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55話 あっけない終幕



「……あ? 話に割り込んでこないでよ、増井」

「ふざけないで! お兄様が侮辱されて、黙ってる芽衣じゃないの!」


 突然俺たちの間に入る芽衣を見て、少女はややイラついたご様子だった。これだけでイラつくのは単純としか言いようがないが、お得意の睨み顔で余裕のない感じを上手く隠しているようだ。

 それに対して芽衣はというと、少女の恫喝に対しても臆することなく同じように睨み返していた。普段俺以外の人の前では物静かな芽衣も、俺のためなら怒りを露わにできるみたいだ。


「お兄様お兄様って……どんだけお兄様好きなんだよ? 何? 増井お兄様のこと大好きなの?」

「……それが何よ⁉ 妹が兄を好きなのは当然のことでしょ⁉」

「いやいやいや! そんなのほとんどいないから! アタシも兄貴いるけど、うざったくてしょーがないんだ! 早く消えてくれないかなってずっと思ってる!」

「貴方……自分の家族に消えてほしいって……どんな神経してるのよっ⁉」

「何キレてんの、ウケる! だってウザいし、気持ち悪いし」


 その本人が目の前にいないというのに、少女の表情はまさに憎しみに満ち溢れたものだった。どうやら少女が言っていることはホントのようだ。その嫌悪具合がウザいでしか表現できない辺り、語彙力のなさがひしひしと感じてしまう。

 だがそんなくだらないことにも気づかず、芽衣の怒りのボルテージは上がっていく。重度のブラコンである芽衣にとって、兄を侮辱されるのは絶対に許されない行為なのだ。それが例え全く関係のない、苦手の相手だとしても。

 それゆえに芽衣の言葉遣いも、信じられないくらいすさんでいく。


「……ここまで内面が腐っていると、もうどうしようもないね」

「なあっ⁉ 増井! 今なんて言った⁉」

「耳まで腐ってるの? 内面が腐ってたらもうどうしようもないって言ったのよ」

「このっ……⁉」


 芽衣からの完全な煽りによって、少女は一発でキレて芽衣に詰め寄る。これが女同士の言い争いじゃなければ、胸倉を掴んだのちの殴り合いになっていたことだろう。周りの取り巻きも一瞬動揺していたようだが、遅れる形で芽衣の左右を囲んだ。

 そんな圧倒的に不利な状況にも関わらず、芽衣は臆することなく鋭い言葉をぶつける。


「血のつながった兄妹じゃないから知らないけど、同じお腹から生まれた兄にすら侮蔑するその腐った精神……きっとまともに人を好きになったことないみたいだね」

「ふざけんな! 学校でボッチのアンタに、何がわかるっていうのっ⁉」

「少なくとも貴方よりは分かるよ。芽衣はお兄様のことを尊敬しているし、胸を張って自慢できる。それに比べて貴方は……まともなお友達もいないそうで」

「なっ……⁉ アンタよりはいっぱいいるんだよ! アンタの目の前にだって……」

「本当にそうかしら? 今までずっと見てきたけどそこの二人、貴方にいじめられないようにくっついてるだけだよ? 貴方との温度差が違いすぎるんだもん」

「はぁっ……⁉」


 芽衣に指摘され、その少女はバッと取り巻きの方を振り向いた。すると取り巻きの二人ともは、バツが悪そうに少女から視線を外した。

 どうやら芽衣の言っていることは間違っていないようだ。本当の友達だったら、否定の言葉の一つくらいすんなり出ていそうなものだ。結局は形だけの壊れやすい友情しか結べない、もろい関係のようだ。俺にとっての壮馬みたいな関係を築けられる人間はそういないんだな。


「あぁもう! どいつもこいつも! アタシのむかつくことばっかしやがって……!」

「そんなことした覚えでもあるんじゃないの? 人の嫌がることをしてはいけないって、教わらなかった?」

「あぁぁあぁぁっ⁉」


 思い通りの未来にならないばかりに、少女のフラストレーションは爆発していた。ここがゲーセンだというのも忘れ、周りのゲーム音に負けないくらいの奇声を上げる。ここにきて情緒すらも安定しなくなったか。


「うるさい、叫んでごまかすしかできないの?」

「黙れ! こうなったら……!」

「え、ちょ……!」


 ついに自暴自棄になったご様子の少女は、芽衣が抱えているぬいぐるみを取り上げる。芽衣もぬいぐるみをとられたことで少し悲しんでいるようだが、それ以上にポカーンと少女のことを見つめていた。

安心しろ芽衣、俺も同じ気持ちだ。こいつが芽衣と同い年で過去にいじめ関係で親を召喚されるくらいのヤバいヤツなのか、本気で疑ってきたのだ。絶対精神年齢低いだろ。


「どうせこれも、そこの兄貴に取ってもらったんでしょ? ならアタシがもらっといてあげるよ! 学校でよくしてやっている礼としてね!」

「……?」


 言葉から伝わってくるアホなセリフの数々に、芽衣は既に耳も貸していないだろう。俺も同じ気持ちだ。

 どうやらこの少女は本当にバカのようだ。いつもは学校という安全地帯にいるため、それなりに過激なこともバレなかったのだろう。証拠にこんな大胆なことすらできるのだから。

だがここはショッピングモールのゲーセン。安全地帯などではなく、同世代の男女もたくさんいる。更に休日で人も多く、騒ぎで周りの人だかりも最初に加え異常に増えている。

 今や若者のほとんどは、何かしらのSNSに励んでいることだろう。そしてその中には、面白いネタを望む者だっている。そいつらにとって、少女はおいしすぎるネタなのだ。


「よっしゃ撮れたぜ! これ絶対バズるだろ!」

「やったね! これで人気者になれるね!」


 そしてその予感は当たり、一組のカップルらしい男女が、スマホを構えながら今の光景を撮っていたことだろう。具体的には、少女が芽衣からぬいぐるみを取り上げている映像だろう。身内ネタならまだ許されるかもしれないが、ここにいる人たちは芽衣たちの関係性など知るはずもない。上手いこと編集してしまえば、「少女が芽衣のぬいぐるみを強奪する」動画に仕上がるかもしれない。


「ちょ……何撮ってるのよ! 止めなさい!」

「えぇ~でも俺たちに言ったってしょうがないと思うよ? 多分他のヤツらも撮ってるだろうし、下手したらもうあげてんじゃね?」

「っ⁉」


 そんな男の言葉を聞いた少女は、すぐに周りを見渡す。確かにその男女以外にも、さっきの光景を撮っていた人は多い。ネット上に晒されることは、ほぼ間違いないだろう。例え肖像権云々言っても、少女の窃盗まがいの行為がなくなるということでもないのだ。


「もう! いやッ!」


 こんな状況にうんざりとした様子の少女は、ぬいぐるみをそこらへんに捨てると走ってゲーセンから出ていった。自分の都合が悪くなったら逃げる、いじめ主犯格がやりそうなことだぜ。


「ちょま……あ、増井! 今まで悪かった! ごめん!」

「アイツに脅されてて逆らえなかったんだ。許して、なんて虫のいいことは望まないから!」


 置いてけぼりにされた取り巻きは、芽衣に軽く謝罪の言葉を残し少女のことを追いかけていった。状況が状況なだけに、多分謝罪の言葉は本当の事だろう。これに関しては、あとで調べれば真偽がわかることだ。

 ある程度人だかりもはけたところで、俺は芽衣に駆け寄る。


「芽衣、大丈夫か?」

「うん、何とか……ちょっと怖かったけど、お兄様がいてくれたから……」


 まだ少し落ち着きを取り戻せていない様子の芽衣だったが、メンタル的に崩壊している様子はなかった。芽衣があそこまで啖呵を切っていたのだ、大変だったのは仕方ないことだ。よく頑張ったと思う。


「……とりあえず店から出るか。結構騒いじゃったし」

「うん……お兄様、おんぶ」

「ははっ、仕方ないな」


 芽衣のご要望にも応えながら、俺たちはゲーセンを後にしたのだった。ゲーセンの店員さん、騒いでしまって申し訳ないです……






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