閑話:ダンジョンのある生活2
「センキュー、あ~りがと~~~!」
『『『ジャニオ様~、さいこ~ぅ!』』』
歌を終えたボクはモニターの向こうにいるファンに向かってウィンクをしてみせる。相手からすれば自分にウィンクをされている感覚に陥るため、ボクの動作で更にボルテージが上がった事だろう。
――っと、自己紹介がまだだったね。ボクの名はジャニオ。ダンジョンマスターであるマサル様の眷族さ。
「ご苦労でしたジャニオ。今日のライブも盛況でしたね」
「ありがとう御座います、お嬢。日に日にファンが増えているようですし、とてもやり甲斐がありますよ」
お嬢に差し出された水とタオルを受け取り、満面の笑みで返す。もちろん整った前歯をお見せするのも忘れませんよ? イケメンは顔と歯が命らしいので。
「ジャニオ、私に対してあざとく笑わなくてもよいのですよ?」
「いえいえ、世の女性を平等に愛するのがボクのポリシーですので」
「それはファンにだけ言っておあげなさい。私には……」
「おっと失礼。お嬢にはマスターが居りましたね」
「そ、そういう意味では……」
頬を赤く染めて視線を逸らすロージアお嬢。普段はマスターであるマサル様には気の有りそうな素振りを見せてはおりませんが、既に心を掴まれている――と言ったところでしょう。
ボクとしても二人の間に割って入る気はありませんので、陰ながら応援させていただきますよ。
「お~いロージア、部屋の拡張をしたいんだが手順が分かんなくなったぞ~」
「はいはい、今行きますよ。まったく、何度教えても覚えないんですから……」
別室にいるマスターに呼ばれたお嬢が、肩を竦めつつも嬉しそうにコアルームを出て行きます。端から見てもお似合いのカップルだと思うのですが、どうしてお嬢は交際を保留にしているのでしょう? 以前気になって聞いてみたのですが、その時もやんわりとはぐらかされてしまいました。やはり普通の人間とは違うのが理由かもしれません。大雑把なマスターの性格なら気にしないと思うのですがねぇ。
ドタドタドタドタ!
おやおや、大きな足音が迫ってきますね。別室でライブを見ていた子猫ちゃんたちが、ボクを労いに来たのでしょう。
ズザザザ~~~!
「ジャニオ様~、今日のライブも最高でしたわ~! 歌もダンスもビジュアルも、全てにおいてパーフェクトでしたわ!」
「初めて見たけどメッチャ輝いてたよ~。あたしもファンになっちゃうかも。いや、もうファンになる、絶対なる!」
「ハハッ、ありがとう二人とも」
コアルームに来るなり、ブローナ嬢とシュワユーズ嬢がまとわりついてきます。この二人は当ダンジョンへのゲストメンバーなため本来ならばコアルーム入る事はできません。
しかし、ダンジョンの命とも言えるダンジョンコアはロージアお嬢が肌身離さず持ち歩いているので、入られても何ら問題はない――という意味もあり、自由に出入りできるという訳です。
あ、就寝時の出入りは許可してませんよ? 以前ブローナ嬢に夜這いをかけられたので、その対策も兼ねているので。
ドスドスドスドス!
おやおや、今度は先ほどよりも重い足音が響いてきますね。これは多分……
「ちくしょ~~~! 何でオイラを無視するんだよ~~~! いつもジャニオばっかりチヤホヤされてて悔しいぞ~~~!」
やはりというか何と言うか、足音の主は嫉妬に狂ったカルロス殿でした。ドワーフな彼は身体こそ屈強で強そうなものの、顔がその――かなり残念なDNAを引き継いでしまったとも言うべき特徴を全面に出しており、いかにも女性にモテなさそうだな~と正直思うわけで、今もボクに抱きついている二人を見て大変ご立腹のようです。
「やいブローナ、少しはオイラと仲良くしたっていいだろ!」
「冗談は顔だけにして欲しいですわ」
「うぐぐぐ……。じゃあシュワユーズ、ジャニオじゃなくてオイラと話せ!」
「ご、ごめん、ブサメンはちょっと……」
「うぐぐぐぐ……」
「ちくしょ~~~!」
堪らずカルロス殿は涙目で逃走開始。誰も追わないというのが何ともシュールです。
「ジャニオ、カルロスが涙目で走って行きましたが――――はぁ、なるほど……」
ボクにまとわりつく二人を見たお嬢が、何かを察しました。
「あなたたち、ジャニオに夢中になるのは程々になさい。カルロスも同じ住人なのですから、仲良くしなければなりませんよ?」
「そう言って自分だけジャニオ様を一人占めする気ですわね? その手には乗りませんわよ!」
「そうですそうです。昨日の夜中にジャニオさんにプチライブを強要していたのを知ってるんですからね?」
「うぐっ……」
まぁお嬢もご多分に漏れず面食いみたいですからね。シュワユーズ嬢が指摘した事をたま~にやったりするのですよ。なんでもナンバー1ホストを独占してるみたいで気分が高まるのだとか。
ホストというのが何を意味するのかは不明ですが、きっとボクのような容姿端麗な存在を指すのでしょう(←やかましいわ)。
「そ、それとこれとは別です。ジャニオを召喚できたのは私の功績なのですから、少しくらい特権が有ってもおかしくはありません」
「それ、職権乱用ではなくって?」
「あんましドイヒ~だとマサルさんに言い付けますよ?」
「職権乱用ではありませんし、マサルさんだって知ってます。あなたたちこそ居候の分際で生意気です! 今から腐った性根を叩き直して差し上げましょう!」
「「ひい~~~っ!」」
怒ったお嬢が二人を追いかけまわし、やがて部屋の外へと鬼ごっこの舞台を移していきました。
「やれやれ、賑やかなのか騒々しいのか分かりませ――ん?」
苦笑いをしながら一人言を呟くと、モニター越しに反応が。どうやら中継を切り忘れていた相手が居たようです。
『あっははは♪ そっちでも取り合いになってるんですね。身近でジャニオ様と触れ合えるなんて羨ましいなぁ』
「これはお恥ずかしいところを。今の光景はスペシャルムービーという事で、他のダンマスたちには内密にお願いするよ」
『分かりました。ジャニオ様のファンクラブ会長として、決して他言はしません』
そういえばこのファンの子にはボクのファンクラブを立ち上げていただき、積極的に宣伝していただいているのでした。
せっかくですし、チャットモードで通話してみますか。
0001 ◆ジャニオ(ラーツガルフ)
しかしユーリ嬢にはいつも助けられてますね。ありがとう、ユーリ嬢(←同時にウィンク)。
0002 ◆ユーリ(ミリオネック)
そ、そんな、あたしごときに頭を下げていただくなんて恐れ多い! あたしはただファンクラブ会長であって、それ以上でもそれ以下でもありません。ジャニオ様に直接労ってもらい、尚且つ甘い言葉で誘われて、そのままホテルでバッキュ~~ン(←自主規制)なんて展開を想像してるわけじゃありませんので!
0003 ◆ジャニオ(ラーツガルフ)
そ、そうかい? 理性が働いているのなら結構だよ。
0004 ◆ユーリ(ミリオネック)
はい、任せてください。ダンマス以外にも悪魔族や天使族といった連中の中にもジャニオ様を狙っているのがいますからね。ファンクラブ会長としてお護りしますよ。
そうそう、ボクの容姿は留まるところを知らないようで(←いい加減黙れ)、ダンマスをサポートするために度々現れる悪魔族と天使族の子たちまでもを魅了したみたいなのですよ。
世の中には【モテる男は辛い】という言葉があるそうですが、正にボクのためにある台詞ではと疑いたくなりますね(←マジでハッ倒すぞお前)。
0005 ◆ジャニオ(ラーツガルフ)
ありがとう。彼女たちにも気をつける事にするよ。
0006 ◆ユーリ(ミリオネック)
はい。――あ、そうだ。ジャニオ様ってラーツガルフにいるんですよね? ミリオネックと結構近い場所ですし、今度遊びに行ってもいいですかね? 実は私、魔法少女のコスプレにハマってまして、いつかジャニオ様とコラボしたいと思ってたんです!
魔法少女――という割には二十歳を過ぎてるように見えますが……まぁ大人びた少女なのかもしれません。
それとは別にコラボですか。もしかしたら収益が上がるかもしれませんし(←実はジャニオのライブは有料で、視聴するにはDPを支払わなければならない)、これは受けるべきですね。
0007 ◆ジャニオ(ラーツガルフ)
もちろん構いません。こちらへいらした際に詳細を詰めましょう。しかし大丈夫ですか? ユーリ嬢のような繊細でか弱い女性が道中で襲われてしまわないか心配です。
0008 ◆ユーリ(ミリオネック)
ありがとう御座います! 心配していただけるなんて感激です! でも心配は無用ですよ? あたしには超が付くほど残忍で強力な眷属がいますので。それに他にも同士のダンマスを募ってみますので戦力ならバッチリです。あ、お金の心配もいりませんよ? 会員たちから無理やり徴収しますので。
それは使ってはならないお金なのでは――と尋ねるのは野暮なのでしょう。うちのマスターも「金なんか名目あげればいくらでも集れる」と言ってましたし、世間では当たり前なのかもしれません(←違います)。
0009 ◆ジャニオ(ラーツガルフ)
分かりました。ではユーリ嬢と直接会えるのを楽しみにしてますね。
0010 ◆ユーリ(ミリオネック)
はい、ぜひお楽しみに!
さて、コラボに関してはお嬢に話しておきましょうか。決定権はマスターを尻に敷いてるお嬢にあるようなものですからね。
「しかし……」
お嬢も謎が多い女性です。ダンジョンコアと融合できる存在など、世界中を探してもお嬢1人なのではないかと思えてきます。
自己鍛練の旅の最中にマスターと出会ったらしいですが、そもそも女性の1人旅は危険極まりない。
「う~ん、分かりませんねぇ」
「何が分からないのです?」
「!?」
不意に背後から話しかけられました。
「お、お嬢、いつのまに……」
「たった今です。それより何が分からないのです?」
「前に効率よく女性を落とせる方法をマスターより尋ねられたのですが、ボク自身は無意識に行動しているためよく分からないのですよ」
「なるほど、少しお説教が必要のようですね。情報提供感謝します」
その後、マスターの悲鳴を聞きながらお嬢の正体について考えてみたのですが、謎が謎を呼ぶだけに終わってしまいました。これ以上考えても時間の無駄でしょうね。