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アクティブダンジョンマスター・俺は外に出る!  作者: 親方、空からゾンビが!
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西部貴族と南部貴族4

「遅い……」

「「…………」」コクり


 ソファーで貧乏揺すりをしつつ呟いた俺にカルロスとシュワユーズが無言で頷く。

 今いる場所はベルトロンドの街にあるバリゲリング伯爵の邸で、応接室に通されてからかれこれ一時間。柱時計のカッチカッチという音だけが室内に響き、余計に退屈感を(かも)し出していた。


「ええぃ、遅いぞ武蔵! いつまで俺を待たせる気だ!?」

「まったくだ。わざわざ客として来てやったのに、この不味い茶菓子はなんだ? ただ甘ったるいだけじゃないか。オイラの国だってもう少しマシだぞ」


 俺が言いたいのはそこじゃないんだがな。いや、確かに落雁(らくがん)食ってるみたいで不味かったから、一口食ってから一切触れてないけどさ。(後で知ったが沿岸部に住む貴族は味が対して大雑把らしい。塩さえ感じれればいいんだとか。そういやさっき食った落雁モドキも甘さ以外に塩気も有ったな)


「ホントに遅いよね~、貴族様に有りがちな事だけど。ところでムサシって何?」

「遅刻して相手を怒らせた某剣士の名前」


 そんな事よりマジでどうしよう。忘れられてるって事はないだろうし、このまま待つしかないんだろうか?

 いや、そもそも警戒されてるはずなのに簡単に中に入れてくれたのも気になるな。シルビアの書簡が有ったとはいえ、少々緩すぎな気も。


 ガサゴソ……


「う~ん……」

「って、ソファーを押し退けて何してんだカルロス?」

「いやな、オイラの城にはいろんな部屋に隠し通路があるからさ、こういう床下とかに有ってもおかしくはないんだよ」


 おかしくないのは分かるが、勝手に他人んちを漁るのは明らかにおかしい。


「あ、なんか面白そう。あたしも探してみよ~っと♪」

「お前もかよ」


 カルロスだけじゃなくシュワユーズまで棚とかを退かし始めた。本当は止める立場なんだけど長時間待たされてムカついてるのもあり、最終的には俺も参加する事に。

 ――が、直後、思わぬ展開に……



「あ~くそぅ、カーペットが邪魔だなぁ。そらっ!」



 ベリィ!



「あ……」

「あ……ってお前、カーペットが破れちまっただろうが!」

「も~ぅ、カルロスが力任せに引っ張るからだよ~?」

「オイラのせいかよ!?」



 ヤベェぞ、誰かが来る前に修復しとかないと……



「と、とりあえずテーブルを戻して破れた箇所に乗っけるぞ」

「おぅ、任せろ。――フン!」



 ポキッ!



「だぁぁぁお前ぇ! テーブルの足がもげただろうが!」

「またオイラかよ! 片手で引っ張っただけで壊れる方が脆いんじゃないか!」

「言い訳すんな!」

「なんだとぅ!?」

「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて。ほら、果実水でも飲んでリラックス――」

「「バカッ、テーブルから手を離すな!」」



 ガシャーーーン!!



 ヤバイ、大惨事だ。破れたカーペットと壊れたテーブルの上に割れたグラスがトッピングされちまったじゃねぇか!


「あ、ゴメ~ン♪」

「ゴメ~ンじゃねぇ! 何とか誤魔化さねぇと」


 キョロキョロと見渡してカーテンに目が付いた。今にして思えば何でそんな事をと感じるんだが、この時ばかりは焦りに焦ってて余裕がなかったんだな。つまりだ、カーテンを被せて隠してしまおうと考えたわけだ。



 バサッ!



「あらよっと。これでどうだ」

「おぅ、さすがマサル。上手いこと考えるな!」

「後はあたし達に任せて!」



 そうだな、後は――



 後? これ以上何をするって?


 そう考える間も無く、カルロスとシュワユーズは破れたカーペットと破損したテーブルをカーテンで包み込み、うんせうんせと窓際まで運んでいた。

 でもって窓を開けると……



「「そ~~れっと!」」



 ポイッ――――ガシャン!



「ポイッておい、ポイッて!」

「どうしたマサル? これで証拠隠滅はバッチリだぜ!」

「いやいや、隠滅も何も下に落っこちただけでガシャンって!」

「大丈夫でしょ。見張りが見つけてくれたらゴミとして処理してくれるだろうし~」

「でけぇゴミだなおい! 今日は粗大ゴミの日か!」


 なぁんて言ってる場合じゃなかった。



 ドタドタドタッ!



「「「ひぃ!?」」」



 最悪だ。さっさと来いとは思ってたがまさかこのタイミングかよ!


「とにかく隠れるぞ」

「隠れるってどこにだ?」

「そこの絵画だよ。ほら、裏側に――お?」


 迫る足跡に急かされ壁一面にデカデカと掛けられていた絵画を捲った瞬間、暗闇に続く怪しげな通路が姿を現した。一瞬迷いはしたが器物損壊で訴えられたくないため通路へと入り込む事に。

 それから間も無く。扉が乱暴に開け放たれると、甲冑を着込んだ奴らとバイゲリング伯爵と思われる(ひげ)の濃い男が入って来た。そして開口一番……


「フン、待たせたな。王都からの使いでワシに会いに来たそうだが、生憎(あいにく)とこちらは現王家に屈するつもりはない。貴様らの首を王都に送りつける事で、いざ開戦と――む? 誰もいないだと!? いったい何処に……ハッ、これは!?」


 慌てた伯爵は窓が開いていることに気付いたようだ。そして甲冑を着込んだ1人が冷静に告げる。


「どうやら逃げられたようだな。こちらの動きを察するとは中々侮れん奴らだ。しかしバイゲリングよ。この不始末はどう責任を取るつもりだ?」

「も、ももも、申し訳ございません! そ、その、ワシとしては上手く誘い込めたつもりだったのです!」

「言い訳はいい。この件は我がマスターであるグラディス侯爵にもしっかりと伝える」

「そんな! それだけはお許しを……」

「もはや貴様にできる事は逃した連中を死ぬ気で捜す事だ。早くせねば取り返しがつかなくなるぞ? 分かったらさっさと行け」

「はいぃぃぃ!」



 バイゲリング伯爵は大慌てで出て行き、残った甲冑共は部屋中を捜索している。俺たちの痕跡でも見つける気か。

 それにしてもアレだ。気になるのが奴らの上下関係だ。あの甲冑共は伯爵の部下じゃなく、更に上のグラディスって奴の部下らしい。

 たかが部下か貴族に対してあんな言動を見せるってのもおかしい気がするんだけど、これが西部貴族の風習なんだろうか?



「おかしい。窓からは誰も出た感じがしない。本当に王家の使いがここに居たのか?」


 窓の外を調べていた甲冑がそう溢した。すると他の甲冑共も……


「いや、窓から脱出したように見せかけて邸に潜伏しているのだろう」

「つまり、王家の使いはまだ邸に……」


 ヤバイ、本格的に出れなくなった。見つかれば拘束されるのは目に見えてるし、そうなったら蹴散らすしかない。

 ここは一時退散をと思い、そっと二人に耳打ちをする。


「このまま隠し通路を進もう。どこに出るか知らんけど、捕まるよりマシだろ」

「分かったぞ」

「じゃあマサルくんが先頭でお願い。ついでに灯りもね」

「ほいほい、懐中電灯っと」


 パパッと光源を召喚して細長い通路を進んでいく。罠が無いところを見るに、やはり貴族が脱出に使うものなんだろう。


「おっと、分かれ道だ。片方は直進で、もう片方は左上に延びてるな」

「オイラの勘だと左上だな」

「バカ。上に向かってんだから別の部屋に繋がってるんだろ」


 通路は徐々に下ってるからな。さっきの部屋は2階だし、下に向かってる直進が正解だ。


「あ、また分かれ道だ」

「また左上と直進か。今度こそ左上だぞ」

「いや、だから上に向かってちゃダメだっての……」


 んとにカルロスは脳筋だな。少しは覚えるってもんを……


「てかま~た分かれ道かよ」

「見ろ、今度は直進が上向で、左の通路が下ってるぞ」

「そうだな。ようやく念願の左に行――」

「今回は直進だ」

「――って、何でそうなる!」

「これまで真っ直ぐだったんだから、男らしく直進すべきだ!」


 男らしい理由だが、今は男を見せるところじゃない! しかし、カルロスが聞き入れる様子はなく……


「今度はオイラが先頭だ。行くぞ~」

「ちょ、おい勝手に――」

「まぁまぁマサルくん。間違ってたら引き返せばいいんじゃない?」

「それはそうだが……。ったくしゃ~ねぇな」


 念のため確認しとくのも有りだと自分に言い聞かせ、カルロスの後に続いた。

 すると間も無く。通路の突き当たりにたどり着くと、壁の隙間から光が漏れているのが見えた。


「よっし。ここをブチ壊せば――」

「はいストップ。今度こそマジで見つかるからやめてくれ。つ~か絶対やるな」


 振り上げようとしたカルロスの手を押さえ、音を立てずに壁を外すことに。しかしこれが中々外れない。


「思ってたより動かないな……」

「だろ? やっぱオイラがブチ壊して――」

「だから止め――ん? なんだ?」


 いい加減イライラしてきたところで壁の向こうから言い争う声が聴こえてきた。



「な、なんなのよアンタたち。他人の部屋に勝手に入ってきて。私をバイゲリング伯爵の娘――ラーシェルだと知っての狼藉(ろうぜき)?」

「もちろん知っているとも。それでラーシェル殿、我々はグラディス侯爵の部下だという事は知っているかな?」

「グラディス侯爵ね。それが何? グラディス侯爵は目上だけど、アンタたちは目上じゃないもの。分かったら即刻出て行きなさい!」


 どうやら侯爵の娘の部屋らしい。言い争ってる相手はさっきの甲冑共だろう。姿は見えないが壁は外れないし確かめようはないが。

 やむ無く引き返そうとすると、思いもよらぬ展開に……


「フハハハハ! 威勢の良い娘だ。しかし、バイゲリング伯爵は不審者を取り逃がしたのでな。再び捕えるまでラーシェル殿には人質となってもらおう。連れていけ」

「ちょ、何するのよ、汚い手で触らないで! い、いや、誰かーーーっ!」


 敵対してる相手の娘とはいえ、女の子を人質にするのは見過ごせない。


「作戦変更。カルロス、やっちまえ」

「その言葉を待っていた!」



 ドガァン!



「「「!?」」」


 壁をハンマーで叩き壊すと、何事かと娘と甲冑共がこちらに振り向く。


「おいテメェら、寄って集って女の子を――」

「正義のハンマーを食らえぇぇぇい!」

「って、手が出るの早っ!」



 ボゴン!



 暴走したカルロスが先制攻撃で1人の頭部をおもいっきり叩き()()()()。うん、()()()()んだ。

 いくら何でも頭飛ばしちゃ生きちゃいないのが普通だろ? だがこの甲冑、頭飛ばされたのに普通に動いてやがんだ。それを見た俺たちとラーシェルはポカ~ン状態さ。

 あ、よく見たら骨が飛び散ってやがる。どうやら甲冑の中身はスケルトンらしい。


「ええぃ、だから重たい甲冑だとボロが出ると言ったのだ。まったく……」

「え…………頭が…………え?」


 飛んでいった兜と頭部のない胴体を交互に見比べるラーシェル。と、そこへバイゲリング侯爵もやって来た。これはナイスタイミングだ。


「ラーシェルよ、いったい何があっ――こ、これは!?」

「見ての通りだぜ伯爵。グラディス侯爵とやらはスケルトンを部下にしてるらしい。まさかアンタ、この事を知ってて俺たちを……」

「ちちちち違う、断じて違うぞ! ワシらはラーツガルフの貴族であり、魔物と手を組んだりはせぬ!」


 この反応を見るに嘘は言ってなさそうだ。つまりバイゲリング侯爵は利用されてたと。


「ほぅ、バイゲリング侯爵よ。貴様はグラディス様を裏切るつもりだな?」

「裏切るも何も、貴様らが騙してきたのだろう! この事は他の西部貴族にも伝えさせてもらうぞ」

「フッ、いいだろう。ならば王家の使者もろとも皆殺しにしてくれる!」


 甲冑共が戦闘体勢に入る――




 かと思いきや……




「――が、その前に甲冑を脱がせてくれ。重くてまともに剣を振れん」

「「「…………」」」


 いそいそと甲冑を脱ぎ始めるスケルトンたち。何が楽しくてコイツらのストリップを見なきゃならんのか。それに待ってやる義理はないわけで……


「カルロス、シュワユーズ」

「「おっけぃ!」」


 おバカなスケルトン共に二人が襲いかかった。


「う、うわ! 何をする、貴様ら~!」


 連れ去られそうになった女の子を殺してでも奪い取ったまでだ。はい、ものの数秒で殲滅完了っと。


「ラ、ラーシェル、怪我はないか?」

「大丈夫よ。こちらの人たちが壁をブチ壊してまで助けてくれたんだもの」

「か、壁を?」

「……コホン! そんな事より伯爵。今回の西部貴族の動き。首謀者は誰なんだ?」

「グラディス侯爵だ。元より西部貴族はグラディス侯爵を中心に動いている。しかしまさか魔物を部下として使っているとは……」


 そうだった。倒したスケルトンも極自然に従ってる感じだったんだよな。


「あれ? マサルくん、甲冑は残ってるのにスケルトンの骨が消えちゃってるよ?」

「ああ、ダンジョンマスターが召喚した魔物は消えるんだよ」




 あれ? これってつまり……




「グラディス侯爵はダンマスなのか!?」

「そんなはずはない。グラディス侯爵が魔物を召喚してるところは誰も見ておらぬ。当然そのような噂も皆無だ」


 なら直接会って確かめるまでだ。


キャラクター紹介


バイゲリング伯爵

:ラーツガルフ西岸部にあるベルトロンドの街の領主。西部貴族に有りがちな頭より手を動かすのを得意とし、とても粗っぽい性格。

 部下や平民に対しては武人らしく振る舞うが、目上貴族と娘のラーシェルに対しては弱腰に。特にラーシェルには甘々で、思春期では大変な苦労を重ねたそうな。


ラーシェル

:バイゲリング伯爵の娘で、父親の影響を受けてか気が強い方である。武術の心得はないが、口より手が先に出てしまうのは遺伝かもしれない。

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