【第1話】視線
「んん…もう朝…支度をしなくては…」
小鳥の鳴き声とともに目を覚まし、こう呟きながら、フリルのついた可愛らしいベッドから降りてきた少女の名は、スカーレット・ライト。
宝石商の娘である。彼女はまだ16歳で、イギリスでも有名な寄宿学校に通っている。
幼いころに母が病死してからは父と二人で生活している。
時折、自宅の宝石店を手伝ったり、地下の金庫室などに立ち寄って宝石を眺めたりしており、人一倍宝石に詳しく、宝石が好きな少女である。
ネグリジェから普段の私服へと着替えを済ませ、髪を整えて自室を出る。
ついた場所はリビングで、すでに父親が食事を食べながら待っていた。
食事などの家事はいつもお手伝いさんがしてくれている。
「おはようございます、お父様。今日はずいぶんとお早いのですね。」
「ああ、スカーレットおはよう。今日はなじみの貴族からの商談が入っていてね。だからすこし早く店のほうに出るけど、お前は遅れないように支度して学校にいきなさい。あと、昨日の人攫い事件、まだ犯人が捕まっていないから念のため早く帰ってきなさい。」
「わかりましたわ。ではわたくしも朝食をいただきますわね。」
父親との会話を終えて、いつものように朝食をいただく。家の食事は自分たちの好みに合わせたものを栄養が偏らないように作っているだけあって好き嫌いもなく、健康的な食事だ。
朝食を済ませ、支度をして今日も学校へ行く。
今朝は珍しく晴れており、傘は必要なさそうだった。
眩しい太陽の下を、学び舎に向かってスカーレットは駆け出して行った。
行きついた先は、お城のような見た目の女学校だった。貴族やお金持ちだけが通える場所だ。
お嬢様の学校ということもあり、やはりリムジンのような車で来るもの、タクシーで来るもの、送迎バスで来るものなど、お嬢様学校らしい通学模様だった。
門の前には生徒会や先生方が立っており、毎日挨拶をしている。スカーレットも挨拶を返して学び舎の中へと足を運んだ。
クラスの中に入り、自分の席へとつく。
ふと、いつものように隣の席の友人が話しかけてきた。
「スカーレット、おはようございます。今日は珍しく晴れていますわね。」
「おはようございます、グレイス。えぇ…なかなか珍しい日ですわね。こんな日は、何か良いことがありそうですわね。」
グレイスと呼ばれた少女は、スカーレットとは一番仲が良く、昔からよくスカーレット宅の金庫室に一緒に入って怒られた仲だった。
「本日も金庫室へ行かれるんですの?」
「えぇ、本日もそれを楽しみに授業を受けようかと…」
スカーレットは冗談交じりに微笑み、放課後の楽しみに思いを馳せた。それと同時にショートホームルームの開始のチャイムがなり響き、二人は前を向いた。
午前の授業を無事に終えた、昼休みのことだった。
昼食の際、やはり昨夕の人攫い事件のことでもちきりだった。クラスの大半がその話をしており、楽しい昼休み、というような雰囲気ではなかった。
スカーレットのグループでもその話をしていた。
「昨日の人攫い、まだ捕まっていないんですってね。」
「しかも攫われた被害者の方、私たちと同じくらいの歳だそうよ。」
「怖いですわね…早く捕まってほしいですわ…」
そんな話をしていると、廊下を見知らぬ少女が先生方と歩いているのが見えた。
しかし、それに気づいたのはスカーレットだけだったようで、ほかの生徒は皆昨夕の事件の話を続けていた。
スカーレットも関係ないと思い、視線を学友たちへと戻した。
その後、午後の授業も無事に終え、放課後になった。スカーレットは部活動には所属しておらず、すぐに帰宅できる。楽しみのために急いで支度をし、教室を出る。
友人や先生方へ挨拶を交わしながら足早に自宅へと向かう。
町の中を歩いていると、ふと誰かからの視線を感じた。昨日のような気味の悪い感覚がスカーレットを襲う。
見渡してみるが、そのような視線を向けている主は見つけられなかった。
スカーレットはさらに足早に自宅へと向かった。
幸運なことに自宅は学校からも近く、それ以上何も起こることなく自宅へとたどり着いた。
不安をかき消すように金庫室へと向かい、重たいその扉を開けた。
そこには煌びやかで美しく、高貴な宝石たちが所せましと並んでいた。
そこに並ぶ宝石たちはすべて、父が仕入れてきたものである。
この店は100年以上続く老舗宝石店。長い年月をかけて宝石を仕入れてきたため、年代物から最近発見されたようなものまで、さまざまな石が並んでいる。
ここにいると、自分も輝いているような気さえしてくる。一日の終わりの癒しの場所であり、限られた人間しか立ち入ることのできない特別な場所だ。
スカーレットのお気に入りは、自分の名前の由来となっている深紅色の宝石である。
中でもルビーは一番のお気に入りでだ。
ルビーにはたくさんの石言葉があり、どれも自分の身を守ってくれるような言葉ばかりで、お守りとしてもよく用いられている。
現にスカーレット自身もお守りとして普段からネックレスなどの宝石として用いている。
スカーレットは一通り見て回った後、ルビーのある場所へ行き、
「やっぱりあなたが一番ですわね…どうか、わたくしを守ってくださいな…」
と、その宝石に触れながら呟いた。
事件にもかかわることなく、何事もなく過ごせるように…と。
その晩、スカーレットの願いも虚しく、昨日と同じ、人攫いが起こったという。
※2話以降に出てくる物語に付いてほんの少しだけ触れております。ご了承ください。
はじめまして。綿貫熊猫と申します。
この度は、「宝石商と妖」を閲覧頂きまして、誠にありがとうございます。
今回、久しぶりに小説を書き、何年かぶりにWeb小説に投稿しようと思い立ち、初めて小説家になろうに投稿させて頂きました。
作者は現在、学生が本業ですので、更新は遅くなるかと思われます。ご了承ください。
前置きはさておき、作品の話に移りたいと思います。
この「宝石商と妖」は、主人公が宝石店の娘スカーレット・ライト、準主人公の妖狐の螢(2話で出てきます)、時代背景・舞台が現代・近代のイギリスで、たまに日本の異世界のような場所が登場する...という形で物語が進行していきます。
とある事件をきっかけに少女と妖狐が協力して事件解決に向かうという話になっていますが、このお話を考えたきっかけが、単なる作者の趣味というのもありましたが、昔読んだ少女漫画が宝石を題材にした作品で、そこから宝石が好きになり、いつかは宝石の話を書きたい、と思い、現在形になりました。
作者は絵も一応描けるので、いつかは挿絵などかければなぁと思っております。キャラクターの設定なども追追紹介していければとおもっています。いずれそういった絵の職業につこうとは思っていますが、まだプロではないので期待はしないでください(笑)
2話までは既に出来上がっておりますので、近日中には上がります。もし見てくださる方、待ってくださる方がおりましたら、それまで少々お待ちください。
それではまた。