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非武装連帯!ストロベリー・アーマメンツ!!  作者: 林檎黙示録
#3 ウメコの圏外奮闘編

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鋳掛け屋、ペテン師、虫捕り、ウメコ

「桃二郎組」のノルマのための捕虫に協力したウメコとカスリ。実は隠遁の捕虫術師ムシシがその捕虫に関わっていたと言うカスリに誘われ、ムシシの家へ訪問した二人。そこでまたケンカになったウメコとムシシは虫捕りで対決することに。

 

 虫笛はあらゆる捕虫術での基本の呼び音である。さまざまの流派の派生は、まず虫笛が発する音の差異から始まった。そして形状の改良から、さらには笛を離れ、別の呼び音、楽器へと分岐して、流派の特色がより明確になっていった。


 ウメコは新鍋(しんなべ)流である。正式には、柳川新鍋(やながわしんなべ)流という。虫呼びは、ドジョウ笛と呼ばれる細長い虫笛を使う。紐につないで回すことで呼び音を発するのは、一般的な虫笛と同様であるが、新鍋流では、この笛を複数、輪につなぎ、それに持ち手の紐をくくりつけたものだった。笛の長さには長短があり、この組み合わせと笛の数、回しかたに新鍋流の奥義がある。ウメコの習ったのは学役用に簡略化したもので、笛の数は段位できまっていた。ウメコは三段である。三段の笛数は七つだったが、いま二つ落として五つにしていた。


 しょせん学役での授業だから、型の練習はやるけれど、それを実戦といえるほど、こなしはしない。ウメコは開拓捕虫要員となって以降、虫ンセの調子が悪いときなど、やむを得ず<小梅>から降りて、振り回したことは何度かあったものの、いつしか型はだいぶ変わってしまっていた。いまやほとんど我流に近い。しかし虫が変化する以上、呼び音も変化するのは当然である。だから時を経て術が我流となるのは、これは捕虫術としては正しく自然の流れといえた。


 しかしいまウメコは基本に立ち返ろうとしている。長らくほったらかしにしたドジョウ笛の反省から、殊勝な態度で捕虫術に向き合っていた。虫捕りに集中するというより、新鍋流に集中しているのである。すぐにもどかしさと、ぎこちなさを感じた。――なんか違う――


 笛を直したのがマズかったか。調整前はピーヘラピーヘラと間の抜けた音で聴こえた。正しい音に直したはずだけれど、まだどこか違って聴こえる。笛の調整も上手くできないのか。なにがおかしい?回し方?あるいは空気が違うせいかも知れない。すると自分の耳の方に自信がなくなる。


――基本に立ち返ってダメなら、結局自分らしく我流で行くしかない。己を信じて集中のウサ耳を立てろ!――

 


 虫の羽音に耳をすまし、それが静寂に聴こえるまで自分を無にして、虫運の鈴の音を探す。虫運の呼び鈴は、静寂の羽音の上で鳴る。それが捕るべき虫ならば、きっと鋳掛け屋(ティンカー)を呼ぶ鈴の音がする。それはどこか調子はずれの、いまにも壊れてしまいそうな虫の音のはず。


 ここで聴こえなければ、聴こえるまでさ迷い歩く。わたしは虫探しの少女。壊れそうな虫の音を探して、修繕(なお)してあげます、と鋳掛(いか)け屋のフリをしてみせる。笛を吹くペテン師。見せかけだけの鋳掛け屋。修繕しますといって捕獲し、あげくは破壊に導く。網を持った壊し屋。



 トラメットのバイザー越しの(じか)の視界は、飛び交う虫の密度と吐き出された虫霧で、視程はかろうじて2、3メートル。圏外であろうと、とうに虫霧に迷うことなど怖れないウメコは、無遠慮な虫破裂もものともせずズンズン踏み込んでいく。集中は、底抜けに深まっていく。


 辺りの平均クラック値は依然、60v前後を行き来するばかり。南に3℃ほど方向を変え、岩がちの地形を歩いていた。未踏の地だろう。虫灰は深く、歩くごとに怖ろしいほど深くブーツは沈んだ。トラメットのレーダーで探知できるのは、半径50m圏内の虫。みつけても、足元も覚束ないこんな荒地では、辿り着くまで時間がかかる。


 笛の音はこれでいい。もう基本とか我流だとか、流儀もへったくれもない。自分を信じるよりほかないのだ。 


 周囲のクラック値、65v。虫の報せの景気のいい音をいっこうに知らせる気配もない。じょじょに集中は途切れる。


 早朝からの捕虫で、まったく疲労しているせいなのだ。それに<牛若丸>での起立着座のダメージでまだ首が痛い。――そうだ私は満身創痍だもの。マジで疲れてるんだ。って、なにをいまさら。自分から挑戦しといてさ!


 ――ダメだ!――私の虫笛じゃ虫は誘えない。私のペテンは通用しない。高クラック虫はここにいない。虫捕りはあきらめも肝心。さっさと見切りをつける。かの有名な童話「虫探しの少女」からウメコが得た教訓である。


 それにしても勝負以前に、せめて70vくらいでもいい、その程度の高い虫さえ、まったく見つからないのだから。虫は網の裏にいるだけという、さっきまでの感覚はすっかり消えた。


――ムシシ先生のおかげ――


 さっきカスリはなんの根拠があって、そう言い切ったのだろう。二天プラ流とは、いったい・・・・・。


 ウメコはトラメットバイザーの前面に手をかざし、指の動きでバイザー内の視界を虫以外の探知画面に切り替えた。範囲をひろげていくと、ムシシらしき信号の点滅が、ある地点で動かず留まっていた。


 トラメットのレーダーだけでは、ここからその距離の虫のクラック値はおろか、その存在さえ捉えられないけれど、ウメコは直観で確信した。ムシシはいまこの瞬間、捕虫しているのだと。不要の虫は捕まえないと自ら言ったムシシが捕虫しているならば、それはもう90v以上の虫だろう。ウメコは敗北を意識する。こっちは、まだなにもしてないのに!


 どうせ負けるなら、やつの虫捕りを、その捕虫術をこの目で見たい。それに私はやつに負けるのではない。勝負以前に、ここいらの虫に負けたのだ。上げた網は、ただでは降ろさぬ。――向こうから勝ち名乗りを送ってよこすその前に!  


 ウメコは、まるで自分が壊れた鈴のようになって鋳掛屋の呼び音を聴くと、吸い寄せられるかのように、走りよっていった。

  

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