閑話:ダンジョン通信①
カルバーンの予行練習も終わり晩御飯を皆でつつき終わった後、シルビアのところへ向かう前に小休憩していた俺の横でロージアがポツリと呟く。
「あら、またダンジョンバトルの申し込みですか。取り込み中でなければ歓迎したのですが、少々残念ですね」
どうやらまた挑戦者からの通知らしい。
オグリとのバトルに勝ってからというもの、ちょくちょく挑まれるのが続いてるんだよなぁ。
「しっかし何だってこんなに挑まれるんだ? 俺ってば何かやったか?」
「やったと言えばやったと言えますね。何しろ初戦で下したオグリ様はマサルさんよりもランクが上でしたから」
「え、ランク?」
「ダンジョンマスターのランクです。主にダンジョンバトルを勝ち進んでいく事でランクアップしていくシステムですね。ちなみにマサルさんはFランクで、オグリ様はDランクでした」
そっか。二つも上のランクだったオグリに勝った事で注目を浴びてんだな。
ピピピピ、ピピピピ、
「あ、またしてもバトルの申し込みです」
「またかよ。一々ウザいし通知を遮断しといてくれ」
「そういった機能はありませんよ。いざという時に繋がらなかったら困りますし」
「いざって、緊急連絡網とかあるわけじゃないんだし」
「普通にありますよ?」
有んのかよ……。
ピピピピ、ピピピピ、
「あら、また通知ですか」
「もう面倒だから夜にまとめて見ようぜ」
「いえ、今度のはオグリ殿のようです」
「オグリから?」
バトルの申し込みが多いのはオグリのせいでもあるため、文句の1つでも言ってやろうと思い内容を確認すると……
『お~いマサル~、頼むから助けて欲しいじゃ~ん。お前とのバトルを終えてから、お前を紹介しろって奴らがしつこくてたまらないじゃ~ん。親友を助けると思って話を聞いて欲しいじゃんよ~』
よく分からんが周囲からせっつかれているらしい。これから寝るとこだったが俺との対面を望まれるのも悪い気はしない。少しくらいなら会ってもいいかと思い、直ぐにオグリへ返信してやった。
ちなみに親友という部分には敢えて突っ込まない。友達の少ない可哀想なやつなのかもしれないからな(←失礼)。
数分後チャットにて……
0001 ◆オグリ(ミリオネック)
助かったぜマサル~! 他のダンマスが紹介しろって騒ぎ出してて困ってたじゃ~ん。
0002 ◆マサル(ラーツガルフ)
そんなにか? まぁ時間さえあれば俺は気にしないぞ?
0003 ◆オグリ(ミリオネック)
おお、マジで心の友じゃ~ん! すぐに皆を呼んで来るじゃ~ん!
やっぱあれか。オグリに華々しく勝利したのが目立ったんだなきっと。それで俺に対して興味を持った奴が大勢現れたと。
ああしまった! こんな事ならサインの練習をしとくんだったぜ。万年筆みたいなのでさらっと書き上げるのとかカッコいいもんな。
いや、待てよ? サインもそうだが、相手が可愛い女の子の可能性だって有り得るじゃないか。そんな子に「強さの秘訣を教えてください!」なぁんて言われた日にゃ、マンツーマンで手取り足取りアドバイスしなきゃな!
ムッハハハハ、こりゃ今から楽しみだぜ!
「…………」
「ヒッ!? ――な、なんで御座いましょう、ロージアさん……」
すんごい凍てつく視線がロージアから放たれていた。
「妄想するのは結構ですが、鼻の下が延びすぎて作画が崩壊してますよ」
「作画!?」
ぐぬぬぬ、どうやらロージアには下心ありありなのを看破されたようだ。下手こいて殴られでもしたら本格的に作画崩壊しそうだし、邪念は一時的に取り払うとしよう。
0004 ◆オグリ(ミリオネック)
みんなを連れて来たじゃ~ん。早速チャットに参加してもらうじゃ~ん。
オグリがミーハー連中を誘導してきた。コアルームの壁に映し出されたスクリーンには若い男女の顔がズラリと並び、一同興味深そうに話し掛けてくる。
0005 ◆白鳥 (プラーガ)
ふむ、貴方が例の殿方ですか。まだお若いのに素晴らしい戦いだったそうで。
0006 ◆カイザー(グロスエレム)
しかも初戦だったと聞くぞ? 誰しもは敗北からスタートすると言われているダンジョンバトルにおいては異例だな。
0007 ◆メルティー(チョワイツ)
って事はGランクなの!? 凄いじゃないそれ!
0008 ◆水虫 (グロスエレム)
┗→0007 勝ってるならランクアップしてFランクになってるだろ。
0009 ◆アズラ(天使族の宮殿)
わたくしは当時の実況をしてましたからね~。まさかの結果に驚きましたよ~。あ、ワインありがと~です!
審判やってくれた天使族の女の子までいるな。いや、ワイン飲んでるくらいだし姉ちゃんと言った方がいいのか。見た目は中高生だけども。
それから水虫? 変わった名前――つ~か可哀想な名前だな。
0010 ◆ユーリ(ミリオネック)
それでそれで? 肝心のイケメンくんは何処に?
0011 ◆メイプル(アレクシス)
そうですそうです。私たちの目的はイケメンくんとのお喋りですです!
え? どういう事だ?
0012 ◆オグリ(ミリオネック)
んん? マサルは何も知らないのかじゃ~ん? 俺とのバトルで出してきたマサルの眷族が超イケメンって事で有名になったじゃ~ん。
0013 ◆マサル(ラーツガルフ)
はぁ? それって最初からジャニオが目当てだったって事か!?
0014 ◆オグリ(ミリオネック)
言いにくいけどそういう事じゃ~ん。
超絶悲報。会いたいあの人はジャニオの事だった……。つ~か誰だよ、ジャニオの存在を広めた奴は!
00015 ◆アズラ(天使族の宮殿)
そんな事より早くあのイケメンを紹介しちゃってくださいよ。せっかく私が周知してあげたんですから。
オノレかい……。
んで、アズラに続いて他の女の子たちも騒ぎ出したので、仕方なくジャニオを呼んできた。
0021 ◆ジャニオ(ラーツガルフ)
え~と、これで大丈夫かな?
0022 ◆ユーリ(ミリオネック)
凄っ! ホントにイケメンだ~!
0023 ◆メイプル(アレクシス)
凄いです凄いです! マジスゴですです!
0024 ◆メルティー(チョワイツ)
これは……騒がれるのも無理ないわ。
0025 ◆白鳥 (プラーガ)
確かに。顔立ちは大変整っておられますね。
0026 ◆カルミーツ(天使族の宮殿)
ふむ、中々の美男子ですね。可能ならばわたくしの側で秘書をやらせたいくらいです。
0027 ◆アズラ(天使族の宮殿)
でしょでしょ? 私も晩酌に付き合わせたいと思ったくらいだし。
天使族が増えとる……。
まぁ確かにこれまでジャニオのようなイケメンとは出会っていない。カルバーンも魔族の中ではイケメンな部類に入るものの、ジャニオには及ばない感じだ。
だがここで、俺の中に1つの疑問が降って沸いた。
0028 ◆マサル(ラーツガルフ)
そんなに欲しいならプロトガーディアンをカスタマイズすればよくね? 現にジャニオはそうやって造ったやつだし。
そう言った直後、あれだけ騒がしかったチャットがシ~~~ンという静けさに満ちた。
俺は疑問を口にしただけなんだが、やや間を置いて……
0029 ◆ユーリ(ミリオネック)
そりゃカスタマイズできるのは知ってますけどぉ……。
0030 ◆メイプル(アレクシス)
こんなイケメンにはできなかったと思うです。
0031 ◆メルティー(チョワイツ)
あ、もしかして今のプロトガーディアンってバージョンアップしてたり?
0032 ◆白鳥 (プラーガ)
なるほど。それは調べてみる必要があるかもしれません。
0033 ◆カルミーツ(天使族の宮殿)
いいえ、仕様に変化はありません。可能性があるとすればダンマス自身が特殊か、或いはダンジョンコアが特殊かのどちらかでしょう。
衝撃の事実発覚。普通はジャニオみたいなイケメンは召喚できないらしい。じゃあどうしてって疑問が沸いてくるんだが、思い当たるのは……
「はい? どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
ロージアと目が合っちまった。彼女は何も気にしてなさそうだが、俺の知らない秘密を隠し持っているのは確かなんだよなぁ。
「マサルさん、そろそろ明日に備えてお休みになられては?」
「おぅ、そうだな」
とは言っても素直に教えてはくれないし、ちょっと強気で押してみるか? 知り合ってからそれなりに経つからな。そろそろ――
「身体を許してくれても――とか考えてらっしゃいますか?」
「んげっ!? い、いやぁ……そげん事はなかとよ!」
「聞きなれない方言を確認。図星だったと確信しました」
「ちょ、ちょっと待っ――」
バチ~~~~~~ン!
「フギャオゥ!」
ロージアの秘密を聞き出せるのはまだまだ先になりそうである。
キャラクター紹介
ユーリ:
ダンジョンマスターでありながら魔法少女に憧れる、ピンク髪をショートカットにした少女。コスプレが趣味でダンジョンでは自作した魔法少女の衣装を着ているらしい。
ダンマスの中には志を同じくした少女がおり、総勢5名で魔法少女隊を結成しているのだとか。
貧乏性により、つい意地汚い素振りが見受けられる事もしばしば。そんな時はよく他の魔法少女に突っ込まれている。
ジャニオの存在に気付いてからはすっかりファンになってしまい、ファンクラブまで立ち上げてしまうほど。一応ファンクラブ会長を自称している。
まだ明かされてはいないが、実はマサルと同じ転生者だったりする。