時のダンジョンマスター
倒れた男を見て思った事。コイツは絶対にボスではないって事だ。さっきは不意を突かれたが、コイツの動きはモッサリしていて人を殺せるものではなかった。
罠の爆発から襲い掛かるまでのタイミングだけは完璧なだけに男の正体はダンマスで間違いなく、肝心のボスもこの場に居ないことから【ボス>ダンマス】という力関係が判明した。
さて仕上げだ。男にだけ聴こえる小声である作戦を伝えてやろう。
「よく聞いとけ。今からスキルを発動させてトドメを刺すフリをする。そしたらタイミングを合わせて死んだフリをするんだ。もちろんコアルームを開けるのも忘れずに。この通りに動けば悪いようにはしない、いいな?」
「…………」コクコク
男はガクガクと震えたまま了承の意を伝えてきた。つ~かコイツ、男のくせにビビり過ぎじゃないか? よく見りゃ中性的な顔立ちだし。
いや、余計な考察は後回しだ。今はコアルームにいるであろうボスをどうにかしないとな。
「これで終わりだな。障壁!」
ズズズズンンン!
石の壁でダンマスを囲い、上からも石の塊を落下させた。これにより全方位を石で囲っているためダンマスの安否は確認できない。
しかし俺だけは知っている。中のダンマスは無事だってことをな。
「お、あそこの扉、コアルームの扉ちゃうんか?」
「うむ。マサルがダンマスを倒したことでコアルームが出現したようだ」
よし、上手く従ってくれたようだ。今にも突入しそうなシゲルを手で制し、透かさずロージアに念話を飛ばす。
『コアルームに居るのはディオスピロスの連中だ。ロージアなら不意打ちに対処できるだろ?』
『そう来ると思っていました。すでに準備はできています』
『じゃあ任せる。けど気をつけろよな?』
『フフ、大丈夫ですよ。私の魔法は粗末な出来ではありませんので』
顔には笑みを浮かべ、そして中身は要警戒といった感じにロージアがコアルームの扉を開ける。
すると予想通りに刃物が飛び出し、ロージアを切り刻まんと突き立てる――
「ぎゃっ!」
「あぐぇ!?」
「ぐほっ……お……ぉ……」
――ことはできず、全ての刃物がコアルームの向こうに弾き返された。その結果、攻撃を繰り出した連中に突き刺さり、全員が瀕死の状態に陥ることに。
「え……ええ? な、何が起こったん?」
「フ、説明しよう。水系の魔法が得意なロージアは、自身にアイスバリケードを掛けていたんだ。この魔法は少しの間だけ攻撃を跳ね返す効果を持っていて、距離が近ければ相手にヒットする可能性もある優れものさ」
「現象は分かったけど、何でマサルが偉そうにうんちく垂れるんや……」
「それはマサルさんが負けず嫌いだからです。ね?」
「ロージアも大概だろ……」
さてさて、改めてコアルームを覗いてみると、3人の男たちが死にそうな顔で(←当たり前っちゃ当たり前だが)床に這いつくばっていた。
「何だよ、全員伸びちまってるんじゃあたいの出番がないじゃん」
「そりゃ攻撃をそっくり跳ね返したんだからな。それだけコイツらの攻撃が的確だったんだよ。ある意味自業自得だ」
そして奥には食料が積まれている。籠城でもするつもりだったか? いずれにせよ、俺たちが来た時点でコイツらに勝ち目はなかったけどな。
「あ、あの……賊の皆さんは退治……されたんですか?」
おっと忘れるところだった。ダンマスの男は生かして置いたんだっけ。
「ご覧の通りさ。で、どいつがボスなんだ?」
「て、手前の……茶髪の……ハゲ……」
「ああ、この薄毛野郎か。しかしこれまでの流れを見るに言いなりになっていたようだが、何か理由でもあるのか?」
「はい。ある日、攻略を……目論む……貴族の一団が……来まして、撃退する際に……ご当主様を殺めて……しまい、その当主が……ディオスピロスという……闇ギルドの……スポンサー……だったようで……」
「ディオスピロスの怒りを買って攻略されてしまったと」
「…………」コクリ
攻略と言ってもコイツの場合は奴隷として使われてたみたいだがな。ディオスピロスの連中もコイツを殺すより上手く利用する道を選択したわけだ。
「と、ところで皆さん、このダンジョ……は時の流れが……とても速く、すぐにでも……脱出した……方が……」
「時の流れが――」
「――速い?」
俺とロージアは顔を見合わせると、一呼吸置いて男の言っている意味を理解した。
「「時のダンジョン!」」
説明しよう。時のダンジョンとは、外部とは時間の経過速度が違うダンジョンの事を指すんだ。
例を挙げると、1時間潜ったはずが外に出たら1日経過していたとかな。って、呑気に説明してる場合じゃねぇ!
「かれこれ3時間は経過している。みんな、出口を目指せ!」
瀕死の構成員を手分けして担ぎ、一目散に出口へと急いだ。長居し過ぎると浦島太郎状態になっちまう。
鼻の効くクーガに外からの匂いを嗅ぎ分けてもらい、来た時よりもかなりのハイスピードで入口へと到達。外に出て見張りの兵士に聞いてみると、丸5日は経っていた事に驚いた。
「5日後、しかも夜明けか。これから起きるっつ~より一眠りしたい気分だけどな、ふぁ~~~ぁ……」
「何を呑気にアクビしとんねん。このダンジョン、大した稼ぎになってないやろ! あ~もぅウチらジリ貧やわぁ」
「だから言ったじゃないか、ダンジョン攻略はリスクが大きいと」
「せやかてシゲル、生活資金も無い状態じゃ他に方法はないやろ。あ~ウチの旗揚げ計画が~~~!」
元々無理がある行動だったしな。まぁ2人で頑張ってくれとしか言いようがない。
「せや、良いこと思い付いたで!」
何かを閃いたクリスティーナがニシシと笑いながら俺を見る。何か嫌な予感が……
「マサルのダンジョンを攻略させてや!」
「「はぁ!?」」
俺とロージアの声がハモる。そりゃそうだろ、攻略されたら俺たちは終わりだ。
「いやお前、何言って――」
「その方がゆっくりと素材の剥ぎ取りもできるやろ? あとテキトーにお宝とかも出してくれたらモチベも上がるな。うん、こりゃ名案やわぁ!」
「名案なわけあるか! しかもお宝まで召喚しろとか図々しいにも程がある。おい、シゲルも何か言ってやれ!」
「いや、ボクも賛成だよ。この先マサルが間違った道に進まないとも限らない。そうなったら友人であるボクが正してあげないとね」
「俺が道を踏み外す前提で語るな!」
何なんだこの2人。思考がズレているところが相性バッチリってか? しかもシゲルには友人と認識されてるし、絶対ウザがられるタイプだろコイツ。
「ふぅ……やむを得ませんね。正体もバレている事ですし、ダンジョンに迎え入れるしかないでしょう」
「やっぱそうなるのか……」
いや、ここは戦力が手に入ったと前向きに捉えるべきか。そう思わないとやってられん。
「そんじゃ捕らえた賊を引き渡してダンジョンに――」
「あ、あの……」
声のする方に振り向くと、いつの間に居たのか中高生くらいの黒髪女子が佇んでいた。いや、何食わぬ顔して俺たちに紛れてるんだが、マジでどっから出てきた?
「「「…………」」」
全員で顔を見合わせるも誰一人として分かる者はなく、互いに首を傾げることしかできない。
すると俺たちの意志が通じたのか、女の子は慌てて自己紹介をし始める。
「す、すみません、わたくし月詠雪乃と申します。先ほどは助けていただきありがとう御座いました。闇ギルドの者たちにダンジョンを占拠されて困っているところだったのです」
「「「あぁ!」」」
全員で一斉に頷いた。この子の正体はさっきのダンマスだ。という事は男に見えるように変装していたんだな。喋り方もボロが出ないようにしていたと。我ながら上手く騙されちまったぜ。
「いやいや、なんでキミがここに!?」
「何でって……言う通りにしたら悪いようにはしないってマサル様が……」
「え? そんな事言った記憶は――あ~確かに言ってたな、うん。いや、言ったけども、そりゃ言いましたけども!」
あれはあの場を凌ぐためであって、命令したわけじゃない。まさか出口に走れって言ったらダンマスまでついてきたでゴザルだよまったく。
「いいじゃないかマサル、オイラは仲間として歓迎するぞ!」
「カルロスよ、お前は女なら誰でもいいんか。つってもお前はそういう奴だったな……」
「そう言うマサルくんだってユキノちゃんを誘ったんでしょ? なら責任はとらないと」
「何の責任だよ、そういうつもりで言ったんじゃないっつ~の!」
「どうでもいいけど早く帰ろうぜ? さすがのあたいも眠くなってきたぜ、ふぁ~あ……」
「呑気にアクビしてんじゃねぇ!」
コイツらテキトー過ぎ! いくらなんでもダンマスを連れ帰るなんて――
あれ? よく考えたら普通にユーリも同居してるな? 俺が考え過ぎなだけかもしれん(←ユーリがいる時点で普通ではありません)。
「よいではありませんかマサルさん。ユキノさんは自分の意思でついて来たのですから。それに――」
そしてロージアがこっそりと耳打ちをしてきた。
「時のダンジョンの持ち主です。彼女の協力があれば、ダンジョン運営はもっと楽になると思いますよ」
早くも利用する気満々なロージア。腹黒いけど頼もし過ぎる。
「分かった。ユキノも俺のダンジョンに招待するよ。外部からの侵入は滅多にないから安心してくれ」
「はい。今後とも宜しくお願い申し上げます。ところでマサル様は何故わたくしのダンジョンに闇ギルドが潜んでいるとお思いに?」
「それはだな――――あ」
いっけね、すっかり忘れてた!
俺たちは転移してきた小屋に入ると、急いで婆さんたちを捕らえている村へと転移した。
「……し、死ぬ……」
何と、婆さんたちは生きていた。5日も放置してたんで、一般人なら危なかっただろうがな。
まぁ結果的に反省を促す事ができたとして(←かなり強引)、全員を騎士団に引き渡そう。
★★★★★
【マサルたちが去った後の時のダンジョン】
「ミネルバ様、一足遅かったようです。ザ・ムーンの姿はどこにもありません」
『――――』
「はい、そうです。近くにハングドマンの痕跡もあったので、もしかしたら合流した可能性もあるかと」
『――――』
「はい。そう考えるのが妥当かと」
『――――』
「なるほど、フールも動いている可能性が? しかしフールにはそれほどの力を感じず放置していたはずでは……」
『――――』
「え、状況が変わった? しかもデビルを倒したのがフールかもしれないと!?」
『――――』
「分かりました。今後は注意して捜索にあたります」
『――――』
「はい、ご安心を。必ずしや見つけて参ります――」
「――ザ・サンの名にかけて」




