ナイトメア急襲!
「さぁさぁさぁ、道行く皆さんお立ちあ~い! 毎度お馴染み日刊ガルフからの号外だよ~! 此度のビッグニュースは~~~これだぁぁぁ! ななななんとぉぉぉ、王位を継いだシルビア様が~ぁ、つ・い・に・ご結婚だぁぁぁぁぁぁ! 詳しい日時はこちらを読んどくれよ~~~っと!」
「おお、ついにか!」
「いつ結婚するのかず~っと気になっていたのよね~」
「こっちに一枚くれ!」
「俺も俺も!」
王都での騒動が一段落し、初夏から夏へと変わろうとしている今日この頃。真夏の前のベリーホットなニュースとして、シルビアとカルバーンの結婚が世間を賑わせた。物騒な出来事が多かっただけに、皆がこの話題に飛び付いているらしい。
「今日から2週間後か、意外と早いな。どうするロージア?」
「花嫁衣装は乙女の憧れ。是非とも直に拝見したいものです」
ほほぅ、つまりロージアも結婚には前向きだと。まずは交際段階ですらない現状を何とか進展させないとなぁ。
「わたくしも憧れてましてよ。一刻も早くジャニオ様とバージンロードを――キャッ♪」
「ハ、ハハ……」
キャッ♪ じゃね~よブローナ。隣で顔を引き吊らせてるジャニオを見て何とも思わないのか。いや、両手を上げて歓迎してると脳内変換してるんだろうな……。
「いいないいな~。きっと参加者も多いんだろうし、あたしも挙式してみた~い!」
「だったらオイラが迎えてやるぞ? シュワユーズなら大歓迎だぞ」
「え~? カルロスくんは顔がな~」
「グヌッ……ちくしょ~~~!」
がんばれカルロス。顔を洗って出直して来るんだ。洗っても変わらんと思うけども何もしないよりマシだろ(←なかなかひどい)。
「つ~か地上の奴らは儀式なんか挙げんのな。男と女なんざ子供作りゃそれで終わりだろ」
「うっわ~、出た出た、清楚のせの字もない肉食女」
「所詮クーガは魔物ですもの。この女に品位を求めるのが間違いなのですわ」
「あんだとテメェら、やるんならトコトン相手になるぞ!?」
「フフ~ン、ならトレーニングに付き合ってもらおっかな~」
「黒焦げにして差し上げますわ」
「止めろお前ら、コアルームで暴れんな!」
★★★★★
それからあっという間に2週間が経った。王都城内にある城門前大広場にて貴族に見守られる中、魔法士やマジックアイテムによる煌びやかな演出を伴って挙式が進められていく。
そんな様子を一目見ようと、門の外には多く一般人が野次馬根性の如く詰めかけているが、俺たちは二人の関係者ってことで間近で参列してるぞ。
フフ~ン、どうだ一般人ども、羨ましいだろう?(←性格悪!)
「フフ、シルビアさん幸せそうです」
「ああ。カルバーンも照れた顔してやがる」
一時は城を追われた身――なんだよな。あの時あの島に転移していて本当に良かった。そうじゃなきゃ助けられなかったしなぁ。
「あら? あれは……」
「ん? ――って、なんだあの酔っ払いは」
ベロンベロンに酔っ払った千鳥足のオッサンがシルビアとカルバーンに絡んでやがる。一般人は紛れちゃいないはずだが……等と思っていると、焦ったカルバーンがオッサンに肩を貸してそそくさと連れ出して行った。
「どうやらあの男性、カルバーン殿の父――カルズール公爵のようですね。息子の結婚がよほど嬉しかったのでしょう」
「――にしゃあ飲み過ぎだけどな。せめてシルビアの両親のように控えめに祝うとかさぁ」
シルビアの両親――つまりは元国王と元妃にあたる二人は今、南国のサザンブリングという島国で隠居生活を送っているらしく、結婚の話を聞いてシルビアの元にビデオレターもどきのマジックアイテムを送ってきたんだ。この演出にはシルビアも嬉し泣きをしていたなぁ。
「ま、俺が結婚式を挙げたところで異世界の両親は呼べないけどな。ロージアはそれでもいいか?」
「マサルさん、気が早すぎませんか。……あ、いえ、そのように見ていただけるのは大変嬉しいのですけれど」
嬉しいのなら問題ないな、うん!
「こういうのは計画性が大事だからな。俺の両親がダメでもロージアの両親はちゃんと呼ぶから安心してくれ」
「え? ……私の……両親……」
「あ……」
やっべぇ! つい弾みで言っちまったが、ロージアの親族とか全然話題にしたことがなかったじゃねぇか!
「す、すまんロージア、今言った事は忘れてくれ!」
「いえ、大丈夫ですよ」
ふぅ……。暗い表情を見るに、両親とは死別してるんだな。今後は触れないように注意しないと。
「マスター、それにお嬢、どうやら誓いのキスを行うようですよ」
「お、いよいよか」
ジャニオの台詞により、俺たちは群衆の中央にいる二人へと視線を移す。そして神父に促されて口付けを交わそうとした時だ。
ゴゴゴゴゴゴ……
「なんだ、こんな時に地震か?」
地響きにより口付けは中断され、周囲もざわめき始める。
まったく無粋な真似をするもんだなぁと思ったのも束の間。揺れは収まるどこか激しさを増し、地面の石レンガにピシピシとヒビが入り始めた。
「お、おい、この地震デカすぎないか!?」
「マサルさんの仰る通り、並の地震では有り得ない揺れです!」
この揺れにより挙式は強制中断。カルバーンはシルビアの肩を抱いて広場の隅に避難する傍ら、警備兵はどうしていいか分からず右往左往。貴族たちもアワアワと動揺し始め、門によじ登っていた民衆も揺れで地面に叩き落とされる。
そこでロージアが何かに気付き、ハッとした表情を俺に向けてきた。
「マサルさん、地下から巨大な魔力反応を感じます。この揺れはその魔力を放っている者が原因です」
「只の地震じゃないってか? そいつは何者なんだ!?」
「分かりません。ですがもう間も無く――」
ドガァァァァァァァァァァァァ!
「な!? なんだあのデカブツは!」
地面を破って大広場のど真ん中に姿を現した謎の物体。全身が濃い紫色で山羊みたいな顔の両サイドにご立派な角を生やしてやがる。更に背中からは不気味な黒い翼が生え、正に悪魔という言葉がピッタリだ。
「ナイトメア……あれはナイトメアです!」
「ナイトメア!」
高遠や十針を飼い慣らしている親玉だ。コイツが完全に姿を現すと揺れは徐々に収まり、やがて完全に収まった。
「クッフッフッフッ。久々の地上、我が身は夢から現へと移ろい、現の者共を夢へと誘わん。しかして我が見せるは夢なれど、やがては叶う正夢とならん」
何やら喋り出したナイトメア。よく分からんけど夢を叶えてくれると言いたいのか?
「マサルさん、惑わされてはいけません。ナイトメアとは人々に悪夢を見せ、藁にもすがりたくなったところで手を差し伸べて魂ごと取り込む。そういう魔物です」
「んだよそれ、悪趣味な詐欺師じゃねぇか」
「思い出してください、エメローナとエルウィンを。彼らも希望と見せかけた力を与えられ、最後には朽ち果てた。恐らくナイトメアはこれまで倒した四天王の魂を取り込むことで復活を果たしたのでしょう」
敵ではあったが可哀想な奴らだった。敵討ちって訳じゃないが、せめて俺の手で倒してやらないとな。
「おっし、ここは俺が――」
「待ってくださいマサルさん、敵はナイトメアだけではありません!」
ロージアが俺の腕を掴んで宙を指す。指先をたどると、ナイトメアと同時に現れたであろう高遠と十針がワイバーンの背に乗っている姿が飛び込んできた。他にも多数の飛行モンスターを引き連れていて、地上に対する圧力が半端ない。
「アイツらも一緒か」
こりゃ一度に全員は相手にはできないな。ナイトメアもそれを知ってか、余裕綽々な様子でシルビアに語りかけてくる。
「さて、シルビア王女よ。ご結婚おめでとう――と言いたいところだが、此度は祝辞を述べに来たわけではない。この国に夢を与えに来たのだよ」
「……夢? フン、世迷いごとを。そなたのような魔物に頼る気はありません。即刻この国から出て行きなさい」
「世界を手中に収められるとしてもか? 俺の力を持ってすれば造作もないことだぞ?」
「いいえ、我が国は戦乱を望みません。それに夢とは申しませんが、私はとある人物により希望を与えられました。一時は国を追われた立場である私を窮地から救ってくれたのです。仮にその人物が私の立場だったなら、今すぐにでもお前を消し飛ばそうとしたでしょうね」
ナイトメアを前にして一歩も引かないシルビア。つ~かアレだな。とある人物ってのは俺の事だよな絶対。
「クッハッハッハッ! 度胸だけは王女の名に恥じないらしいな。だがシルビアよ、貴様には――いや、この国に拒否権はないのだよ。有るのは忠実な属国と成り果てるか、国そのものが消え行くかの二択のみ。さぁ選ぶがいい。従属か、はたまた消滅かを」
「…………」
シルビア――それにカルバーンも険しい顔で俯く。本心では抵抗したいと思っていても、国民の命がかかっているんだ。できれば戦いたくはないのが本音だろう。それか一時的にでも従うことで惨事を避けようと考えていたかも。
だがしかし、民衆の一人が声を上げたことで、その雰囲気は一変した。
「ふざけるなバケモノーーーッ! お前のような奴に好き勝手はさせないぞーーーッ!」
ハッとして驚いた顔を見せるシルビアとカルバーン。すると他の民衆も前者に続き……
「そ、そうだ、好きにさせるな!」
「そうだそうだ! さっさとラーツガルフから出て行けーーーッ!」
「「「出~て行け! 出~て行け! 出~て行け! 出~て行け!」」」
あっという間に出て行けコールが巻き上がり、ナイトメアが不快そうに顔を歪める。しかしコールが収まる気配はなく、ならばと貴族たちもが声を上げ始めた。
「ラーツガルフを狙う不届き者め! 手を出したことを後悔させてやるぞ!」
「そうだ! ラーツガルフは我らの国、悪しき輩は滅ぶべし!」
「フン、うちの旦那よりデカいだけの輩が調子に乗るんじゃないザマス! 我が国の軍隊にかかればデカブツもイチコロ。さっさと殺ってしまうザマス!」
「行けーーーっ! 我が国の軍事力を見せつけてやるのだーー!っ!」
すっかり応戦する流れが出来上がり、魔法士や弓兵がゾロゾロと集まり始める。そこでシルビアがナイトメアへと切っ先を向け……
「聞きましたか? これが我々の総意です。例えどんなに強大な相手であろうと、我が国は絶対に屈したりはしません!」
「ほほ~ぅ、面白い。敢えて我に挑むというのなら――」
シュバッ!
真っ黒な翼をバッと広げ、上空へと舞い上がる。翼が巻き起こす風に煽られながらも皆の視線は奴を追う。多数の注目を浴びる中、狡猾な笑みを浮かべたナイトメアが……
「――魅せてやろう。絶望に染まりし悪夢というものを!」
そう宣言すると、背後に控えていた飛行型魔物が一斉に降下を始めた!
「クッソ! あんだけの数、俺一人じゃまともに捌ききれねぇ!」
それでもやるしかないって感じに飛び上がろうとした俺の肩に、ロージアの手が添えられた。
「ロ、ロージア?」
「何を言っているのです、マサルさん一人に任せるわけないでしょう」
「お嬢の言う通り、マスターに頼りっぱなしでは眷族の名が廃るというものです」
ロージアとジャニオが翼人魔に向かって飛んでいく。すると後ろから別の声が……
「水くさいぞマサル。空を飛んでるだけの連中にオイラのガードが突破できるかってんだ!」
「アレでも実の姉ですもの、わたくしが手を貸すのもやぶさかではありませんわ」
「地上はあたし達に任せて!」
「お前ら……」
そうだったな。俺は1人じゃない、仲間がいるんだ。
「分かったぜ。但し、無茶はするなよ?」
「分かってらぁ! あたいらは空飛べねぇんだから、せいぜい楽しんでこいってんだ!」
「おっとと!」
クーガに背中を押された勢いを利用し、視界に入った高遠目掛けて飛んでいく。すると向こうも気付いたようで、乗っているワイバーンの向きを俺へと合わせてきた。
「フン、やっぱり来やがったかマサル」
「それはこっちの台詞だ。今度こそ決着つけてやる!」




