52話 敗北通知
芽衣とのお昼ご飯も終えたところで、時刻は十三時半くらいとなった。ここからは再び、俺が先行して芽衣をエスコートしなくてはならない。
だがここからの予定としては、本当にざっくりとしたものしか組み立てていない。具体的に今後の予定は、ショッピングということになっている。特に行きたいところがないときには有効だって、ネットにも書いてあったし。
幸いにもここはこの辺りでもかなり大きい方のショッピングモールだ。俺がよく利用する近所のショッピングモールよりも、更に大きいくらいだ。普通の人が生活する上で必要なものは、ほぼ全部揃うだろう。
だけどなぁ……俺個人的には、そこまで行きたい場所というのはない。なんだって俺の趣味がメイド関連のことだからな。いくら大型ショッピングモールだとしても、メイドカフェまでは入っていない。てかデートにメイドカフェはないだろ……相手の同意がない限り。
あと俺が行きそうな場所なんて、書店くらいだからな。書店なら二時間くらいは時間をつぶせるとは思いうけど、芽衣には酷なことだろう。別に芽衣は読書が好きなわけでもないし。
となるとまた、芽衣頼りになっちゃうのかな? なんていうか……ホント俺って情けないよな、男として……
「芽衣はどっか行きたい場所はないか?」
「芽衣はどこでも……お兄様に従うよ」
だが芽衣に意見を聞こうとするも、そのことすら見透かしたかのような返しが飛んできた。もしかしたら悪気なくいってきた可能性の方が高いが、俺からしたら相当キツイことには変わりない。
こうなってくると、俺としてもお手上げ状態だ。計画性には欠けるが、とりあえず何かしら行動するとしよう。何もしないことには、状況も変わらない。
「……とりあえず適当に見て回るか。で、気になった店があったら入るって感じで」
「うん、わかった」
芽衣の了承も取れたところで、早速行動を開始した。
そこから三十分くらいショッピングモール内を当てもなくぶらついたのだが、俺も芽衣も特に行きたい店は見当たらなかった。ただ結構広いだけあって、これだけ回ってもまだ半分も回れていない。おそらく全部見回るくらいには、いい感じの時間にもなりそうだ。見て回るだけのデートで終わるのだけは、どうにかしたいところだけどな。
「……あ」
「ん? どうかしたか芽衣? 気になる店でもあったか?」
「うん。ちょっとここが気になってね……」
すると芽衣は、とある店の前で立ち止まった。芽衣が気になるものって何だろうな……と思い、俺はその店の前で立ち止まる。
その店は「BLUE EARTH」という名前の服屋だった。女の子なら誰しもファッションに興味を持つものだと思っているから、芽衣が止まるのも不思議ではない……と一瞬だけ思った。
だがその店はメンズものを中心に取り扱っているお店で、外から見るだけでもレディースものの服は一切見当たらなかった。全体的に小柄な芽衣が、メンズものの服を着るとも思えない。それゆえに、芽衣が立ち止まった理由がわからないでいた。
「芽衣? なんでこのお店に止まったの?」
「そんなの決まってるよ……お兄様の服を見繕うためだよ」
「お、俺の服?」
芽衣からの言葉に、俺は一瞬聞き返してしまった。確かにそっちの可能性の方が十分にあった、何故すぐ頭の中で思いつかなかったのだろうか。
昔はよく、服を買うのが億劫な俺に代わって芽衣が選んでくれたっけな。それ自体も既に二年以上も前の話になるのか……
「俺は別にいいよ……昔から身長変わってないから。まだ昔選んでもらったのも十分着れるし……」
「ダメ。今は昔とはファッションの流行も変わってるから、そういうところにも敏感にならないと。一応芽衣と風見さんのご主人様なんだから」
「確かにそうだな……芽衣のご主人様ではないけど」
俺に真実を突きつけられ風見さんと明確に差別化されたことで、むぅ~とむくれる芽衣。可愛いというとこの場合怒りそうだから、言うのはよしておこう。
でも確かに芽衣の言い分もわからなくはない。風見さんのご主人様として、あまり情けない恰好で出歩くのもどうかと思うからな。これをきっかけに買う習慣をつけるのも、悪くない気はする。
「でも俺、あまり服のセンスとかないぞ」
「そこは大丈夫。芽衣がお兄様に似合う服を選んであげるから!」
「なら大丈夫か」
昔から俺の服を選んでくれた芽衣のセンスなら、間違いないな。他に行く当てもなかったので、俺たちは服屋に入っていく。
「さっ、お兄様! どんな感じの服をご所望ですか?」
「どんな感じねぇ……」
入店して早々、芽衣にズバッと本題を突かれた。特に今までそういうのを意識したことがなかったので、返答に困ってしまう。
日常的にファッション雑誌とか読まない俺は、どの服がいいのか全く分からん。ただこんな大きなショッピングモールに入っている店だから、そこそこ名前の通った店なのだろう。それならば最近の流行物も揃えていることだろう。
となると俺が簡単なイメージさえ伝えれば、芽衣はそれにぴったりなものを持ってくるはずだ。なら後は俺がそのイメージを芽衣に伝えるだけだ。
どんなものがいいかと聞かれても結構困るのだが……風見さんと出かけると仮定して、あまり恥ずかしくないようにビシッとしたヤツがいいかな。
「なんだろうな……こうスーツのような、ビシッと決まる感じの服がいいかな」
「……」
「ん? 芽衣、どうかしたのか?」
「え、あ、いや、なんでもないです……」
なんだろう。今芽衣が一瞬止まったような感じがしたのだが、俺の気のせいだろうか……
「ビシッと決まるような服だね、うんわかった。やっぱり色は黒とかがいい?」
「色かぁ……別にこだわりはないかな? 黒は好きだけど、黒で統一したいわけでもないしな……」
「……」
俺が黒とか紺とかが好きな理由って、メイド服っぽいからだしな。女性に着させる分には完全な俺の好みではあるけど、自分が黒系の服着たいかと言われると素直にうんとは言えない。
そんなストレートな考えを聞いた芽衣は、またしても黙り込んでしまった。この店に入ってもう二度目だ、なんかあったのかな。
「芽衣? 大丈夫か?」
「……は! ご、ごめんね。じゃあそれっぽい感じの服選んでくるから!」
様子を伺おうとした俺だったが、すぐに芽衣は反応し服を選びに行くため店の奥の方に消えていった。マジで何かありげなのかな? 俺にはその理由が一切わからないが……
「……負けた……!」
そして奥の方でボソッと呟かれた芽衣の言葉が、俺の耳に入ることはなかった。
数分した後、何着かの服を持ってきた芽衣によって、お着替えタイムが始まった。俺としてはどれもよさげだからどれでもよかったのだが、芽衣はじっくり見て選びたいそうだ。
結局最終的に選ばれたのは、カッターシャツに紺に近いような青いジャケット、そしてグレーのズボンだった。本当はネクタイもつけたかったらしいが、あまりつけ慣れないものはつけたくなかったので勘弁してもらった。
あと次いでだったので、買った服はそのまま着て過ごすことにした。まぁせっかく買ったのだから、着れるときに着ないとね。ただでさえ着る機会も少ないからな……そう考えると、少し悲しくなってきたわ。
芽衣も芽衣で途中様子がおかしい感じもしたが、最終的には機嫌が戻った感じがしたので安心した。機嫌をよくしてもらわないと、デートも楽しめないしな。とにかく特に難もなく買い物が済んでよかったぜ……
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