タクティクスバトル
突如として始まったダンジョンバトル。対戦相手はブローナ――――を操っている不気味なピエロ人形だ。
「あ、そうだ、一応自己紹介はしとくよ。名前を覚えずに死なれたらつまんないからね。ボクはダンジョンマスターのキャシュマー。ひとときの悪夢をキミたちに捧げるよ、ケケケケケケ♪」
得意気にケタケタと笑うピエロ人形に対し一連の流れを見ていたブローナの護衛たちは、一斉に異を唱え始める。
「待て! 我々はブローナ様に忠誠を誓ったのであって、貴様のような得たいの知れない存在に従うつもりはない!」
「そ、そうだ、ブローナ様の意思でないのなら、我々は降りる!」
武器を手離して投稿しようとする護衛たち。
しかし、ピエロ人形が許すはずもなく……
「フッ、バカだねぇ。お前らはすでにボクの手駒なんだよ、分かる? 手駒、手下、下僕、まぁどれでもいいけど、ボクの命令に従わないのならペナルティを下すよ?」
「フン、人形風情が何を偉そうに――」
そう言ってピエロ人形に掴みかかろうとする護衛たち――だが!
ピキーーーン!
「クッ!?」
「アハハハハハ! さっき向こうの女が丁寧に説明してただろう? お前らに自由はないんだよ!」
「おのれバケモノめ……」
「そんじゃお前らはペナルティだね。主人に楯突くバカ共は、まとめてDPに変換してやるよ」
シューーーーーーン!
「な、なんだこれは? 全身に光が――ウワァァァァァァ!」
「ヒィ!? か、身体が、消えていくぅぅぅぅぅぅ!」
10秒も経たないうちにブローナの護衛たちは消え去ってしまった。
「アッハハハハ! これでボクには還元されたDPが入ったよ。いや~正直ポイント0で始まるところだったし大助かりってやつだね~」
キャシュマー:DP0→DP3250
マサル:DP0
チッ、わざとらしく吠えやがって。どうせ最初からそうするつもりだったくせにな。
「さ~てと。護衛がいなくなっちゃったから新しく用意しないとね~。まずはゴブリンナイトを2体召喚して、ボクの両脇を固めるよ~」
キャシュマー:DP3250→DP2250
マサル:DP0
「更にゴブリン5体をナイトたちの前に召喚」
キャシュマー:DP2250→2200
マサル:DP0
「ボクの斜め後ろに居るブローナを横へ1マス離し、ブローナの後ろにコボルトを3体召喚しよっかな~」
キャシュマー:DP2200→2170
マサル:DP0
「こんなもんかな~。どう? さっきの護衛より優秀に見えるでしょ? やっぱ忠実な配下はこうでなきゃね~」
「へっ、結局はザコを寄せ集めただけじゃねぇか」
「ケケケケケケ! 本当にそう思う? まぁターンを進めたら嫌でも分かるよ。自分が誰に喧嘩を吹っ掛けたのかって事をね。じゃあボクのターンはこれで終わりだよ」
TURN CHANGE!
さて、俺のターンになったわけだが、馴染みのないバトルだし断然向こうが有利だ。こういう時は素直にアドバイスを受けるに限る。
そう思ってロージアを見ると、軽くため息をついてから真顔で念話を送ってきた。
『よろしいですかマサルさん。このバトルはターン制のため、リアルとは違ってじっくり考える事が可能です。焦らず確実にキャシュマーを追い詰めましょう』
『分かった』
『ではルールの説明ですが――』
そこから詳しいルール説明がなされるが、簡単にまとめると以下の通りになる。
・各々は1ターン1マス分(約2平方メートル)を移動できる。但し障害物がある方向へは移動不可。
・1マスには最大で4人を混載させる事ができ、2人以上が重なった部隊をユニット、1人のみの状態をピースと呼ぶ。
・隣接すると戦闘を仕掛ける事ができ、どちらかがロストする(死ぬ)まで終わらない。
・飛び道工を持ってる者は離れた場所からでも攻撃可能で、攻撃された側も飛び道工を持っていれば反撃可能だが、双方の攻撃は1回のみ。
・双方のキーとなる人物が死亡もしくは降参する事でバトル終了となる。
・召喚(トラップ設置も含む)を行った者はその他の行動を起こせない。
『――という感じになります』
『なるほどな』
ちなみに今回の場合はキャシュマーとシルビアがキーになるそうだ。俺としちゃロージアがロストしたら負けに等しいし、そもそも誰1人死なせるつもりはないけどな。
「お~い、お前のターンだけどどうした~? もう怖じ気付いたのか~? ケケケケケ!」
「ヘッ、調子に乗りやがって、俺のターンだ! 10人の兵士を3-3-4でユニット編成し、カルバーンとシルビアの前に配置。俺とオッサン、ロージアとジャニオを前進させてターン終了だ!」
TURN CHANGE!
ユニット編成をした際、それまで全身を揺すって笑っていたキャシュマーがピタリと動きを止めた。
「へ~ぇ、生意気にユニット編成までするとはねぇ。キミを少し侮っていたよ」
「今頃気付いたか? 生憎と俺らはそこらの一般人とは一味違うんでな。最終的にはお前が吠え面をかく事になるだろうぜ」
「ケケケケケ! そりゃ楽しみだ。じゃあボクのターンだねぇ。ボクもゴブリンを2-2-1でユニット編成するよ~。そんでもってコボルト3体もユニット編成だ」
俺の斜め前方に2編成、オッサンの進行上にも2編成、そしてジャニオの進行上に1体ゴブリンか。
しめたぞ、ゴブリンを編成したからブローナの正面はガラ空きだ!
――と喜んだのも束の間、ブローナが予想外の動きをしてきやがった!
「やれブローナ、その生意気な男にファイヤーボールだ!」
「何っ!?」
ボウッ!
俺目掛けて火球が真っ直ぐに飛んでくる。コイツ戦えないんじゃなかったよかよ!
「マサル殿ーーーッ!」
GUARD AGENCY!
ボォン!
「グッ!?」
「オッサン!」
「「「ゲイザー将軍!」」」
俺に当たる直前にゲイザーのオッサンが庇ってくれた。
「アッハハハハ! まだまだ続くよ~? 今度はブローナを斜め後ろに移動させ、コボルトの弓矢だ~!」
シャ――シャシャ!
「ぐおおおっ! ――くぅぅぅ……」
俺を庇ったがためにオッサンの背中には痛々しく弓矢が突き刺さる。
「ガードエージェンシーです。隣接するピースは互いに庇う事ができるのです」
「そうなのか。俺のせいでオッサンが……」
「問題ない。この程度、かすり傷にすぎんわぃ」
強がって見せるが、オッサンが無理をしているのは明らかだ。もう悠長に構えてる隙はねぇ!
「ハハッ! 良かったじゃないか、庇ってくれる味方がいてさ」
「クッ、テメェ……」
ケタケタとテーブルの上で笑うピエロ人形をすぐにでも殴ってやりたいという衝動に駆られるも、挑発に乗ってはダメだと自分に言い聞かせて拳を握りしめるだけに留めた。
それにこの結果を招いたのは自分の判断によるものだ。後悔するよりバトルに集中しないと。
「あ~そんなに睨んじゃって怖い怖い。怖いからトラップを仕掛けてっと。でもってゴブリンを前進させてターンエンドだよ」
キャシュマー:DP2170→DP1570
マサル:DP0
TURN CHANGE!
「俺のターンか」
正直状況は思わしくない。ブローナとの距離は5マス差な上に、ゴブリンがこっちに向かってきている。
俺から右に2マス離れたロージアから見ても、キャシュマーとの距離は4マス差か。何とかあのクソピエロに攻撃できないかと、ロージアへ念話を送ってみる事に。
『ロージア、魔法とかでピエロを攻撃できないか?』
『できなくはありませんが、そのためには2マス前にいるゴブリンが邪魔です』
あ~クソッ。攻撃魔法を使ってもゴブリンに当たっちまうし、その後はロージアが危険にさらされるのか。魔法が使えないはずのブローナが使ってきたんだ、クソピエロが使えないとは思えない。
『ピエロを攻撃するのは諦めるか』
『いえ、良い考えだと思いますよ?』
『え?』
『仮に私に対して攻撃魔法か使われてたとしても、隣にいるジャニオが庇ってくれるでしょうし(←鬼)。そうですよねジャニオ?』
『お、お嬢がそう申されるのなら……』
ジャニオは乗り気じゃなさそうだが。
『いいのかジャニオ?』
『ボクに拒否権があるとでも? 無いですよね? だったらお嬢に身を捧げますとも!』
自棄っぱちになってるように感じるが、まぁロージアの一大事にはジャニオに何とかしてもらおう。
『分かった。――というか、ロージアは攻勢にでるのに積極的だな?』
『言い忘れてましたが、ゴブリンを倒せばDPが手に入るからです』
『そうなのか!』
『はい。それにキャシュマーが仕掛けたトラップです。不用意に近付くよりは遠距離からプレッシャーをかけた方が安全でしょう』
『さっすがロージア。ならゴブリンは任せるぜ!』
ロージアの意見を取り入れた俺は、ゴブリンに向かって攻撃するよう伝える。
「では行きます――アイスジャベリン!」
ズガズガズガズガッ!
「「ギャシャァァァ……」」
2体のゴブリンに氷の矢が突き刺さり、絶命と同時にDPが増えたという告知がなされた――のだが……
キャシュマー:DP1570
マサル:DP0→DP10
「あ、あれ? 2体倒したのにたったの10ポイント?」
「あ~お前ってバトルに詳しくなさそうだもんなぁ。代わりにボクが教えてやるけど、手に入るのは倒した魔物の召喚コストの半分だからね~」
チッ、そういう事か。これじゃあゴブリンしか召喚できねぇ。せめてオッサンの前に召喚して盾にするか?
いや、ダメだ。オッサンの前に2体のゴブリンが迫ってるし、出したところで確実に潰される。それに……
「お~い、まだ~? 長考で思い詰めるのは身体に良くないよ~? ケケケケケケ!」
「…………」
確かこのクソピエロ、俺たちの事をベテラン冒険者として見ていたはず。むしろこのまま召喚せずに、ダンマスだと気付かせない方が有利に動けるんじゃないか?
――と思っていたが、そんなに甘い相手ではなかった。
「あ、一つ教えとくけどさ~、お前がダンジョンマスターだって事は気付いてるからね?」
「何っ!?」
「何をそんなに驚いてるのさ? ここはボクのテリトリーだよ? お前がさっき天井から矢を降らせたんだから、トラップを仕込んだって気付くに決まってんじゃん」
「クッ……」
欺くのは無理か。ならダンマスとして堂々と挑んでやろうじゃねぇか。
「俺はロージアとジャニオを前進させ、更に魔物を10体召喚し、ターンエンドだ!」
「「「え!?」」」
キャシュマー:DP1570
マサル:DP10→DP0
TURN CHANGE!
その場の全員からクエスチョンマークが浮かんでるのが見える。
「はぁ? 魔物だって? そんなのどこに居るってのさ?」
「さぁ、どこにいるんだろうな?」
さぁ、こっから反撃だ!
モンスター紹介
ゴブリン
:イグリーシア上もっともポピュラーな人形魔物であり、武器や防具で武装する知識を身につけているFランクの魔物。
多くが棍棒で武装しているが、旅人や冒険者が落とした剣を使ったりもする。
収集癖があり、珍しいアイテムを発見するとゴブリンキングへ献上するらしい。
ゴブリンナイト
:ゴブリンの上位種で、武器以外にもアーマーを着込んでいる事で見分ける事ができる。主にゴブリンの巣を警護する事が多いため、自ら人前に姿を現すのは珍しい。ゴブリンキングの護衛も勤める彼らはEランクの魔物である。
コボルト
:弓が得意なFランクの魔物で、見た目は二足歩行する大型犬と思っていい。直接戦闘は苦手なため弓が鍛えられたという逸話がある。