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アクティブダンジョンマスター・俺は外に出る!  作者: 親方、空からゾンビが!
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道場破り

 ガキィィィン――――ギギギギギ!


「ほ~、短期間であたしの剣を受けられるようになりましたか。やはりキミ、只者ではありませんね~?」

「まぁ……ね」


 あれから5日間。朝昼とみっちり剣を交えてるんだが、これがまぁ~手強いのなんの。

 こっちが仕掛ければカウンターをくらうし、待ち構えてても防げずに「メンあり!」みたいな感じな。あのゲイザー将軍ですら捌けないんじゃってくらいの剣技を披露してくれたよ。

 だが俺とてダンジョンマスターの端くれ。ダンジョン機能をフル活用し、5日後の今には見えなかった剣の動きが見えるようになってきたんだ。

 ちなみに晩の稽古はしていない。晩酌に支障がでるからという実にくだらない理由でな。初日から思ってたが、コイツ相当な酒好きだな。


 ギギギ……


「さ、膠着状態ですよ~? このままならあたしが押し切っちゃいますけど~?」

「いいや、そうはさせないぜ」



 シュシュシュシュ!



「おっと! ま~たどこからともなく弓矢ですか。魔力も感じさせないなんて、いったいどんな魔法なんです? 魔力感知が働かないからマジで怖いんですけど~」

「教えたら対策されそうだから教えない」

「む~ぅ、今のあたしはキミの師範だかんね~? 隠し事はなしだよ~?」

「じゃあいつか教えるから」

「それって最初から教える気のない返答ですよね?」


 教えたらマジで圧倒されそうだしな。それによほど親しくない限りはダンジョンマスターだって事を明かせない。


「まぁそこは企業秘密ってやつで」

「どこの企業ですか! ロージアさんも何とか言ってくださいよ~」

「赤の他人には教えられません。何卒ご理解を」

「そんなぁ……、共に杯を交わした仲じゃなですか~。既にあたしたちは竿姉妹みたいなもんですよ~」

「ささ、竿姉妹――シュ、シュワユーズさん、なんてハレンチな事を!」


 バシバシバシバシ!


「ちょちょちょちょ、二人がかりは卑怯ですよ~!?」

「お黙りなさい。貴女の下品なところ、私が叩き直して差し上げます」

「ンヒィィィ!」


 省略はしてるが、初日からロージアへのセクハラが凄いんだよなぁ。聞けば門下生の殆どは男だったって言うし、ロージアが入門したのが余程嬉しいんだろう。


「う~酷い~。これでも師範なのに……」

「でしたら師範らしさを行動で示してください。こんなでは今後入門する女性はすぐに去ってしまいます。そもそもどうして門下生がいないのです?」

「え~と、それはですね……」


 ロージアの台詞で思い出した。今までいた門下生が殆どいなくなったって話だったな。

 んで、話し難そうにしながらもシュワユーズが語った内容は……




「え? 別の道場に引き抜かれた?」

「はい。予てよりトランジェスを目の敵にしている道場がありまして、祖父が亡くなったのをいいことに門下生の取り込みを始めたのです。その結果、大半の門下生がここを去る事になってしまい……」

「引き留めなかったのか?」

「も、もちろん止めましたよ! けれど街に買い出しに出ていた門下生が襲われる事件が多発し、皆怖がって、それで……」


 なるほどな。トランジェスと関わっていると被害を被る。だから全員いなくなったのか。


「王都の騎士団には話したのですか?」

「そんな恥ずかしい真似はできません! 代々我が道場は魔物や賊に襲撃されても自力で解決してきたのです。それに騎士団に話したところで、「ふっ、それでよく道場をやっているものだ」って返されるのがオチです」


 強いが故に助力は求められない――か。


「でもよ、結局のところまだ潰れちゃいないだろ? ならこれから頑張って盛り立てりゃいいじゃねぇか。それにさ、もしかしたら俺たち以外にも入門希望者が――」



 ガラララ!



「いいや、入門希望者など来ないだろうさ」


 入口が開いたと思ったら、嫌みったらしい笑みを浮かべたハゲオヤジが大勢の男を引き連れて入ってきた。


「貴方は……クルーガー!」

「シュワユーズの知り合いか?」

「トランジェスのライバルに当たるジーザスっていう道場の師範だよ」

 

 そいつが門下生を率いてやって来たわけか。


「カッカッカッカ! そうさ、俺こそがラーツガルフで唯一無二の剣術道場を営む男さ」

「だがトランジェスがある以上、唯一無二ってのは無理があるぜオッサン」

「オッサンではな~い! クルーガー師範と呼べぃ! ――ったく、最近の若いもんは口の聞き方がなっとらん。俺の若い頃は――」

「いや、オッサンの過去に興味ないんで」


 長くなりそうだったので強引に遮ってやった。


「あたしとしても貴方の過去には興味ないわね。そもそも何しに来たっていうのよ?」

「何をしに? フン、そんなもの決まっている。さっさと道場を畳んでしまえと前から言っているだろう。俺としてはトランジェスさえ潰れれば文句はないのだ。たかが数人で存続させるなんぞ愚の骨頂。そうは思わんか?」

「くっ……」


 ニヤニヤと不快な眼差しを向けてくるハゲに対し、悔しげに押し黙るシュワユーズ。

 確かに現状は厳しく、門下生も俺とロージアの二人だけ。これなら剣術道場というより剣術同好会と言われても仕方がない。


「まぁこの手勢だ。おとなしく降参するのならケガなしで済む。俺としても女をいたぶる趣味はない。分かったら潔く看板を下ろせ」


 まるで降伏勧告だな。すでに勝った気でいやがる。

 だがこの状況を招いたのはジーザス側だし、そもそも俺の修行を邪魔されたくはねぇ。


「おいおい、黙って聞いてりゃ勝手な事抜かしやがって。せっかく入門した道場を潰させはしねぇぞ?」

「何だ貴様は。たかが門下生ごときがこの俺に刃向かうつもりか?」

「ああ、何だったら今すぐにでもやってやんぜ?」

「ちょ、待ちなさいマサル! クルーガーはあたしと同じくらいか、それ以上に強いんですよ!? それなのに……」


 へぇ。そいつは吉報だ。久しぶりに()()が役立ちそうだぜ。


「シュワユーズは黙って見ててくれ。俺のちょっとしたスキルを見せてやるよ」

「え、ええ……」


 何か言いたそうだったが、自信満々の俺を見てシュワユーズは引き下がる。


「さて、俺はあんたに決闘を申し込むぜ。まさか格下の挑戦を断ったりはしねぇよな?」

「フッハッハッハッ! 何を血迷うた事を。この俺に挑むなんぞ数百年早いわ。貴様なんぞ俺が相手をするまでもないわぃ」

「なんだ、俺に負けるのが怖いのか? なら仕方ねぇ。臆病者はとっとと帰んな」

「なっ!? この俺を侮辱するか! そこまで言うなら受けて立つわぃ!」

「フッ、なら決まりだな」


 俺はスッと腕を上げ、静かにクルーガーを指す。


「こっからは真剣勝負だ。俺とお前の――」




決戦の舞台(クライマックス)ってやつだせぇぇぇ!」


 宣言の直後、ロージアやシュワユーズ、それに加えて門下生たちもが消え失せた。


「な、なんだこれは!? 皆はどこに!」

「ここは俺とお前が直接ケリをつける特別な空間さ。決着がつくまで出られないぜ? ここから出たいなら――」

「貴様を倒せばよいのだな!」



 キィィィン!



 状況が一変して驚きを見せるものの、ハゲオヤジは迷いなく剣を振り下ろしてきた。さすがに師範をやっているだけあり普段の俺なら見えない速度だが、俺とコイツのステータスは同等。反射的に身体が反応し、迫る剣を簡単に弾いて見せる。


「――っとぉ。順応正が高いなぁ。そこはもっと狼狽えるもんだろ」

「抜かせ若造。伊達に師範をやってはおらん。修羅場を潜った数なら俺の方が圧倒的に上。ポッと出の貴様に遅れはとらん」

「――の割には防がれてるじゃねぇか。もっと本気でかかってこいよ」

「刃を潰してあるとはいえ、勢い余って殺してしまいかねんのでな。適度に手加減はしておる。自惚れるでないわ」


 互いに距離を取り、軽口を叩きつつ相手の出方を(うかが)う――が、すぐにハゲオヤジが動き出す。


「口の悪いだけの若造など小手先で充分。我が連撃の前にひれ伏せぃ!」


 シャ――――シャシャシャシャシャシャ!


 突きによる突撃から始まり横薙ぎに袈裟斬りと、途切れる事のない剣撃に防戦へと追い込まれる。

 それだけじゃない。距離を取ろうとしても足が速く、即座に距離を縮めてくる。以前喧嘩した冒険者とは比べ物にならない。同じステータスじゃなかったらボコボコにされたな。

 でも動きは分かった。今の俺なら充分に対応できる。


「どうした、もう打つ手無しか? その程度で挑んでくるとは笑止千万」

「いんや。アンタのスタミナがどこまで続くか見届けようと思ったのさ」

「フン、強がりを」

「あっそぅ。そこまで言うなら覚悟しとけよ――スプリング!」



 バコン!


 

「フガッ!?」



 ドッシ~~~ン!



 足元の床をバネ仕掛けのようにし、ハゲオヤジを壁までフッ飛ばしてやった。毎度お馴染みのダンジョントラップだ。

 突然の出来事に困惑の表情をしつつもすぐに飛び起き、顔を真っ赤にして怒りを露にしてくる。


「何だ今のは! これも貴様の策だというのか!?」

「策じゃねぇよ、スキルだ。常人には真似できねぇ。例えアンタでもな」

「フン、若造が生意気な。ならば実力の差を見せてやろう」


 ハゲオヤジが不適に笑うと、俺に切っ先を向けてきた。


「クククク、喜べ。本来ならば雑魚相手に使う事のない究極奥義だ。これを打ち破る者はいまだ現れぬ。心して受けよ! 奥義――神の来訪(コールオブジーザス)!」


 ザッ――ザザッ――ザザザザッ!


「な、なんだ? クルーガーのやつ、1人から2人、2人から4人と分裂しやがったそ!」

「「「クックックッ、驚くのはまだ早いぞ? 我らは同一であって単体。各々が独立した思考を持って動くのだ!」」」

「何だと!? ――ぬぉっ!」


 4人がバラバラな動きで襲いかかる。単純にハゲオヤジが4人になった感じだ。


「チィ! ――障壁っ!」


 俺は堪らず障壁を発動。全方位を鉄の壁で固めた。


「「「ほぅ、鉄の壁で一時凌ぎか。果たしていつまで持つかな?」」」


 次の手を思考する間も壁はどんどん削られていく。壊されるのは時間の問題だ。

 だが僅かでも時間を稼げればそれでいい。


 ピキッ――――パリィィィン!


「フハハハハ! 障壁破れたりぃぃぃ! 最後に勝つのはこの俺――」



 バチィィィィィィン!



「グガァ!?」



 勝利を確信して1人のハゲオヤジが斬りかかってくる。しかし、壁の中にいたのは別のハゲオヤジで、壁の大破と同時にダンジョントラップで入れ代わったというオチだ。


「「「バ、バカな! 奴はいったい――」」」

「ここだよ!」


 ドゴォ!


「ゲフッ!?」


 状況が読み込めず混乱するハゲオヤジに追撃を仕掛けた。そう、俺と1人のハゲオヤジの位置を入れ替えたのにはまだ気付いてなかったからな。至近距離で叩きのめすのは実に簡単だった。


「お、おのれ若造がぁ!」

「師範である俺に舐めた真似を!」


 さすがにプッツンしちまったようで、我を忘れて左右から挟むように斬りかかってきた。

 だがこうなると相手を欺くのは簡単で、二人の切っ先が俺に届く直前に目の前から転移。


 シュン!


「「なにぃぃぃ!?」」



 バズバズッ!



「「ぬぐわぁぁぁ!」」


 二人のハゲオヤジが相討ちとなり、その場で目を回して倒れ込む。同時に決戦の舞台(クライマックス)の効果も消え、周囲には豆鉄砲を食らったような顔をしたシュワユーズとニコニコ顔で微笑むロージア、更には顔を青ざめさせた門下生たちが現れた。


「「「し、師範!?」」」


 気絶した影響で1人に戻ったハゲオヤジを門下生が担ぎ上げ、足早に道場を去っていく。


「フフ~ン、ジーザス道場破れたり! これに懲りたら二度とあたしの前に現れないでくださいね! べ~~~だ!」


 去っていく門下生たちに向かってあっかんべーをするシュワユーズ。子供かお前は……。

 というかアイツ倒したのお前じゃねぇし。


「それにしてもマサル、あのハゲ――じゃなかった、あのクルーガーに勝つなんて、どうやってあたしより強くなったのさ?」

「それはギフトのお陰さ。詳しくは企業秘密な」

「あ~、師範に隠し立てはいけないんですよ~?」

「気が向いたら教えてやるよ」

「いいえ、今すぐ教えてください!」

「じゃあ門下生やめる」

「それは勘弁してください!」


 さて、邪魔者がいなくなった事だし、剣術稽古の続きといくか。


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