ヒーローの末路
「領主様の邸へ押し入った不審者は貴様らだな!? 全員捕縛せよ!」
「「「八ッ!」」」
マズイな。抵抗したいが黒焦げになった領主を残しての逃走は悪手過ぎる。
「んのやろぅ!」
「落ち着けクーガ。誤解を解く方が先決だ」
「……チッ!」
不本意ながらも俺たちは拘束されていく。逃げれば領主殺しを認めたようなもんだからな。
それから1週間近くを邸の湿気った地下で過ごした後、いよいよ街から連れ出されることになった。移送はガゼルシートの騎士団が行うようで、馬車の前後左右をガッチリ固めた配置を取っている。
退屈しのぎと情報収集を兼ねて、馬車の外へと話し掛けてみることに。
「……で、どこに移送するんで?」
「ベアシートの闘技場だ。貴様ら罪人は死ぬまで戦うことになるのだ」
「ちょっと待つんだぞ、裁判も無しにそれはおかしいんだぞ!」
「あたいらは無実だっつってんだろ!?」
「黙れ! あの状況で言い逃れができるわけなかろう!? 領主様の御遺体があり、貴様らが居た。これ以上の証拠など必要ない!」
カルロスとクーガによる抗議も虚しく、すでに俺たちは罪人認定をされているようだ。上手くいけば無実が判明するかと思ったんだが期待するだけ無駄だったな。
俺は仲間全員に目配せして、実行の機会を窺った。もちろん逃げるためのな。やり過ぎてケガを負わせたら面倒だ。いや、今この状態がすでに面倒か。
「もうすぐ渓谷だ。減速して周囲への警戒を強めろ。コイツらの仲間が現れるやもしれんからな」
「了解であります!」
「ネズミ1匹逃しません」
馬車からコッソリ顔を出すと、馬車一台がようやく通れそうな石橋が見えてきた。逃げ出すなら絶好の場所だな。
俺は仲間に手で合図して、タイミングを見計らう。事前に拘束を解いておくのも忘れない。
騎士たちが油断するなら谷の向こう側へと渡る直前。
「(今だ!)」
いざ馬車から飛び出そうとしたところで、思わぬアクシデントが!
ドガァァァン!
「な、何だ!?」
何かが前方の石橋に直撃し、馬車を大きく揺らす。外では暴れ出す馬を静めようとする御者と、石橋から落ちそうになっている者を助けようとする騎士、見えない敵に対する恐怖で恐慌状態へと陥る騎士の声で辺りは騒然。
「て、敵だ、敵襲ーーーっ!」
「いったいどこから――うわぁ!?」
ドガァァァン!
「またか!」
いったい誰がと考える間も無く、今度は後方の石橋にも何かが直撃する。直後に馬車全体が浮遊する感覚を得て、即座に脱出を決断した。
「落下する前に出ろ!」
シゲルがカルロスを、ロージアがシュワユーズを抱えて飛び出ると、俺もクーガを肩に乗せて(←勝手に乗りやがった)みんなに続く。
各々が石橋の向こうに着地して事なきを得ると、襲撃者たちが上空に姿を現した。
「ふむ、やはり一筋縄ではいかないか。あのまま谷底に沈んでくれれば手間が省けたのだがね」
「テメェらもミネルバの差し金か!?」
「いかにも。私の名はジャスティス、またの名をジャスティスレッド!」
「俺の名はジャッジメント、またの名をジャッジイエロー!」
「悪しき輩を成敗し、世界に平和を取り戻す」
「それが俺たち――」
「「ピースレンジャーズだ!」」
よく見りゃコイツら、シゲルが変身した姿にそっくりだ。どうやらそれがビンゴだったらしく、2人を指してシゲルが激昂する。
「お前たち、まだミネルバの話を鵜呑みにしているのか! ボクらの力は奴に利用されるために有るんじゃない、大切な人たちを護るために有るんだ!」
「ほぅ、誰かと思えば逃亡者のハングドマンではないか。まさかこのようなところで生き恥を晒しているとは」
「いい機会だ、裏切り者のハングドブルー共々敵を排除してくれよう!」
不覚にも先手を譲る形で戦闘が始まる。上空の敵2人がグルグルと身体を回転させ、竜巻のようなものを発生させつつ蹴り込んできた。
「「食らうがいい――ダブルハリケ~ンキィィィィィィック!」」
シゲルの知り合いか。かつての仲間だったようだが……
「鉄壁!」
ガチーーーン!
「何っ、鉄をも砕く必殺技が容易く阻まれただと!?」
「ただの鉄じゃないぞレッド、この鉄は何重にも重ね合わせた防御壁だ。壊すのは容易じゃない!」
「クッ……」
悔しげに下がる2人。シゲルの意思を確かめるため、反撃の前に視線を向けた。
「シゲル」
「分かってるさ。ボクはミネルバの考えに賛同できなかった、だから脱出したんだ。組織を離れたのと同時に彼らとは決別した。今目の前に居るのはボクたちの敵だ!」
腹を括ったシゲルが飛び上がる。
「レンジャァァァ――」
「――へんし~~~~~~ん!」
いつか見たブルーの全身スーツに早変わりし、俺と並んで着地。
「もはや話し合いは不要。互いの正義をかけた真剣勝負だ、ジャスティスレッド!」
「いいだろう。ハングドブルーよ、その挑戦受けて立とう!」
ジャスティスとシゲルの一騎討ちだ。2人揃って上空へと戦場を移し、激しいバトルを展開し始めた。
一方のジャッジメントは手持ち無沙汰はごめんとばかりに残りの面子へと向き直る。
「さぁて、俺は邪魔な連中を片付けるとしよう。どこからでも掛かって――」
「うりゃぁぁぁ!」
「ブハァッ!?」
完全に舐めくさっていたジャッジメントにクーガが襲いかかる。
「加勢するぞクーガ!」
「久々に剣技を披露しちゃおっかな~♪」
「いきます――アイシクルスピア!」
俺だけじゃなく、うちの連中もだいぶ強くなったからな。これなら俺がで張らなくても大丈夫かもしれない。
しばし一方的にボコられ続けたジャッジメントは、堪らず上空へと避難した。
「く、くそぉ、寄って集って卑怯な……」
「卑怯で結構。命の取り合いで卑怯も糞もあるかってんだ」
「確かにそれは一理ある。ならばこちらも手段は選ばないことにしよう。――ジャスティスレッド、ヒーローズサークルだ!」
「了解だ」
シゲルとの戦闘を強制的に打ち切ると、スペ○ウム光線を出しそうな決めポーズをかましてきた。
「「ヒーローーーズ、サークルーーー!」」
な、何だ? 奴らの全身が光ってやがる。
「理解しがたいという顔をしているな? ならば説明しよう。ヒーローズサークルとは、ヒーロー戦隊の隊員の数に応じて能力値が上昇するのだ。1人なら1.5倍、2人なら2倍、3人なら3倍の数値となる」
隊員はシゲルを含めると3人だ。つまり……
「3倍になるってのか!?」
「その通りだぜ? さぁ、悪は大人しく滅んでもらおうか――てやぁ!」
ドガァァァ!
「グヌゥゥゥゥゥゥ! この野郎、さっきまでとは威力が段違いだぞ!」
ジャッジメントの蹴りでカルロスが片膝をつく。打たれ強いコイツが怯むんだ、相当な強さになっているんだろう。
「ジャスティスレッドはボクが引き受けます、マサルさんたちはジャッジイエローを!」
シゲルはジャスティスとの戦闘に戻っていき、俺たちは再びジャッジメントと対面する。
「フッ、さっきまでの俺とは一味違うぜぇ? みなぎるパワーを受けてみろ――イエローフラーーーッシュ!」
ジュゥゥゥゥゥゥ!
周囲一帯に黄色に輝く謎の光を放ってきやがった。地面はレーザーで焼かれたように抉れ、草木は大部分を消失しつつも尚燃え上がっている。まるで瞬殺地獄だ。
「気を付けろ、この光に触れると焼け焦げちまう!」
「だったらトラップで何とかしやがれ!」
「クーガに言われんでも分かってる! ここは決戦の舞台で――」
いや待て。もしもシゲルが勝てなかったら絶体絶命だ。上手くトラップで誘導できれば……
「さぁ、悪は滅びろ――イエローフラーーーーーーッシュ!」
「クッ……反射ぁぁぁ!」
俺たちの周囲だけ光が跳ね返っていく。これでジャッジメントが燃え上がれば御の字だったが、どう見ても無傷の状態に僅かな希望は砕かれちまった。
「おっと、言い忘れてたが俺に高熱は効かないぜ? いや、正確にはオレたち3人とも熱に対する耐性はズバ抜けてると言った方がいいかな? どちらにしろ俺の自滅はあり得ない。最後に勝つのは正義なのさ!」
この上なく厄介だな……。
「どうするマサル、これじゃ接近戦は危険過ぎるぞ!」
「カルロスの言う通りだぜ!? あんなんに触れたら一巻の終わりだ!」
「だろうな。3倍ってのは伊達じゃないらしい」
しかしこのままじゃ反撃に出れないな。あの技を弾きつつ攻撃できれば……
そうだ、アレなら出来るかもしれねぇ!
「さて、そろそろお前たちの相手をするのも飽きてきたな。高熱を放つだけの単純作業は次で最後にしよう」
「早くも勝利宣言か? 何度でも弾いてやるぜ」
「フッ、出来るか? イエローフラッシュに持続効果を持たせたとしても?」
持続効果だと!?
「ならばやってみるがいい。辺り一帯が消し飛んじまうが、どのみち消滅するお前たちには関係の無いことだ。安心して消え去るといい。ファイナーーール――」
なんてこった、土壇場で作戦変更をせまられちまった。こうなりゃぶっつけ本番で試すしかないってか!
「みんな、俺の近くに寄れ!」
反射出来るのが一瞬だけなら防御を固めるしかないと決めつけ、これまでとは違う特殊な障壁を周りに展開。更にジャッジメントが技を繰り出す前にあるものを大量召喚した。そして……
「イエローーーフラーーーーーーッシュ!」
ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!
とんでもない高熱の光が障壁の外で発動。嫌な音が耳に入り込むのを堪えていると、やがて光が収まっていく。
「もういいだろう、障壁解除!」
さて、俺の予想が正しければ、ジャッジメントはすでに絶命しているはず……
「あ、あんにゃろう、あんなところで倒れてやがるぜ!」
クーガが真っ先に発見し倒れていたジャッジメントに駆け寄っていく。もしも生きていたらと危惧したものの、その心配は杞憂に終わることに。
「あれ? コイツ死んでら」
「確かに。しかも苦しそうに口から泡を吹いてますね。マサルはいったいどのように攻略したのですか?」
「ああ、それはな……」
さて、こっからは解説タイムだ。俺が障壁の外に召喚した物、それはずばりドライアイスだったりするんだな。もちろんジャッジメントを囲むように召喚しといたぜ? ここに高熱のスキルをブチ当てたらどうなるかってぇと、二酸化炭素が大量に発生し、呼吸が出来なくなるわけよ。つまりコイツは窒息したんだ。
それでも途中で逃げられる可能性もあったけどな。スキルの解除は出来ない方に懸けたが正解だったようだ。
更に障壁の方も断熱シャッターにしてやったからな。これで防御も完璧だったってわけ。
「こんな感じかな」
「なるほど。マサルにもそのように頭を使うことができるのですね。とても感心しました」
「今までバカだと思われてた!?」
「冗談です。それより……」
「ああ。後はシゲルの方だな」
因縁があるらしいからな。ここはシゲルの勝利を祈ろう。




