決めろ、ワンターンコンボ!
俺が魔物を召喚したと宣言しながらもフィールドには何も変化がみられない事を受け、クソピエロ――もといキャシュマーが鼻で笑う。
「ハッ、なんだよ、魔物召喚とかいいながらハッタリか? まぁいいや。ボクのターンって事で……やってしまえブローナ!」
「ファイヤーボール」
さっきと同じく俺に向けて火球を放ってきた。だが俺の考えが正しければ……
ボムッ!
「はぁっ!? 何してるんだよブローナ、2マス手前に着弾したじゃないか!」
「ブッハハハハ! そりゃそうだ。そこにクロコゲ虫がいたんだからな」
「な、クロコゲ虫だってぇ!?」
今ごろになって慌ててフィールドを確認するキャシュマー。俺やオッサンの前にはクロコゲ虫が配置されてるのに気付いたようで、テーブルに並んだ物を薙ぎ倒して怒を露にする。
キャシュマー:DP1570→DP1570.5
マサル:DP0
「ほら、メッセージでも告知されたろ?」
「クッソ~、妙な真似しやがってぇ!」
「生憎と召喚できる魔物に限りがあったんでな。つ~かお前の不注意をこっちに責任転嫁するのはみっともないぜ」
「う、うるさい! こうなったらコボルト、さっさと他のクロコゲ虫を倒してしまえ!」
ブローナが横に移り、背後のコボルト3体が弓矢を放ってくる。だが的が小さいがために命中するには至らず、クロコゲ虫は健在だ。
「クッググググ……このボクに対してふざけた真似を……」
「残念だったなクソピエロ」
「フン、まぁいいさ。どうせ最後はボクが勝つんだ。精々今のうちに優越感に浸っておくんだな。――ゴブリン共、お前たちの真ん前にいるクロコゲ虫を叩き潰せ!」
「「グギャギャ」」
キャシュマー:DP1570.5→DP1571.5
マサル:DP0
進行を妨げていたクロコゲ虫が2匹倒され、残り7匹となった。各々の配置は俺とオッサンを左右まで囲った6匹と、コボルトの左に置いた1匹だ。最後の1匹は移動を邪魔するために置いたやつな。
「はん、所詮はクロコゲ虫だな。これで2つのゴブリンユニットを前進させれるぞ」
2体編成のゴブリンを俺の進行上に移動させてきた? 俺としてはブローナやコボルトから狙われなくて済むからありがたいが……
いや待て、まさかコイツ!
「ケケケケケ! どうやら気付いたようだねぇ? そうさ、そこのゴブリンを倒したら再びお前は的になるのさ。倒したきゃ倒してもいいんだよ? ケケケケ!」
そういう手かよクソが! 下手すりゃゴブリンで消耗したところを狙い撃ちじゃねぇか。
「へへん、まだ終わりじゃないぞ? 今度はボクの正面にゴブリンナイトを召喚。更にトラップを1つ増やしてやるぞ」
キャシュマー:DP1571.5→DP771.5
マサル:DP0
これでキャシュマーの両サイドと正面がゴブリンナイトで固められたか。
けれどゴブリンナイトはEランクで決して倒せない相手じゃないし、何とかロージアで倒せれば…………と、この時の俺は思っていた。しかし次のキャシュマーの行動により、予想外に追い詰められた事に気付く。
「今、こう思っただろ? ボクが守備を固めたってな」
「違うのかよ?」
「ああ違うね。だって今から攻勢に出るんだからさ。――さぁゴブリンナイト、一歩前進するんだ」
俺から見てキャシュマーの右にいたゴブリンナイトが前に進む。すると直後、フィールドに警告音が鳴り響いた。
TRAP BEGINNING!
「え……自分で仕掛けた罠を踏んだのか? バッカなやつ!」
「ケケケケ! なにもトラップは直接的なダメージを与えるものだけじゃないんだよ。ゴブリンナイトが踏んだのは転移トラップ。これは仕掛けた側が好きな場所に飛ばせる装置なのさ」
「……は?」
「ボクが指定する場所は、シルビアの2つ隣のマスさ!」
シュン!
シルビアを護るために組んだ3人編成の兵士の隣に移動させやがった!
「グギャァ!」
「クッ、ゴブリンナイトがいきなり!?」
「わ、我々がいる限りシルビア様には近付けさせんぞ!」
「ケケケケ! 残念だけど、雑魚はお呼びじゃないんだよ。――さぁ、ゴブリンナイトのスキル【薙ぎ払い】だ。このスキルはダメージは少ないが、相手ユニットを横に弾く事ができるのさ!」
バズッ!
「「「ぐわぁっ!?」」」
クソッ、今のでシルビアの真横がガラ空きに!
「ケケケ! まだ終わりじゃないぞ? 通常ならキーとなるキャラ(この場所はシルビアとマサル)の近くには召喚できないが、自分の手駒の隣になら召喚可能なのさ」
「なんだって!? それじゃあ……」
「ご想像通り、ボクはシルビアの隣にゴブリンナイトを召喚するよ~」
キャシュマー:DP771.5→DP271.5
シューーーン!
「グギャギャ!」
「ひぃ!?」
「「「シルビア様ぁぁぁ!」」」
ゲイザーのオッサンと兵士たちの悲痛な叫びが食堂に響き渡る。どう考えてもシルビアがゴブリンナイトに勝てるビジョンが見えないからだ。
「さぁて、このまま一気に行きたいところだけど、残念ながら召喚したての魔物は攻撃できないんだよねぇ。つまり次のターンが最後ってわけさ。ケケケケケケ!」
くっそぉ……、好転したと思ってたのに全然ダメじゃねぇか。
「じゃあこれでターン終了だよ。どうせ次で最後だし、精々ボクを楽しませてみなよ」
TURN CHANGE!
「ケッ、テメェを楽しませるために戦ってんじゃねぇんだよ」
――とは言え、現状は思わしくない。むしろ大ピンチと言ってもいい。
シルビアの近くにはゴブリンナイトが2体もいるんだ。とてもじゃないが、1ターンじゃ排除しきれない。
「マサル様……」
「大丈夫だシルビア。俺は絶対に勝つ」
不安そうに見つめてくるシルビアに対し勤めて冷静を装う。そうだ、この状況を救えるのは俺しかいないんだ。こんなところで躓いちゃいられねぇ!
「…………」
再度フィールドを眺めて味方と敵の配置を確認し、各々のスキルもしっかり記憶。脳裏で何通りもシミュレートを繰り返すが……
クソッ、やっぱりシルビアを見捨てる事になっちまう。つまりこのターンで決着つけなきゃこっちの負けは確実だ。せめて俺だけでもクソピエロの隣に移動できれば――
そんな思考の中、ある1つのアイテムが脳裏にピックアップされた。以前ロージアにあげた物だが、共有アイテムとして反映されてるっぽい。
「そうか、コレがあるなら行ける!」
「んん? 何々? 何か面白い事でも考えついた? 是非ともボクに教えてよ、徹底的に粉砕してやるからさぁ。ケケケケケ!」
「ああ、すぐにでも教えてやるさ」
勝利への道筋は見えた。後はレールを歩くだけ――ってな。
「俺はジャニオを斜め後ろに移動させるぜ」
「了解です――よっと。ですがここからだとどこにも攻撃できませんよ?」
「いや攻撃の必要はない。代わりにお前のスキルを発動させるぜ。ターゲットは――」
「ブローナだ!」
「何だと!?」
「このスキルは直線上5マス範囲にいる異性を1ターン魅了し、自分の思い通りに操る事ができるんだ。しかもステータス大幅アップというおまけ付きでな。当然だが縦横だけじゃなく斜めも対象だからな?」
「チッ!」
「さぁやれ、ジャニオ!」
「はいはい、分かりましたよ。我がマスターの命令により――」
「イケメンスマイル発動!」
ジャニオが直線上にいるブローナへと向き直り、わざとらしくサッと前髪をかき上げ……
「やぁ、そこの美しいお嬢さん。1ターンという儚くも短いひととき、ボクと一緒に愛を語り合おうじゃないか」マエバキラ~ン!
「はいぃぃぃ、喜んでぇぇぇぇぇぇ!」ズッキュ~~~ン!
両目にハートマークを作り、うっとりとしてジャニオを見つめるブローナ。心なしか後ろにいるコボルトたちが何やってんだコイツみたいに見てる気もするが、そんなもんお構い無しにブローナへと指示を出す。
「ブローナ、ステータスアップした今ならファイヤーストームを使えるはずだ。あのクソピエロに一発かましたれ!」
「……まったく、ジャニオ様以外に命令されるなんて心外ですわ。今回は従いますが、次はありません事よ――ファイヤーストーム!」
「ギャァァァァァァ!?」
ブローナをキャシュマーのいる直線上に移動させて巨大な火柱を発生させた。斜めを含む隣接マスをも巻き込み大炎上。結果2体のゴブリンナイトは黒焦げになって倒れ、キャシュマーにもそれなりにダメージが入ったようだ。
「はぁはぁ……くっそぉ、よくもボクに対してダメージを負わせたな!? 100倍にして返してやる!」
「お~怖い怖い。怖いからロージアに魔法を撃ってもらうぜ。ロージア、キャシュマーに向けてアイスジャベリンだ!」
「了解です――アイスジャベリン!」
グサグサグサグサッ!
「うんぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「へっ、いい声で鳴くじゃねぇか。けど俺の攻撃はまだ残ってるぜ!」
キャシュマーにトドメを刺すべくあのアイテムを掲げた。
「俺は手元にあるアイテム――キックボードを使用する。このアイテムは対象を5マス移動させる事ができるんだ」
「ご、5マスも!?」
盛大に慌てるキャシュマーを横目に、俺はゲイザーのオッサンに向き直る。ギリギリだが5マスならオッサンでもクソピエロに届くんだ。
「俺はキックボードをオッサンに使用。移動先はキャシュマー、お前の隣だ!」
「はぁ!?」
クソピエロはかなりのダメージを負っているし、肉弾戦ならオッサンの方が遥かに強い。
「頼むぜオッサン!」
「おおぅ! 今こそ背中にできた傷を倍にして返してくれるわ。行くぞぉぉぉぉぉぉ!」
「ままま、待て、来るな、こっちに来るな~~~!」
オッサンがのっしのっしとキャシュマーの元へ詰めよって行く。奴からしたら地獄の処刑人のように見えただろうな。
「キャシュマーよ、シルビア様を危険に晒した愚、その身を持って償うがいい。――いざ、渾身のハルバード、刮目せよぉぉぉ!」
「ヒィィィ!?」
ズバァ!
「ギャァァァァァァ! か、身体が維持できないぃぃぃぃぃぃ!」
オッサンの強烈な一撃を受け、キャシュマーの全身にピシピシとヒビが入っていく。
「クソッ、クソッ、クソォォォ! こんなはずじゃなかったのにぃ。こんな事なら小娘なんかに魔力を分け与えるんじゃなかった!」
「フン、テメェの負けだクソピエロ。おとなしく断罪されるんだな」
「う、うるさい! こんな結果、ボクは絶対に認めない。こうなったら緊急脱出だ。持てる全ての魔力を代償にタクティクスバトルの破棄を宣言する! 覚えてろよクソッタレ共がぁぁぁ!」
「あ、コイツ待ちやが――くっそ~、逃げられたか!」
キャシュマーの全身が激しい光に包まれ、瞬きする間に消え去ってしまった。あのクソピエロ、堂々と敵前逃亡しやがったんだ。
悔しくて地団駄を踏む俺だったが、シルビアたちが駆け寄ってくる。
「ありがとう御座います、マサル様。我々の勝利ですね!」
「うむ、見事な采配であったぞ」
「けっこうギリギリだったけどな」
ホント勝てて良かったよ。シルビアを死なせたとあっちゃ、ラーツガルフの国民から恨まれちまうからな。
「う~む、せめてボクも私兵を引き連れて来ていれば苦戦せずにすんだのだが……。いやはや役に立てずに面目ない」
「気にすんなよカルバーン。もといダメよ仮面」
「だだだだダメよ仮面ちゃうわぁ!」
今さらバレらしても問題ないだろ……。
「お疲れ様ですマサルさん」
「ロージア、今回は無理をさせちまってすまないな。ロージアが魔法を使えなきゃ完全に詰んでたよ」
「フフ。では魔法習得プログラムを組みましょうか? 座学より厳しくいきますよ」
「……マジ?」
やっぱ男は剣振ってなんぼだな。うん。魔法はまた今度にしよう。
「それよりマサルさん。アレはどうしたらよいでしょう?」
「あ~アレか……」
俺たちとは離れた場所でピンクの空間を作ってる2人がいる。そう、ジャニオとブローナだ。
「ささ、どうぞジャニオ様、このステーキは絶品ですわよ!」
「いいのかい? ボクなんかが口にして」
「もちろんOKですわ! 足りなければすぐにでも作らせますわよ! さ、あ~ん♪」
「…………うん、凄く美味しいよ」
「お口に合ったようで何よりですわ!」
何なんだアレは……。
「なぁロージア、バトルは終わったしスキルの効果も切れてるはずだよな?」
「ええ、そのはずですが……」
「昔からブローナは面食いでしたからね。素でジャニオさんに惚れたのではないかと」
「さ、左様で……」
クソピエロには勝ったがジャニオには負けた気分だ。
ダンジョンバトルの紹介
タクティクスバトル:
魔物や仲間を使ったターン制によるバトル。移動数の制限、攻撃回数の制限によって行われるため、ダンマスによっては得意不得意が分かれる。
基本的にターン数の制限はないが、ローカルルールによっては設定可能。最終的に相手側のボスを倒せば勝利となる。
今回のバトルはマサル側が直接ダンジョンに出向いて行われたガチの殺し合いのため、悪魔族や天使族の審判は登場しなかった。従来のバトルには必ず審判が出てくる。