ゴブリンキング!
「いっくぜぇ――――共同墓地!」
ドドドドド!
「「「グギャギャギャッ!?」」」
迫るゴブリン共の足元に大穴が出現し、足をとられた奴らは軒並み地中へと吸い込まれていく。草木もまとめて吸い込んだため、大穴が閉じた後には広々とした空間が出来上がった。
カルロスやシュワユーズは慣れたもので、ゴブリンを薙ぎ倒しつつもさすがはマサルと誉め称える(←多少の脚色あり)。
一方で負傷した女冒険者とその仲間は理解が追い付かず、口をあんぐりと開けて目を白黒させていた。
「ゆ、夢じゃない……よね?」
「あ、ああ、夢じゃない。夢じゃないが、夢を見ているかのようだ……」
「大量のゴブリンを一瞬で……」
もっと驚いてもいいんだぜ? なぁんて言ってる場合じゃない。気を抜くと中で暴れているゴブリンに破られる可能性があるからな。キッチリ仕留めるまでスキルは解かない。
それにゴブリンの群は収まっちゃいない。俺を危険と認識したのか、弓や魔法で応戦してくる――が!
「弓矢に氷に火の玉と、実にバラエティ豊かだな。けど――――障壁!」
ドドドドン!
召喚した石の壁が飛来物を完全カット。戸惑うゴブリンにドヤ顔の俺。
そこへ好機とばかりにカルロスとシュワユーズ、それにロージアが加わって、押し寄せたゴブリン共を撃破していく。
「グ、グギャ~グギャ~!」
「グギャギャギャ~~~!」
そんな様子を後方から見ていた身形のいいゴブリン数体が、情けない声を上げながら退却を開始。釣られて半数のゴブリンも離脱していった。
「凄い……Dランクのゴブリンジェネラルが逃げ出すなんて……」
「彼らは――いや、特に不可思議なスキルを使うあの青年は何者なんだ……」
聴こえてるだけどなぁ。まぁダンマスって事は秘密だぜ? っと心の中で答えておく。
ついでに補足すると、Dランクの魔物といえば人相手に逃げ出すなんて事は殆どない。それだけ衝撃が強かったんだろう。
「た、助かったぁぁぁ!」
「ありがとう、キミたちのお陰――」
「いいえ、まだ終わってません」
冒険者が礼を述べようとしたところをロージアが遮る。
残党が残っているからではない。森の奥から地響きと共にボスが現れたからだ。
「ギュオーーーーーーッ!」
他のゴブリンよりも数倍はデカイ――いやもうオーガと言っても差し支えがないくらいの巨大ゴブリンが現れ、俺たちに向かって咆哮を浴びせてきた。
一度は逃げ出したゴブリンも、その動作を見るや踵を返してこちらに迫る。
「あれがゴブリンキングか」
「そのようです。私も見るのは初めてですが、逃げ腰のゴブリンを鼓舞して敵を排除しようとする動きは正にキングと言えるでしょう」
確か大量のゴブリンを召喚できるって話だったな? なら長期戦には持ち込ませず、短期決戦で終わらせてやる。
「カルロスとシュワユーズは前衛のゴブリンを頼む。その間に厄介な後衛は俺が倒す」
「承知したぞ!」
「飛び道具はマジ厄介だからお願いね!」
「私も前衛に加わります。頼みましたよマサルさん」
「おぅ!」
――と気合いを入れたものの、共同墓地はクールタイムの影響で使えない? なら別の方法で倒すまでだ。
「コイツでどうだ――――地面炎上!」
「「「ギャギャ!?」」」
指定した範囲の床に高熱を持たせるトラップだ。これによりゴブリン共が片足を庇いつつピョンピョン飛び跳ねる。
当然飛び道具を放つ余裕などない。立っているだけで足がウェルダンだからな。
そんな後衛の慌てようが前衛にも伝染し、ロージアたちに付け入る隙を与えていく。これで残るはゴブリンキングとそれを護るゴブリンジェネラル、それとゴブリンソーサラーが僅かに残るのみ。
「さすがはマサルさん。身の毛もよだつような悪趣味なトラップですね。ゴブリンがカエルのようでした」
「その悪趣味でロージアたちが楽できるんだ。安いもんだろ」
「フフ、確かに。では一気に押し込みましょうか。ギャラリーが増えてきた事ですし、悪目立ちする前に倒してしまいましょう」
ロージアに言われて気付いた。逃げ去った冒険者たちがいつの間にか戻ってきており、チャンスとばかりにゴブリンソーサラーに挑んでいく。
「すげぇ……すげぇぞアイツら!」
「ま、まさかたった4人であの大群とやりあってたのか!? こんなの非常識だ……」
「非常識でもなんでもいい! この勢いならゴブリンキングも倒せるぞ!」
「おお、一気にやっちまおうぜ!」
既に戦意を喪失していたゴブリンソーサラーを他のパーティが撃破していく。後はゴブリンキングを仕留めるのみ!
しかし、そうは問屋が卸さないとばかりにゴブリンキングが召喚を始める。
「グッ――――ギャギャギャギャ!」
ゴブリンキングが叫ぶと、300は優に越えるんじゃないかって数を召喚しやがった。いや、それだけじゃない。すでに俺たちをグルリと囲むような配置になっており、完全に袋のネズミ状態。これには戻ってきた冒険者たちも大いに焦りだす。
「お、おい、なんかヤベェぞ?」
「ヤバいどころじゃねぇ、大ピンチだろ!」
「ゴブリンジェネラルに小隊を組ませ、隙間を埋めるように配置する。なかなかやりますね、ゴブリンキング」
「感心してる場合か!」
他の冒険者と共に囲まれて絶対絶命? あのゴブリンキングを仕留めない限り悪夢は続くってか?
「フッ、だったら良い方法がある」
迷わず俺は自分の足元にバネ仕掛けを設置して即座に発動。1人で包囲から脱すると、ゴブリンキングを直視し――
「サシで勝負だ! 俺とお前の――」
「決戦の舞台でな!」
「グギャ!?」
俺が目の前に着地した時には既に他のゴブリンは姿を消していた。ロージアたちはもちろん他の冒険者もいない。
「グ――――ギャギャギャギャ!」
さっきと同じ言動で召喚しようとするゴブリンキング。しかし、決戦の舞台はそれを許さず、奴は大いに混乱し始める。
「ギャ? ギャギャギャ!?」
「眷属を召喚しようったって無駄だぜ? この空間は俺とお前のどちらかが負けを認めるまで抜け出せない。つまりテメェは――」
「単独で俺と殺り合う以外ねぇのさぁ!」
バズッ!
「グギャア!?」
いまだ混乱から抜け出せていないゴブリンキングの腕に一閃。たちまち赤黒い血がドバッと吹き出し、腕を庇うようにして後ずさった。
「ハッ、そらそらどうした、そんな動きじゃ俺は倒せねぇぞ!」
ザシュザシュザシュザシュ!
「グゲッ――ギギャ――ゴギュ――ガギャ!」
身体の至るところを斬りつける度にゴブリンキングが悲鳴をあげる。同等な力量のはずが、俺の方が圧倒的に押していた。そこで俺は気付く。
「なるほどな。雑魚に頼り過ぎたテメェはタイマン勝負にゃ弱いって事だな」
「グギギギ……」
俺の台詞を理解しているのか、悔しそうに片膝をつく。既に両腕を損傷しているコイツに勝ち目がないのを認めてやがるんだろう。
「少しガッカリしたぜ? キャプテンホエールですらもっと善戦したのによ――っつってもテメェにゃ誰だか分かんねぇよな。ま、要するに人1人よりテメェは弱かった。それだけだ」
「グ……グゥ……」
すっかり弱りきったゴブリンキングはとうとう喋らなくなった。それどころか俺と目を合わそうともせず、腰を抜かして怯えている。
「自分の不甲斐なさに失望したか? 来世はまともな強さを得られるよう祈っとくんだな。あばよ」
ズバン!
サクッと頭部を斬り落とすと元のフィールドへと逆戻り。そこでは主を討たれた事により統率を失ったゴブリンたちが烏合の衆と化していた。
「ハハッ、ナイスだマサル。後はオイラたちに任せとけ!」
「混乱してるだけのゴブリンなんてゴミ以下ですからね~」
右往左往するゴミ――失礼、右往左往するゴブリンにカルロスが突っ込み、飛び散ったゴブリンをシュワユーズが斬り捨てる。
何とか反撃を試みようとするゴブリンは、ロージアの氷魔法により撃沈。
これによりゴブリン共の混乱は益々激しくなり、他の冒険者たちが加わっての残党狩りに発展。みるみるうちに数を減らしていき、半数を減らしたところで散り散りになって逃亡を開始した。
「おいこら、逃げんじゃね~!」
「ゴブリンキングの首は取られちまったが、ゴブリンジェネラルでも報酬はそこそこ。絶対に逃がすな!」
「「「おおぅ!」」」
なんと、他の冒険者たちが後始末をしてくれるらしい。ここはありがたく任せよう。
――で、最初に足を負傷していた冒険者パーティはというと……
「た、助かったのね? 夢じゃないのね? 間違いなく生きてるのよね!? よかった~! これもキミたちのお陰だよ、本当にありがとう!」
「仲間共々世話になった。ありがとう」
「リーダーとして俺からも言わせてくれ。ありがとうキミたち。お陰で仲間を失わなくて済んだよ!」
「いや、俺たちとしちゃ依頼を遂行しただけだからな。それでこの後なんだが……」
「「「…………」」」ゴクリ
俺が改まって姿勢を正すと、緊張の面持ちを見せる冒険者3人。きっと多額の金を請求されるとでも思ったんだろうが、俺の要求はまったく異なっていた。
「ゴブリンキング以外の死骸はアンタらにやるよ」
「「「……え?」」」
予想外の台詞に冒険者3人は目を丸くするが、俺としても全部の死骸から部位を剥ぎ取る(皮膚や装備品なんかはギルドで買い取ってくれるらしい)のは面倒でかなわんし。
「ほ、本当にいいのかい?」
「もちろん。それより他の冒険者たちが戻ってくる前に急いだ方がいいぞ」
そう言うと大慌てで素材を回収し始めた。
「さて、俺たちはゴブリンキングを――」
「あ、そういえばマサルくん、さっきのパーティにクルーガーは居なかったよね?」
「おっと、忘れてたぜ」
シュワユーズに言われて尾行させていたクロコゲ虫の視点に切り替える。しかし……
「あ、あれ? クロコゲ虫がロストしてら」
どうやらゴブリンとの戦闘中に何者かに倒されたらしい。仕方ないのでゴブリンキングの解体を手早く済ませ、クロコゲ虫がロストした地点まで急いだ。
「確かこの辺りのはずだが……」
素材の剥ぎ取りをカルロスとシュワユーズに任せ、俺とロージアはクルーガーを探すため現場に直行。その結果……
「これは……」
「ロージア、見つかったのか?」
「はい。何かに踏みつけられたようで、胴体が押し潰されてますね」
「クルーガーか、はたまたゴブリンにでも踏まれたか」
ゴブリンキングに集中してたからな。何が起こったのか不明なのが痛い。
仕方なくクルーガーの件は別の日にしようかと考えていると、突然近くの茂みが揺れる!
ガサガサッ!
「誰だ!?」
まさかクルーガーかと思い咄嗟に身構えた。――が顔を覗かせたのは別の男で……
「た、助け……て……く……」
茂みから這い出たところで男は力尽きたようだ。
「あれ? よく見たらコイツ、クルーガーの太鼓持ちをしていた冒険者じゃないか」
「お昼の少し前に遭遇した人たちの1人ですね。他の動物や魔物に食べられてしまう前に冒険者ギルドへ届けるべきかと」
行方不明者と死亡者では全然違うからな。やむ無く俺はダンジョンの入口を近くに移し、男の遺体を放り込む。
両足を何者かに食われたらしく、茂みの向こうには血の後ができてやがる。そして血を辿った先で、ロージアから残念な知らせが。
「マサルさん。クルーガーを発見しました」
駆けつけると、片腕と片足を失ったクルーガーが絶望した顔で息絶えていた。近くには他の冒険者も倒れており、同じく足や腕を失っなっているようだ。
「コイツまで殺られたってのか。できればこの手で仕返ししたかったけどな。まさかゴブリンキングに横取りされるとは……」
そう口走った俺に、ロージアが異を唱えた。
「ゴブリンキングの仕業ではないと思われます」
「……え?」
「死体をよくご覧ください。皆等しく足や腕を食いちぎられています。腕に関しては殆どが右腕であり、恐らくは利き腕を狙ったものと推測できます。更には足。人が足を食われれば100%の動きをできません。つまり、彼らを襲った魔物はゴブリンキングよりも遥かに知的な存在である可能性が……」
「…………」
思わず俺は絶句する。そんな厄介な魔物がいるなんて考えたくないが、ロージアが言うのならそうなんだろう。
「はぁ、これもシルビアには報告しとかないとな。魔物の正体に関しては後で調べよう」
まずはゴブリンキングの討伐お疲れってことで、カルロスとシュワユーズを呼び寄せてダンジョンに帰還した。
しかし、この後すぐに安直な自分の行動を後悔する事になる。
ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!
「な、侵入者だと!?」
コアルームで解体したゴブリンキングの部位整理を行っていると、侵入者を知らせるアラームがダンジョンに鳴り響いた。
「マサルさん、どうやら森に移したダンジョンの入口から侵入されたようです」
「バカな! 草木や岩でキッチリと偽装したはずだぞ!? 普通の魔物なら気付かれない――」
と、ここまで言って気付いた。普通じゃない魔物の存在が少し前から頻繁にチラついていた事を!
「まさか侵入してきたのって……」
「今モニターに映します…………これは!」
映し出された映像には、赤茶けた毛色の虎みたいなのが映っていた。それを見たロージアが苦々しい表情を作り、ポツリと呟く。
「……ブラッティクーガー、Bランクの魔物です」
「Bランクだって!?」
悪夢のような戦いが始まろうとしていた。




