリ
:マサルと同じくダンジョンマスターで、種族は馬獣人。語尾には頻繁に【じゃん】がつくため聞き苦しく感じられる事が多く、更には人懐っこい性格もあり周囲からはウザがられてたりする。
柔軟な思考の持ち主であり相手の性格に合わせて馴染んでいくため、意外にも人脈には明るい。
マサルにとっては初めてできたダンマスの知人(友人?)である。