冒険者ギルド
ラーツガルフの正当な後継者であるシルビアが帰還し、見事ブローナを撃破という知らせは瞬く間に広がり、国内の緊張は一気に和らいだ。
城から逃れていた貴族も続々と舞い戻り、これにて一件落着。シルビアたちとは別れ、改めて俺は冒険者としての一歩を踏み出すのであった。
――とは行かず、少々ゲンナリしながら城を後にしたんだなこれが。
その主な理由なんだが……
「フフフフフ♪ こうして愛しのジャニオ様と旅に出られるなんて、まるで夢のようですわ。城の生活にも飽々していたところですし、これはもう運命としか言いようがありませんわね」
「ハハ、ハハハハ……」
満面の笑顔を見せるブローナとは違い、公衆の面前で抱きつかれて苦笑いを見せるジャニオ。
どうしてこの女がいるのかって話だが……まぁあれだ、ご想像通りジャニオに夢中になっちまったわけだな。それで今朝になって出立しようとしたら、ブローナが涙ながらに「わたくしジャニオ様と別れたら、この先生きてはいけませんわ!」と訴えてきたからなんだ。それで仕方なく国民にバレないように変装させるって条件で同行を許可したって流れさ。
シルビアからしたら国民から反感をかった奴を追い出せるんだから万々歳だっただろう。
あ、もちろんお礼は貰ったぞ? 白金貨100枚という破格の大金をな。家が何軒も買えるほどらしいから、恐らくは千億単位なんだろう。
その見返りが……
「す、すまないがブローナ嬢、あまり過激なスキンシップは控えてもらえると有難いのだけど……」
「ふむ、ジャニオ様の言いたい事は分かりますわ。後ろの2人がわたくしたちに対して激しく嫉妬しないか心配なのですわね」
「いや、そうではなく……」
「でもご安心くださいジャニオ様。何人たりともわたくしたちの愛の絆は断ち切れませんわ!」
「oh……」
これなんだよなぁ。ファンが暴走するとこうなるっていう見本市だね。通行人まで若干引いてる感があるし、あれを反面教師にして俺とロージアとは清い関係を維持したいもんだ(←嘘つけ)。
「ところでだな、ブローナを操っていたダンマスなんだが」
「ああ、あのクソピエロですか。天気の良い日に庭を散歩していたら、どこからともなく飛んできたのですわ。拾い上げた瞬間わたくしの身体を乗っ取りやがった不届き者でもありますわね。今度見つけたらギッタギタにしてやりますわ!」
ブローナの全身から再びドス黒いオーラが立ち上がっている。次に再会した時がキャシュマーの最後かもしれないなぁ。
「そんな事よりジャニオ様。冒険者として活躍するのでしたら冒険者ギルドへの登録は必須でしてよ?」
そうだ。肝心な事を忘れてたぜ。
「ロージアは持ってるんだっけ?」
「はい。こちらが実物のギルドカードです」
ロージアのネームと顔写真が入ったプレートを見せてくれた。このカードは縁の色でランクが分かるようになっていて、白→青→銅→銀→金→黒→虹という順に強くなっていくらしい。
ちなみにロージアの縁は銀色で、ベテラン冒険者に匹敵するんだとか。
「あ~嫌ですわ~、そうやって自分のランクを見せびらかしてわたくしたちを見下してるのですわね。まったく、とんだアバズレですわ」
「…………」ピクッ
アバズレと言われた瞬間、ロージアの頬が僅かに引きつった気がする。
『マサルさん。この女はダンジョンに隔離して薬漬けにしてしまうのを推奨します』
『おいおい、ロージアまでドス黒いオーラが出てるぞ。気持ちは分かるが落ち着け。ジャニオをダンジョンに引っ込めたら勝手に付いてくだろうから、それまでは……な?』
『……仕方ありません。では私にプレゼントをください。キックボードの時みたいに。それで許して差し上げます』
プレゼントって言われてもなぁ。元の世界から付いてきたのはキックボードだけだし、それ以外って言われると――
あ、そうだ!
「ロージア、ちょっとキックボードを貸してくれ」
「構いませんが、どうするのですか?」
「な~に、ちょっとグレードアップをな」
キックボードを手に取り、脳裏でダンマスメニューを開いた。
するとやっぱり出てきたバージョンアップの項目が。
キックボード→電動キックボード
「選択完了――っと。ほら、前のより高性能だぞ」
コストは500ポイントだったが大した負担にゃならねぇ。
「さすがマサルさん。もうダンマスとしての風格が出てきましたね。ありがたく使わせてもらいます」
「そうしてくれ。つ~かどうせなら冒険者としての風格を誉められたいもんだな」
「それはこれからの努力しだいですよ。それよりも冒険者ギルドに到着です」
中央広場の一角にデーンと建っている大きな二階建て。ギルドの中には多数の冒険者が集まっており、パーティを募集してる者や地図を広げて相談している者、壁に貼られた依頼書を吟味してる者まで多種多様な行動をしていた。
「これだよこれ、なんつ~か雰囲気あるよな。こっちまで冒険してる気分になるぜ」
「ちょっとマサル、お上りさんみたいにキョロキョロしないで冒険者登録を済ませてくださいまし」
「お、そうだな」
急かすブローナに促されつつ空いているカウンターへと向かい、冒険者登録する旨を受付嬢に伝えた。
「いらっしゃいませ。冒険者登録ですね。ではこちらの水晶に触れてください」
「何だこれ?」
「これに触れる事で名前と顔が自動的に刻印されるんですよ」
へぇ、便利なもんだな。
「ではさっそくわたくしが――」
「――って、待てこら!」
「な、なぜ止めるんですの?」
ブローナは本気で分かっていないらしい。仕方なく受付嬢には聴こえないように小声で伝える事に。
「お前が触れたらブローナだってバレちまうだろうが」
「何か問題かしら?」
「アホ。お前の悪政で国民から反感買ってるのを忘れたのかよ」
「忍耐の弱い民を持つと苦労しますわね」
コイツ洗脳されてようがされてまいが変わんないんじゃ……。
「とにかく、お前の登録は無しだ」
「仕方ありませんわね……」
ブローナを説得し、俺とジャニオだけで登録を済ませた。ちなみにカードの色はというと、俺が白でジャニオは銀。微妙に納得いかないが、Dランクの魔物なら銀色は当然かもな。
「あら、ジャニオさんは銀色ですね。お若いのに凄いです!」
「フッ、そうかな?」マエバキラ~ン!
「は、はいぃ、もちろんですぅ! ジャニオさんなら直ぐにでもランクアップできると思いますよぉ!」ウットリ視線
「ちょっとそこの受付嬢、わたくしのジャニオ様に変な気を起こさないでくださいまし!」
「いいえ、恋愛は自由ですよ。小娘には分からないかなぁ? フフ」
「なっ!? 言わせておけば――」
「ちょいと待ちなぁ!」
ブローナと受付嬢の火花が飛び散る中、ドスの効いた声が割り込んできた。嫌な予感がするな~と思ってたら、案の定厳つい顔のオッサン連中がこっちに詰め寄ってくる。
「おぅ、そこのにぃちゃんよぉ。女ばかり侍らせていいご身分じゃねぇか」
「その上美人の受付嬢にまで手を出そうってか? あんま調子に乗ると痛い目みるぜぇ」
「痛い目……ですか? ボクは暴力に訴えるのは好きではないんですがねぇ」
「ほざけ! テメェも冒険者の端くれなら実力を示せってんだ。それとも何か? ギルドカードは小細工で、本来の実力は並以下だってのか?」
一見テンプレっぽいが、オッサン連中の矛先はジャニオに向いていた。それにイケメンでそれとなくモテそうなのが気に食わない外野の連中も「やっちまえ~」等と煽っている。
気に食わない。実に気に食わない。本来ならばジャニオの立ち位置は俺ではないのかと。なぜか蚊帳の外なのが大変腹立たしい。
とは言え眷族であるジャニオをボコるわけにもいかないしなぁ。何か妙案は――
「そうだ!」
「「「!?」」」ビクッ!
その場の全員が俺の声に驚き、皆の視線が集中する。
あ、驚かせちまったか。けどまぁいい。周りから凄いよマサルさん的な視線を受けつつ、受付嬢やロージアからの視線も一人占めする方法を思い付いたんだからな。
「おいオッサンたち。俺の連れにイチャモン付けるんなら俺が相手になるぜ?」
「はっ、お前がか? 冗談だろおぃw」
「テメェのカードは白だったろうが。俺たちゃ全員が銀色だぜ? やるだけ無駄だってw」
周りからドッと笑いが起こる。みんな俺が勝てないと思ってるらしい。だがダンジョン機能さえあれば余裕で倒せるし、何よりバカにされたまま引っ込むのは癪にさわる。
「ああ、なるほど。俺に負けるのが怖いんだな」
「……んだとぉ?」
「だから俺に負けるのが恐いから相手してくれないんだろ? それなら最初からそう言えっての」
「クッ……上等だテメェ。実力の違いを見せてやらぁ!」
オッサン共が挑発に乗ってきた。ならばとギルドから外の広場へと場所を移し、俺一人とオッサン4人が対峙する形に。
ギルドにいた連中だけじゃなく通行人もが何だ何だと集り始め、大勢のギャラリーが見守る中、オッサンの1人が前に出て口を開いた。
「タイマンなら俺がやってやる。手加減できる保証はねぇが、構わねぇよなぁ?」
あ~コイツらアレか。1対1で勝負すると思ってんのか。だったら残念なその頭に叩き込んでやる。
「何言ってんだオッサン。全員でかかってこいよ」
「……は?」
「まとめて相手してやるって言ってんだ。時間が勿体ねぇし、さっさと始めようぜ」
「こ、この野郎、後悔しても知らねぇぞ!」
オッサン4人が四方に分かれ、俺を取り囲む。そして全員が頷き合ったのを合図に一斉に俺へと殴りかかってきた。
――が!
ガツガツガツガツン!
「「「ギャァァァ!?」」」
4人が一斉に踞る。タネ明かしをすると、4人の進行上にトラバサミの罠を仕込んでおいたんだ。
こうなると後は簡単で、悶絶している4人を鞘でブン殴るだけで試合終了。オッサン連中は訳が分からないという顔をしながらも、負けを認めるしかない状況へと追い込んでやった。
「そ、そんなバカな……。俺たちが駆け出しの素人に、しかも4対1で負けるなんて……」
「も、もうダメだ、俺たちゃ解散だ……」
トボトボと寂しい背中を向けつつ立ち去って行く4人。まぁ相手が悪かったんだ、自分を責めるな――って聞いちゃいないか。
パチ、パチ、パチ、パチ
「ん?」
誰かが拍手をしながら近付いてくる。
「ビューチフーッ! とっても素晴らしい決闘だったよ。可能ならボクの私兵に組み入れたいくらいだ」
「それは遠慮しま――ってアンタ……」
なんと、拍手していた相手はあの貴族だった。
「ダメよ仮面じゃねぇか」
「ダダダダ、ダメよ仮面ちゃうわ!」
相変わらずだなこの人……。
施設の紹介
冒険者ギルド:
冒険者に効率よく仕事を斡旋するために作られた組織で、その活動範囲はイグリーシア全体に広がっている。基本的な流れは……
・依頼者が冒険者ギルドに依頼
↓
・ギルド職員が受理して依頼書を貼り出す
↓
・依頼書を見た冒険者が引き受ける
↓
・依頼を達成後にギルドへ報告
↓
・依頼者から預かっている報酬を冒険者へ
↓
・依頼者へ最終報告。この時に依頼が達成していないと判明した場合は、ギルドが責任を持って後日達成させる。冒険者が故意に達成しなかったと判断した場合は、後日キチンと事情聴取を行う。逃亡された場合には賞金をかけられる場合も。もっとも、他の冒険者やゴロツキにも狙われるため、そこまでして逃亡する者は少ないが。
また、殆どが国とは一定の距離を置いた中立機関となっており、万が一にも貴族等の権力者と癒着している事実が明るみに出れば、責任者であるギルドマスターには厳しい罰則が課せられる。噂では契約書によるペナルティが発動するとか。いつの間にかギルマスが代わっていたならもしかすると……
ちなみに冒険者にはランクというものがあり、詳細は以下の通り。
G=冒険者に成り立て。誰でも最初はこのランクからスタートする。
F=初心者冒険者。Gランクの状態で何か1つでも依頼を達成するとこのランクになる。大半は登録当日にFランクになっているのだとか。
Eランク=駆け出しの冒険者。何度か依頼を達成していると貢献度に応じて昇格させてくれるので、最短2、3日でこのランクになった猛者もいるらしい。
Dランク=手慣れた冒険者。冒険者生活がだいぶ板についた感じの風貌が多い。魔物の討伐も多数こなしており、ギルドからも一定の信用を得ている。
Cランク=ベテラン冒険者。この辺りから冒険者の強弱がハッキリしてくる。それなりの知識がないとこのランクにはなれない。国は地域によっては筆記試験必須になっている場合も。
Bランク=大ベテランの冒険者。ここまでくると名声のある冒険者となっているだろう。難しい依頼をギルドマスターから紹介されたりもするし、貴族や王族からの指名依頼も多かったりする。
Aランク=戦いのエキスパートであり、他の冒険者とは完全に別次元の扱いを受ける。国の専属として働く存在――つまりは勇者もこのクラスだ。