対決、マサルVS十針
ディオスピロスによって誘い出された場所には十針という大人びた少年がいた。黒い学生服に黒マントという、いかにも転生者っぽさを感じる見た目でな。
「まずは小手調べと行きましょう――ブラッティチェーン!」
十針の両手から黒い鎖が伸びてきた!
「俺を捕まえる気か。そうはいかねぇぜ!」
ダン!
「何っ!? 地面から10メートル近くも自力で上昇を!」
「生憎だな? そんなチャチなスキルは効かねぇんだよ!」
もちろん自力での上昇じゃない。対象を遠くへ弾くスプリングトラップを踏んだだけだ。
「流石ですねぇ。しかし宙に浮いている状態では回避できないでしょう!」
「チッ、追尾すんのかよ!」
避けたはずの鎖が再び向かってきた。コイツの意思で方向は自由自在か。
「反射!」
パシィィィ!
「なっ! 今度は弾いた!?」
「ふっ、それだけじゃないぜ? 撃ち出された鎖をソックリ送り返すんだからな!」
「!!」
グニャリとUターンする鎖に目を見開く十針。まさか自分のスキルが自分に来るとは思わなかったんだろう。
しかし……
「――フッ」
「――え?」
余裕の笑みで鎖を見据えていた。直後、その理由がハッキリする。
ピタッ!
「く、鎖が止まった!?」
鎖が十針に絡み付くことはなく、触れる寸前で停止していた。反射中はコントロールを失うはずなのにだ。
「ククククク! 生憎ですが、ボクに小細工は通用しませんよ?」
「……そのようだな。高遠には充分すぎるほど効いたんだが」
「はっ、猪突猛進な高遠くんと同一視しないでもらいたいですね。ボクは事前準備を怠らない質なので、キミの事はすでに調べてあるんですよ。エムニルを使ってね」
「エムニル!」
つい先日襲ってきたキャプテンホエールの恋人だ。
「そうか、テメェが余計なことを吹き込んだのか」
「その台詞は心外ですね。ボクは真実を伝えたまで。何も知らずに過ごすのは哀れというものでしょう? だから救済して差し上げたのですよ。ディオスピロスを使ってね」
「ん? その言い方だとテメェはディオスピロスとは関係ないみたいに感じるな?」
「それで合ってますよ? 所詮ディオスピロスも利用している駒の1つ。彼らがどうなろうと知ったことではないのでね。――そうそう、別に壊滅させる気なら止めませんよ? 煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
とことん他人を見下してるやつだな。ディオスピロスはどうでもいいが、コイツの鼻っ柱はへし折ってやらないと気がすまん。
「そっちは好きにさせてもらう。だがまずはテメェだ。俺まで都合よく動くとは思わない事だな――拘束!」
会話している間に仕掛けたトラップだ。木の枝で十針を拘束して――
ピタッ!
「そんな! 俺のトラップまで!?」
「効かないと言ったはずです。同じ過ちを繰り返すのはバカのする事ですよ?」
「クッ……」
どうやらコイツ本体には触れられない仕組みになっているらしい。
これも何かのスキルか? 仕掛けを暴きたいが、素直に教えてはくれないだろう。
だが手がない訳じゃない。
「ああ、そうかよ。だったら――」
ダン!
「直接ブッ倒すまでだぁ!」
スプリングトラップを角度調整し、十針のいる木の天辺へと一直線に飛ぶ。トラップがダメなら肉弾戦しかない。
ザスッ!
「グッ!?」
後少しのところで飛び退かれちまった。それでも左肩に切り傷を残す程度はできたか。
「……やりますね。正面からぶつかればボクに勝ち目はないでしょう」
「だから浮遊して逃げるってか? 生身で空飛んでるとか、前世の人間の夢を叶えちまったなぁ」
「ここは異世界ですからね。完全物理法則の前世とは比較になりませんよ。貴方だってそうでしょう? ポッとでの青年が海賊を壊滅し、国1つに影響を及ぼす。言わばボクら転生者の特権というところでしょうかねぇ」
――で、やっぱコイツも転生者と。ご苦労なことに俺の事を調べ尽くしてるようだ。つくづく厄介な野郎共だな。
「フフッ、お察しの通り、ボクも高遠くんも転生者ですよ。もっとも、転生したのはこっちの世界に転移してから――ですけどね」
「転移してから死んだってのか? 哀れなやつだなぁ」
「そうです。ボクらクラスメイトは哀れな存在でした。一国を乗っ取り、いずれ世界へと羽ばたくつもりでいたのですが、その夢は閉ざされてしまいました。ある1人のダンジョンマスターによってね。そんなボクらの魂を取り込み、新たな力を授けてくれた主様には感謝していますよ。こうして復讐する機会を与えてくれたのですからね」
コイツのいう主様ってのが黒幕らしい。
「復讐するのは勝手だが、俺の知らないところでやっほしいね。俺はテメェの言う主様には心当たりは無いしな」
「ボクとしても貴方に拘っているわけではないのですよ? ただラーツガルフを落とすに至って邪魔になるというだけの話ですので」
「この国に件のダンマスがいるのか?」
「いいえ、ただの下準備です。ターゲットのダンマスは別の場所に――」
「はぁ? 下準備のためだけに国1つを滅ぼすつもりかよ!」
「そうですね。自分たちの利益が損なわれない限りは」
「コイツ……」
あくまでも自分本意ってことか。それで無関係の国が滅ぼされたんじゃたまったもんじゃねぇ。
「テメェみてぇのがのさばってると転生者全体のイメージダウンに繋がる。ここで退場してもらうぜ!」
「やれるものならどうぞ?」
「言われなくたって――」
いまだに余裕をかましている十針。俺は地中にトラップを仕掛け、スプリングで上昇した。
「またですか? 体育会系のような力押しは好きではないんですがねぇ」
「テメェの好みは関係ねぇ。このままくたばりやがれぇ!」
さっきと同じように斬りかかっていく。こっちに合わせて十針も後ろに退こうとしたが、さっきとは決定的に違う点がある。
ゴォォォォォォ!
「木が……燃えている!? ――ぐあっ!」
「へへ、地面から高熱ガスを発生させてやったんだ。木はよく燃えるだろ?」
十針を煽ってる炎はトラップじゃない。トラップを介して木を燃やしてるんだ。
「今度こそ終わりだ、食らえぇぇぇ!」
トドメをさすべく十針に突っ込む。奴は燃えカスを払っていてそれどころじゃないからな。
「ゴホゴホッ! 卑怯な真似をしてくれますね。――ダークバレット!」
ズダダダダダダダ!
多数の黒い弾が打ち出され、十針の周囲を煙幕が覆い尽くした。
「クソッ、姿が見えねぇ!」
そのまま突っ込むのを諦め、地上へと舞い戻る。やがて煙幕が晴れていくと、そこには十針の姿がなかった。
「奴がいない!? 煙に紛れて逃げやがったか!」
見渡しても姿はない。まさか本当に逃げやがったのか? 無駄にプライドが高そうな奴だし、黙って逃げるとは思えない。
「どこに隠れた!? 出てこい!」
返事は無し――か。隙をみて急襲するつもりだな。だったらこっちにも考えがある。
「球体型蛍光灯!」
毎度お馴染み、暗闇を照らす便利アイテムだ。これならすぐに見つかるはず。そう確信して樹木の隙間をくまなく照らしていく。
すると突如、注意を向けていなかった背後の樹木から鳥の群が羽ばたく。
バサバサバサ!
「何だ!? ――って、ただの鳥かよ。ビックリさせ――!?」
鳥の群から視線を落とすと自分の影が不自然に伸びていた。いや、伸びているというより実体化しつつあると言った方が正しい。
頭、胴体、足、そして手には槍のような物が握られている。
「そんなところに居やがったか!」
「チッ、あと少しというところで……」
悔しそうに唇を噛む十針を見据え、距離を取って剣を構える。あのまま気付かなかったら死んでたかもしれねぇ。
「影に潜むスキルか。つくづく面倒な奴だ。これだから陰キャ野郎は……」
「陰キャではありませんよ! これでも生徒会長でしたからね。勘違いはいただけません」
「影に潜んでる時点で陰キャ確定だっつ~の!」
ついでに言うと、コイツが陰キャかどうかなんてのはまったく興味がない。興味があるのは勝つことだけだ!
「食らえ陰キャ野郎――球体型蛍光灯!」
「何だそれは――グッ、目がぁ!」
ゾンビ退治で活躍した便利アイテムだ。これはトラップに含まれないため、予想通り十針の視界を奪ってくれた。
俺はこの隙を逃さず、奴の心臓めがけて突進していく。
「これで最後だ、くたばれ陰キャ野郎ぉ!」
キン!
何かが剣に当たった!? そのせいで軌道がぶれる!
ザシュ!
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」
黒い学生服を奴の血が染め上げていく。
――が、狙いは逸れ、刺さった場所は奴の左肩だ。
「死に損ないが、今度こそ――」
「おっと、コイツを殺すのは勘弁な!」
聞き覚えのある声と共に、十針が回収されてしまった。見上げれば、木の天辺には十針に肩を貸している高遠が立っていた。
「またテメェかこの野郎!」
「そう怒んな。こっちも後が無いんだよ。コイツを殺されちまったら連帯責任を負う羽目になるんでな」
「だから見逃せってか?」
「只でとは言わねぇ。お前が捜してんのはソイツだろ?」
高遠が1本の木を指してきた。その枝にはロープで縛られたラナが吊るされている。
「ラナ!」
「心配すんなよ。薬で眠ってるだけだ。そのガキは返してやる」
すぐさまトラップで枝ごと引き寄せ、ラナの拘束を解いてやった。
「た、高遠、余計な真似を……」
「余計だぁ? この状態で勝てる気でいやがんのかよ! ムカつくが俺たちの負けだ。それどころかマジで後がねぇ。次にしくじったら俺たちは消されちまう。分かったらさっさと引き上げるぞ」
「……やむを得ませんね」
どうやら諦めたらしい。俺としてもラナを護りながらじゃ厳しいしな。
「今回は見逃してやる。さっさと失せろ」
「へぃへぃ、そうさせてもらうぜ。――ああそうだ。1つだけ伝えとくが、俺と十針はしばらく来ねぇ。次に会った時が決着の時だ。それまでは別の二人が相手になるぜ。じゃあな」
妙な台詞を吐いて高遠と十針は消え去った。
「別の二人……か。まだまだ面倒ごとは続きそうだな」




