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アクティブダンジョンマスター・俺は外に出る!  作者: 親方、空からゾンビが!
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爪痕のライザ

「ありがとうロージア、だいぶ痛みは引いたみたいだ」


 ビガロとの試合で負傷した俺に、ロージアが回復魔法をかけてくれたんだ。全快とはいかないまでも、何とか腕を動かすくらいにはできるようになった。


「良かった。けれど無理は禁物ですよ? 無理だと思ったら迷わず降参してください」

「胸に刻んどくよ」


 とは言ったもののなぁ。この大会を通して成長してるのが分かると嬉しいもんだし、諦めない精神は大事だと思うんだ。


「マサルさん、また口先だけで済まそうとお考えですね?」

「ゲッ……」


 さすがロージア。隠し事とかできる気がしない。


「いいですか? マサルさんを失ったら悲しむ者がいることを忘れてはいけません。すでに貴方の人生は貴方1人のものではないのですから……」

「ロージア……」


 そうだよな、俺はロージアを護ると決めたんだ。心配かけるような真似は避けるべきか。



 ジ~~~~~~



「「ハッ!?」」



 自然に抱きついちまった俺たち2人に他の参加者からの視線が注がれ、それに気付いて慌てて離れた。ここが控え室だってことを失念してたぜ。


「トラップマスターマサル選手、スタンバイお願いしま~す!」


 おっと、早くも俺の出番がきたようだ。


「行って来るぜロージア」

「はい、頑張ってください。次の相手はクーガを負かした者です。純粋なステータスでは相手が上回っているのは確実でしょう。くれぐれも油断なさらないように」

「分かったぜ」


 ロージアの忠告でいっそう気を引き締めつつ会場に上がった俺。

 後ろの方で号泣している連中がいる? 知らんな。好きなだけリア充爆発宣言させとけ。




「さぁお待たせしました! 第1756試合目が始まりま~~~す!」

「「「ひゅうひゅ~う!」」」


 んん? 1756試合目? 何か一気に数が減ったような……


「何を不思議がっているのです? それほど試合数が気になりますか?」


 対戦相手である爪痕(そうこん)のライザが怪訝な顔を向けてきた。


「あ~すまんね。何だかいきなり参加者が減った気がしたもんでさ」

「それは現時点で強者しか残されていないからでしょう。強者同士がぶつかれば負傷者は増える。勝ち上がっても試合が継続できない場合も多いと思いますよ」


 そっか。俺みたいにサポートしてくれる相手がいない奴らは辞退してるんだな。


「治療も受けられますが今時期は負傷者をあてこんで料金が割り増しになっていますからね。泣く泣く諦める者も多いのですよ」

「へ~ぇ、詳しいなアンタ」

「これでもプラーガ帝国の将軍ですからね。下町の事情は存じてますよ」

「へ~ぇ、将軍ねぇ――」



「将軍!?」


 それってつまり!




「プラーガ帝国の将軍じゃん!」

「ですからそう申し上げたのですが……」


 驚き過ぎて意味不明な台詞になっちまった。


「さて、お喋りはここまでです。我が爪の威力、存分に味わっていただきましょう」


 シャキ!


「おおぅ……」


 銀髪美人の獣人姉ちゃんが両手に鋭い爪を装備してやがる。どう見ても武道派だな。


「ではでは、両者とも心の準備はオーケーかぁ!? では始めるぞ~~~! 第1756試合、トラップマスターマサル選手VS爪痕のライザ選手、レディィィ――」




「――ファイティィィィィィング!」




 相手はクーガを倒した強者か。殺し合いじゃないとは言え、Bクラスの魔物を倒せるほどだ。手の内云々言ってられないな。相変わらず例の視線は気になるが……



 ジ……………………



 もう遠慮ってもんを知らないようだ。さっきからこの調子だからな。そんなに俺を警戒してんのか? だったら見ていてもらおうか、この俺が勝利を手にする瞬間ってやつを。

 まずはライザの周りをトラバサミで埋め尽くして――と。


「……随分と姑息な真似をしてくれますね」


 ギクッ!

 ま、まさか罠に気付いてるとかないよな?


「な、何の話だ?」

「とぼけても無駄です。たった今、私の周囲を罠で埋め尽くしましたね? これでも鼻は利く方ですので、その場に無いはずのものが有ればすぐに分かるのですよ」


 完全にバレて~ら!


「お、俺は何にも知らないぞ! 知っていたとしても、それは真実じゃない!」

「まだ言いますか……。台詞が完全に三下ですが、ここまで来たからには実力は確かなのでしょう。ですが――」



 シュバ!



「ヤッベ、飛ばれちゃ意味ねぇ!(←だからバレてます)」

「――受けてみなさい、投獄爪連撃(とうごくそうれんげき)!」



 シャシャシャシャシャシャシャシャ!



 爪痕という名に相応しく、ギラつかせた爪を上空から飛ばしてきた。一つ一つが小さく半透明に近い色合いは、回避するのを一層困難にさせる。


 シュパッ――シュパシュパッ!


「クッ!」


 スプリングトラップで避けたつもりだったが予想以上に数が多い。お陰で数発貰っちまった。


「この程度なら大丈夫だ、まだやれる!」

「ふむ、なかなかやりますね。ですがいつまで避けていられるでしょう?」

「おいおい、まだ撃てるのかよ!」

「スキルの一種ですからね。撃てと言われればいつまでも」

「そいつは謹んで遠慮したいぜ!」



 シャシャシャシャ!



 再び爪を飛ばしてきた。


「ったく、遠慮ってもんを知らねぇのかよ――障壁!」



 カカカカカカン!



 数が多くても被弾しなきゃいい。迫った爪は石壁が防ぎ、途切れたタイミングを狙って反撃を試みる。


「アホみたいにバカスカ撃ちやがって、今度はこっちの――って、あの女どこに消えた!?」


 いや待て、落ち着くんだ。視界から消えたってことは死角に移動したに違いない!




「障壁!」


 キィィィン!




 俺を囲むように石壁を召喚した直後、背後で切りつけられた音が響く。言うまでもない、ライザが爪を立てた音だ。


「よく気付きましたね? 音も消し、可能な限り気配も消し去ったはずでしたが」

「気付いちゃいねぇよ、ただの勘さぁぁぁ!」



 ガキン!



 石壁を消すのと同時に振り向き様に斬りつける。しかし、爪によって難なくガードされた。


「完全に不意打ちのつもりがこれか」

「いえ、なかなか良い動きでしたよ? 我が国の精鋭でもここまで動ける者はいないでしょう」

「なら精鋭より遥かに強いアンタは化け物か何かか?」

「失礼なことを言いますね? そのような台詞は異性に放つべきではありません。モテない男の典型ですよ?」

「大きなお世話だ! 俺にだって相思相愛の相手がいるんだよ!」

「ほぅ? 会場に来ているのですか?」

「そりゃもちろん――」


 脳裏にロージアを思い浮かべるも、今は試合に集中すべきと雑念を振り払う。


「――ってアンタにゃ関係ねぇ、いくぜ!」


 正直挑発に乗った感は否めない。だが攻勢に転じる機会を狙っていたのも事実で、それを今だと強引に割り切り、トラップを交えた剣術を仕掛けていく。

 が、やはり相手も手慣れ。一進一退で膠着状態(こうちゃくじょうたい)が続いた。


「ふむ、剣技の方も一般人を上回っている。それに先ほどから伺える巧妙なトラップ。これは手強いですね」

「ハァハァ……そ、そのトラップを巧みに避け続けているアンタに言われてもね。現にこうやって……鍔迫(つばぜ)()をしてるってのに……汗1つかいちゃいない……ハァハァ……」

「ポーカーフェイスかもしれませんよ?」


 いや、ライザにはまだ余裕が有るとみた。恐らく俺のトラップを全て把握していないがために一気に攻めて来ないんだろう。

 決戦の舞台(クライマックス)さえ使えればよかったんだが生憎とビガロ戦で使っちまったからな。1日1回のあのスキルは使えない。ガチでトラップを食らわせる必要がある。

 それに疲労で腕がダルくなってきた。このままだと……



 ヨロ……



 やべぇ、足元までふらついてきやがった!



「フッ、隙ができましたね――――ハァ!」

「て、転移!」



 か~ら~の~



「脳天割りぃぃぃぃぃぃ!」



 ガキン!



「クッソォ! 完全に背後を取ったってのに、これもガードされんのかよ! 後ろ向きながら爪で防ぐとか、アンタ後ろに目でも付いてんのかよ!」

「それだと化け物じゃないですか。私はただ、匂いと風の動きで感知しただけです」

「充分バケモンだって!」


 これはもうアレだ。完全にモフモフアニキの劣化版だ。

 でもアニキは言った、風を感じろと。なら1つ試してみるか。


「ん? ふざけているのですか? 敵を前にして目を閉じるとは」

「秘策だよ。アンタを倒すのはこれしかないと思ってな。嘘だと思うんならどっからでもかかって来いよ」

「…………」


 警戒しつつも慎重にニジリ寄って来るのを感じる。間合いを詰められないように俺も少しずつ後退し、斬り込んできたところをカウンター気味に払いのける。これしかない。



 ス……



「(まだか……)」



 ス……



「(まだ来ないか……)」



 スススス……



「(ん? 少しだけ速くなった。もうすぐか……)」



 フワッ!



「(来たっ!)」


 何かが頭上を越えていくのを感知し、着地地点に向かって薙ぎ払った。


「もらったぜ――」



 タン!



「なぁっ!?」


 この女、払ってる最中の剣に飛び乗りやがった!


「フッ、そろそろ終演といきましょうか」



 ザシュ!



「ぐわぁ! ――て、転移!」


 引っ掻き傷に耐えながらも何とか転移で離れた。ビビって仰け反らなかったら直撃コースだったな。

 しかしこれで風を感じるのも無駄だと分かった。どうやったらこの女を倒せる?



 ゴリッ!



「いってぇ!」


 ――って、気付けば右足の靴が脱げてやがった。こんな時に尖った石を踏んじまうとはついてない。

 つ~か俺の靴はどこに――



「ゲフッ! く、空気が悪いですね。この悪臭はどこから……」


 ライザが鼻を摘まんでる。

 あ! 俺の靴がライザのすぐ横に落ちてるじゃねぇか! さすがに取ってくれとは頼めないし、試合が終わるまでは――



 いや待て、コイツは使えるかもしれねぇ!



「障壁!」

「何っ!?」


 ある作戦を思いつき、ライザを石壁で囲んでやった。当然天井にも蓋をしてやる。完全にライザを閉じ込めた形だ。


「ゲホッゲホッ! い、いったい何をする気です!?」

「決まってら。俺の一週間分の臭いを嗅いでもらうのさ!」


 さっきの反応で鼻が敏感なのが分かった。都合よく靴が近くにあったのも幸いし、ライザに臭い攻めする事を思い付いたんだ。

 名付けて――



「ボクらの悪臭7日間戦争だ!」ドヤッ!

「クッ、ふざけた真似――ゲホッゲホッ! このような振る舞い、絶対に許しませんよ。こんな石壁など――」



 スパスパァァァ!



「ハァァァ!」


 障壁を斬り倒し、怒り心頭のライザが真っ直ぐに向かってくる。

 だがこれも想定済みだ。本領を発揮するのは――


「私の爪で沈みなさい、白銀の爪痕(プラチナクロー)!」


 おいおい、あんなに尖らせたら爪に突かれたら死ぬんじゃないか? まさか殺す気でいないよな!?

 いや、冷静になれ。どんだけライザが怒ろうと、()()()()は破れまい。


「そこだ、履き古した靴下ぁぁぁぁぁぁ!」



 べちょ!





「うっっっギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 俺の靴下を顔面に食らい、ライザはパニックに陥った。あの状態ならトラップを回避する余裕もないだろう。


「まずはトラバサミ!」



 バチン!



「あっっっぐぅ!?」


 動きが止まったところで……


「トドメだ、スタンガン!」



 バチバチバチィィィ!



「カフッ……」



 ドサッ!


 最後は電気ショックを与えてマヒ状態に追い込んでみた。これでしばらくは起き上がれないだろう。



「エイ~トゥ! ナイ~ン! テ~~~~~~ン! 決まりました! 我がプラーガ帝国の誇り――ライザ将軍を倒したのはトラップマスターマサル選手で~~~す!」

「「「おおおおおっ!!」」」


 よし、今回も何とかって感じか。クーガを倒しただけあって、かなりの強敵だったな。



★★★★★



「――で、帝国の兵士さんが何用で?」

「うむ。我々も止めたのだが、何が何でも拘束しろと煩くてな。すまないが形だけでも謝ってはくれぬか?」

「やっぱりそれか……」


 俺が履いていた靴の中身は余程のパラダイスだったらしく、ライザ将軍が激オコらしい。


「行かなきゃダメ?」

「我々で止められなかった場合の保証はできないぞ?」

「分かったよ……」


 その後めっちゃ説教された。ついでにロージアにも説教された。清潔にしろって。

 うん、気が向いたら何とかする。(←おい)


キャラクター紹介


ライザ

:見た目は獣人だが中身はBランクのプラチナウルフだったりする。経歴は一切不明ながらも現皇帝が玉座についたのと同時に将軍へと抜擢された。

 高ランクの魔物であるため実力は確かであり、更には見た目も清楚な美白美人であるがために軍内部での人気も高い。

 マサルとの戦いで彼を大きく評価したが、例の悪臭戦法により大きく激減。一時は軍への勧誘も検討したものの見事白紙に戻った。


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