ゲスト迎えて新生活
「勝負あり! 勝者はゲイザー将軍!」
そう宣言する兵士の台詞で俺は深いタメ息をつき、反対にゲイザーのオッサンは豪快に笑い飛ばした。
「くっそ~、また負けたか~」
「ガッハッハッハッ! これでもラーツガルフでは地獄の大砲と恐れられておるのだ。半人前の小僧に遅れはとらぬぞぅ!」
――とまぁ何をしてるのかと言えば、時間を余している魔族の皆さん(特にゲイザーのオッサン)に稽古をつけてもらってるんだ。こちらが住みかと食料を提供する代わりにな。
出会ってから3日は過ぎたが1日辺りの獲得DPは2000オーバーという数値を見せ、ダンジョン運営もいよいよ軌道に乗って来た感じだ。
ちなみにダンマスだって事はカミングアウトしている。住んでもらってる場所はダンジョンだし、説明しないと不自然だからな。
「しかしいつまでもご好意に甘えるわけには参りません。妹に奪われた魔王の座を――祖国を取り戻さなくては」
離れた場所でロージアと共に紅茶を堪能していたシルビア王女(魔王女とは言いにくいので王女で)が真剣な眼差しを見せる。
できればこのまま居着いてもらいたいところだが、彼女からしてみれば一時的に避難したに過ぎないからな。
「やはり戻られるのですか?」
「はい。正式に継承したのはこのわたくし。その本人が国を捨てたとあっては民心は得られません。一時的とはいえ国を離れてしまいましたがすぐにでも挙兵し、妹であるブローナを討ち取る必要があります」
シルビアが兵士たちに視線を移すと皆が無言で頷いた。どうやら意思は固そうだ。せっかくの収入だったが仕方ないか。
――と思ってたら、ロージアからとんでもない提案が飛び出した。
「ではせっかくですし、私たちもラーツガルフへ行ってみましょうか」
「……へっ? どゆこと?」
「そのままの意味です。この島を出て東の大陸に行くのです。マサルさんだって度々外に出たいと仰ってたではありませんか」
「そりゃまぁそうだけどさ、でもそれだとダンジョンを棄てる事になるだろ?」
「なりませんよ? ダンジョンが存在する場所は別次元ですから」
「あいぃ~!?」
俺のダンジョンが別次元!?
「初耳なんですが……」
「言ってませんもの」
「何で教えてくれんかったの?」
「言ったところでマサルさんが理解してくれるとは思えませんし」
「なるほど」
「いやいやおかしいし! というか理解できっし!」
「冗談ですけどね」
「おい……」
「いずれは話そうと思ったのですが、この機会に説明しておきます。マサルさんのダンジョンはこの島の地下に有るわけではないのです」
じゃあどこ? って聞き返すと、別次元となるわけだ。な~るほど、俺じゃ理解できないわけだ。
いやいや、ちゃんと理解できるからな? 勘違いしないように。
本当だかんな?
「何というかその……想像を絶する作りになっているようですが、つまるところマサル様のダンジョンはどこでも展開できるという認識でよろしいのでしょうか?」
「その認識で合ってます。マサルさんよりシルビア様の方が理解してらっしゃるようで」
「そりゃ魔王様なんだし知識は豊富だろ」
「いえ、それほどでも……」
あ、ちょっと照れてる。しっかり者の印象だけど、こうして見ると可愛い――
グギッ!
「いでぇ! ロ、ロージア、足、足踏んでるぅぅぅ!」
「あらごめんなさい。フフフフ」
お~痛ぇ。あんましジロジロ見ない方が身のためだな。
ピピピピ! ピピピピ!
「むぅ? この音は何ぞ?」
「ああ、それね。外を偵察している魔物からの知らせだよ」
オッサンからの質問を受け、壁に掲げているモニターを得意気に指す。島の周辺で異変が起こったら知らせるようにと予め設定してあったんだ。
「知らせてきたのはチャージクロウだな。どれどれ…………ん? また船が来たみたいだな。今度はどこの船だ」
「船とな? ――なんと、この船は我々を襲った海賊のものではないか!」
シルビアたちが城を追われて海に脱出した後、狙い済ましたかのように海賊が現れたらしい。何とかこの島まで逃げ切ったんだが、海賊も諦めてはいなかったようだ。
「くそぅ! 兵力さえあれば海賊ごときに遅れはとらないというのに……」
「もはやこれまでか……」
途端に悲壮感に包まれる兵士たち。シルビアとオッサンも視線を落とし、唇を噛みしめている。
聞けば襲ってきた海賊はとにかく数が多いらしく、いくら強者のオッサンでも多勢に無勢なんだとか。
「なぁんだ、そんな事なら俺たちに任せとけって。なぁロージア?」
「ええ。1日経過で入手できるDPよりも、殺した際に入手できるDPの方が遥かに多いですからね。願ったり叶ったりです」
「えっと……それはつまり、ダンジョンで迎え撃つと?」
「もちろんさ! けどそれにはシルビアさんとオッサンにも協力してもらわないとだけど」
「もちろん協力します」
「ワシの全力を見せてやろう!」
俺がダンマスなのを思い出したのか、二人の目に活力が篭る。
ならアクティブダンジョンマスターの戦い、とくと見せてやろうじゃねぇか!
★★★★★
「お頭ぁ、この船はシルビアが乗ってやがった船で間違いなさそうですぜ!」
「おっし! ならやる事ぁ一つだ。取っ捕まえてブローナに引き渡す。――おい野郎ども、島に潜伏しているシルビアを捜し出せ!」
「「「イエッサァ!」」」
シルビアめ、このキャプテンホエール様から逃げ切ったと思ってるだろうが、残念ながらってやつなんだなこれが。
3日の猶予を与えたのはこっちの補給を済ませたのと連中を油断させるため。へへ、今頃は安心しきってるだろうが、そこへ満を持してホエール様のご登場ってわけだ。
もっとも俺様の船団に気付いたら油断もクソもねぇだろうがな。
「しっかしこんな場所に無人島があったとはなぁ。俺様の第二拠点として使ってやってもいいかもしれねぇ」
何せ俺たち海賊は周りが敵だらけだからなぁ。近隣諸国の海軍や他の海賊に縄張りを追い出されるなんて話は珍しくねぇ。いざって時のために拠点はいくら有っても困らねぇのさ。
ま、今回は海での商売(海賊行為)を見逃してもらう代わりにブローナのパシリをやってるがな。
「お頭ぁ、シルビアのやつを見つけやしたぜぇ!」
捜索していた手下が戻ってきた。こんなに早く見つけられるたぁツイてやがるぜ!
「おっし、さっさと連れて来い」
「そ、それが、逃げるシルビアを追ったら突然茂みからゴブリンが出て来やがりやして、10名近くの死人が……」
「バカヤロウ! ゴブリンごときに殺られてどうすんだ! 俺たちゃ天下のホエール海賊団だぞ? 数なら総員300越えだ。低級の魔物なんざ蹴散らしちまえ!」
「イ、イエッサ!」
ったく、海賊やってるなら不意打ちくらいは想定しとけってんだ。
「お頭ぁ、沼地で足を取られた連中がチャージクロウの群に襲われて、20名近くが食われちまってまさぁ!」
「バカヤロウ! ゴブリンもチャージクロウもFランクじゃねぇか! バカやってねぇでとっととシバキやがれ!」
「イエッサ!」
ちっ! 使えねぇ連中だ。これだから海賊は陸の戦が苦手だっつぅレッテルを張られちまうんだよ。
「お、お、お頭ぁぁぁ!」
「今度は何だ?」
「と、と、とととと、突然地面に大穴が開いて、一気に30名近くが飲み込まれちまいやしたぁ!」
「何だとぉ!?」
手下に案内させると、森を抜けた先に広がる草原のど真ん中がパックリと開いてやがる。
「お頭ぁ、こりゃ祟りですぜぇ! 今までの行いを悔い改めろって警告でさぁ!」
「バカヤロウ! 祟りが怖くて海賊やってられっか! どうせ自然現象で開いたに決まってらぁ。こんな穴ごときに恐れるこたぁ――」
そう叫びつつ土を蹴った時、妙な違和感を覚えて足元に視線を落とす。穴が開いたにしては異常に硬いと思ったからだ。
「…………」タンタン!
再度足元を踏みならしてみると、やはり土って感じじゃなく鉄か何かを踏んでる感じだ。
コイツは本格的におかしいと感じ、よくよく穴を観察してみる。その結果、穴の側面がキレイな垂直になっている事が分かった。
「コイツは……自然現象じゃねぇ」
「だから言ってるじゃないすかぁ! 俺たちゃ祟られたんすよぉぉぉ!」
「バカが。こりゃどうみても人工物だ。祟りなんかじゃねぇよ」
「……え? それじゃあいったい……」
誰かは分からねぇが、シルビアを餌に俺たちを罠に掛けてる奴らがいる。恐らく原住民かなんかだろう。
だが国としての認知すらされてない島なんざ少数民族の雑魚集団でしかねぇ。
「コソコソしてねぇで出て来やがれ! テメェらの魂胆は見え見えだ。大方シルビアに頼まれて俺たちを撃退しようって考えなんだろうがそうはいかねぇ。今すぐシルビアを差し出すってんならこっちの犠牲には目をつぶるぜ? 分かったらさっさと出しやがれ!」
きっと木陰や岩陰で見てやがるんだろうと踏み、思いきった要求を突きつけてみた。
すると意外な事に、たった1人のガキの少年が姿を現しやがった。
キャラクター紹介
キャプテン・ホエール
:ラーツガルフ魔王国の西方にある海を荒らしている海賊の1人。
調子よく稼いでいたためにブローナから目を付けられてしまい、手薄に見せかけた商船に偽装したブローナの船を襲って返り討ちに合う。
生け捕りにされたホエールはブローナへの忠誠を強要され、不服ながらも仕方なく契約を結んだ。
シルビアの船を襲ったのもブローナの指示で、生け捕りにすると追加で報酬を貰えるため、逃げた先の無人島まで乗り込んだ。
しかし欲を張った代償によりマサルと遭遇してしまったのは、彼にとっての悲劇と言えるだろう。