ザ・スター
技術先進国として名高い魔導国家ガルドーラ。そこに件の塔が存在した。急ぎ現場に到着したものの肝心の塔は不可視の状態で、現地に集うエーテルリッツの構成員たちも「今の時間帯では中に入ることはできません」と口を揃えて忠告してくる始末。
「どうすりゃいい? 隠者も皇帝も既に中だ。夜まで待つとか無理だぞ?」
「「「…………」」」
俺の問いかけに一同黙り込む。そこへ……
「待つ必要なんてないわ、鍵を使いなさい」
天啓とも言うべき台詞と共に現れたポニーテールの美女。俺の仲間を引き連れたアイリだった。
「アイリ!」
「待たせたわね。アンタの仲間も全員連れてきたから感謝してよね」
アイリの後ろに視線をやると、力こぶを作ってみせるカルロスに優雅に剣を一振りするシュワユーズ、サムズアップをしてニカッと笑うクーガと力強く頷くシゲルが姿を見せる。
全員無事で何よりだ。これならどんな敵でも負ける気がしねぇ。
「――で、鍵ってのは何だ?」
「ザ・スターよ。資格者の五人がこの場に集えば、不可視の塔も視認できるようになる」
「なるほど!」
じゃあさっそく――というところで、ロージアから待ったがかかる。
「待ってくださいアイリさん。今この場に資格者は揃っていませんよ? それにザ・スターの内1人は隠者に捕らわれたまま。突破は不可能と思われますが」
「フフ~ン、普通ならそう思うわよね。でもこの場に揃っちゃってるのよ。そうよねグロウス?」
「グロウス!?」
グロウスが力強く頷いている。
そうか、そうだよ、どっかで聞いたと思ったら、グロウスって伝説の勇者パーティの1人じゃないか。今の今まで気付かなかった。
「うん、まずはグロウスで1人か。でも他のメンバーはどうだ? 勇者パーティは人間のアレクシス、獣人のミリオネ、エルフのエレム、魔族のリーガ、ドワーフのグロウスの五人構成だったはず」
「あ~それなんやけどな……」
クリスティーナが頬を掻きながら前に出る。
「実はウチ、勇者パーティの1人だったミリオネの子孫やねん」
「え、クリスティーナが!?」
「うん。これ言ったら毎回驚かれるねんけど、間違いなくミリオネの血を受け継いでるで~」
こりゃまた凄い偶然だ。たまたま知り合った仲間が勇者の子孫だったとはな。そう思っていると、今度はヒサシのパーティから1人の金髪幼女エルフが前に出てきて……
「わ、私、ネージュって言いますが、私もエレムの血を引いています」
「ええ? マジかよ!」
とんでもねぇ偶然だ。いや、ここまで来たら導かれたと思った方が正しいのかもしれない。
「もう3人揃っちまったな。後はアレクシスとリーガの子孫だが……」
「もちろんちゃ~んと連れて来たわ」
そう言ってアイリが後ろに目をやると、何故かジャニオにお姫様抱っこをされたブローナが運ばれてきた。どうやらコイツが魔族リーガの子孫らしい。
「もぅ、何なんですの? せっかくジャニオ様と素敵なティータイムを過ごしてましたのに」
「……そりゃ悪かったな。でも不本意ながらお前の力が必要なんだ」
「イ・ヤ・ですわ。なぜわたくしがアナタなんかに協力を……」
「はぁ……。何ならジャニオとのベッドインも許可してやる。だから――」
「そういうことは先に言うべきではなくて!? もちろん協力致しますわ!」
「…………」
相変わらずジャニオを餌にするとよく釣れるな。取り敢えずこれで4人だ。
何だジャニオ、自分に人権はないんですかと言いたげな視線は? もちろんお前に人権なんぞない(←鬼畜)。
「ほら、これで揃ったでしょ?」
「何言ってんだアイリ、アレクシスの子孫がまだじゃないか」
「ああ、それなら大丈夫。ミリオネ、エレム、リーガの子孫は全員アレクシスの血を引いてるから」
「ぜ、全員……だと?」
それってつまり……
「とんだハーレム野郎じゃねぇか! んだよ、他人がこんなに苦労してるってのに自分はホイホイと子作りしやがって! なんつ~うらやまけしからん!」
「けしからんのは分かるけど子作りとか生々しいこと言わない! ……コホン。それじゃ4人とも、そこに並んで強く念じて」
アイリの指示で4人が念を送り込む。すると……
シュィィィィィィィィィィィィ!
「「「おおっ!」」」
今まで不可視の存在だった塔が俺たちの前に姿を現す。その姿は雲を突き抜けるほどの高さを持つ、神々しく輝く白銀の巨大な塔だった。
「これが……塔……。生き物じゃないのか?」
「私も詳しくは知らないんだけれど、建造物でありながら意志があるみたいなことが古文書に書かれてたわ。大役職で唯一の人外よね」
節制ですら神だしな。物体ではないと考えれば確かにそうかも。
「マサル、それにアイリさん、感想はその辺にして、早く中に入りましょう。ザ・スターが念を送っている間は最上階の鍵も開いているはずです。それに敵も待ってはくれません」
「そうね、じゃあザ・スターの4人を残して先に進みまし――」
「おい貴様ら、そこで何をしている!?」
急に割り込んできた怒声で振り向くと、甲冑を着込んだ如何にもな一団が。ガルドーラの騎士団か。
「ここは神聖なる魔導国家ガルドーラの地だ。国の了承もなしに怪しげな物を建てるとは言語道断。貴様ら全員を侵略の意思ありと見なす、かかれぃ!」
「「「おおぅ!」」」
「ちょ、待っ――」
弁明の余地なしに騎士団が襲いかかってきた。そこにエーテルリッツの構成員が立ち塞がり……
「者共~、恋愛様をお護りするのだ、決して塔への侵入を許すな~!」
「「「おおっ!」」」
どうやら盾になってくれるらしく、数で圧倒しているのを生かして逆に騎士団を囲み始める。
「おい、お前ら……」
「行ってくだされ恋愛様! もはや我らの願いは恋愛様にしか達せられませぬ!」
「すまん、ザ・スターの4人も宜しく頼む!」
「お任せくだされ、命に変えても護り切ってみせましょう!」
もはや信者と化したエーテルリッツの連中を塔の前に置き、俺たちは中へと駆け込む。内部はだだっ広いフロアーとなっていて、磨かれた白い石が床と壁を埋め尽くしている。まるで大企業のエントランスのように見え、それが螺旋状に上へと続いていた。が……
「な、なんだこりゃ? エーテルリッツの構成員がそこら中に倒れてやがる」
何かの障害物かと思ったら構成員か。そんな彼らを見てリュウイチが悲しげに呟く。
「攻略途中で力尽きた構成員です。皆ミネルバの使命を果たそうと必死でしたから」
「使命ねぇ。命懸けで挑むほどか?」
「構成員の中には戦争で親を亡くした者も多かったと聞きます。そしてミネルバの願いは世界平和。命を懸けるのも頷けます」
「…………」
でもって世界平和を俺に託したと。柄じゃないんだけどなぁ。でもまぁ頼まれたからには責任もって叶えてやらないとな。
ググッ……
「……え?」
ググググッ……
「お、おいリュウイチ、コイツら生きてるぞ!」
「ええっ!? で、ですが負傷者は全員運び出されているはずです。ここにあるのは全て死体――」
ムク、ムクムク、ムクリムクリムクリ!
リュウイチが言い終わるのを待たず、死体だったはずの構成員たちが次々と起き上がる。そしてゾンビのように襲いかかってきた。
「おいおい、コイツらを倒せってか? 冗談キツイぜ!」
「でもやるしかないわ。可哀想だけど、こうなった以上は斬り伏せて行かなきゃ!」
「分かったよ!」
バッタバッタと薙ぎ倒していくアイリに続き、俺を含むアイリ以外の面子も同じように倒していく――のだが……
「おかしいわコイツら、斬っても燃やしても新たに沸いて出てくる!」
「んなバカな! 死んでいる以上に沸いてくるはずが――ああっ!?」
フと天を仰いだ俺の目に、多数の白いモヤが空中浮遊している姿が飛び込んできた。根拠はないがコレが死体沸きの原因なんだろう。
「人魂!? 何だってこんな場所に!」
「古文書に書いてあったわ、塔には欲望をかき集める習性があるって。この人魂みたいなのは人々の欲望が練り固まったものよ」
「んなこたぁどうだっていい! これじゃあキリがないんだよ!」
「私にあたらないでよ、対処法なんて書いてなかったんだから!」
剣を振るいながらも口喧嘩を始める俺とアイリ。そこへ意外な人物が人魂を吸収し始めた。
――って……
「ファントムメリー!?」
「なによここ、人魂が食べ放題とかまるで天国じゃない!」
天国と言いながら端から見た地獄絵図を展開していくファントムメリー。そりゃもう人魂を吸収するとかいう発想は普通なら出てこないわけでして、しかも満足そうに時おりゲップしたりするくらいにして、とにかく気持ち悪いからこっから離れたい!
「アンタら、ここは俺たちに任せてくれ」
「大丈夫かヒサシ?」
「見ての通りさ。メリーがいればこれ以上悪化することはない。だからマサルたちは先に進んでくれ。その代わり、リーザは必ず助け出してくれよな!」
「分かった、ここは任せるぜ!」
人魂と相性が良いヒサシたちを置尻目に、俺たちは先に進むことに。螺旋状の床は先を見通せないほど天井へと続いていて、敵が居なくても相当な時間が掛かりそうだ。
「今さらだが妙な構造だな。階層ごとの区切りはないのか」
「確かにそうね。それに攻略がだいぶ進んでいたらしいけど、いったいどんな敵と戦ってたのかしら?」
「又聞きですが……」
俺とアイリの疑問にリュウイチが答え始める。
「まるで欲望の塊のような化け物だと、包辛が――もとい法王が言っていました。それは人だったり魔物だったり、はたまた武具や食料といった物体だった事もあるのだとか。形容しがたい敵としか言いようがありません」
「つまり得たいの知れない何かが最上階に居るってのか」
「でもその前にやることが有るみたいね」
アイリの言うやることが開けた空間で待ち構えていた。
「まさかこんなに早く来ちゃうなんてね。お陰で計画を見直さなきゃならないじゃない」
「「隠者!」」
俺とリュウイチが前面に出て叫ぶ。リーザを抱えた隠者が下僕を侍らせて待ち伏せいていたんだ。
「正義に審判、それに法王に戦車に……ビガロまで居やがるのか」
「それだけじゃありません。倒したはずの3人と運命まで居ます!」
大役職が勢揃いかよ!
「接触できなかった悪魔は無理だったけれどね。でもいいわ、時間稼ぎさえできれば良いんだもの、貴方たちにはここで遊んでてもらうから」
ポイッ!
「おおっ――――とととと!」
この女、リーザを投げて寄越しやがった!
「じゃあね~♪ 人足先に塔は攻略しちゃうわね」
「あ、待ちやがれ!」
笑いながら去っていく隠者。追いかけようとすると、他の大役職が阻むように立ち塞がった。
「クッ、コイツら……」
倒したことがあるとは言え、これだけの数の大役職が相手だと激しい消耗は確実だ。
やむ無く相手をしようかと決めかけたところで、頼もしい声が俺たちの後ろから投げ掛けられる。
「ここは俺たちに任せて先に行け!」
「モ、モフモフのアニキ!?」
「時間が惜しいんだろ? コイツらとは俺たち眷族がキッチリと話付けてやるからよ」
「そうじゃそうじゃ。妾とて娯楽がないとやってられんわぃ」
アンジェラとモフモフアニキの台詞に他の眷族も頷いて見せた。ただまぁ……アンジェラにとっては娯楽なのかという部分に若干脱力してしまったが。
「分かった。ここは頼むぜ!」
気絶しているリーザをアンジェラに託し、俺とアイリを含む残りの仲間と共に先に進む。さっきの中間地点から倍の時間が経過したところで再び開けた場所が。
但し、さっきの中間地点とは決定的に違う箇所があり、広場の先に光り輝く裂け目が現れていた。そして裂け目の前には白衣を着た謎の中年男が佇んでいて、こちらに気付くと不適な笑みを浮かべ始めた。
「これはこれは皆々様、ようこそお出でくださいました。皆様との対面を心待にしておりましたよ」
「誰だテメェは?」
「おや、シゲルくんからは何も聞かされてないのですかな? すでにご存知かと思っておりましたが」
みんなの視線がシゲルへと向く。すると……
「……プロフェッサー竜崎。日本で数々の怪人を造り、裏社会を支配しようとしていた男。イグリーシアに転移してからは、エーテルリッツの裏側を担っていた男。信者たちからは――」
「――皇帝と呼ばれていました」
ついに皇帝との対面を果たした。