婚約者に「鏡を見てから、出直してきてくださる?」と言われたので…
小説家に『なろうラジオ大賞3』応募作品です。
テーマは鏡
婚約者との月に一度のお茶会。僕は、この日をとても楽しみにしている。
近況を語り合う至福の時間。彼女の話はいつまで聞いていても飽きる事はない。相槌を打ちながら、可愛い笑顔を見つめ続ける。
でも、幸せな時間は、この言葉で終わりを告げる。
「鏡を見てから、出直してきてくださる?」
お茶会の時間が半分ほど過ぎたあたりで、最近必ず彼女に言われるんだ。
「では・・また」
嫌われたくない僕は、名残惜しみつつ席を立つ。
そうして、帰宅後自室に戻り、鏡の中の自分を見る。特に変わった所はない・・と思う。
眼光が鋭いので、初めて会う人には怯えられる事があるが、彼女と僕は幼馴染。昔、好みの顔だと言われた事もある。大丈夫なはずだ。鏡を見ながら、毎回自分に言い聞かせていた。
ただ、こう何度も続くと何か悪い所があるのではないかと不安になる。もしかして、お茶会の時の僕の表情が気に入らなかったのか?
僕らは十五歳になり、来年から学園に通う事になる。今のうちに問題は解決しておかないと。彼女との学園生活の為に、僕は考えた。
次のお茶会の日。また、彼女は言う。
「鏡を見てから、出直してきてくださる?」
言われた僕は、準備していた物を従者から受け取る。
「今日は、手鏡を持ってきたんだ」
そう答える僕に、驚いた彼女は瞳を大きく見開く。いつもと違う表情を見せてくれる可愛い彼女を視界に入れつつ、僕は鏡を見た。
そこには、眼光の鋭い不機嫌そうな顔はなく…柔らかく微笑み、目元が下がり口が緩んだ僕の顔があった。
「僕は君の前で、いつもこんな顔をしていたんだね」
普段と違いすぎて、自分でも驚いた。これは、緩みすぎだ…少々落ち込む。
「嫌…ではないのよ?ただ、慣れなくて…」
彼女の表情が変わった。
「嫌でないなら、慣れてくれると嬉しいな。でも、僕は君のそんな顔を見るのも好きだよ」
僕は彼女に手鏡を向けた。顔を耳まで赤くして、眉を吊り上げ、難しそうな顔をした彼女が鏡に映る。
「待って!これは私じゃないわ」
慌てて僕から手鏡を奪い取り顔を隠す。
あの言葉を言う時、君は今と同じ顔をしているんだよ?
大好きな彼女が、恥ずかしがるだろうから、これは内緒にしておこう。
婚約者に「鏡を見てから、出直してきてくださる?」と言ってしまうのです・・
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少女視点の物語も書いてみました。
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