54話 悪役登場
ぬいぐるみをとったのちも、俺たちはしばしゲーセンの中をうろうろしていた。さすがにぬいぐるみをとっただけでゲーセンを後にするのも、どこか物寂しい感じがしたしな。
とは言ってもぬいぐるみとかの景品のUFOキャッチャーなどは、荷物がかさばる関係上これ以上できないけどな。まぁゲーセンにはUFOキャッチャー以外にも面白いゲームはたくさんあるから、物足りなくなるということはないはずだ。ただ手持ちのお金がある限りだけどな。俺はともかく、芽衣には限度があるからな。
とりあえず俺がやったことがあるゲームは、一通り芽衣とプレイした。太鼓のリズムゲームだったり、お菓子系のUFOキャッチャーだったり、それなりにいろいろだ。途中プリクラを撮ってみたいとせがんできた芽衣だったが、さすがにそれだけは勘弁してもらった。いくら俺でも、プリクラを撮った経験などない。できるだけ芽衣の要求には答えてあげたいところだが、高すぎるハードルを越えることはできなかった。
そんな感じでゲーセンを楽しんでいるときだった。
「……あ、百円がねえ」
次のプレイのために百円玉を出そうとしたが、財布に百円玉が入っていないことに気付いた。まぁ両替すれば問題ない話なんだけどな。
「芽衣、ちょっと両替してくるから待っててくれ」
「わかった」
芽衣に一言断りを入れ、俺はその場から一旦離れた。今ゲームしていた場所から両替機のある場所まで少しだけ離れていたため、ちょっとだけ時間がかかった。更に二人くらい並んでいたから、更に時間が食う。まぁ買い物の列に比べ回転は早いから、すぐに俺の番が来るんだけどな。
三千円分くらい両替して、俺は再び芽衣の元に向かった。だが芽衣の元に向かうにつれ、人の数がやや増えてきている気がした。最初は気のせいかと思ったのだが、芽衣がいた場所に到着したときにはちょっとした人だかりができていたのだ。
ゲーセンでこうなっているってことは、よほどのスーパープレイをする人がいるのだろうか? 一瞬そう思ったのだが、どうやら見当違いのようだ。
人だかりの中心にはもちろん芽衣がいた。贔屓目なしでも芽衣は可愛らしい女の子なので、何もしていなくても注目を集めてしまうのも頷いてしまう。ただ見た目はかなり小柄なので、ナンパに引っ掛かる可能性はかなり低いはずだが……
そんな芽衣の正面にいるのは、三人の女の子だった。
「お、珍しい顔だなぁ~ま~す~い~?」
「……」
「学年一の優等生も、こんな場所に来るなんてウケる~!」
「……」
その少女たちは芽衣を脅すかのような口調で追い詰めていた。そのうちのリーダーは相当な距離まで芽衣に近づき、にやにやと芽衣を嘲笑っているようにも見えた。それに対し、芽衣は何も言い返すことなくただ黙り込んでいた。
その少女たちを見て、俺はあることを思い出す。それは昨日の壮馬とのやり取りにて、壮馬から送られてきたいじめの主犯格候補の顔写真であった。
(アイツ……同じ顔だ)
そう、そのリーダーらしきヤツの顔と写真との顔が一致したのだった。ということは周りにいるやつらは、さしずめ取り巻きといった感じか。確か過去にいじめがバレて親を召喚されるくらいの大ごとを起こしたのに、全く反省しないんだな。ここまでくると、もう救いようがない。
とにかくこのまま放置はできない。誰が相手だろうと、俺が芽衣を守らなくてはならないんだ。
「お~い芽衣。大丈夫か~?」
「……はっ! お兄様ッ⁉」
人混みをかき分けた俺は、芽衣の元へ駆け寄る。俺の存在に気付いた芽衣は、すぐさま俺の後ろに隠れていった。この反応からして、向こう側と何かしらのトラブルを抱えていることは間違いないだろう。
「おにいさま~? ねぇ、アンタ増井の兄貴だったりするの?」
「……だったらなんだ?」
「別に~美形な妹に比べて、しけた顔してるなぁ~って!」
芽衣が後ろに下がったことでいじる対象を失ったリーダー格は、今度は俺に突っかかってきた。芽衣の兄貴、つまり自分より年上なのをわかっているはずなのに、ソイツは俺に対しても強気な態度をとっていた。中学生にもなって初対面の人間の口の利き方がこれっていうのは……相当頭の方は幼稚なのか?
「……それで、妹に何の用だ? ずいぶん怖がっているようだが?」
「何ってちょっと会話してただけじゃん! 見てわからないの?」
「わからなかったから聞いてるんだよ」
どう考えたって、さっきのは会話してないだろ。芽衣は怯えて声も出せなかったみたいだし。会話って言葉の意味知ってるのかな?
「……妹はむかつくくらい賢いのに、兄貴はすげぇバカなんだね! 笑っちゃうね!」
「……はいはいそーですね」
この感じだとまともに会話できそうにないから、俺は適当に返事をすることにした。会話が成り立っていないことに、まだ気づいていないようだし。
「……芽衣、こいつらは誰だ? 友達、って感じではなさそうだけど……」
「……芽衣のことを、いじめてくるヤツ」
俺は事情を知らない体で、芽衣にこいつらとの関係性を聞いた。まだ怖がっているようだが、震える声で芽衣はそう答えた。やっぱり……俺たちの勘は当たったな。
「……って、妹は言っているようだが。本当か?」
「いじめてるだなんてひどいね! 学校でボッチの増井を、アタシたちが可愛がっているのに!」
意訳、孤立している芽衣を標的にしていじめてる。言葉と威圧的な態度から、それくらいのことは容易に予想がつく。例え俺がいじめの件について察していなかったとしても、俺は芽衣のことを信じるだろう。
「可愛がる、というのは具体的に?」
「そのままの意味だよ! 荷物を持ってもらったり、ちょっとじゃれ合ったりしてるくらい?」
……なんかいじめの内容が男子みたいだな。なんていうか裏で陰口言ったり、意図的にクラスで孤立させたり、そのくらい陰湿的なことも想像したけど……こいつらにそんな頭はないか。
「……それをいじめっていうんだよ。アンタらがどう思ってようが、芽衣がいじめって感じてるなら、それはいじめなんだよ」
「あぁもうごちゃごちゃうるせぇ兄貴! ブスでバカなくせに頭まで固いなんて、ホント救いようがないわね!」
ない頭から繰り出される精いっぱいの罵倒が、俺に向かって放たれる。それと同時にニヤニヤして黙っていた取り巻きも、バカみたいに笑い始めた。こんな奴らにバカにされても、痛くもかゆくもないけどな。何言っても心に響かねぇし。
それにこいつら、ここが学校ではなくゲーセンっていうの忘れてるだろ? つくづく救いようがないな。もうこいつらと話しても埒が明かねぇな。
でもこんなバカたちに話をつけないと、芽衣のいじめも終わらない。らしくはないが、ガツンと一言言ってやろうと口を開きかけた時だった。
「お兄様をバカにするなッ!」
突如として俺の前に一人の少女が立ちふさがる。説明するまでもなくそれは芽衣なのだが……今まで見たことないかのような剣幕で、少女たちをにらんでいたのだった。
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