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アクティブダンジョンマスター・俺は外に出る!  作者: 親方、空からゾンビが!
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そして解体へ

「ええぃ、クソクソクソッ! どうしてこの俺がコテンパンにやられねがならん!」


 あの後、気絶した俺は門下生たちによって道場まで運ばれた。それだけなら何の問題もなかったのだが、目を覚ました俺に向かって門下生たちが言い放ったのだ。俺の元から去ると。

 当然俺は引き止めたのだがライバルの――しかも門下生に負けたとあっては失望感が半端なく、全員がジーザスを去るという結果は覆らなかった。


「せっかく……せっかくトランジェスを潰せるチャンスだったのに、これでは全てが水の泡だ! ――ンク――ンク――ンク――――プハァ。おいオヤジ、もう1本追加だ!」

「はいよ」


 そんなこんなで王都にある行きつけの酒場で酒を(あお)っていると、不意に背後から笑い声が聴こえてきた。


「クククク、ジーザス道場の師範ともあろう者が自棄酒か。余程悔しい思いをしたようで」


 見れば全身黒ずくめの男がニヤニヤとした横顔を見せながら貧乏臭い飲み方をしているではないか。

 見ず知らずの男に挑発されたと思い、新たにマスターが用意した酒瓶を引ったくって男のテーブルへと移動した。



 ドン!



「おいアンタ、俺をジーザス道場のクルーガーと知ってて笑ってやがるんだよなぁ?」


 わざとらしく音を立てて肘を着くと、男の顔をジロリと覗き込む。最初はビビって謝るかと思ったが、それどころか不適な笑みを崩そうとはせず、愉快そうに酒を呷る。

 俺はついに我慢できなくなり、男の顔を掴んでこちらに向かせた。


「おい、聞いてんのか!?」

「クククク、聞いてますとも。()()()手痛い目に合ったのでしょう? 実は()()()同じ相手にやられましてね、報復する機会を(うかが)っていたのですよ」

「同じ相手……だと?」

「ええ。素性のよく分からない若い人間の男で、ラーツガルフでは珍しい短髪の黒髪です。奴には大きなツケがありましてね、それを取り立てようと思っていたところなのですよ」

「…………」


 奴の名はマサルと言ったか。特徴は合っているし、同一人物と思ってよいだろう。奴を叩きのめせるのなら手を貸してもよいのだが……


「……で、俺に何をさせようというのだ? 言っておくが金を出すつもりはないぞ?」

「いえいえ、これは我々の名誉の戦いであり、報酬の要求は致しません。貴方にはターゲットを誘い出してもらいたいのです。後の()()はこちらで行いますので」

「貴様……闇ギルドの構成員か?」

「そこはご想像にお任せしますよ。互いに詮索し合うのは無粋でしょう? 本件以外の質問は無しという事で」


 この時点で闇ギルドだと言ってるようなものだがな。しかし……


「興味深い話しだ。奴に復讐できるのなら協力は惜しまん」

「そう言っていただけると思っておりました。では詳しい計画は場所を移して……」


 俺は構成員に誘われるがまま、奴らの計画に手を貸す事になった。

 フッ、今に見ていろ若造め。俺に恥をかかせた事、絶対に後悔させてやる!



★★★★★



 シュワユーズにとっては因縁の相手であるクルーガーを文字通り叩きのめすと、その日は夜通しで――いや、三日三番ぶっ通しで酒を飲みあかすという流れが待っていた。


「えっへ~~~♪ やっぱりマサルは大物だねぇ。あたしが見込んだ通りだった~」

「そうでっか……」

「んん~? どしたんマサル~、酒を飲む手が止まってるよ~ん?」


 そりゃお前、たった三日で大樽1つを空にして新たな樽まで開けちまったくらいだからな。いくら美味くたって、そんなにガバガバ飲めねぇっつ~の。


「ロージアたんもどうしたのさ~? スカッとしたんだからジャンジャン飲まないと~」

「酒は飲んでも呑まれるな――ということわざが有るそうです。飲み過ぎは身体に毒となりましょう」

「ま~たまた固いこと言っちゃってぇ。そんなんだとお胸が成長しないぞ~?」

「…………」




「……あ?」

「ンヒィッ!? すすすすすみましぇ~~~ん! 調子に乗りました~! 今後一切胸の事には言及しませんので、どうかお許しを!」

「……絶対ですよ?」

「はいぃぃぃぃぃぃ!」


 決して小さくはないと思うんだが、ロージアなりに気にしてるらしい。なんでも知人の女にすんげ~巨乳美女がいるんだとか。

 んん~、そこまで巨乳美女だって言うなら是非紹介してもらいた――


「……マサルさん。何かイヤらしい事をお考えでは?」

「なっ!? なななな何でもねぇ! ちょっと考え事してただだから!」



 クソッ、いつもの癖(←どういう癖やねん……)で顔に出ちまったか!? ここはひたすら無心にならねば。



「……本当ですね?」

「ホントホント!」

「ふむ、どうやら勘違いだったようです。疑ってすみませんでした」


 フゥ、肝が冷えたぜ……。



 ガラララ!



「フン、邪魔するぞ」

「……え、貴方クルーガー!?」

「テメェ、懲りもせずまた来やがったのか」


 俺もシュワユーズも良い感じに酒が回っていたが、見たくない顔を見て酔いが一気に覚めていく。


「何しに来やがった、ま~た恥を晒しに来たってのか?」

「何度も恥を晒すほど劣ってはおらぬ。それよりも貴様だ、貴様さえいなければ門下生を全て失う事にはならなかった」

「ハッ、こいつぁ傑作だ。結局テメェも門下生に逃げられたんだな!」

「グヌッ、ほ、ほざけ若造! とにかく、俺は貴様に決闘を申し込む。まさか受けぬとは言わぬな?」


 俺の挑戦を受けたからな。逆はダメってのは筋が通らないか。


「分かった、受けてやるよ。じゃあさっそく今から――」

「まぁ待て。今回は俺の道場で勝負してもらおう」

「お前の?」



 わざわざ場所を変える意味が分からなかったが、それでいいならと深く考えずにハゲオヤジの後をついて行く事に。シュワユーズとロージアも一緒だ。

 俺たちが談笑している前をハゲオヤジことクルーガーが黙々と歩き続けており、ふとある事に気付いたシュワユーズが怪訝な顔付きで声を荒らげた。



「ちょっとクルーガー、こっちは山道から外れた獣道じゃない。まさか自分の道場を忘れたとか情けない事を言わないでしょうね?」

「カッカッカッ! この俺が間違える? それはあり得ぬ事だ」ダッ!

「あ、テメェ!」


 ハゲがいきなり駆け出したのを見て、嫌な予感を覚えつつ俺も駆け出す。

 しかしこれが良くなかった。只でさえ木々が多くて走りにくい夜の山中を無条件に後を追った俺は、唐突に何かに足を取られて転倒してしまう。


 ドシン!


「クソッ、暗くてよく見え――」

「おっと、貴方にはおとなしくしてもらわないと困るんですよ」


 ザシュザシュ!


「ぐあっ!? な……お、お前らは!?」


 両腕にナイフのような物を突き立てられ、更に数人がかりで取り押さえられた。後ろを確認できないが、暴れてるらしいシュワユーズの声を聞くにあっちも似たような状況だろう。

 俺は辛うじて顔を上げると、ニヤニヤと嫌味な顔でハゲオヤジが見下ろしているのが視界に入った。


「悪く思うなよ? 全ては出過ぎた真似をした貴様が悪いのだからな」

「クッ、テメェ……」

「クルーガー! 貴方まさか、闇ギルドを雇って――」

「フン、雇ってはおらぬ。向こうから協力を申し出てきたのだよ。この若造、相当な恨みを買っているようだぞ? まぁ俺には関係ない事だがな、カッカッカッカッ!」


 闇ギルドと恨みで思い当たるのは、実力者だったクペスを殺した事。多分これだろう。

 クソッ、こんな事になるなら徹底的に潰しておくんだったか。


「さて、俺はこれで引き上げるとしよう。もう会うことはないだろうが精々達者でな」


 最後は勝ち誇った顔で立ち去っていく。できれば今すぐにでもブッた斬ってやりたいのを我慢し、姿が見えなくなるのを待った。闇ギルドの連中に加えてハゲまで相手にはしてられないからな。

 そう考えていた最中、何故だか意識が遠退いていくような気がした。集中していないと今にも気を失いそうになる感じだ。


「クククク、だいぶ効いてきたようですね。今貴方は意識を失いかけている、そうでしょう?」

「ま、まさか!」

「ええ。即効性の高い毒です。――が、ご安心を。この毒には睡眠効果しかありません。何せ貴方には亡きクペスの苦しみを噛み締めてもらいたいですからね。少しずつ肉を剥ぎますので極限まで痛みを味わってください」

「クッ!」


 ダメだ、魔物を呼び出そうにも集中できねぇ。単純な罠以外だと今の俺には無茶振りだろう。俺は飛びそうな意識を辛うじて繋ぎ止め、周りにいる構成員を対象に罠を発動させた。



 ザクザクザクザクザクザクッ!



「ごはぁ!? あ、足下から……剣が……」

「ゴフッ! ま、魔力を一切感じさせずにどうやっ……て……」


 拘束が解かれて立ち上がると、離れた場所でもロージアとシュワユーズが何人かによって押さえつけられていた。

 しかし、二人を拘束している連中以外にも構成員がおり、状況を理解した奴らがすぐに俺を仕留めに動く。


「チッ、この野郎ぅ!」

「構わねぇ、一気に殺しちまえ!」


 迫る構成員。迎え撃つ俺。奴らのダガーと俺の剣が交わるか否かってところで、俺の意識は途絶えた。




「ん……ボロッちぃ天井だ」

「目が覚めた第一声がそれですか」


 呆れ顔のロージアがタメ息をつく。どうやらトランジェスの道場で寝かされていたようだ。

 数時間は寝ていたらしく、窓からは朝日が差し込んでいる。


「あ、マサルさん、意識が戻ったんですね」

「意識っつ~か、眠らされてただけなんだがな。それより二人とも、お陰で助かったぜ」

「「……はい?」」

「いやいや、はい? ――って、あの後闇ギルドの連中を倒したのは二人なんだろ?」

「「…………??」」


 おかしい。どうも話が通じてないようで、二人は互いに顔を見合わせている。てっきり二人に助けられたんだと思ったんだが、真実は違ったようだ。


「何か勘違いされてるようですが、闇ギルドを全滅させたのはマサルさんですよ?」

「……へ?」

「そうそう、マサルってば強かったですよ~。あちこちから弓矢や毒針を飛ばして構成員を追い詰めていったんですから」


 どうも俺が倒した事になってるっぽい。いや、二人が言うならそうなんだろう。俺自身には記憶にないがな。


「あ、そういや弓矢や毒針を飛ばしてるとこを見たって事は!」

「はい。マサルさんがダンジョンマスターだとバレてしまいました」

「やっぱり……」

「でもでも~、あたしってばすっごく口が固いんですよ~? ペラペラと喋ったりしませんから安心してください」


 酒が入ると脆そうだけどな……。


「ところであたし、道場を畳もうと思うんですよ」

「え? 何でまた……」

「マサルが寝てる間にロージアさんと話したんですけどね、一度闇ギルドに狙われると再度狙われる可能性も有るので。もし新たな門下生が巻き込まれたら責任感じますしね」


 それも切実な話だな。結局はハゲオヤジの狙い通りになっちまったのが悔しいが。


「そういう訳で、今後はマサルのダンジョンで稽古をつけたげるから」

「そりゃありがたい」

「あ、毎日お酒を献上するのも忘れずにね」

「結局酒かよ!」


 シュワユーズほどの実力者なら入手できる魔力も多いだろう。これは俺にとって大きなプラスになるな。


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