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非武装連帯!ストロベリー・アーマメンツ!!  作者: 林檎黙示録
#1 ウメコ・ハマーナットの長い一日
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ウサギを狙うもの

いたるところ、どこもかしこも虫だらけの地、その名もスカラボウル。ただしその虫が、この土地では立派なエネルギー源だったのだ。虫捕り要員のウメコは、乗用人型二足歩行メカ、通称「バグモタ」を操縦して、今日もより高い燃料となる虫を捕るため派遣されてきたが、そこで遭遇したのは珍しい、虫のいない空間、「虫の切れ間」だった。ただでさえ稀な現象であるそこで、レーダーはなんと、絶滅危惧種の蝶の発見を告げた・・・・・・!

 

 ウメコはふと気になりバイザーをあげ、コンソールの虫群レーダーに目をやった。切れ間が変化しているようだった。「あのさ小梅、さっき切れ間を見つけたときの位置情報と、現在(いま)のを比べて出してみてくんない?」


『オヤスイ御用サ』


 トランスヴィジョンに、色分けされて表示された切れ間が、形を少しずつ変えながら分刻みに移動する経緯がカシャカシャ映し出される。


「蝶につれて切れ間が動いてる・・・」


 あの迷信はまったくの出鱈目ではないんだ。蝶にクラック虫どもが近づかない科学的根拠は確かにあるのかも知れないが、ウメコは考えてもわからないことは棚上げにする。それにしても、とウメコはもう一方のアタマで思考を続けた。あんな優雅に地上を舞っている蝶ちょが、とても音楽を奪いにやってきたようには見えない。すでにその飛んでいること自体がさながら五線譜の上を舞っているようだし、むしろそんな蝶ちょの美しさに見とれた下賤な虫どもが固唾を飲んだ静けさと、奴らの分際ではとても畏れ多くて近づけないという態度にさえみえる。そうでなければ、やっぱり虫()きの魔女が現れて、それは降臨なんておこがましいものでも、ただの気まぐれで通りかかったのでもなくて、あの蝶ちょの下僕としてついてきたのか、先触れとしての役目で、卑しい雑甲虫どもの群がりを、蝶ちょのお通りのためにせっせと掃き清めて道を開けているんじゃないのか。――蝶を見たら音楽を止めよ、って、この世界の女王のお通りだから静粛にしろ!ってことなんじゃないのかな?――


 そんなことをおぼろげに考えながらウメコの操縦する、バグモタ・クラックウォーカー<小梅>の頭部のウサ耳が、何かを察知してわずかに動いた。


 バイザーを下げたウメコが、その目に再び小梅の視界を直接投影させて、蝶に狙いをさだめ、網を振り上げ、アクセルを踏みこもうとした、そのとき、ジジジジジー!!と耳をつんざく警告音が再びコクピット内に鳴り渡り、トランスヴィジョンは赤く縁どられた。「なんだよ!?」


『無登録、所属不明くらっくうぉーかーガ近クニニイルゾ!気ヲツケロ!』


 小梅はウメコのバイザー内視界に、小梅の立ち位置を中心とした半径50m圏内のマス目を透かして映した。その端の位置に点滅する赤い点がそれらしい。


「アンチネッツの外労(げろう)どもか!」――まったくトランスネットもあてにならない。こんな捕虫圏の真っ只中に堂々とのさばらせるなんてさ。じっくり捕虫もままならないってんだ!――


 捕虫圏内のこんなところに現れる、管理局に登録されていない非合法バグモタなら、密猟者か、バグモタ狩りかの、いわゆる外労連(げろうれん)と呼ばれる、アウトネッツとアンチネッツの無法集団のどちらかだろうが、連中が蝶に目をつけたのだとしたら・・・!?その赤い点滅は明らかに中心に向かっている。「こっちに来るな・・・」


 とりあえず防衛処置の一つとして、<磁気虫(マグバグ)>と呼ばれる電波受信妨害物質を放出した。これもバグパックにその放出口があった。これは電波を攪乱(かくらん)させる、めくらまし効果がある。トランスネットに繋がっていないはずの非合法者からなら、この効果が持続する間に逃げることができた。過去に何度か、得体の知れない無登録バグモタの出現を確認したとき、ウメコはこれで身を守っていた。が、ここは切れ間だ。いまさら<磁気虫(マグバグ)>を播いたところでもうたいして意味をなさないかも知れないけれど。


――まったく、なにが起きるか、わからないな――そうして、虫霧煙幕(チュームエンマク)の類をいっさい所持してこなかったことを痛烈に後悔した。虫霧煙幕も、虫霧禍における、無法者対策の防衛装備のひとつだ。こっちはトランスネットが張り巡らされるずっと以前からある、単純に視覚効果だけのめくらまし(・・・・・)だった。スプレー缶に入った、射出器(スピッター)でまき散らすものと、線香(ディスチャージャー)式の自動噴出のポッド型のものとがあった。トランスネットも充分整備され、今日のように虫霧濃度の高い中では、たいして用をなさないものだったから、<磁気虫(マグバグ)>のように、前線開拓要員の手練(てだ)れのバグモタ乗りにとっては必須のものではなくなっていた。――しまったな・・・煙幕があれば、この切れ間のこの状況なら、おおいに役立ったのに。向こうがトランスヴィジョンを不正利用しているにしても、わずかな遅れ(ディレイ)が生じるときもあるわけだし、まして視覚に頼ってるなら、尚更だ――


 まぼろしの蝶どころでなくなった。小梅の足を完全に止めると、毒づきのひと言さえ忘れて、ウメコはバイザーを上げ、コクピットのサブモニターにこの非合法バグモタの、トランスネットで受信して処理される合成映像を映してみた。無登録のそれは、ジャミングされたようなシルエットしか映し出されなかった。トランスネットの網目をすり抜けて跋扈するほどの非合法者だ。一枚上手なのだ。しかし小梅のウサ耳はさらに精細な情報をキャッチできた。


『<草冠(クサカンムリ)>製ノばったベリー<草刈一式>ノ改造機ノヨウデス』


「古い機体だね、お前より3世代は前の型でしょ?バグモーティヴエンジンもそのままなのかな・・・?」


『ソノヨウデス』


「ならたいしたこたないな。装備は?」


『虫込メ弾式銃砲ヲ持ッテイルヨウデス』


「ムシっ!やっかいだな・・・」



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