吟遊詩人の忠告
「これをこうして――あれもこうして――」
クリスティーナたち3人をダンジョンに送り届け、俺たちはプラーガ帝国を目指すことに。
だがここで大問題が発生。そう、ダンジョンで5日もロスした影響は大きく、このまま行っても武術大会の予選には到底間に合わなことが分かったんだ。
じゃあアキラメロン? とんでもない、武術大会での優勝は名声を更に高められるじゃないか。この機を逃すのはバカってもんだぜ。
「――ふむ、なるほど。ならばこれで――」
そこでロージアの提案によりディオスピロスが使ってた転移装置を改良し、プラーガ帝国まで転移してやろうってなったわけよ。上手く行くかは五分五分らしいが、果たして……
「ふぅ、できました。これでプラーガ帝国方面に転移できるでしょう」
「「「おおっ!」」」
さすがロージア。俺の知らないことを全て知っているかのようだ。まさに知的美女ってやつな。
「では転移を開始します。全員で固まってください。3……2……1……」
シュン!
瞬きをする間もなく、俺たちは瞬時にどこかの森の中へと放り込まれていた。予定ではプラーガ帝国のリップコールという街の近くに転移すると聞いたが……
「……ここは?」
「設定ミスが生じてなければ魔女の森にいるはずです。現在向いている方向に進めばプラーガ帝国に着くと思いますよ」
「生じてたら?」
「国一つ分を飛び越えているでしょうね」
「えっ!?」
真顔で言われると余計不安になる。飛び越えてたら結局間に合わんぞ!?
「フフ、冗談ですよ。人工知能とはいえ全知全能。そのようなミスは起こり得ません」
「冗談かよ!」
心臓に悪ぃなまったく……。人工知能がどうとか言っていた気がするが、正直頭に入って来ねぇ。
「んなことより早く行こうぜ? さっきから人の匂いがプンプンしやがるんだからよ。へへ、こっちだ!」
「おいクーガ」
勝手に走り出すクーガを追いかける。すると彼女の言った通りに冒険者パーティが街道を歩いているところに出会し、更にその先には竜に跨がった人の国旗が外壁に掲げられている街が見えた。
「おお、あれがリップコールの街か。っしゃあ、燃えてきたぜーーーーーーっ!」
「おいコラ! ったくしょうがね~な……」
嵐のように走り去るクーガを見た冒険者パーティが目を白黒させているのを尻目に、俺たちも街に向かって駆け出す。そして入場待ちで並んでいる列の最後尾へとついた。で、ここで早くも気付いたことがある。
「他の街より入場待ちが多くないか? 魔女の森に向かうパーティもチラホラ見えるし」
「特に今時期は多いでしょうね。武術大会が迫ると参加者が世界各国から押し寄せてきますから。ですが要因となるものがもう1つございまして、魔女の森にあるアイリーンに向かう人たちも少なくないのですよ」
「アイリーン。つまりアイリのダンジョンだな」
ロージアの知人と言われているアイリ。一度だけ会った事があるが、俺と大した年齢の差がないのに一代で強大な影響力を持つダンマスへと登り詰めた人物だ。
ロージアと共に謎の多い存在だが……まぁダンジョン運営にはさほど興味がないし、気にする必要はないだろう。
いや、今思い出したがアイリはスレンダー美女だったな? そのうちテキトーな理由をつけて会いに行こう。(←結局気にしてる奴)
そんなくだらない事を考えているうちに入場審査が終わったようだ。
「――よし、通っていいぞ」
「はいはいど~も――っと」
入場で手間取ることはなく、無事リップコールの街に入ることができた。予定より早く到着できたこともあり、しばらくはのんびりと観光するのも悪くないな。
「ふむ、すっかり日が昇ってしまいましたね。時のダンジョンでの時間経過で昼夜が逆転してしまっています。宿で仮眠をとるのがよいでしょう」
「え~~~? 仮眠なんざ必要ねぇよ、パーッと観光でもしようぜ? あ、なんなら今から闘技場に――」
「はいはい。行くのは構いませんが、先に宿を決めてからですよ~」
「お、おい、離せよロージア――っあだだだだだ! 耳を引っ張るんじゃねぇ~~~!」
先走ろうとするクーガをロージアがドナドナしていく。シュワユーズとカルロスも眠気眼を擦りつつ後に続いた。
「つ~か今から闘技場にってどんだけ武術大会を楽しみにしてんだか。こりゃ初戦からクーガに当たらないよう祈るしかないなぁ」
「フフフフ、武術大会直前ではよく見られる光景ですよ。熱気も日増しに上昇していきますし、今のうちに慣れておくことをおすすめします」
「そっかぁ。でもまだ10日以上は先だろ? 今からこの調子じゃあ――って、アンタは誰なんだ?」
「おや失礼。名乗りもせず会話に割り込むのはマナー違反でしたね。ボクの名はミルド。吟遊詩人として世界を旅している者です」
振り向くと露店を展開している金髪の青年がそこに居た。しかもかなりのイケメン。ロージアがこの場に居なかったのが救いだな。
「吟遊詩人か。あれ? まさかとは思うが、ミルドも武術大会に参加を?」
「いえいえ、旅の途中に偶々訪れただけに過ぎませんよ。それにボクが出場したところでつまらない結果に終わるだけでしょうし」
「でも見たところ一人旅なんだろ? 単独で魔物をどうにか出来るなら、それなりのところまで進めるんじゃ……」
「フフ、さぁどうでしょうね」
どこか意味深な笑みを浮かべるミルド。実は相当な実力者だったりしないか? いや、それは考え過ぎか。
「それより今は商売の話をさせてください。長旅には路銀が必要でして」
「商売ね。その割には商品が並んでいないようだが……」
「フフ、何せボクが売っているのは助言ですからね。下界で言うのなら占い――といったところでしょうか」
ああ、占いか。前世じゃテレビの中でしか見たことがなかったっけ。
「これも何かの縁かもしれないしな。いくらだ?」
「本来なら金貨1枚のところ、出血大サービスの銀貨1枚にさせていただきますよ」
「元値がボッタクリやんけ」
「やはりそうなのですか。以前から金貨1枚を請求すると、皆さん揃って渋い顔をなさるものですから」
そりゃそうだろ……。金銭感覚がおかしいあたり、どこぞの貴族のボンボンかもしれん。
「じゃあ銀貨1枚で」
「ありがとう御座います。では――」
銀貨を受け取ったミルドは静かに目を閉じる。しかし数秒後に目を開き、爽やかな笑みで告げてきた。
「実に不可思議な運命を背負った御方だ。例え貴方が凡人でいようとも、周りがそれを許さない。否応なしに巻き込まれもするし、貴方自身も周囲を巻き込んでしまう。実に壮絶、実に難儀であると言わざるを得ません」
何か難しいこと言われとる。
「ああ、そのような難しい顔をなさらないでください。何も悪い人生だと言うつもりは御座いませんので」
「でも良さそうにも聞こえなかったが……」
「何事も捉え方しだいですよ。なぁに、一般人の人生とは少々異なると認識しておけばよいでしょう。同時に貴方の行動は世に多大な影響を及ぼす。これを肝に銘じてください」
多大な影響か。既にラーツガルフのお家騒動に関わっちまったし、外れてはいないな。
「それから少々お節介を焼かせていただきますと、親愛なる女性を信じるのは大事――といったところでしょうかね。近々大きな試練が待ち構えていると出ていますので、気を強く持つことを忘れずに」
親愛なる女性。そんなもんロージアしかいない。この世界に来て右も左も分からなかった俺を支えてくれているパートナーだ。彼女がどんな生い立ちなのかは今でも不明。けれどいつの日か明かしてくれると信じている。
「どうでしょう、お役に立ちましたでしょうか?」
「ああ、とてもためになった」
「フフ、それは良かった。しかし占いは所詮占い。行き先を決めるのはご自身であることには変わりあません。マサル殿の決断が良い方向へと靡くよう祈っております。それではご縁があったらまた会いましょう」
「おぅ!」
なんだか若い割には随分と達観してる感じがしたな。もしかしたらエルフやドワーフみたく百年以上生きてるのかもしれん。確かシュワユーズもそうだったしな。
ん? んん? そういや俺、名前を名乗ってなかったような……、いや初対面が知るはずねぇし、無意識に名乗ってたんだな。
そして去り際にもう一度ミルドの方へと振り返る。しかし、そこには既にミルドの姿はなかった。
『マサルさん、いったいどこをほっつき歩いているのですか? 私たちはすでに宿屋を見つけましたよ? 早くいらして下さい』
ヤベッ、ロージアからお怒りの念話だ。
『すまんすまん、ブラブラしてたらはぐれちまったみたいだ。すぐに合流するよ』
しかし不思議な吟遊詩人だった。今度会ったら他にも色々と占ってもらうか。
★★★★★
「大会出場者はこっちの入口へ~! 一列に並んで待機してくれ~!」
「ほらそこ、横入りすんじゃねぇ! つまみ出されてぇのか!?」
「おおっと爺さん、観客用の入口はあっちだぜ? 間違えて選手の控え室に行かないようにな!」
あっという間に2週間が過ぎ、大会当日がやって来た。出場者と観客、それを誘導監視している兵士らで闘技場付近がごった返しており、それらの熱気が夏の気温をさらに上昇させているようにも感じる。
だが驚くなかれ、これでもまだ予選会場なんだ。なんでも各都市で予選を勝ち上がった者が帝都で行われる本選に出場できるらしいんだなこれが。
「おおぅ、今にも乱闘が始まりそうじゃん。いっちょ小手調べにおっ始めるか?」
「止しなよクーガ。私たちは冒険者なんだから、兵士に目を付けられたらロクなことないんだから」
「ちぇ。なら兵士に八つ当たりするので我慢しといてやるぜ」
「だからそういう暴力沙汰を止めろと言ってるんだぞ!」
早くも頭が痛くなってきた。もしもシュワユーズとカルロスが居なかったら俺1人で止める羽目になっていたもんな。つくづく仲間の有り難みを感じるよ……。(←有り難みのベクトルが違う)
「分かったよ、仕方ねぇからおとなしくしといてやる。けどなんだってロージアだけ観戦なんだ? 一緒に出場すりゃいいのによ」
「それ、オイラも疑問に思ったぞ。ロージアの方がマサルより強そうなのにな」
「だよね~。きっとマサルくんに花を持たせるために遠慮したんだよ~」
「お前ら……」
ったく、こんなディスられ方するなら連れて来なきゃよかった。(←さっき有り難みを感じてなかったか?)
そんなこんなで入場待ちは何事もなく過ぎていき、名前を登録していざ待機。
ちなみに登録名は【トラップマスターマサル】だ。
「トラップマスターマサルはいるか~? 準備してくれ~!」
「あ、俺です!」
さぁて、いよいよ予選第1試合だ。本選に進むには3回勝ち抜かなければならないらしい。つまり3連勝しろって意味だ。
これで同じ実力者が揃うとなかなか難しそうに感じるが、トラップを多用できる俺は断然有利なんだよな。
「皆さま大変お待たせ致しました。予選第67回戦を始めたいと思います! まずは東方からトラップマスターマサル選手、そして西方からはファントムメリー選手の入場です!」
「「「おおっ!」」」
多大な熱気と共に迎えた一回目の予選。気になる対戦相手は、全身を黒っぽいドレスで身を包んだ金髪の女の子だった。
「アンタが対戦相手? クククククク、私と当たったことを後悔するといいわ、ウケケケケケ!」
なんとも気味の悪い笑い声だ。表情もどことなく不気味に感じる。
俺がこの時感じた不気味な雰囲気。後にコイツが只者ではないと驚愕することになる。




