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アクティブダンジョンマスター・俺は外に出る!  作者: 親方、空からゾンビが!
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婚約者は譲れない

 婚姻は阻止した。そう思った俺の考えは甘かったらしく、5日くらい経ってからシルビアから城に来てほしいと要請が。

 案内された部屋に入ると、すでにシルビアとカルバーン、そして見たことのない小柄な男が対面していた。


「絶対に諦めないぞ、絶対にだ!」

「「「…………」」」


 鼻息荒く応接室のソファーで腕組みをしているのは、ゴルモン王国の第二王子であるカルロスだ。短足で寸胴な見た目なためシルビアとは釣り合わなそうに見えるが、髭の濃さから分かる通りドワーフである。

 そんなカルロスがやって来た理由は、ズバリそろそろ婚約から結婚へのシフトチェンジ。

 しかし来てみてビックリ、婚約の話は無かった事にと言われたもんだから、ご覧の通りお怒りモードってとこだ。



「カルロス王子、とにかく落ち着いてはくれないか?」

「落ち着け――だと? 横から婚約者をかっさらった貴様に言われたくない! これは我がゴルモン王国を侮辱してるに等しいぞ!?」


 宥めようとしたカルバーンの言葉も逆効果で益々ヒートアップしていき、今にも掴みかかりそうな勢いだ。

 そんな場所に俺とロージアが呼ばれた理由だが、第三者から今回の流れを説明してほしいと頼まれたからに他ならない。

 面倒だけとアフターフォローはちゃんとやるぜ?


「あ~、一ついいかなカルロス殿」

「何だね? 部外者は引っ込んでいてもらおうか」

「部外者っつ~か、一応は関係者なんだよ」

「それはさっきも聞いた。宰相が暴走してオイラとの婚約を勝手に進めたというのだろう? それを阻止し、更には諸悪の根元であるブローナの討伐にも参加したそうじゃないか。若いのに大したものだ」

「あ、はい、どうも……」

「だがね、オイラとしても「はいそうでっか~」とは行かないのだよ。今じゃ国中で話題に上がってるくらいだし、婚約の撤回が広まれば王家の名に傷が付くのは必至。そうしたらオイラは笑い者だ」


 王族の面倒な部分だよなぁ。でもこればっかりは諦めてもらうしかないわけで。


「どうなのだね、シルビア王女?」

「大変申し訳ありません、カルロス殿。私としても誠意をお見せしたいのですが、やはり愛する者を傍に添える以外に選択肢は見当たらないのです」

「あ、いや……むぅ……」


 シルビアに頭を下げさせてるのが気まずいようで、カルロスは頭を掻きながら視線を逸らす。

 何となくだが、カルロス本人も分かってる気がする。このままごねてもシルビアは折れないと。


『なんだか可哀想ですね。彼も今回の騒動の被害者ですし、何とかしてあげたいところですけれど……』

『まぁ無理じゃね? できる事といったらブローナを紹介するくらいだし』

『それをやったら本気で激怒しそうですね』

『多分な』


 見た目はブサ――っと失礼、お世辞にもイケメンとは言い難いカルロスだ。別の婚約者を見つけるのは至難の技かもしれない(←それ、大きなお世話だから)。

 そんな思考を巡らせていると、やがてカルロスはガックリと肩を落とし、ポツリポツリと語り出す。


「最初から分かっていたんだ。ブサメンなオイラにこんな美人な婚約者が現れるわけないって。それでも周りが騒ぐもんだからついついオイラもその気になって、気付けば配下たちを見下す行為を繰り返していた。そうさ、きっとオイラに罰が当たったんだ……」


 うん、何となく分かる。俺も学生時代の親友に彼女ができた時、おもいっきり自慢された上に「何? お前いまだに彼女いないの?」とか煽られたしな。その直後に罰ゲームで告白されただけだったというザマァな落ちがついたが。今のカルロスはあの時の親友と似たような境遇だろう。


「あ"~~~どうしよう、このまま帰れば兄貴や配下にバカにされるぅ……」

「兄貴? 配下は分かるけど、何で兄貴がバカにするんだ? まさか兄貴にまで喧嘩売ったのか?」

「そんな事はしないよ。ただ兄貴には凄く喜ばれたんだ。「良くやったぞカルロス。()()()()()()()()()()()()、ラーツガルフはお前のものだ」って」




「「「……え?」」」


 思わずカルロスを除く4人で顔を見合わせる。その4人でヒソヒソと緊急会議を開いた。


「これ、マジで真っ黒じゃね?」

「はい。紛うことなきブラックですね」

「うむ。此度の争乱にも関係しているかもしれない」

「皆さんもそう思いますか。これは直接問い詰めねばならいかもしれません」


 そしてシルビアによる尋問が始まった。


「……コホン。カルロス様。先程の発言、詳しくお聞かせ願いませんか?」

「く、詳しくと言われても、兄貴や配下にバカにされる話など――」

「そこではありません」

「ではオイラが配下をイビった時の話を――」

「聞きたくはありません」

「ま、まさかシルビア王女はブサメンに興味がお有りで?」

「有りそうに見えますか?」

「見えません……」

「正解です」


 速報、シルビアにもブローナと同じく面食い疑惑が発生。


「はぁ……よろしいですか? わたくしが伺いたいのはカルロス様のお兄様の発言です」

「え? 激務に追われるシルビア王女を休ませ、代わりにオイラが国政を行う事だと思っているが」

「「「いやいやいや!」」」


 一斉に突っ込みが入る。んなわけあるかいと。


「カルロス様、少なくとも国政を他国の者に任せたりはしないものです。それどころかお兄様の発言は他国を乗っ取る類いのもの。これは到底容認できません」

「そ、そのような大それた事を兄貴が!?」


 ようやく事の重大さに気付いたのか、カルロスの顔がみるみるうちに真っ青に。更にソファーから立ち上がるのと同時にジャンピング土下座を開始した。


「誠に申し訳ありません! 我が兄貴が大変な無礼を! どうかゴルモン王国を攻め滅ぼすのだけはお許しを!」

「心配はいりません。お兄様の発言はともかく、ゴルモン王国を攻める意思はありませんので」

「よ、よかったぁぁぁ……」ヘナヘナ

「しかし!」

「ビクッ!?」


 人差し指をピンと立て、語気を強めるシルビア。姿勢を崩したカルロスだったが、再び土下座を開始する。そこへ……


「お兄様を野放しにはできません。場合によっては身柄の引き渡しを要求します」

「み、身柄を……ですか?」

「お兄様から権力を剥奪するというのなら現状のままでも構いません。しかし、権力を保持し続けるというのなら……」

「や、やりまひゅ、剥奪しましゅ、だから攻め込むのだけはお許しをーーーっ!」



 ――とまぁ以上の理由から俺とロージアがカルロスと同行し、ゴルモン王国に向かう事となったわけだ。

 あ、これはシルビアからの正式な依頼な。だからちゃんとした報酬は貰えるぞ。

 


「以上が昨日の出来事な。今は樹海を抜けたところまで来ていて、これから登山を開始しようかってところさ。あ、一応補足しとくが、カルロスは1人でラーツガルフにやって来たらしく、当然護衛もいない。今回は周りの反対を押し切ったからやむを得なかったんだと。そんな理由からカルロスを哀れんだ俺は、ゴルモン王国まで送る事になった。もちろんカルロスの兄貴をどうにかするって目的もあるけどな」

「キミはさっきから誰に話してるのだね?」

「何でもない。こっちの事だ。それより俺がダンマスだって聞いても驚かないのな」

「今や世界中でダンジョンマスターが見つかっているからね。隣人がダンマスであったとしても不思議じゃないのだよ」

「そういうもんか」


 思えばロージアも極端な驚きは見せなかったもんな。

 ちなみに正体を明かした理由だが、何て事はない。カルロス本人に看破されたからだ。なぜ看破されたかと言うと、どうもダンマスは他の生命体と魔力の流れが違うらしく、何となく分かってしまうんだとか。

 特にカルロスはドワーフの中でも極端に魔力が少ない方で、魔力に関しては敏感らしい。

 そんなカルロスが気になる事を言いを放つ。


「しかしだ。キミは一言でいうとダンマスらしくないとも言えるな」

「何でだ?」

「何でって……普通のダンマスは人前には姿を現さないものなのだよ」




「兄貴の補佐官もダンマスだしな」

「ふ~ん、補佐官がダンマス――え?」

「何だね、何かおかしな事を言ったかな?」

「いや、補佐官なら人前に出る事が多いんじゃないのか?」

「確かにそうだが、補佐官を見たのは一度きりだったね。普段は書斎に引きこもっているらしく、代わりに兄貴が補佐して――」

「いやいやいやいや、補佐官を補佐するとか何の冗談だ。普通立場が逆だろ?」

「で、でも兄貴はそれが普通だって……」



 コイツ完全に兄貴に騙されてやがるし、その補佐官とやらも限りなく怪しい。

 そして後日。ゴルモン王国の王都に着いた時、決定的な事が起こる。



「大変だ、カルロスが帰ってきたぞ!」

「見慣れない輩も一緒だ。ラーツガルフの奴らを手引きしたに違いない!」

「迎撃開始だ、中に入れるなぁぁぁ!」


 門番が慌てて中に退避すると、防壁の上にいた兵士たちが一斉に弓を構える。すると1人が発した号令と共に一斉に矢が放たれた。


「ああクソッ――石壁展開!」


 確認も何も無しに攻撃!? 端から怪しんでたから別段驚きはしないが、いったい何を考えてやがる!


「そ、そんな! どうしてオイラが攻撃されなきゃならないんだ!?」

「貴方のお兄さんに聞くしかありませんね」


 振り注ぐ矢を防ぎつつ、一旦離れてやり過ごす。しかしまるで討伐令でも出ているかの如く、多数のドワーフ兵が追撃してきた。

 こりゃ迎撃するしかないかと諦めかけていると、知らない少年が木陰から手招きしているのに気付く。


「お兄さんたち、こっちこっち」

「は? えっと、キミは……」

「話は後々! 追われてるんだから急いで!」

「お、おぅ」


 よく分からないまま正体不明な――少なくともドワーフには見えない少年の後ろを走る。街道から大きく外れ、追手が見えなくなったところでようやく名前を名乗ってきた。


「ボクはカドモン。この近くの森に住んでるんだ」

「俺はマサル。こっちがロージアだ。カルロスは……説明不要だよな?」

「うん、よく知ってるよ。ところでお兄さんたち、いったい何をやらかしたのさ? 兵士が追いかけてくるなんて普通じゃないよ?」

「それは……まぁいろいろとだな……」

「大人の事情ってやつ? それにしちゃダッサイ有り様だったけど。よくヒーローに憧れて無茶をする冒険者がいるけどさ、それとお兄さんたちが被って見えるよ」


 助けてもらっといてアレだが、このガキむかつくな……。


「……で、なんだってダサい俺たちを助けたんだ? 言っとくが金はやらんぞ」

「別にお金には困ってないよ」

「マジで? ラッキー♪」

「いや、そこでその反応はどうなのさ……。まぁいいけど。今も言った通りお金が目的じゃないよ。ちょっと手伝ってほしい事があってお兄さんたちを助けたんだ」

「手伝い?」

「うん。実はね……」


 そう言ってクスクスと笑うカドモンの表情は、怪しい笑みで染まっていた。


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