02 異世界の説明会と食事会
リースが転移予定の星の説明を1時間程丁寧に説明してくれた。端的にいうとその世界では魔法が使えて、文明レベルは中世のヨーロッパと同程度との事だった。外には魔物と呼ばれるモンスターやドラゴン等もいるとの事。人種も様々で、エルフやドワーフ、鬼人族や獣人族、魚人族、魔族、魔人族等、地球には存在しない生物が多く生息しているらしい。
魔物と呼ばれる生物は地球で言うところの動物と同じようなものだとも聞いた。
「聞けば聞く程まるで、夢の世界のような話だな」
「でしょ?今流行りの異世界転移生活がまってるわ!」
胡桃は武尊以上に興奮している。チートがなんとかいってるが
「ですが、その分地球とは違うので、危険も身近に存在します。細菌兵器や核兵器、それに飛行兵器もないので、総合的な力では地球には全く及びませんがそれでも、身近に鋼の体を持ち、更に俊敏に動く生物等いないでしょう?ナイフなんて、刃が折れてしまいますよ」
「何?刃物を通さないのか?それは困ったな.......」
「安心して下さい。その為に私がいるんですから、胡桃さんは此方へ来る前に既にあげてますので、後は武尊さんにチートを授けます」
「すまんが、そのチートという意味が良く分からないんだが」
「チートというのは安心と言う事ですよ。ふふっ」
「それでは、早速いきますよ」
リースは武尊をギュッと抱きしめると二人が光りに包まれる。
(リースは抱きつくのが好きなのかな?何か身体の中がポワポワするぞ)
「はいっ、終わりました。武尊さんステータスオープンと言って下さい。」
「ん?ステータスオープン?うおっ!」
武尊がステータスオープンと言うと目の前に青色のウィンドウが表示された。
ネーム 大和 武尊
種族 人神
レベル ー
加護 全能神の伴侶 【完全耐性】
特殊技能
アイテムBOXレベルMAX
鑑定眼レベルMAX
絶対切断レベルMAX
神速レベルMAX
創造魔法レベルMAX
神霊化レベルMAX
「何か意味が良く分からないが凄いのは何となく分かる。種族が既に神になってるが.......」
「はい、先程契約を交わしましたからね。あなた」
「ちょっと、リース!私よりも先にダーリンの事を特別呼びするなんてずっこいわ!」
「これは参ったな....あなたにダーリンか、何とかならんのか?」
「名前で呼びましょうか?武尊さん?」
「それじゃ普通じゃない?私はダーリンでいくわよ」
(胡桃?お前は本当に二十歳なのか?)
「まぁ、呼び方はその時々の周りの雰囲気というのもあるしな、臨機応変に頼むよ」
「ふふっ、わかりましたわ、あなた」
「私も了解だよ、ダーリン」
(これ精神的ダメージはいってるけど、耐性は?)
「あとは、その服装ね。パパっと変えるわよ、胡桃さん、何かリクエストとかある?」
「私は自分で変えるからいいわ」
そう言うと、完全フル装備の探検スタイルから、白いレースのコートマントを羽織り、胴囲は金色で縁どった青色の胸当て、ガントレット、脛当に白いミニスカート、頭には銀のサークレットまで付けていた。
「ふふっ、コスプレ成功!」
髪も団子に纏めていたものをほどき、艶のある黒髪ロングからピンクのボブへ変え、瞳の色も茶色からワインレッドの瞳に変化した、肌の色も白魚だ、白魚のようでは無く。肌色から白に変わった。左腰には青い鞘の長剣をさしている。完全に別人だ。
「胡桃?胡桃の要素が無くなってしまったけど?」
「ふふっ、女の心は気まぐれなのよ?その時々に合わせて変化させていくわ」
「別人になってしまったら、見分けがつかなくなるじゃないか」
「武尊の私への想いって上っ面なの?そんな薄っぺらいものなの?」
「変わる時はちゃんと声をかけてくれよ?じゃないと区別がつかないよ」
「ふふっ、しょうがないわね。分かったわ」
「では、武尊さんいきますよ」
武尊は黒色のアーミースタイルから黒いブーツにワイドパンツにインナーには白のシャツ二枚目は濃紺シルクのシャツその上から、黒革のロングコートマントを羽織っている。
左腰には黒色の鞘の長剣をさし、右腰にはふた周り程の大きさがある黒のハンドガンが備わっていた。
「これは?ナイフをベルトとか、両足にもそれぞれ一本ずつ備えておきたいんだが」
「ふふっ、その服装あなたに良くお似合いですよ。ナイフならアイテムBOXがあるじゃないですか。出し入れ自由なんですから、お好きな時に出せますよ」
「あん、ダーリンったら、渋さ百倍ね」
胡桃の目がいやらしい
「ちょっと自分の姿を確認したいのだが」
武尊は鏡の前にたつと、ゴワゴワしていた天然パーマの黒髪から若干逆立っているワイルドダンディーな白髪へと変わり、黒色の瞳も金色へと変わっていた.......
「俺の前に立っているコイツは誰だ?」
「誰って、今映っているのは武尊さんですよ?」
「シブメンアップでビンビンくるわ」
(まぁ、外見は自分で見るものではないし、二人がいいなら、コレでもいいか.......)
「了承だ、後は周囲の反応次第だな」
「大丈夫ですよ。逆に黒髪だと凄く目立ちますよ?」
リースは武尊の頬に手を添えて、キスをしてきた。
(うおっ、何でイキナリきたんだ?胡桃も何かハァハァ言ってるし)
「リース?交代よ、もう我慢出来ないわ」
(やっぱり、胡桃は甘酸っぱいなぁ)
それから、もうひと回りしてようやく落ち着いた二人
「リース?その格好は不味いだろ?」
「えっ?そうかしら?」
「そんな露出の多い服なんて服じゃないだろ、布切れだよそれじゃ」
「あらあら、焼きもち屋さんなのね。仕方ないわ少し面積を増やしますよ」
白のテールカットドレスにハイヒール、胡桃とお揃いのレースマントをつけ、幾分かマシになった。
「そっちの方が断然素敵だよ」
「嬉しいわ今夜はサービスしないとね」
「リース?抜け駆けはダメよ」
「分かってるわ、皆で楽しみましょう」
(早く、食材に触れたいなぁ.......)
「なぁ、そろそろ料理を作りたいんだか?」
「あぁ、そうね。食材は用意するから、欲しい物を言って下さいな」
「えっ?そうなのか?それじゃあ二人が食べたいモノを作るよ」
「私パスタが食べたーい。昆虫料理は当分いりせーん!」
「それなら、私も同じモノでいいわ」
「食材は出せても調理設備とか器具がないんだが」
武尊が今いる空間は何もない白い空間だった。
「あなた?ご自分のステータスに創造魔法があるでしょ?あれであなたのイメージが具現化出来るわ」
「創造魔法か、イメージを形にねーーよし、ちょっとやってみるよ」
目を閉じ、意識を集中させる。俺の店が手っ取り早いよな、小高い木に囲まれた閑静な空間に堂々と佇む三階建ての西欧風の一軒家、鋳鉄製の門を通りぬけ、中央にある噴水を横目に石畳の広場の先にある階段をのぼり、洋館の入口までくると、アンティーク調の重厚な扉が自動扉の様に勝手に開き、サービスマンが優しい笑顔と共に出迎え、客席まで案内してくれる。
案内された席で、出迎えてくれたサービスの女性と軽い会話をしていると、背筋がピンっと通ったイケメンソムリエがメニューを手渡し、軽い説明をしてくれる.......(懐かしいなぁ、アイツら元気でやってるかな?)客席と調理場を別ける両開きの赤い木の扉を軽快に開けながら、オーダーの声が音色と共に届けられる。調理場では、既に準備は万端だ、どのオーダーでも適切な時間で提供出来るように人員の配置から下準備まで、抜かりはない。さぁ、戦いの始まりだ!!!.......こんなもんかな?
固定化するが発動のキーはなんだ?適当にやるか?よし、グランメゾン・ラ・タケルよこい!
呼びかけと同時に目の前にイメージした物と同程度の光りが集まると次第に形になっていく。
「これは.......俺の店じゃねーか......あれ?そこにいるのは田崎と松下か?」
門の外には二人の見覚えのある姿があったので、武尊は思わず声をかける。
「はいマスター、英二です」
丸い眼鏡が良く似合う世界一のソムリエ。この男の笑顔に騙され何人の女が涙で枕を濡らしたであろうか?
ピカピカに磨かれた黒の革靴に黒のパンツ、白のカッターシャツに黒の蝶ネクタイ。そして、黒のロングソムリエエプロンを身に纏う。
イケメンソムリエの田崎英二またの名を女殺しの英二。
「イエスマイロード、美香です」
黒髪を団子に纏めた、小柄な伝説のサービスマン松下 美香。彼女は一目見ただけで相手の体調や素行や思考、嗜好を読み取り適切なサービスを提供する事が出来る。
お客様から受けた注文を断りも無く違う料理に勝手に変更し、激怒されるどころか涙を流しながら喜んでいる光景は傍から見ていると色んな意味で恐ろしい女である。
ピカピカに磨かれた黒の革靴に黒のパンツ、白のカッターシャツに白色の蝶ネクタイ。そして、白のロングソムリエエプロンを身に纏う。
そんな伝説を当たり前の様にやってのける
容姿端麗の才女、松下美香またの名を神の目を持つ女。
「お前達?何故ここにいる?」
「私達はマスターの神力から創り出された唯一無二の存在ですよ」
「マイロード?私達の存在に困惑なされているのですか?」
「いやっ、すまん、少しだけ驚いたんだ、そうか、お前達がいてくれれば正に鬼に金棒だな!」
「マスター?少し控えて下さい。場の空気が冷え込みました」
「マイロード?何でも思った事を口にするのは悪い癖ですよ?」
「えっ?あっ、いや、これはすまない。それじゃあ、料理の提供を手伝ってくれるかな?」
「「はい、シェフ、料理と共に」」
「私達以外にも、サービススタッフ10名、キッチンスタッフ8名、全員揃っております」
「マジか.......内藤や川瀬もいるのか?」
「はい、皆シェフが来るのを心待ちにしておりますよ」
「ははっ、これは本当に凄いな、フルメンバーが勢揃いとは.......」
100人のフルコースに対応出来るように設計された店はお客様のあらゆる要望に応える為、宿泊設備まで整っており、レストランというよりプチホテルである。調理場には最新の電子調理器や燻製室や乾燥場、無菌室等他にも様々な調理設備が整っていた。更に驚いたのは調味料まで備えてある。早速手に取って確認すると、味も問題なく使えるどころか風味が増している。
「創造魔法って一体なんなんだ?」
「それは、あなたが体験したモノや事象を具現化出来る魔法ですよ。ご自身が体験した事の無いものを具現化する事は不可能ですが、体験したものなら、全て具現化出来ます」
「調味料の鮮度がいいのは何故だ?」
「あなたがその調味料で一番優れたものをイメージしたのでしょう?深層心理までいきますから、その辺は意識ではなく無意識の範疇に入るのかも知れませんね。なので、体験したモノや事象と申しました」
「ははっ!これは凄い!ちゃんと火もでるよ。このガスはどこから.......まさかこれが俺の力なのか?」
「その通りです」
「そうか、一旦朝礼でもやるか?全員を集合させてくれ」
「「はい、シェフ」」
サービスの内訳男が6名、女性が6名。
キッチンの内訳男が6名、女性が2名。
「皆、おはよう」
「「「「「おはようございます」」」」」
「今日は俺たちの新たな門出だ、所謂記念日だな、二人のお客様がいるが、この人達は俺の身内なんだ、折角の記念日だし、今日は皆で盛り上がろう」
「「「「はい、シェフ」」」」
「Are you ready?」
「「「「I'm all set」」」」
「Let's get started」
「「「「「はい、シェフ」」」」」
「ごめん、二人とも待たせたね。このメンバーと設備があれば何にでも対応してみせるよ。松下」
「はい、シェフ」
「お二人をお席まで案内してくれ」
「はい、シェフ。それではお嬢様方、お席へご案内します。こちらへどうぞ」
「おぉ、北海道にあるお店と同じだね」
「あぁ、驚きだよな」
「折角だから、料理を変更してもいいかな?」
「勿論だとも、好きな物を食べ、そして飲んで下さいお姫様」
「ふふっ、ありがと武尊」
「この店がいつも見ていたあの店なのね」
「いつもみていた?」
「いえ、こちらの話です、私頼みたい物が沢山増えたわでも少しずつにしないとね」
「これからは何時でも好きなだけ召し上がれますよ女神様」
「ふふっ、ありがとあなた」
いつものように席へと案内される人の背中を見送りながら、感慨深くなる。
(これは本当に凄いよな)
「田崎?」
「はい、シェフ」
「いつものように」
「かしこまりました」
武尊は白いコックコートに黒いサロンを巻いて、調理場へと立つ。
「仙田?プレパレは?」
「シェフ?プレパレってなんですのん?」
「てめぇ、俺がプレパレってゆったら、プレパレなんだよ!」
「おっけい、プレパレね.......」
巨漢の仙田がイキナリ大和を殴りつけた
「おまえ?性格までちゃんと仙田だな」
「シェフ?頭ボケてしまったんですか?今更何を言うとるんですか?」
「ははっ、いや済まない、久しぶりにここに入ったから、何か懐かしくてな.......」
いつもの感覚に思わず目に涙を溜めてしまう
「うわっ、気持ち悪っ!勘弁して下さいよ.......」
すると、ホールと調理場を別けている赤い両開きの扉が軽快に開かれる。
「オーダー 入ります」
この声と共にその日の音楽が流れだす。今日は【ボレロ】だ。
「いちごーでメイン変更、一人は牛ヒレ、一人はサーロ、どちらも、芯温ありありのブルーでお願いします」
※いちごー、一万五千円のコース
※芯温ありあり、低温調理で中までじっくりと火を通し、仕上げに炭火で表面を焦がすだけ、その後、あつあつの鉄板の上に載せ、ヒレにはエレシの発酵バターで作った赤ワインとエシャロットが入ったものをのせるのが定番だった。ヒレにはマデール。サーロには少量ポルトかルージュと岩塩。
「「「了解!!!」」」
「NGは?」
「特にありませんが、提供はシェフにお願いしたいです」
「そう、因みにヒレはどっち?」
「胡桃様です」
「なるほどね。サーロのソースはルージュでいこう、ヒレはいつものように」
「「はい、シェフ!!」」
「あと、セカンド変更!フルーツトマトのカッペリーニで黒をちょいのせで」
(この鮮度を活かさない手はないよな)
「「はい、シェフ!!」」」
「ポワソン、リゾットは無しで、変わりにカリフラワーのピュレと蕪の和だしでデカットしたやつね」
「はい、シェフ!」
【チーン】ベルを鳴らすと給仕が料理を取りに来る。
「アミューズ上がったよー」
※今日のアミューズは蟹とカニ味噌を合わせたものに刻んだエシャロットを少々。その上に雲丹をのせ、上からコンソメのジュレをかけ、ブラックペッパーを極少量とイクラと香り付のEXオイルを数滴たらし、薄切りのパリパリバゲットの上にのせてある。飾りにシブレットを添える。
「ありがとうございます」
【チーン】(何かこの音嫌だな.......後で変えよ)
「続いて前菜出来ましたー」
※前菜は桜のチップで燻製にした自家製ベーコンの風味を12種類の温野菜に絡めたもの。実に十二色もの彩園が白い大皿の上に飾られる。彩りが命。
「ありがとうございます」
【チーン】
「セカンドー」
「ありがとうございます」
「今日はね、二人の要望もあったから、パスタに変更です。冷たいフルーツトマトのカッペリーニね、黒はいつものやつ」
「かしこまりました」
セカンドまでは、調理場で多少の時間調整をしながら、提供。魚からはサービスの声かけまちに切り替える。
「5分後、ポワソンお願いします」
「了解です、3番ポワソン入ったよー」
「はい、シェフ!」
【チーン】
「ポワソン出来たよー」
今日のポワソンはカリフラワーの上に活オマール海老のグリル半身をのせ、アメリケーヌソース、香りのフレッシュエストラゴン。
口直しの白ワインのシャーベットはドリンク場から提供され、メインの声掛けまち、
「5分後メインお願いします」
「了解しました。仙ちゃんメイン入ったよー」
「はい、シェフ!」
「はい、出来ました」
「ありがとう、これは俺が持っていくよ、後はお願いしていいかな?福ちゃん?デザート頼むよ。他の皆も好きな物つくって、席においでよ」
「「「はい、シェフ!!!」」」
◆◆◆
「お待たせ致しました。こちら、本日のメインでございます。牛ヒレ肉をご注文の姫?本日は鹿児島産のA4ランクをご用意致しました。こちらがサーロインステーキでございます」
「もうね、溶けそうよ?」
「やっぱりここの料理は安定だよね。安心するもん」
「そう?ありがとう。メインも冷めない内に召し上がれ」
「「ウマーい!!!」」
「ははっ、それは嬉しいな、サーロはどう?」
「どうも何も完璧よっ!!!サーロインはどうしても脂がしつこいでしょ?だから少し悩んだんだけども、この味なら、いくらでもいけそうだわ」
「いくらでもは無理だよ、何となくそんな気がしたから、それなりに変えておいたよ」
「やっぱり、私の目に狂いはなかったわ」
「まぁ、俺としてはもっと先のステージにいきたいんだよね」
「それなら安心して、異世界はあなたの期待を裏切らないわ」
「それは楽しみだな、俺も同席させてもらってもいいかな?」
「「勿論」」
「ありがとう」
「マスター?飲み物は如何なさいますか?」
「アルコールは皆が揃ってからだ、取り敢えずお水でいいよ」
「かしこまりました」
デザートが食べ終わる頃に、大皿の料理が5枚程並び、皆で飲み明かした。
「異世界って最高だな!」
(まだ、いってませんけど.......)