海賊倒して海に出る!
「俺の島へようこそ、海賊諸君。君たちの用件を伺おう」
俺みたいな一般人が出てくるとは思わなかったのか海賊は呆気にとられたようだが、すぐに我に返り怒声を浴びせてくる。
「……なんだテメェは? まさか今までの出来事はテメェの仕業か? ふざけた真似しやがって、ただじゃ済まさねぇぞ!」
「やれやれ。用件を聞いてるんだが言葉が通じないようだ。ちゃんと学校は出たか?」
「あん? 学校教育なんざ糞食らえだ。それより俺の質問に答えろよ。ゴブリンやらカラスやらをけしかけたのはテメェなのか? どうなんだ、あぁん?」
ダメだこりゃ。次(の工程)行ってみよ~。
「けしかけたのとは違うな。呼び出したんだよ」
「呼び出しただぁ?」
「ああ」
シューーーーーーン!
「フッ、こうやってな!」
「なっ!?」
海賊共の目の前で大量のゴブリンを召喚してやった。一体で10ポイントとコストパフォーマンスが大変よろしいからな。
「クソッ、さてはテメェ召喚師か! 野郎共、やっちまえぇぇぇ!」
「「「イエッサ!」」」
ゴブリン相手とたかを括ったらしい海賊共が慣れた手付きで捌いていく。
応戦するゴブリンはドンドン数を減らしていき、ついには最後の一体を斬り倒されてしまった。
「なぁんだ、威勢良く出てきた割にはこの程度か。後はテメェ一人だぜ? 無策の召喚師さんよぉ!」
バカめ。無策で出て来るわけねぇだろうっての。
「フッ、今のは時間稼ぎだ。本命は――」
グワァン!
「こっちの落とし穴だからなぁ!」
「「「うわぁぁぁぁぁぁ!」」」
油断しきっていた海賊共の大半が突然開いた地面へと吸い込まれるように落ちていく。
『今ので83人です。1人辺り300ポイント前後でしたので、海賊ごときにしては充分役に立ったと言えるでしょう』
当然ロージアからの念話は海賊には聴こえない。まさか俺たちが海賊を仕留めてDPを稼いだなんて思っちゃいないだろう。
他の場所でもゲイザー将軍が各個撃破し、シルビア王女が罠へと誘導。もう5000ポイント以上は獲得したんじゃなかろうか。
「どうだ、まだ続けるか? 続けたところで無駄だろうけど」
「はっ、そりゃこっちの台詞だ若造が。テメェの置かれた状況をちったぁ理解したらどうなんだ?」
「状況?」
注意深く周りに目をやると、いつの間にか海賊の手下共に囲まれていた。
普通なら泣いて詫びを入れるところだろうな。最悪命だけは助けてくださいってな。けど俺は違う。
「ありゃりゃ、こりゃ参った――」
「なぁんて言うわけねぇだろうがよぉぉぉ!」
「「「!?」」」
ここで俺の本性を現す。元々は冒険者を志望していた俺だ。海賊船長とのタイマンなんて早々チャンスがないと思うと叫ばずにはいられない。何せ俺には切り札も有るんだからな。
「俺はアンタに決闘を申し込む。拒否権はないぜ? 1対1の真剣勝負だ」
「ハッハッハッ! 絶体絶命でとち狂っちまったか? それとも俺が受けるとでも思ってんのかぁ?」
「受けざるを得ないんだよ。何せ今から使うスキルは神からもらったギフトだかんな」
「ギフト……だと?」
「ああそうさ。よく見ておけ、これが俺とお前の――」
「決戦の舞台だぁぁぁぁぁぁ!」
ギューーーン!
「な、なんだ? 周りに誰も居なくなっちまったぞ!?」
「このスキルは第三者に邪魔される事なく相手との真剣勝負を行えるスキルだ。つまり、今のテメェに手下は居ねぇんだよ」
「んだと!?」
そんなバカなと思っただろう? けど神から貰ったギフトだかんな。こんくらいは余裕ってやつさ。
けどキャプテンホエールは何も分かっちゃいない。1人になっても強気な姿勢は崩さなかった。
「へっ、例え俺様が1人になろうとテメェみないな一般人にゃ遅れをとらねぇ。神のギフト? 宝の持ち腐れだったなぁ!」
小剣を抜き、鋭く突きを繰り出してきた。距離があったため落ち着いて横に避けるも、キャプテンホエールはニヤリと笑い……
「バカが、だから言ったたろうがよぉ!」
ググッ!
「剣の軌道が変わった!?」
シャッ!
突きの体勢から俺がいる方へと小剣をしならせてきた。辛うじて仰け反ったが、服にできた切れ目から横一文字に血が滲み出ている。
「チッ、上手くかわしたか。だがまぐれは何度も続かねぇ、これで終わりだぁ!」
体勢を崩した俺に対してキャプテンホエールは勝利を確信し、小剣を振り下ろしてくる。
けどここからだ!
「まだ終わりじゃねぇ!」
キィィィン!
「な、俺の剣が弾かれただと!?」
尻餅をつきながらも渾身の力で剣を振り上げ、やつの小剣を弾いてやった。
「そういや言ってなかったな。俺のスキル――決戦の舞台は対戦相手と同じステータスを得られるんだよ。つまり今の俺はアンタと同じ技量を持つのさ」
「チッ、ふざけたスキルを……」
自分と同じ実力だと理解し、警戒したキャプテンホエールが距離をとる。俺も体勢を整え仕切り直しの状態に。
さて次はどう出るかと身構えてると、何を思ったのか突然海に向かって走り出した。
「フッ、あばよ!」
「ってコラ、逃げんじねぇぇぇ!」
追う側と追われる側が入れ替わったような図を不思議に思いつつも、走り続けるキャプテンホエールの後を追う。
足止めしたいが決戦の舞台は第三者の参入を許さないため魔物を召喚することができないんだ。
かといってトラップを仕掛けようにも離れた場所には設置ができない。
まぁどうせスキルから逃れる事はできないんだと思い直し、そのまま浜辺まで追いかける事に。
ザッ!
「よぉし、ここらでいいだろう」
キャプテンホエールが止まったので、俺も急ブレーキで立ち止まる。だが観念したわけじゃなさそうだし、何をしてくるのかと思ったら……
ズザァ!
「うおっぷ!? テメェ、砂を!」
「ハハッ! やっぱ楽にいくなら目潰しに限らぁ!」
キャプテンホエールが足で砂を巻き上げたせいで、俺の視界が一気に悪くなる。というか何にも見えねぇ!
「これが海賊の戦いってやつよ。観念してあの世に行きなぁ!」
「させるか障壁ぃ!」
ガン!
「なっ! こ、こんどは石の壁が生えてきただと!?」
足元から出現した石の壁が小剣を阻む。その隙に砂を落とし、石の壁を消し去った。
障壁とは言ったが普通にダンジョンの壁を生成しただけで、不要になったから消しただけなんだがキャプテンホエールにとっちゃ摩訶不思議な現象にしか見えなかっただろうな。
「今のはちょっとヒヤッとしたぜ。今度はこっちの番だ!」
ガツン――ガツガツン!
万策尽きたのかキャプテンホエールにさっきまでの勢いはなく、俺が振るう剣をただひたすら受け流していく。
「オラオラオラァ、さっきまでの余裕はどうしたんだ海賊さんよぉ? 反撃しねぇならこのまま一気に押し込むぜぇ!」
「…………」
尚も剣を振るい続ける俺に対し、しぶとく無言で受け流すホエール。奴と同じ力量のためか、なかなか決め手となる一手が入らない。
剣だけじゃなく魔法も覚えとくべきだったかと今更ながら後悔するが、いざとなりゃ壁で防げるって利点があるため冷静でいた。
だが、勢い余って剣を突いた時に悲劇が起こる。
ガキッ!
「げっ! 剣が絡まった!?」
奴の小剣は根元が複雑な装飾が施されていて、その隙間に剣が入り込んじまったんだ。
そこでホエールがニヤリと不適な笑みを見せ、改めて奴の罠に嵌まったんだと確信した。
「へへっ、ようやく掛かりやがったか。段々大振りになってきたからよぉ、絶対に掛かると思ってたぜぇ?」
「クッ……」
やむ無く剣を手離し距離をとる。
「やっぱテメェは素人だ。まさかスウェプト戦術が上手くいくとは思わなかったぜ」
後にゲイザー将軍に聞いた話、剣技において相手の剣を絡め取るのをスウェプト戦術と言うらしい。
知ってる奴なら警戒して掛からないように動くが、俺はまんまと誘導されたってわけだ。
「悪く思うなよ? 何せ海賊ってのは他人から奪ってなんぼだからな」
「ああ。もちろん悪くは思わねぇ。むしろ当然の動きだよな。ククククク……」
「あん?」
今度は俺が不適に笑う。訝しむホエールを他所に、見せつけるように鉄の剣を生成して見せた。
「な、何だと!? まさか剣まで召喚しやがったってのか! テメェいったい何もんだ!」
「俺はただの冒険者――」
「――というのは真っ赤な嘘! しかしてその実態は、泣く子も黙るダンジョンマスター兼冒険者。人呼んで――」
「マスターロード!」ドヤァ!
ふふん、決まったぜ!
『マサルさん、変な造語を誕生させないでください』
『いいとこなんだから念話でチャチャ入れない!』
「……コホン。さてホエール、そろそろこの戦いに終止符を打とう」
「ほざけ! 人前に堂々と出てくる常識外れなダンマスに俺様が負けるはずねぇぇぇ!」
自棄を起こしたホエールが渾身の突きを繰り出してくる。そのままでも回避できるが最後くらいはダンマスらしく終えようと考え、奴の軌道軸上にトラップを仕掛けた。
「ダンマスを倒せばダンジョンコアが手に入る。おとなしくコアを寄越――」
グサグサグサァァァ!
「ンンンギヤァァァァァァ!?」
見事トラップを踏み抜いたホエールが、地面から飛び出した剣山により串刺しに。ほぼほぼ即死だったようで、間も無く決戦の舞台が解かれた。
そしてホエールを見た手下共は……
「うわぁ! 船長が殺られたぞ!?」
「もうダメだ、ホエール海賊団はおしまいだぁぁぁ!」
「そんな事よりさっさと逃げるぞ! でなきゃ俺たちまで船長の二の舞だ!」
俺への恐怖がMAXになり、手下共は散り散りになって逃げ出した。
入れ替わるようにシルビア王女やオッサンたちが俺の元へと駆け寄ってくる。
「やりましたねマサル様。残る海賊は30人未満。彼らの戦意も喪失し、脅威は去ったと言えるでしょう」
「うむ。貴殿とロージア殿の力添え、感謝致しますぞ!」
「つっても俺1人じゃ無理だったし、オッサンやシルビア王女が他を引き付けてくれたからだよ」
何にせよ海賊は全滅した。これで安心してラーツガルフに向かえるな。
『マサルさん、海賊が乗っていた船ですが、DPに変換したら1万を越えるようですよ?』
『マジで!?』
臨時収入もバッチリだし、幸先いいぜ!
キャラクター紹介
シルビア
:父から玉座を譲られてラーツガルフという魔族の国を治めている少女――だったのだが、妹ブローナの反乱によりその座を奪われ、マサルのいる無人島に逃げ込んできた。
やって来た当初は配下のゲイザー老将と10人の私兵しかおらず、まさに絶体絶命のピンチ。が、マサルと出会ったことにより状況は一変し、窮地を脱した。