闇ギルドからの接触
「闇ギルドからの依頼!?」
「しーーーっ! 声が大きいですよマサルさん」
「あ……ああ、すまん」
受付嬢に指摘されて慌てて口を塞ぐ。冒険者ギルドの中はちょうど昼飯時で空いていたのが幸いだ。
「……で、闇ギルドがどうしたって? 俺に挑戦状でも叩きつけて来やがったか?」
「いくら闇ギルドでも堂々と注目を浴びるような真似はしないと思いますけど。それに詳細は聞くなって言われちゃいましたし、私からは預かった依頼書をマサルさんに渡す以外は何もできません。あ、当然中も見てませんよ? そんな事がバレたら闇ギルドに消されちゃいますもん!」
そう言って渡された書簡を広げてみると、日時と場所だけが記された簡素な地図が露になった。どうやらそこに来いって事らしい。
「連中、闇討ちでもするつもりか? そりゃ何度か戦った相手でもあるし、恨まれるのも当然か」
「いえ、それは無いと思いますよ」
異を唱えたのはロージアだった。つっても奴らの構成員を何人も殺しちまってるし、恨まれない理由はないんだけどな。
「どうしてそう思う?」
「マサルさんを殺すだけが理由なら、第三者である冒険者ギルドを挟む必要はないからです。闇ギルドにとって闇討ちは十八番とも言えますし、事前告知は成功率を下げるだけ。プロフェッショナルな彼らがそんなリスクは負わないでしょう」
「なるほど。つっても仮に依頼だったとして受けてやる義理はないんだよな。面倒臭そうだしスルーしとくか」
そもそも散々敵対しといて依頼してくるとか厚かましい連中だ。俺に依頼したいんなら金貨1000枚持って来いっての。いや、持って来られても受けないけどな。
そう心に決めた直後、不意に横から知らない声が。
「受けた方が良いと思うよ」
「ん? あんたは……」
「ボクかい? 新しく冒険者ギルドのギルドマスターに就任したエルウィンという者さ」
緑の髪を伸ばした魔族の男がそこにいた。キザっぽい声でイケメンか。ジャニオといい勝負だな。どうりで受付嬢がジャニオ連呼しないと思った。
「おいおい、ギルマスが闇ギルドの依頼を斡旋するんか?」
「いや、斡旋する気はないよ。ただね、ちょっと気になる噂を耳にしたのさ。王都の闇ギルドが外部の勢力に狙われてるって話をね」
詳しく聞くと、俺との戦いで戦力を削がれた闇ギルドはその後、戦力補強に専念してるようだった。
ところがそれを好機とみた外部の闇ギルドが潰しにかかってるらしい。
「闇ギルド同士の争いか。でも俺が介入するメリットは無いだろ」
「ソコなんだけどね、王都の闇ギルドは比較的温厚な方なんだ。いや、理性的と言った方がよかったかな? それに対してちょっかいを出している外部勢力は危険な輩が多くてね、一般人の被害が多く出ると予想できるんだよ。治安維持もあるし、ボクとしてはマサル殿に一肌脱いでもらいたいところなんだが」
「あ~はいはい、やりゃいいんだろやりゃ。どうせ他にはろくな依頼がないし、サクッと排除してやるぜ」
「ありがとう、とても助かるよ。でも危険な依頼である事には変わらないし、依頼を達成した暁にはBランクへの昇格を推奨しておくよ」
「ランクの昇格か」
正直依頼の内容よりランク昇格の方がありがたいな。俺としちゃ冒険者として名をあげるのが目的だしな。
「おっし、やる気が出てきたぜ!」
「…………」
「ん? なんだギルマス? 俺の顔に何かついてるか?」
「い、いえ、決してチョロいなどとは思ってませんよ?」
「そうか?」
こうして正式に闇ギルドからの依頼を受ける事になり、指定された夜の酒場へと足を運んだ。連中は俺だけを指名してたんで、カンウター席には俺だけが座ってる状態に。
疎らとはいえ客は居るし、一般人を巻き込んで襲っては来ないだろうと考え軽く酒を煽っていると、若い金髪の女が俺の隣に腰を下ろした。
「マスター、いつものやつを」
「はいよ」
偶然か? 他にも席は空いてるのにわざわざ俺の隣に座るなんてな。
一瞬この女が闇ギルドの使いかと思ったが、書簡には若い男を寄越すと書いてあったし別人だろう。
――と思っていた矢先、女が独り言のように呟いてきた。
「破竹の勢いで活躍してるって聞いてたけど、案外若いのね」
「…………」
俺の事を言ってるんだろう。冒険者ギルドじゃ噂の的だからな。つ~か単なる偶然なら話しかけないで欲しいんだが。万が一ロージアにバレたら何言われるか分かったもんじゃない。
そんな俺の願いとは真逆に、尚も女は呟くのを止めない。
「冒険者に成った数日後にカルバーンからの指名依頼。たかが冒険者に――しかも駆け出しの若造を指名するなんて、普通なら絶対にあり得ないわ。いったいどんなトリックを使ったのかしら? それに王都に沸いたアンデッドを冒険者パーティ【夢の翼】と共闘して瞬く間に殲滅してしまった。街の連中の中には運が良かっただけで【夢の翼】が活躍したお陰だと言ってる奴もいるけど、運だけでは絶対に不可能よ」
「…………」
うるさいなぁ。赤の他人に話すわけねぇっつ~の。というか指定した時間はとっくに過ぎてんのに闇ギルドのやつはまだ来ないのか?
すると女は俺の心中を察してるかのように、衝撃の事実を告げてきた。
「ギルドの使いなら私よ。名前はエムニル。来るはずだった構成員には代わってもらったの」
「……何だって?」
ここで初めて女の顔を直視する。俺よりは若干歳上に見えるが美人には違いないな。当然見知った顔じゃないが。
「闇ギルドはよっぽど人手不足らしいな。あんたみたいな若い女が構成員とはね」
「そうでもないわ。適材適所でキチンと役割はあるもの。床上手な若い女も必要な場合があるでしょ? フフ……」
それもそうかと納得しかけたが、そんな事はどうでもいい。
「さっき代わったと言ったな? 理由はなんだ?」
「個人的に興味があったからよ。だって闇ギルドの構成員が襲撃に失敗するってなかなか無い事だもの。――知ってる? 構成員は戒めのために契約を交わすって。もしも任務に失敗したら片腕を切り捨てるとか、そういった事をやるみたいよ」
背水の陣みたいな感じか。物事に失敗はつきものだし、俺だったら絶対に御免だね。
「そろそろ出ましょう。もっと静かで落ち着く場所で話したいし」
「ここも充分静かだけどな」
「誰もいない場所って事よ。ついてきて」
仕方なく言われるままに酒場を出た。進む方向は街の中心とは反対で、どんどん殺風景になっていく。
しかし1つだけ気になる。人気のない場所に向かってるのは確かなんだが、なぜか衛兵が慌ただしく駆け回ってるんだ。
何か事件でもあったか? まぁ俺には無関係だろうけど。
「…………」ピタッ!
「ん? どうした?」
「衛兵が多いわね。一旦潜伏しましょ」
「はぁ? なんだってそんな真似を……」
「第三者に聞かれたくないのよ。貴方だって衛兵に目を付けられたら嫌でしょ?」
「別に」
「そう、だから――へ?」
「既に知名度が上がってるし今さらだろ。それに王都の危機でもあるんだから、少しくらいは大目に見てくれるだろ」
「いやいやいや!」
女が急に慌て出した。
「衛兵に聞かれたら面倒じゃない! 闇ギルドの構成員ってだけで拘束されるかもしれないのよ!?」
「どうでもいいけど、そんな大声だと衛兵に注目されるぞ?」
「うっく……。んん! と、とにかく、私についてきなさい」
「お、おい……」
強引に腕を引かれて走り出した。いったいどこに行くつもりかと思ったら、外壁に向かってるじゃねぇか。
そして細っ苦しい外壁と建物の隙間を進んでいると、壁の一部が朽ちて外に繋がっている場所にたどり着いた。
「ちょっと待て。まさか外に出るつもりか?」
「そのまさかよ。外なら衛兵だっていないし、邪魔も入らないから」
――にしたっておかしい。邪魔が入らないようにするならアジトに行けば済むことだ。なのにわざわざ外に出る? やっぱ闇ギルドの連中は分からん。
しかしゴネてても話は進まないし、素直に外へ出ようとしたその時!
「エムニルよ、ここは通さんぞ!」
外から入って来たのは全身黒ずくめの男。それを合図に周囲の物陰からも同じ服装の奴らが姿を現した。
「チッ、もう追い付かれたか!」
諦めて臨戦態勢をとるエムニル。逆に俺たちを取り囲んでいる黒ずくめ集団。妙な事に巻き込まれちまったと剣を抜くと、黒ずくめの男から意外な台詞が飛び出した。
「気を付けろマサル、その女は外部からのスパイだ!」
「は……え、ええっ!?」
エムニルがスパイだぁ!? つってもこの場合どっちも怪しいのに変わりはない。どうしようかと戸惑っていると……
「ここまで来て邪魔されてたまるかぁ!」
バキィン!
エムニルが手の中で何かを砕いた。すると直後に体がフワッと浮いた感覚を獲ると、どこかの森の中へと転移していた。
「転移石を使ったのか」
「ええそうよ。3キロは離れたから連中もすぐには追い付けないわね」
「そんな事までして俺に接触しに来たのはなぜだ? お前らと王都の闇ギルドが争ってんのは知ってるけども。それともまさか、俺を取り込みに来たってのか? 悪いが俺は――」
「勘違いしないで。そんなくだらない理由じゃないわ」
くだらない? まるで裏方らしくない台詞だな。そう思ったのは正しかったようで、直後に自白を開始した。
「連中も知らないでしょうけれど、私は外部勢力の者じゃないわ」
「はぁ!?」
「訳あって外部勢力に加担している協力者よ。王都の闇ギルドを混乱させるのと引き換えに、私に手を貸してもらってるの」
「手を貸してる……だと?」
俺が眉間に皺を寄せていると、エムニルは語り始める。
「おかしいとは思わなかった? 男の構成員が来るはずなのに私が現れた事。ちょっと手間取ったけれど、なんとか始末する事ができたのよ。貴方と会う直前にね」
「……殺したのか?」
「ええ。でも案外大事になってしまったらしくてね、衛兵が調査に乗り出したのよねぇ。死体の隠し方が雑だったみたい」
道理で衛兵が駆け回ってたはずだ。それで闇ギルドの方も感付いて追手を差し向けたって事か。
「でもそんな事を気にしてる場合じゃないと思うわよ? 今ここには貴方の味方はいない。対して私には……」ピュイ♪
口笛を合図に様々な格好をした連中が取り囲んできた。
素手に道着の男がクイクイっと指で挑発し、鉄球を背負った巨体と短足チビの爪男が薄ら笑いを浮かべ、他にも浴衣を着た女(←両肩を露出してるから多分女)に長身のスキンヘッド野郎とバリエーション豊かだ。
「外部勢力の中でも彼らは戦いを好むバーサーカーよ。これで生きて帰れるのなら是非実現してほしいものだわ。――フフ、これでようやくホエールの仇を取れる!」
ホエールだと? そんな奴は知ら――
いや、居た。無人島で戦った海賊の頭だ!
「そうか。お前はキャプテンホエールの恋人か」
「ようやく思い出した? そうよ、ホエールは私にとって大事な人だった。それをお前はぁぁぁ!」
激昂するエムニル。気持ちは分からんでもない。俺だってロージアを亡くしたら怒り狂うだろう。
だがアイツは殺されても仕方がない立場にあった。傍若無人な海賊は捕まったら処刑。それ以上でもそれ以下でもない。
「…………」
「……フ、フフ、急に黙り込んじゃって、意気消沈って感じ? 最後に言いたい事があるなら聞いてあげてもいいわよ?」
「分かった。お前に一言伝えておく」
「そんなに悲しけりゃ地獄で再会してきやがれぇ!」
グサグサグサグサグサグサァ!
「「「ギャァァァァァァ!!!」」」
取り囲んでいた連中が一斉に悲鳴をあげた。全員が地面から飛び出た複数の剣で串刺しにされたからだ。
もちろんエムニルも例外じゃない。逃がしたところで改心しないだろうしな。
「ぞ……ぞんな……バガな……」
「ああ、バカな女だよテメェは。その信念を別の方向に向けてりゃ良かったのにな」
「……グッ……ゾ……」
間も無くしてエムニルは絶命した。他の連中はまだ踠いてやがるが、死ぬのは時間の問題だろう。
「やれやれ、やっぱ受けるべきじゃなかったな。闇ギルドの依頼なんてよ」
そう愚痴りつつダンジョンに帰還した。しかし気掛かりな事も出てきた。
エムニルの奴、どうやって俺がホエールを殺したって突き止めたんだ? 誰かが教えない限り知るよしはないはずだが……。
キャラクター紹介
エムニル:
マサルとロージアが出会った無人島で戦ったキャプテンホエールの恋人。
いつまでたっても帰還しないホエールを心配していた彼女は、何らかの手段でマサルがホエールを殺したという事実を突き止めた。
そこで王都の闇ギルドに殺害を依頼するも断られ、王都とは別の外部勢力に依頼。
しかしあっさりと返り討ちに合い、殺害計画は呆気なく失敗。
依頼を受けた外部勢力も膨大な損害を被った。




