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アクティブダンジョンマスター・俺は外に出る!  作者: 親方、空からゾンビが!
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帰還への第一歩

「敵船団なおも接近中、このままでは追い付かれます!」

「間も無く陸地が見えて来ます、それまで振り切りなさい」


 船員である兵士たちとシルビアの悲痛な叫びが響く。もう少しでラーツガルフ領に上陸できるというところで、海上に配備されていた船団に発見されてしまったんだ。

 聞けば海からの侵略は過去にないらしく、本来ならば海上の警備は極少数でしか行われていない。にも拘らず、遥か離れた海域まで軍が配備されているとは予測できなかったとか。


「ぐぬぅ……。おのれブローナめ、まさか帰還するのを見越していたとは……」

「敵ながらアッパレと言ったところでしょうか。あの能天気だったブローナの性格からは予想がつきませんでしたが、これまで猫を被っていたという事なのでしょう」


 まるで()()()と言われていた信長みたいだな。シルビアを追い出した時も、完全に不意を付かれたに違いない。


「シルビア様、左右にも敵船団が出現。包囲されれば逃げ場は無くなります!」

「クッ……」


 全身を震わせ唇を噛みしめるシルビア。ゲイザーのオッサンも悲痛な表情を浮かべ、すでに船内は敗北秒読みかと思われるほど暗い。

 だが俺だって無抵抗に負けるつもりはないぜ? 敵が策士だってんならこっちだって策で対抗するまで。


「心配するな。要は包囲されなきゃいいんだろ? 俺に考えがある」

「……マサル様?」


 この状況でどんな策をと思っただろう。まぁ俺の場合は策というよりダンジョン機能を使うって話なんだけどな。

 さぁて、後ろの一部範囲を砂浜に……




「――――変換!」


 突如として海面が砂浜へと変化し、それを見た兵士はギョッとした表情を見せる。シルビアやゲイザーのオッサンも同じ反応だが、一瞬驚いた後に船内が歓声に包まれた。


「す、凄いですマサル様! ブローナの船団が追跡出来ずに立ち往生してます」

「うぅむ、ダンマスとは実に興味深い戦いをするのだな。いやはや実に素晴らしい!」


 そうそうこれだよ、こういう反応がヤル気を促進させるんだ。でも勝って兜の緒を――って言葉もあるからな。俺はつとめて冷静にひたすら前へ進むよう進言した。


「さぁ、今のうちに陸地へ急ぐんだ!」

「了解!」


 これで後ろから来る船団は座礁して進めないはず。けどダンジョン機能とは言え効果は限定的で、時間が経てば元に戻る。長時間持続させる事も可能だが、それだとDPの消耗が大きいし、なるべくなら節約したい。

 しかしそうは問屋が卸さないのが世の常ってやつで、陸地が見えてきたところで兵士から悲痛な叫びが。


「シ、シルビア様、前方の陸地に対船砲が見えます!」

「なんですって!? すぐに回避を!」



 ドドドドドォォォン!



 ――という音と共に飛来する砲弾。これに当たっちゃ一溜りもねぇ。回避も間に合いそうにないし、ここは……



「――――壁生成!」



 ドム!



 迫る複数の砲弾のうち1つが直撃コースだったが、鉄の壁が阻んで海へと沈む。役目を終えた壁は間も無く消え去っていく。これにはシルビアたちだけでなく、ロージアからも称賛の言葉が。


「リヴァイアサンの時も思いましたが、よく咄嗟(とっさ)に動けましたね。普通なら初めて直面する海戦に戸惑うものですが」

「へへ、ビビってちゃ何もできないだろ? いずれは名高い冒険者になるつもりだし、こんくらいで苦戦してられねぇぜ!」

「マスター、冒険者とダンマスの両立は難しいのでは?」

「うっせぇ! ジャニオは歌でも歌っとけ!」


 その後も砲弾が飛んでくる度に壁で阻みを繰り返し、いよいよ効果が無いと悟った敵兵が弓を手に取り放ってきた。


「今度は弓かい。これなら土でいいや――生成!」



 ズズズズ……



「くそぅ、砲弾も効かないし弓矢も効かない、何なんだこの船は!」

「知らねぇよんな事! それより上陸させちまったら極刑もんだぞ!」

「やべぇよやべぇよぉぉぉ!」


 敢えなく落とされる弓矢に敵兵はパニック寸前。これなら楽に上陸できるな。


「シルビア様、マサル殿、下船の準備が整いました!」

「任せろ――って事で、こいつは俺からの献上品だ。受け取ぇぇぇ!」


 シュシュシュシューーーン!


「ゴゴゴ、ゴブリンだと!?」

「なんで魔物が急に!」


 突然のゴブリン召喚に敵の混乱は急加速。俺たちに構う隙を与えない。その間に全員が陸へ上がり、近くの森へと入り込んだ。


「偵察(クロコゲ虫)によると、敵は俺たちの追跡をできてないみたいだ。今のうちに城へ向かおう」

「森を抜けた先にある平原を更に東に進んだ所です。徒歩では数日掛かってしまいますが」


 その間に俺たちがやって来た事を気付かれたくないなぁ。平原歩いてたら嫌でも目についちまうし、一気に城まで乗り込みたい。


「秘密の抜け道――とかない?」

「あればとっくに利用しておるわぃ。せめて馬があれば1日で着くと思うがな」

「馬か…………それなら」



 シューーーーーーン!



「おお、馬が現れたぞ!」

「これなら一気に城まで行けますな!」

「ウホッ、いい毛並み♪」


 オッサンに言われて召喚リストを脳裏に浮かべると、やっぱりあったぜ、只の馬。なぜかゴブリンよりも高い20DP(ゴブリンは10)だったが、人数分をその場に召喚。軽く歓声が上がる中、ふと思った事を尋ねてみた。


「ところでさ、召喚しといてアレなんだけど王女は馬に乗れるのか?」

「はい。わたくしこう見えても乗馬は得意な方なので。失礼ですが、マサル様はどうなのでしょう? ダンジョンマスターとしての活動は短く、外出も控えていたと伺ったような……」


 そうだった。シルビアの心配してる立場じゃねぇよ……。

 しか~し! そんな中でもやはりロージアは頼りになる存在だった。


「マサルさんは私の後ろに。手綱は私が握ります」

「ロージアは乗れるん!?」

「もちろんです。乗馬をこなせないようでは一人旅はできませんもの」


 さすがハイスペック。何でも出来るんだな。それで得たロージアの後ろという絶妙なポジション。これを有効活用しない手はない(←断言)!


「ですがそれだとロージア(お嬢)の負担になるのでは? マスター、よろしければボクの後ろに――」

「バッキャロウ! お前はロージアの好意を無駄にするってのか!?」

「いえいえ、そういうわけでは」

「だったらジャニオ、お前は一人で乗れ。そして勝手に歌ってろ。その間俺はロージアと楽しいひとときだ。いいな?」

「願望駄々漏れですよマスター。まぁ命令には従いますが」



 話がまとまったところで各自馬に跨がり、城に向けて爆走開始――が、しかし、これでもかというくらいロージアの体に抱きついてる(←大げさ)と思うと、どうにも興奮が覚め止まない。



「あの……マサルさん? さっきから呼吸が荒いようですが、具合でも悪いのですか?」

「ぐ、具合!? いやぁ至って絶好調だと思うぜ?」

「ならよいのですが。少し顔も赤いようですし、無理はなさらないでくださいね」

「お、おぅ、任せとけ」


 ――と言いつつ手に力が入ってしまう。いやだってさ、ロージアのいい香りが鼻先を刺激するんだよ。しかも両手は胴体に――だろ? 加えてロージア自身も揺れるもんだから、俺の手も上に下にと忙しいったらありゃしない。


「あの……マサルさん? 手つきが少しイヤらしい気が……」

「イヤらしい? それは揺れが激しいからであって、決して透けブラで興奮度が増幅してるわけではない」

「そうで――はい?」


 ヤベッ、つい本音が出ちまった。だってマジで透けて見えんだもんよ! それに程よくいい香りがプラスして興奮度はMAXに!


「マサルさん」

「な、なんで御座いましょう?」


 ニッコリと微笑むその訳は……




 バチーーーーーーン!


「いだい……」

「マサルさんがふざけてるからです。下馬するまで待ってあげたのですから感謝してくださいね」

「ふぁい……」


 まさか半日後にビンタされるとは。


「つ~かさ、半日経ったんなら忘れてくれても……」

「ご不満ですか? なら次からは蹴落としますので、そのおつもりで」

「それだけはご勘弁を」


 顔が笑ってなかったし、次からは気をつけよう。やるならバレないように――だ(←まったく()りてない)。


「oh~、拳に沈んだ我がマスタ――oh~、けれど欲望とまらな~ぃ♪」

「不愉快なもん歌ってんじゃねぇ! ったくそんな事よりここどこだよ」


 平原に敷かれた街道から少し外れた雑木林のようだが、ここだと馬を走らせるには不向きだ。さっさと街道から突っ走った方がいいような気がするが。


「あのまま街道を進めば王都は目の前です。しかしこの人数では城門の突破すら厳しく、瞬く間に捕えられてしまうでしょう」

「シルビア様の言う通りだ。中に入るには一計を案じる必要があるぞぃ」


 ――となれば陽動して注意を引く必要があるか? いやいや、城の兵士が全員集まるわけじゃないし、それだけだと不完全だ。

 俺とロージアだけ(敢えてジャニオは外す)ならこっそり侵入できても、シルビアたちもとなれば全員は厳しい。何か妙案は……



「ダメよダメダメ。時間の掛けすぎはダメダメだよ~」

「だ、誰だ!?」


 不意に現れた男を警戒し、ロージアの前に歩み出る。口元を白いマスクで覆い、全身を銀ピカの鎧で武装した緑髪の青年だ。こめかみから角を生やしているのを見るに、この男も魔族なんだろう。

 そんな青年に対し、我らがゲイザー将軍が間合いを詰めていく。


「貴様は何者だ? この御方をシルビア王女と知っての狼藉(ろうぜき)か」

「ほぅ、()()()シルビア王女なんだね~」

「ちょ、オッサン、名前バラしてどうすんだよ!」

「ぬぉ、しまったぁ!」


 しまったじゃねぇよ。相手の青年も苦笑いしてんじゃねぇか。


「それで、アンタは何者だ? ()()()って言うからには王女を追って来たのか?」

「……おや、なかなか鋭い着目点。半分は正解だよ~。ちなみに名前はダメよ仮面」


 仮面て言うほど顔が隠れてないんだが、マスクしてるからまだいいのか? どうでもいいから突っ込まないけど。


「それで残りの半分は何だ? まさか優しさでできてるとか言わないだろうな?」

「? その台詞意味は分かりかねるけどね、ボクは王女の力になれればと思い、とっておきの情報を持ってきたんだよ~」

「なら勿体つけずに早く言えよ」

「チッチッチッ。ダメよダメダメ、せっかちな男は嫌われるぞ~」


 話してるたけでムカついてくるので、無言で続きを促した。


「知っての通り、現在のラーツガルフ魔王国はブローナが権力を握ってるよ~。でも反発した人たちもいてね、彼らは全員スラム街に押し込まれちゃったのさ~」

「スラム街というと、ここから北側に回って進めばスラム街の防壁に辿り着くぞぃ」

「イェ~ス。スラム街には外へ通じる地下通路があるからね~」

「へぇ、そんなもんがあるんか」

「もちろん。それが無ければ犯罪犯した闇ギルドの連中はだ~れも王都に入れないさ~」


 なるほどな。上手くできてやがる。だがお陰で中に入る事ができそうだ。


「貴重な情報をありがとう御座います、カルバーン殿」


 え? シルビアの知り合い?


「なっ!? いいい、いったい誰と間違ったのかな? ボクの名前ダメよ仮面。ダメな事にはとことんダメだし、ダメよ仮面さ」


 この動揺の仕方、間違いなくカルバーンってやつなんだろうな。つ~かゲイザーのオッサンといいコイツといい、魔族の男は抜けてる奴が多いんだろうか……。


「まったく、王女様もお人が悪い。貴女とボクとはこれが初対面さ」

「ですが舞踏会で何度も対面を……」

「それは単なる人違い。世の中には同じ顔の魔族が5万といるよ~」

「で、ですが……」

「いいですか王女? 今のボクはダメよ仮面。それ以上でもそれ以下でもない。余計な詮索はダメダメさ」


 仮面すらしてないんだから、それ以下なんだよなぁ。


「とにかく、闇ギルドには既に話してあるから、安心して使ってくれたまえ」


 ――というカルバーンの計らいを頼り、俺たちはスラムの裏手側に回ることとした。


キャラクター紹介


ダメよ仮面

:どこの誰だか知らないけれど誰もがみんな知っている――なぁんて事はなく、一部の者はアノーストン公爵家の子息だという事を知っている。

 とある人物からシルビアが帰還したという情報を掴み、マサルたちに接触してきた。

 【ダメよダメダメ】が口癖な好青年で、本名はカルバーン・アノーストン。



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