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アクティブダンジョンマスター・俺は外に出る!  作者: 親方、空からゾンビが!
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聖歌

「リーザを助けたいんだ、協力してくれ!」


 救出した冒険者パーティの1人であるヒサシが懇願(こんがん)してきた。俺としても隠者(ハーミット)を追いたいが……


『マサル、聞いてる!? 恋愛(ラヴァース)なら何かしらのスキルがあるでしょ!? 早く止めないと死者が膨れ上がって手遅れになるわ!』


 アイリからの必死な訴えでアレクシス王国も危機なのが伝わってくる。

 どうすればいい? どちらも後回しにはできないぞ? そう頭を抱える俺の手にロージアが優しく触れてきて……


「行きましょう。隠者(ハーミット)を追えるのは私たちだけです」

「……ロージア。よし分かった! ついて来いヒサシ、飛べない奴はウインドドラゴンに乗るんだ。(タワー)で決着つけてやるぜ!」

「ホントか!? ありがてぇ!」


 ロージアの後押しで隠者(ハーミット)の追跡を開始した。アイリには悪いがアレクシス王国は後回しだ、しばらくはあっちの方だけで頑張ってもらおう――と思ったら、どうやらロージアの思惑は別にあったらしい。


『アイリさん、アレクシス王国全体に声を届けることは可能ですか?』

『国全体に? 少し時間を掛けないとだけど、できなくはないわ』

『でしたらお願いがあります。私の声がアレクシス王国すべての人に届くよう手配してください』

『何か考えがあるのね? 分かった、すぐに取りかかるから!』


 国全体に声を? まさかとは思うが一気に全員を説得するつもりか? いくら声が届くにしても無謀なんじゃ……。

 だがロージアは、俺の予想を上回ることを実行するのである。


「マサル、貴方の協力が必要です」

「そりゃ構わねぇけど、いったい何をしようってんだ?」

「私の歌を届けます。歌に集中している間、私の手を引いてほしいのです。歌いながらの飛行は少々危険ですから」


 なぁんだ、それくらいなら楽勝だな。

 俺は早くもロージアの手を取り、力強く握りしめた。


「任せろ、絶対に離さないからさ」

「はい、信じてますよ」


 しかし端から見りゃ手を繋いでイチャついてるように見えるらしく、クリスティーナには「お熱いな~!」とか、ヒサシからは「リア充かよ!」とかのツッコミが入る。

 いや、イチャついてるんじゃないんだよ。これでもアレクシス王国を救うためにだな……



 うん、まぁ……チョットだけ見せつけたいっていう気持ちが無きにしもあらずだがな。まぁそれは置いといてだ。


『アイリ、準備はできたか?』

『もう少し待って、今各地にスピーカーを設置してるから』

『おいおい、急かしといてそれかよ』

『仕方ないじゃない! 一般人が同じことやるなら年単位でかかるくらいよ!? それを数十分でやるって言ってんだから、速すぎるくらいだわ』


 それは分かってるんだけどな。アイリなら四次元ポ○ットを持ってても驚かないし。


『今、タヌキか何かを連想しなかった?』

『してねぇよ。それより準備は?』

『こっちはOKよ、早く始めちゃって』

『分かった』


 ロージアに視線を向けると強く頷き、そっと目を閉じて透き通る美声を奏で始めた。


「辺りを~見渡せ~ば~、一人~ぼっちな~私、孤独という鎖~が~、私を縛り~つ~づける♪」



「…………」


 おっといかん、聞き入ってる場合じゃなかった。俺にはロージアの歌声を念話に変換してアイリに送るっていう重大な役目があるんだ。


「静寂をや~ぶり~、ア~ナタの声が~、Show――up! つ~つ~む~♪」


 尚も続くロージアの歌。心地よい歌声に心を弾ませていると、遥か前方から魔力反応を感知。無数の隕石が迫っていた。


「ありゃ隕石か!? なんだってこんな場所に……」

「隕石の魔法……マサルさん、あれは隠者(ハーミット)の妨害です!」

「チッ、あの女!」

「メテオは奴の得意魔法、全てを避けるのは無理です。迎撃しつつ進路を確保しましょう」

「それしかねぇようだな!」


 リュウイチに先頭を譲り、撃ち漏らした隕石を俺が消していく。ロージアに触れないよう細心の注意を払いながらな。ウインドドラゴンに乗ったヒサシたちからも援護射撃があり、危なげ無く隕石の合間を抜けていく。

 

「何とかなっちゃいるが、いつまでこの状況は続くんだ?」

隠者(ハーミット)の魔力が続く限りは収まらないでしょう。しかし奴の魔力はエーテルリッツの中で魔術師(マジシャン)に次ぐ二番目。簡単には枯渇(こかつ)しません」


 魔力切れは望めそうにないか。


「ところでロージアさん、先ほどから何かを喋ってませんか?」

「ああ、それな……」


 そうだった、ロージアの声を念話に変換してるから、端から見たら口ぱくしてるように見えるんだ。つまりロージアの歌声を聞けるのは俺だけ――


 ――じゃないな。アレクシス王国の連中も耳にしてるから、大勢に届いてるはずだ。と、一応リュウイチには説明しとくか。


「アレクシス王国の内乱ですか。世界(ワールド)が手を焼くほどとなると、簡単には収まらないのでは……」

「いや、大丈夫だろ」


 根拠はないが信頼している。自信があるからロージアも買って出たんだ。そう考えチラリと後ろを振り返る。そろそろ終わりそうかな?


「It's――sorry、きょぜ~つ~の~ゴメン~ねなら聞~きた~くない~、私が望む~のは~待たせてゴメン~というむ~かえ~の言葉(うた)、It's――party(パーリー)、ふ~たり~の出会いに~、グラス~をか~かげよ~、私の居場所~は~、貴方~のとなり~~なの~~♪」


 やがて歌い終えたロージアが目を開き、俺を安心させるかのように微笑む。


「スキルは完璧に発動しました。さぁ、邪魔な隕石を粉砕しましょう」

「おぅ!」


 その力強い台詞を証明するかのように、迫り来る隕石をことごとく粉砕。自画自賛になるが、これが大役職(リードロール)の実力ってやつか。


「見てくださいマサルさん、隕石の妨害が収まりつつあります!」

「ああ、隠者(ハーミット)のやつ、とうとう根負けしたようだな」


 やがて妨害は完全になくなり、俺たちを阻むものはなくなった。それと同時にアイリからの念話が脳裏に突き刺さる。


『やったわマサル、アレクシス王国内で発生していた全ての戦闘が強制的に終了されたみたい!』

『それって魔物との戦闘もか? だとしたら冒険者連中にはえらい迷惑だな』

『そんなの誤差の範囲よ。国が荒れてたら魔物どうこう言ってられないじゃない。もし抗議してきたらフルボッコにして、その腫れ上がった顔写真を世界中に晒してやるわ!』


 実に世界(ワールド)らしい力強いお言葉である。長いものに巻かれるという台詞は正しかったんだな、うん。


『それより気になる情報を掴んだのよ。反乱を呼び掛けてた奴らがエーテルリッツの構成員なのは想像つくわよね?』

『そうじゃないかとは思ってたけどな。ってまさか情報ってそれか?』

『違うわよ、もっと重要なこと。詳しくは仲間のシゲルから聞いてちょうだい』


 続けてシゲルからの念話が届く。


『マサルくん、そっちの皆は無事かい!?』

『大丈夫だ。もちろんクリスティーナもな』

『それは良かった。――が、残念ながら事態は深刻だ。今まで目立った動きを見せなかった大役職(リードロール)皇帝(エンペラー)が、多くの手下を引き連れて(タワー)に向かったらしいんだ』


 皇帝(エンペラー)。今回アレクシス王国に混乱をもたらした張本人らしく、ソイツに唆された貴族たちが一斉奮起したんだとか。しかしロージアの歌声の前にあっさりと終息してしまい、残されたのは戦意を喪失した貴族のみ。シゲルの前に現れた皇帝(エンペラー)は怨み節を吐き、手下を盾にして逃げ出したという。


『まさかとは思うがシゲル、皇帝(エンペラー)(タワー)攻略を狙ってやがるのか?』

『それは間違いない……と思う。これまで奴はミネルバを補佐する立場に徹していた。それがミネルバ本人が死亡したことにより本性を現したと言われれば……』

『つまり要警戒だな、分かった』

『それともう一つ。(タワー)への侵入は真夜中の僅かな時間でしか不可能なんだ。昼間の今では侵入できない』

『それはリュウイチから聞いてるぞ。でもアイツらだって条件は同じだろ?』

『いや、隠者(ハーミット)には時空を歪ませる禁呪がある。それを使えば……あるいは……』


 俺たちを差し置いて侵入できるってか!?

 気になった俺が振り向くと、一緒になって念話を聞いていたリュウイチがコクリと頷く。


「確かに、隠者(ハーミット)はそのような禁呪を持っています。しかし発動するには時間が必要で――」





「「時間稼ぎか!」」


 俺とリュウイチの怒声がハモる。あの女、決して根負けした訳じゃない。メテオでこっちの速度を落としつつ禁呪の発動準備をしてやがったんだ。


『どうやら隠者(ハーミット)にしてやられたようだね。とにかく、ボクらもアイリさんと共に駆けつけるよ。(タワー)で合流しよう!』

『ああ、頼む!』



 後手に回るのを避けるため、全力で(タワー)に向かう俺たち。何とか魔導国家ガルドーラに着いたので、グロウスたちを上空で待機させ、リュウイチの案内で俺とロージアは(タワー)のある場所へと降り立った。


「リュウイチ、(タワー)はどこだ? それらしきものは見当たらないが……」

「昼間は見えないんですよ。見えるのは真夜中のほんの一瞬。その隙に中へ入る必要があります――が、その前に()()()()()()をしましょうか」


 何せ(タワー)には隠者(ハーミット)の姿はなく、代わりにエーテルリッツの連中多数が待ち伏せていたからな。その数ザッと見渡しても4桁を超えている。だがこんな連中、今さら俺たちの敵じゃない。さっさと蹴散らそうと思ったが、連中は意外な行動に出る。



 ザザッ!



「――え、道を開けてくれた?」


 なぜか左右に分かれて邪魔しませんアピール。こちらが困惑していると、代表者とおぼしき男が深々と(こうべ)を垂れてきた。


「お待ちしておりました恋愛(ラヴァース)様。我々の命はお二人のもの。存分にご活用くださいませ」


 自ら奴隷宣言!? しかしそこにはエーテルリッツとしての複雑な思いがあるようだ。


「これまで我々はミネルバ様にお力添えをするためにだけに生きてきました。ところが肝心のご本人様はすでになく、代わりに皇帝(エンペラー)がのさばる事態に。しかし皇帝(エンペラー)がミネルバ様の意思を尊重するとは到底思えない。そこで――」



 ガバッ!



「お願いです恋愛(ラヴァース)様、どうか我々をお導きくだされ!」

「「「」お願いしま~~~す!」」


 土下座で頼まれた。さてどうすべきか……


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