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皇帝の剣と姫君  第二部  作者: 夏川まさむ
一、  夜宴の客人
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 ユルフレーン家の馬車は、行きと同様に会話なく静かだった。

 暗い街路の景色が車窓に流れる。

 大事を前にした緊張ではなく、固い沈黙が車内にあった。主人の心情を心得てローナも喋らない。

 ラーナッタは押し黙ったまま、ユルフレーンの別邸に帰っても口を開かなかった。

 夫人は居間に続く廊下をすたすたと歩き、灯りの燈った部屋に入るとぴたりと足を止めた。仮初めの祖母の背中についてきたマリーシアが、不安になって口を開こうとしたその瞬間、ラーナッタは厳しい顔をして振り向いた。その表情に気圧されたマリーシアは、息がつかえて発しようとした言葉が咽喉の奥に落ちていった。

 確かに勝手なことをした。ユルフレーン家の命運を左右する場で、権力争いの軸になる人物と勝手に親しげにして見せたのだ。なにか自分ごときでは計り知れない動きに繋がるかもしれない。でも、それがいいと思ったのだ。

 だから自分を信じて、マリーシアは伏せかけた瞳をまっすぐ祖母に向けた。

 すると突然、がばっ、という音でもしそうな勢いで、ラーナッタはマリーシアを抱きしめたのだった。

「お、お祖母さま?」

 ふくよかな感触に包まれて困惑するマリーシアの耳元に、掠れてくぐもった声が届く。

「馬鹿な子……」

「お祖母さま……」

「馬鹿な子……こんな家、あなたの隠れ蓑にして、使い捨ててしまってもいいの。後継者がいなくなれば、どうせは陛下のお手元に領地も戻る。いまさら衰退した家門よ。くだらない争いに、あなたが命をかける必要はないの」

 ラーナッタは、孫娘の頭を優しく撫でた。

「私は、恩返しがしたいの、お祖母さま。だから……」

 マリーシアは自分を包んでくれるぬくもり、頭をただ撫でてくれるその心に応えたい。その気持ちが伝わるように、マリーシアも祖母を抱きしめ返すのだった。


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