閑話:ダンジョンのある生活1
「おめでとう御座います。使命依頼を達成されましたので、GランクからEランクに昇格しました」
「よっしゃ!」
ゴルモン王国とのいざこざに決着をつけた俺は、ラーツガルフの冒険者ギルドに立ち寄った。
公爵子息であるカルバーンからの依頼だったからか、一気に二つもランクアップしちまったぜ。
「それでマサルさん、報酬は直接依頼人から受け取るとありましたので、報酬についてはご本人から――」
「それなら大丈夫。すでに受け取ってるよ」
もちろんたっぷりと金貨でな。けど「王女と結婚の際は御祝儀を期待しているよ」とかふざけた事言いやがったから半分返してやったが。
「左様で御座いますか。ところで……」
「ん?」
受付嬢が妙にソワソワし始めた。キョロキョロと周囲を気にしてるようだし、何かあったんだろうか? う~ん……
あ~なるほど。短期間でランクアップした俺の事が気になるんだな? うんうん、なるほどなるほど。そういう事なら……
「分かってますよお嬢さん。俺は旅人。風の向くまま気の向くまま。もしも俺に興味があるのなら――」
「いえ、貴方ではなく……」
「――え?」
「お連れのジャニオ様はどちらに?」
○| ̄|_ Oh……
あ~~~ちくしょうちくしょう、そういう事かよ!
そりゃな、ジャニオがいないんだから受付嬢もソワソワするよな! よく見りゃこの受付嬢、冒険者登録をした時と同じ女だし、笑顔でジャニオを迎えてやりたいよな! ああそうだよ分かってたよ! つくつぐダンジョンに置いてきて良かったと思ったわ!
★★★★★
「――という事があってな、ジャニオの評判は相変わらずだぜ」
「はぁ……それは少々ウザいですね」
ダンジョンに帰った俺は、さっそくロージアに愚痴りを開始。
「しかもだよ、帰り際に「今度はご一緒にお越し下さい」とか、「ジャニオ様だけでも可です」とか言いやがったからな。俺は付属品じゃねぇっつ~の!」
「そうですね。ジャニオは見世物じゃありませんからね。一度ガツンと言った方がよいのかもしれません。ところでマサルさん……」
「ん?」
ジロッ……
「1人なのをいいことに、受付嬢をナンパしたと解釈してよろしいですね?」
「そそ、それはまた別問題というやつでして……」
「言い訳は無用です」
バチ~~~ン!
いって~~~! 墓穴掘った!
「ちょっとしたリップサービスじゃんよ~。見逃してくれてもいいじゃんよ~」
「オグリ殿の真似をしてもダメです」
「じゃあカルロスはどうなんだ? ロージアが知ってる女の子を紹介したんだよな? アイツこそナンパする気満々やんけ」
カルロスとカーネルが対峙した際、カルロスを焚き付ける目的で女の子紹介しま~すみないな事をロージアが言ったんだよな。いったい誰を紹介したんだか。
「カルロスは別です。浮気をしたわけではありませんし、私個人とは無関係ですので。しかしマサルさん、貴方は違います。私に告白したのですから、他の女に言い寄るのは断じて認めません」
「ならせめて交際OKくらい言ってくれ。保留のままじゃ生殺しや……」
「分かりました。正式にお付き合いさせていただきます」
「いや、そこをなんとか――」
「――え?」
「ええええええっ!?」
今何つった? 何つったよ? 交際OK出たんだよな? 認められたんだよな? これって大進展だよな?
ギュギューーーッ!
「いってぇぇぇ!」
「なぜ自分の頬をツネっているのです?」
「だって夢かもしれないだろ! でもこの痛さは本物だ、間違いなく現実だな!」
「先ほどビンタをしたのですから、その時点で気付くべきでは?」
「いやいや、万が一って事もある。だからほら、ロージアを確かめてみろ」
ギュギューーーッ!
「いたたたたた! ちょっとマサルさん、他人の頬をかってに――」
「こうしないと分かんないだろ!」
「いいから落ち着いてください!」
バチ~~~~~~ン!
「あうちぃ!」
ロージアってばビンタのスキル上がり過ぎぃ!
「落ち着きましたか?」
「……うん」
「なら結構。私との交際がスタートしたのですから、他の女性と親しくするのは控えてくださいね」
「もちろん!」
こうして俺とロージアは新たなスタートを踏み出す事になった。始まるまでがやけに長かったが、こうして実を結んだんだから結果オーライだろう。
パチパチパチ!
「いやはやおめでとう御座いますマスター。ついにお嬢を攻略したのですね」
「ジャニオ? お前いつの間に……」
「つい先ほどですよ。ちょうどマスターがビンタを食らった辺りですかね」
また恥ずいところを見られたもんだ……。
「ついでなので聞いていただきたいのですが、実はボクとブローナ嬢もお付き合いをする事になりまして」
「こうして報告に来てやったのよ。ありがたく思いなさい!」
いつの間にかブローナまで。しかも交際?
「おいおい、アイドルが露骨に交際宣言はいただけないぞ?」
「ダメ――でしょうか?」
「ダメというか、お前のファンが黙っちゃいないと思うぞ?」
「フン、どうせ野次馬根性で集まったダンマスの女共じゃない。ポッと出の連中に言われる筋合いなんか無いわ。わたくしとジャニオ様はもっと固い絆で結ばれてるんですもの!」
この堂々と言い放つところは是非ともリスペクトしたいもんだな。まぁそれはそれとして、ブローナの性格なら相手が誰であろうと引かないだろうし、ジャニオにはピッタリとも言える。
けどコイツには別の問題もあって……
ドタドタドタドタ――――バァァァン!
「その交際待ったぁぁぁぁぁぁ!」
「おや、カルロス殿」
騒々しく談話室に飛び込んで来たのは、先日仲間に加わったドワーフのカルロスだ。コイツの兄貴であるカーネルから一方的に押し付けられた形だが、当のカルロスはいつか兄貴を越えてやると言って日々ダンジョンで自己鍛練を行っている。
そんなやつが開口一番、ブローナを指して喚き始めた。
「どうしてジャニオが付き合う事になっているんだ!? ロージアがキミに紹介したのはボクのはずだぞぉ!?」
「フン、誰がアンタみたいな短足と。わたくしと釣り合うのは世界中を探してもジャニオ様しか居ませんわ!」
そうそう、カルロスを焚き付ける時にロージアが紹介すると言った女の子はブローナだった。
当のカルロスは「どこかで聞いたような……」と言って首を傾げてたが、ブローナの顔を見て一目惚れ。さっそく嫁にと迫ったが、想像通り拒否られてるという。
「短足の何がいけない!? これでも一年に1㎜づつ延びてるんだぞ!」
「そんなの遅すぎますわ! わたくしに認められたいのなら、今すぐ20㎝は延ばしてみせなさい!」
「せめて20年は待て!」
「200年の間違いでしょう!?」
そういや魔族やドワーフって長寿なんだよな。それこそ数100年は生きるらしいから、カルロスが長身になってる頃には俺なんかとっくに死んでるだろう。こいつらのその後を見届けられないのがとても残念だ(←あまり残念そうには見えない顔)。
「やれやれ、あの二人は相変わらずですね。仲が良いんだか悪いんだか」
「良くはないだろ……。つ~かジャニオ、ブローナが言い寄られてるけどいいのか?」
「もちろんです。ボクは1つの物事に囚われない生き方をしたいので、世界中の女の子と交際しても構わないと思ってますよ。逆も然りです」
「お前、堂々と浮気する気か……」
「浮気だなんて人聞きの悪い。自由恋愛と言って欲しいですね。全ての女性から愛を注がれるのなら全ての女性を愛する以外にない。とても公平だと思いますよ」
「詐欺師っぽくキレイにまとまった事言ってるように聞こえるが、表現変えても中身は変わんないからな?」
ったく、なんでこんな奴がモテてんだか。それもこれもイケメンが全ての元凶だな。
ピピピピピ!
「おや、ダンジョン通信が…………フフ♪」
「なんだよジャニオ、気色悪いなぁ」
「実はファンたちからライブをやってくれとせがまれましてね。これから打ち合わせを行いますので少々席を外しますよ」
「あ、ジャニオさま~、待ってくださいまし~」
「やいブローナ、まだ話は終わってないぞぅ!?」
ジャニオに続いてブローナとカルロスも談話室を出て行った。
「はぁ、騒がしい連中だ」
「フフフフ♪」
タメ息混じりにソファーへ腰を下ろすと、ロージアがクスクスと笑い出す。
「どうしたロージア? 思い出し笑いか?」
「いえ、平和だなと思いまして」
「そりゃまぁ……」
そもそもダンジョンの入口はいまだに王都の城の中だ。他国からの侵略や配下の裏切りでもない限り侵入される心配はない。
「けどいつまでも引き隠ってるつもりはないぜ? 俺は名のある冒険者として大成するんだ。そん時はロージア、キミを人生のパートナーとして迎えたい」
「え、ええ!? そ、それは少々気が早いような……」
「そんなことはない。俺の周りじゃ高校卒業と同時に結婚したカップルが2組もあるんだ」
「そ、そうなのですか? それはまた凄いと言うか……」
「うち1組は1ヶ月も経たないうちに離婚したがな」
「ダメじゃないですか……」
「なぁに、その二人は所詮デキ婚。勢いだけで先走ったバカさ。けど……」
ガシッ!
「マ、マサル……さん?」
「俺は違う。俺は真剣にロージアが好きなんだ。だから……」
「え? え? え? こここ、こんなところでキスを!?」
「頼む、黙って受け入れてくれ!」
「そ、そんな、ちょっと待ってくださ――」
「待てましぇ~~~ん!」
~~~~~
「――という夢を見たんだ」
「そうですか。はぁ……」
何か露骨にタメ息つかれた。てっきり同じ夢を共有してると思ったのに(←無理が有りすぎる)。
ガシッ!
「だからな、今からでも正夢に――」
バチ~~~~~~ン!
「へぐしっ!」
現実は厳しい。