最終決戦! ラヴァースVSタワー
「クスクス♪ あの2人が幸せなのは嘘じゃないよ。何せ自分が死んだ事も分からないまま欲望を撒き散らしているんだからね。やはり大役職はいいわ、欲望の桁が一般人とは段違いだもの。これなら1000年は労せず過ごせそうかな~」
そう、皇帝と隠者はすでに取り込まれた後だった。しかもアイツらの欲望が影響して、塔の奴を不労所得者みたいにしちまった。
「あの2人はくれてやる。この世界には不要だからな。その代わり、俺たちを含むその他大勢は解放しろ。お前にゃあの2人の欲望だけで充分だろ」
俺としちゃ塔と戦う理由はない。このまま互いに不干渉ならそれでいいと思う。
しかし、当の本人は俺の要求を却下してきた。
「クスクス♪ それは出来ない相談かなぁ? 何故ならあたしは塔、欲望を糧とする大役職だから。そこに欲望が有る限り、あたしは狩り続けるよ? だからお兄さんたちの欲望も貰っちゃうね♪」
スッ……
コイツ、言うだけ言って姿を消しやがった。
「チィ! どこに隠れた? 姿を現せ!」
全方位に注意を向け、ロージアと背中合わせに奇襲を警戒した――
――はずだった。
「欲望の等価交換」
ドゴォ!
「うっっっぶ!?」
「マサル!?」
腹に強い衝撃を受け、胃の中身をブチまけないよう歯を食いしばる。だが件の塔は目の前で嫌らしい笑みを浮かべ……
「クスクス♪ ほら、お望み通りに姿を現してあげたよ? クスクスクス♪」
「……やっろぉぉぉ!」
スカッ!
叩っ斬ってやろうとしたが、すんでのところで姿を消される。
「また隠れやがって……」
「気をつけてマサル、下手に願望を伝えては、叶えるのと引き換えに代償を払うことになります」
「やっぱそういう事か!」
姿を現す代償が強烈な腹パンだったわけだ。となれば、皇帝と隠者の願望ならとてつもないダメージを食らったことになる。恐らく即死級の威力だっただろう。
『クスクスクスクス♪ ど~ぉ、手も足も出ないでしょ~? おとなしく願いを言っちゃいなよ。良い夢見せてあげるからさ~、クス♪』
「断る! テメェの好きにはさせねぇ!」
『ま~た強がっちゃってぇ。まともに戦えない上に逃げられもしない状況で、どうやってあたしを倒すつもり~? ここはあたしのテリトリーなんだから、あたしにかなうわけないじゃん。あ、言っとくけど、あたしに死ねとか言う願いは却下だよ~? あたしにだって選ぶ権利はありま~す♪』
クッ……厄介だ。さっきから気配を感じたり消えたりしやがる。この場所は塔そのもの。そう考えれば本体を出すのも引っ込めるのも本人しだいってか? クッソ忌々しい……。
「だがダメージを恐れてちゃ何もかわらねぇ。塔、俺の前から二度と消えるな!」
『クス♪』
『欲望の等価交換』
「アグゥゥゥ!?」
「なっ!? ロージアァァァ!」
ロージアの右腕が弾け飛びやがった!
「ロージア!」
「わ、私は大丈夫です、だから塔を……」
「そんなに流血させといて大丈夫なわけあるか!」
完全に誤算だった、まさかロージアに返ってくるとは。
「どういうつもりだ塔、今のは俺の願いだったはずだ!」
「クスクス♪ だってお兄さんたちは2人で恋愛でしょ~? だからどちらに返しても間違えじゃないよ~」
これじゃマジで迂闊に喋れねぇ。ロージアも心配だし、ここは早期決着一択だ。
「あれあれ~? 真剣な顔してどうしたの~? 打つ手が無くて絶望しちゃったのかな~?」
「それは違うな、絶望するのはテメェの方だ」
「はい却下。そんな願いは受け付けませ~ん」
「いいや、例えテメェでも神のギフトには抵抗できない」
「……神の……ギフト?」
神というフレーズに眉を潜ませたのを俺は見逃さなかった。大役職でも神には敵わないからな。
今まで散々助けてくれたこのギフト。これで決着をつけてやる。
「覚悟しやがれ塔、これが俺とテメェの――」
「決戦の舞台だーーーーーーっ!」
ゴゴゴゴゴゴ……
「え……嘘! あたしにしか出来ない空間改変が、行われようとしている!?」
驚愕する塔の目の前で部屋が解体されていき、霧が立ち込めた妙な空間が出来上がった。
「これで実力はほぼ同じ。散々舐めた真似してくれた事を後悔させてやる!」
カツン!
「え……」
意気揚々と殴り掛かったものの、俺の拳は塔の顔面に弾かれてしまった。
「クスクス♪ ひょっとして~、あたしと同じ実力に
なっちゃったりしてる~? だったら悲惨かもね~。だってあたしの物理的な攻撃力は0だもの、傷1つ付けられやしないよ~、クス♪」
そうか、だからコイツは襲ってきたりはしなかったのか。余裕ぶってるだけかと思ったら、トンだ勘違いだった。
「だが手がないわけじゃない。剣で斬っちまえば済むからなぁ!」
「クス♪ 物理改変」
パキン!
「んな! 剣が折れただと!?」
そんなバカな! ダンジョン機能で召喚した剣だぞ!? 簡単に折れるはずが……
「クスクスクス♪ そりゃそうだよ。だって剣が当たる直前に体をミスリル化したんだもん、鉄の剣なんかじゃ全然へっちゃらで~す!」
「チッ……」
直接の殺傷能力がない代わりに便利なスキルを持ってやがる。
「クス♪ その様子だと今度こそ打つ手がなくなったみたいだね。じゃあそろそろ本気でいくよ~。久々だから上手くいくかな~? ――えい!」
グワッ――
「な!? 突然壁が現れた!? ――ガフッ!」
突如として現れたミスリルの壁が勢いよくスライドしてきやがった。
「まだ終わりじゃないよ~」
ボコン!
「グハァ!」
今度は下からだ! 足元からミスリルの塊が飛び出して、俺を真上に打ち出しやがった。
「クス♪ これでトドメだね~」
「クッ!」
最後は真上からくると予想し、遠くなりつつある意識を強引に覚醒させる。そして……
「緊急脱出!」
ドゴォォォォォォン!
塔の後ろに転移した直後、俺の居た場所がミスリルの塊で覆われた。あのままなら確実に潰れていただろう。
「今度はこっちの番だ――レーザー!」
DPを惜しんでる場合じゃない。近代兵器で一気に決めるつもりでレーザーキャノンを設置した。
「え、壁に穴が――って!」
ジュゥゥゥ!
背後というのもあり、レーザーを回避しきれなかった塔の右半分を消失させた。
「グク……やってくれるじゃない……」
これまで見せたことのない悔しげな表現を作る塔。しかし観念するわけでもなく、それどころか体を修復させていく。
「仕留め損ねたか。次は直撃させてやる!」
「あ~もぅ最悪! カーバインガード!」
カーバイン素材、イグリーシアでは最大級を誇るレア物だ。それを何枚も重ね合わせた壁がレーザーキャノンを……
バシュゥゥゥゥゥゥ……
「ダメ……か?」
力及ばず、数枚を溶かしただけでレーザーキャノンは消滅。それを見た塔は勝ち誇った顔で挑発を繰り返す。
「はい残念、せっかくのチャンスも無駄だったねぇ? あれって、相当なDPを消費するんじゃないの~? あ~あ、勿体な~い。お兄さんって結構頭悪いって言われる方じゃな~い? あたしなら恥ずかしくて出歩けないなぁ。あ、バカだから恥って概念をお持ちじゃない? そっかそっか~、それなら――」
だが、突如として均衡は破られた。
「う……ぐ……ぐぇ……」
「!?」
なんだコイツ、突然苦しみ出したぞ?
「が……あぁ……よ、欲望……が……」
そうか、コイツ調子に乗ってカーバインなんてお高い素材を使ったから欲望の力が枯渇したのか。しかもここは決戦の舞台。外部から欲望をかき集めるのは不可能で、コイツにとっては補給を断たれたも同然なんだ。
「か、身体……が……がぁ……ぁぁ……ぁ……」
ついにはゾンビのようにボロボロと崩れ、グロテスクな様をさらけ出していく。
「フン、勝負あったな鉄。確かにお前は強かった。願いが叶うという噂を流し、生け贄を呼び込んだのもお前の仕業なんだろう。けどお前は知らなかったんだ、俺の持つ切り札を」
「……切り……札?」
「そうさ。このスキルは勝負の邪魔となる要素を省いてくれる優れものだ。だからこそ無敵だと勘違いしていたお前は足元を掬われた。そういう事だ」
「グ……クゥ……」
もう聴こえてるかどうか定かじゃないほど崩れちまってるが、これだけは言っておきたい。
「ま、決戦の舞台での現象は予想してなかったけどな、お前の敗因はそこじゃない。ロージアに怪我を負わせた時点でテメェの敗けは決まっていたんだよ。大事な存在を傷付ける輩をお前は見逃すか? 見逃さねぇよなぁ!? 分かったらとっととくたばりやがれ!」
「……ラ、ラヴァ……スめ……。貴様ら……だけ……は、絶……対……に……許さ……」
とうとう地面に這いつくばるしか出来なくなり、最後には砂となって散らばった。
「終わった……か」
ブゥゥゥゥゥゥン!
「――っと、決戦の舞台が解除されたってことは、塔を倒したってことで間違いなさそうだ」
グラッ!
「やべっ、足元が崩れる!」
塔を倒したんだから内部が崩壊するのは当たり前ってか!
「ロージア、急いで脱出を――って危ねぇロージアァァァ!」
地面が崩れ、そのまま落下しそうになったロージアの手を間一髪掴んでみせた。
「す、すみませんマサル、なぜか魔法の類いが発動しないのです。最初は使えたはずなのですが……」
まさか塔め、死に損ないの分際で余計な足掻きをしてきやがったか!
「とにかく安全なところに出よう。そうすりゃアイリに手当てしてもら――」
ガクン!
「なっ!? まさか俺のスキルまで!」
唐突に飛行不可となり、俺もろとも落下を始める。
「マサル……」
「大丈夫だ、どこか……どこかに出口が……」
しかし周りを見渡しても内部崩壊は起こしてるものの、外の景色は一向に見えてこない。しかも辺りは白いモヤだらけで、余計に出口を見つけ難くされている。
クソッ! 俺1人なら骨折してでも飛び降りて終わりなのに。負傷したロージアにまで同じ選択肢を取らせたくない。
「ごめんなさいマサル、私が足を引っ張ったばかりに……」
「バカ、んなわけあるか。何があったって俺がお前を護る! 護ってみせる!」
なぁんて強がってる場合じゃねぇ。このままじゃ地面に激突してジ・エンドだ。なにか、なにか手はないか? 使えそうなアイテムとか――――!
そう考えストレージを漁っていると、今の今まですっかり忘れていた懐かしいアイテムを掴み取った。
「これだ、ジェットキックボード!」
コイツはダンジョン機能で改良に改良を重ねた超レアアイテムだ。ロージアにあげたはずだが、恋愛になってからストレージが共有されたんだな。
「コイツでカッ飛ばす! ロージア、しっかり掴まって――いや、俺がしっかり掴んどいてやる!」
「はい!」
ドシュゥゥゥゥゥゥ!
無難に体勢を整えジェットキックボードに乗ると、ロージアに肩を貸しつつ急発進。崩れてくる壁や地面を回避しつつ地上を目指した。
「最後の最後で助からないかと思ってました。ありがとうマサル」
「何言ってんだよ。これもキックボードを改良するよう仕向けてくれたロージアのお陰だろ」
そう考えりゃ正しく運命だったとすら思えてくるな。
ゴゴゴゴゴゴ……
「マ、マサルさん、天井が!」
「天井? 天井がどうかした――かぁ!?」
だだっ広く広範囲に広がった天井が勢いよく落下してきた。まるで俺たちを狙い撃ちしてるかのように押し潰さんとしている。
「マサルさん!」
「クッソォォォ、塔のやつめぇぇぇ!」