別つ
「お見事でしたよマサルさん」
「またお前か……」
試合が終わって闘技場を出たたころ、先日話しかけてきたリュウイチって奴に出待ちを食らった形だ。
「途中で集中力を欠いたのはいただけませんが、相手の攻撃を利用した策は素晴らしい。あの臨機応変さは見習いたいところです」
「ああそうかい」
こっちが歩き出すとリュウイチもたま歩き出す。コイツはストーカーか? これがファンになった女の子とかなら可愛げがあるってもんだが、残念ながらコイツは違う。エーテルリッツとかいう怪しげな組織に俺を引き入れるのが目的だ。
「何を言われても考えは変わんないぞ? 自分から積極的に国へと働きかけるつもりはないんでな」
「ですがラーツガルフには手を差し伸べた。結果かの国は危機を脱し、今も普通に存続している」
「それは成り行きだ。最初の出会いがなけりゃ手を貸したかも怪しい」
「それでも国が救われた事実に変わりはありません。そして国1つを救える力を貴方は持っている。ならば――」
「お~い、マサル~~~!」
リュウイチの話にウンザリしていたところへ元気溌剌な少女の声が響く。
声の主はクリスティーナで、ロージアにシゲル、それにユキノも一緒のようだ。
「お疲れ様でしたマサルさん。それでそちらの男性は?」
「ああコイツは――」
ロージアにはすでに話してあったんで礼のおかしな男だと言おうとしたら、肝心の本人が硬直しているのに気付いた。
「…………」
「お~い、どうした?」
「…………」
「お~い?」
何だコイツ、ロージアたちを見て固まっているのか? そんなに珍しい外見でもないはずだが。
それによく見るとコイツ、ユキノを見て固まってやがるな。
「何だよお前、もしかしてユキノに一目惚れか?」
「え……ボ、ボク?」
ちょっと本気にしてるっぽいユキノを含めてリュウイチ以外の全員が戸惑う。テキトーこいた俺も悪かったかもだがリュウイチがユキノの顔を食い入るように見ていたのは事実なんだ。
やがて硬直が解けたリュウイチが顔を真っ赤にして否定し始める。
「ボ、ボクはひにょ……コホン。日野隆一です。マサルさん、一目惚れとかじゃありませんからね!? テキトーな事を言わないよう願います!」
「そ、そうなの。やっぱりボクなんて……」
「だぁぁぁ違う違う違う! ユキノは可愛い、超絶可愛いから!」
「ホ、ホントですか? ありがとう御座います!」
「い、いえ……」
顔を真っ赤にしてアタフタしている。取り乱してるなぁ。実は図星だったり?
だが取り乱したのはリュウイチだけじゃなかった。
「お、お前は秘密結社の一員の!」
「秘密結社? それってミネルバとかいう奴が首領のやつだったか?」
「そうです! かつてボク自身が捕らわれていた組織であり、にっくき存在である組織!」
シゲルが言うにはリュウイチが所属する組織では日々過酷なトレーニングを課せられいて、その過程で多くの人たちが命を落としているらしい。シゲル本人は隙を見て逃げ出すことに成功したが、今もなお多くの人たちが劣悪な環境下に置かれているとか。
「なるほど。それがリュウイチ、お前の言うエーテルリッツという組織なんだな?」
「ええ、否定はしませんよ? 素質ある者が生き残る――いわゆる選別の儀です。力の無い者は我がエーテルリッツには不要ですからね」
「黙れ! お前たちのような組織があるから世界が狂ってしまうんだ!」
「な、なんだと!? 我々は世界を正そうとしているのですよ? それを狂わせるなどと言うのは見過ごせません!」
「お、おいお前ら!」
人通りの多い場所だけに注目を集めちまった。面倒なことになる前に移動すべきだな。
「場所を移すぞ、ついて来い!」
「貴方もですよシゲルさん」
俺はリュウイチを、ロージアはシゲルの襟を掴んで強引に早歩き。その後ろをあまり理解していなさそうな女子2人がついてくる。
「さて、この辺りでいいか」
やって来たのは閑散としているフードコートだ。今時期は闘技場近くのフードコートが込み合っているため、少し離れた場所だと一気に疎らとなるらしい。
「ほら、そこに座れ。でもってエーテルリッツについて詳しく話してみろ」
「分かりました。では――」
「マサルさん! こんな奴の話など聞く価値もない! さっさと叩き出すべきです!」
「落ち着けって。片方の言い分だけを聞くのは不公平だろう。正義のヒーローなら話くらいは聞くべきだぜ?」
「た、確かに……」
怒りは消えないものの一応は落ち着きを見せたシゲル。思い返せばシゲルの過去とか殆ど聞いてなかったしな。いい機会だし、聞いて置くのも悪くないだろう。
「何やつまらん話が始まりそうやなぁ? ウチ退屈なんは苦手やねん」
「でしたら私たちはショッピングに行きましょう」
「お、ええな、行こ行こ! ユキノも行くやろ?」
「はい、ボクもお洋服とか見て回りたいと思っていたんです」
「そういう訳でマサルさん。この場はお任せしますね?」
「お、おぅ……」
男たちの討論会には付き合ってられないと言いたげにロージアたちは離れて行く。どうやら情報収集は俺に一任されたらしい。
1時間後……
「――という事であり、今の世の中がいかにして正すかをですね――」
「ふざけたことを。そのために犠牲を生んでは意味がない! つまり――」
シゲルの過去話はほどほどに、話題の中心は世界の行く末となっていた。ワイドショーとかで見るやつと同じやつな。つ~か1時間も聞かされてる身になって欲しいんだが……。
「なぁなぁシゲル~、この服ど~や?」
「お前たちがやっている事は――っと、良く似合ってるよクリスティーナ。やはり明るい配色はベストマッチだ」
「よっしゃ! シゲルならそう言ってくれると思ったで!」
「あ、あの……リュウイチさん、ボクの選んだ服……ど、どうでしょうか?」
「何度でも言いますが――っと、大変似合ってると思いますよユキノ。落ち着いた配色は清楚なキミにピッタリです」
「良かった~!」
好感触を得た女子2人は再びどこかへ走り去って行く。一方で男2人は白熱した議論を再開させた。
更に1時間後……
「なぁなぁシゲル~、このアクセサリーもええやろ~?」
「やはりお前たちがやっている事は――っと、良く似合ってるよクリスティーナ。ボクとしては蛇の髪飾りは遠慮して欲しいけれど、キミが好きそうだから仕方ないよね、うん」
「やっぱりな~。シゲルならそう言うと思っとったで!」
「あ、あの……リュウイチさん、このアクセサリーはどうでしょうか?」
「やはり何度も言いますが――っと、大変似合ってると思いますよユキノ。そういえばユキノは昔からモ○ラとかゴ○ラとかが好きだったね。どう頑張っても蝶の髪飾りには見えないけれど、ユキノが好きなら仕方ないよね、うん」
「やっぱり! リュウイチさんならそう言ってくれると思ってました!」
高評価に満足した女子2人は再びどこかへと走り去って行く。そして男2人は何事もなかったかのように議論を再開した。
おかしい。俺だけが取り残されてる気さえするぞ? この意味不明な流れはいつまで続くんだ……。
更に更に1時間後……
「何度も言いますが、貴方の組織がやっている事は――」
「ですからそれは、更なる犠牲を生まないためにも必要な措置であり――」
「はぁ……」
「「ちょっと! 真面目に聞いてますかマサルさん!?」」
「ちゃ~んと聞いてるよ」
耳にタコが――いや、タコに変形しそうなくらいにな。
結局のところエーテルリッツがやろうとしているのは、多少の犠牲を承知の上で世の中の腐敗を無くしていこうって感じだ。
それに対してシゲルの主張は、犠牲が出るのを前提で活動するのがそもそもの間違いであり、命は満遍なく救うべきだと。自身も体験した通り、修行の過程で死者が出ているのも見過ごせないってところか。
俺としてはどちらにも付けない感じだな。つ~かこの手の話は難しいって。
「あら? クリスティーナとユキノはどちらに?」
どこで買ったのか、お茶が注がれたティーカップを持ったロージアが首を傾げる。
「俺らに聞かれてもな。ロージアと一緒だと思ったんだが」
「おかしいですね。時間的にあの2人が先に戻っているはずですが――まさか!?」
嫌な予感がしたらしいロージアが地を蹴って飛び立った。ただ事じゃないと判断し、俺もロージアに続く。少し離れたところの路地裏手前に着地すると、今まさにチンピラ共によって建物に連れ込まれそうになっているクリスティーナとユキノの姿があった。
コイツら、優勝候補の目の前で堂々と拉致しようとはいい度胸だ。
「おいお前ら――」
「ジャスティ~~~ス――――キィィィィィィック!」
「「「ゲハァ!?」」」
腕捲りをした俺の横を駆け抜け、レンジャースーツ姿のシゲルが飛び蹴りをかます。破壊力充分の蹴りで、4人中3人が戦闘不能に。
「大丈夫か、クリスティーナ、ユキノさん!」
「シゲル~~~、めっちゃ怖かったわ~~~!」
「あ、ありがとう御座います、シゲルさん」
いいところを奪われたが2人が無事ならよしとするか。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ! お助け~~~~~~!」
シゲルの蹴りから逃れた1人が地を這うように逃亡を開始した。一応は捕まえておこうかと考えた矢先、先回りしたリュウイチがチンピラの前に立ち塞がる。
「ボクを前にして逃げられるとでも?」
「な、なんだよお前ぇ、関係ないならそこをど――あがぁぁぁぁぁぁぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」
リュウイチがチンピラの腕を握った直後、チンピラの体が燃え始めた!
「お、おい止めろ! そのままじゃマジで死んじまう!」
「なぜ止めるのです? このような男は消し去った方がより平和になるのですよ?」
「んなこたぁどうでもいい! ユキノにトラウマを植え付ける気か!?」
「!!」
慌ててリュウイチが振り返る。当のユキノは完全に怯えており、ガクガクと震えつつロージアにしがみついている。
そんなユキノを見たリュウイチは、ハッとした表情の後にチンピラを解放した。
「あ……ぐ……ぅ……」
「ふぅ、何とか生きているな」
服が焼け落ちて全身火傷を負ってはいるが、命に別状はなさそうだ。
「ユキノ、怖がらせてすまなかった」
「い、いえ、ボクの方こそすみません。せっかく助けてくださったのに……」
そう言うとユキノはポロポロと涙を溢し始めた。
「あ、あれ? おかしいですね。助けてくれて嬉しいはずなのに、リュウイチさんを見ると何故だか涙が……」
あまりにも突然のことにユキノ以外の面子が完全に硬直してしまう。
「ホントにどうしたんだろ。マサルさんに助けられてから毎日が楽しいはずなのに、その上リュウイチさんにも助けられて感謝しなきゃいけないのに。あ、あの……その……すすす、すみません!」
「ちょ、ユキノ~!?」
とうとう堪えきれず、両手で顔を覆ったユキノが走り去ってしまう。慌ててクリスティーナが後を追い、ロージアとシゲルも後に続く。そしてこの場には俺とリュウイチの2人だけが残された。
「いいのか追わなくて? 昔からの知り合いなんだろ?」
「気付いてましたか……」
「そりゃな」
おもいっきり台詞に出ていたし、明らかに初対面って感じじゃなかった。ユキノの方は無意識に話してたっぽいが。
「ふぅ……、素直にお話しした方が良さそうですね」
壁に寄りかかり、ラフな姿勢で語り出した。
「彼女――ユキノとは児童保護施設で育ちました。もちろん日本のですよ? 共に両親を亡くした者同士。年齢こそ10歳という差が有りながらも兄妹のような関係だったのです。過ごした時間で言えば5年は経ったでしょうか」
「5年か。それにしちゃお前のことを覚えていないようだが?」
「死別……しましたからね、彼女とは」
「死別か……。ん? それじゃどっちかが死別した後に死んだってのか?」
「後に死んだのはボクです。ユキノの訃報を聞いた次の日に……ね」
そこから重い昔話が展開された。長くなったのでまとめると、養子として引き取られた先で強盗に殺されたのがユキノ。その後に自殺したのがリュウイチらしい。
しかもあろうことか養子になった当日に強盗と鉢合わせだというからな。可哀想以外の言葉が見つからない。
「ボクは憤りましたよ。どうしてユキノが死ななければならなかったのか、どうしたら救えたのかと。幸いにしてこの世界に来てから強大な力を手にしました。そこで思ったのです。力さえ有ればユキノは死ななかった――と」
そういう事情か。前世でユキノを救えなかった分、イグリーシアで救いたいって訳だな。
「ボクとしてはユキノをこちら側へ引き入れるつもりでした。マサルさんに接触したのもそのためです」
「俺を引き込めばユキノも付いてくると思ったんだな?」
「はい。しかし、先ほどのユキノを見て考えを改めました。彼女はマサルさんたちと居た方が楽しそうだ」
意外だな? もっと粘着してくるかと思ったんだが。(←失礼)
「それに記憶に関してもです。ユキノが記憶を無くしているのは殺された時がトラウマとなっているからでしょうね。ならばボクは近付かない方がいい。ボクを見ると当時の記憶を呼び起こしてしまうから」
「いいのか? 血は繋がってなくても妹なんだろ?」
「いいんです、彼女が幸せそうならそれで」
この様子ならもう出待ちをかましてきたりとかは無さそうだな。(←だから失礼だって)
「ではマサルさん、次に会った時は敵同士となるでしょうね。できれば戦いたくはありませんが、ボクはボクの信じる道を進みます」
「そうか。俺も自分の考えを曲げるつもりはない。エーテルリッツなんざ叩き潰してやるからな」
「フッ、これは手厳しい。では厳格なマサルさんにお願いです。ユキノを――ザ・ムーンのことをよろしくお願い致します。これはザ・サンからの最初で最後の願いです」
そう言ってリュウイチは姿を消した。




