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51話 暴かれる秘密の末



 二時間にも及ぶ長い映画を視聴したのち、俺たちは映画館を後にした。映画館を出た時には、芽衣は満足そうな顔をしていた。自分の顔は見えないけれども、多分俺も同じような顔をしていることだろう。

 芽衣がチョイスした『結ばれぬ運命の崩壊』という映画、実際に観てみたら意外と面白いストーリーであった。主人公の男とヒロインの妹が恋に落ちていく話で、二人の関係をバカにしたり拒絶する人間すべてを不幸に沈めていくという、けっこうドロドロした展開だった。最終的には壮絶な仕返しにより二人は自殺を試みるのだが、命が尽きるその瞬間まで愛し合って死ぬという結末だった。

 完全に好みが分かれる話だったが、俺は結構好きだった。結ばれてはならない恋という辺りが、ご主人とメイドの禁断の恋に近しいものを感じて参考になった……まぁ実践しようだなんて一ミリも思わないけど。


「すごく面白い映画でしたね、お兄様!」

「お、おう……そうだな」


 俺と同じように映画を好評する芽衣だったが、その比は俺とは比べ物にならなかった。まるで人生におけるベスト作品を見つけてしまったと言わんばかりのものだった。


「愛し合う兄と妹……どんな逆境に立たされようとも愛の力で跳ね返し、例え逆境に屈したとしても最期の一瞬まで愛し合う姿……まさに芽衣の理想のような映画だったよ!」

「そ、そうか……それはよかったな……」


 珍しくテンションが高い芽衣に、俺も軽く驚いている。感情が高ぶるとテンションが高くなる芽衣だが、こういった形でテンションが上がるのは結構珍しい。大抵俺と久しぶりに会った時や、俺と何かしらのことをしてる時しか、芽衣のテンションは上がったりしない。

 そういう観点からすると、確かに今も芽衣と「一緒に映画を観る」という何かしらのことをしている。だが今の芽衣は、確実に映画のことで頭がいっぱいになっている。


「……芽衣たちもあんな風に、愛のある兄妹でいようね。お兄様♪」

「あんな風にって……だいたい俺たち、血つながってないから。どう足掻いても、あんな過酷な運命にはならんよ……」

「……え? それってつまり、『俺と結婚してくれ』ってこと……⁉」

「よーしちょっと待とうかどうしてそうなった⁉」


 妹の拡大解釈に、俺の理解は追い付かなくなった。俺の最後の言葉が届いていないのか、芽衣は手で顔を押さえ真っ赤にさせていた。

 だが芽衣からからかわれることなど、ここ最近ではよくあることだ。さすがの俺も少し慣れてきた。ならばここは、芽衣に一杯食わせることにしよう……!

 最後のツッコみの言葉を頭から消し飛ばした俺は、右手で芽衣の肩を掴み左手で芽衣のあごを軽くつまむ。マンガのイケメンたちがやりそうな、顎クイってヤツだな。


「……もし本当にそうしようかって言ったら、どうする?」

「……え?」


 俺らしくないセリフに、芽衣は戸惑いを隠せないでいる。芽衣からしたら、いきなり顎クイされて、自分の兄が妹に向かってこんなキザなセリフを吐いているのだ。他の兄妹とかよくわかんないが、ごく一般的な兄妹なら妹に暴言を吐かれた後一生口を聞いてもらえないだろう。

だが芽衣なら……仮にも俺のことを慕ってくれている芽衣なら、びっくりさせるには十分だし嫌われることもないだろう。

 そんな俺からの言葉を聞き、次なる芽衣の言葉は……


「……市役所、行く?」

「勘弁してください」


 俺の謝罪は秒であった。芽衣の言葉に屈することができず、謝るしか残された道はなかった。もしここが自宅とかだったら、即土下座していたところだろう。てか休日だから市役所やってないんじゃ……


「冗談だよ。お兄様、からかいたいのならもっと上手にしないと」

「はい……善処します……」

「よし。じゃあお昼にしよ。もう時間も頃合いだし」

「……そうですね」


 芽衣に頭が上がらない俺は芽衣に従われるがままに、レストラン街に向かい芽衣の後ろについていくしかできなかった。兄が妹に屈する図……なんとも情けない光景である。

 そして俺がエスコートするはずだったのに、完全にエスコートされる側になってしまっている。もう兄としての尊厳が限りなく低い……芽衣よ、こんな情けないお兄ちゃんでごめんな……




 というわけで時刻も十二時半と、完全にお昼の時間を迎えた。朝早く朝食を食べて以降映画館のジュース以外に何も口にしていないので、もう十分なくらいお腹は空いていた。

 レストラン街についたはいいものの、休日のピークの時間だというのもありどの店もすぐに入れるところはなかった。だが幸運なことにどこも長い行列ができているところはないので、店を選ぶ余裕くらいはある。


「なんか食べたいものでもあるか? 芽衣の好きなところでいいぞ」

「芽衣はどこでも……お兄様の食べたいものでいいよ」

「そう言われてもなぁ……」


 俺としてもどこでもよかったから、あえて芽衣の意見を採用する手段をとったのだが……まさか返しでこうなるとはな。こうなった以上、「俺もどこでもいい」だなんて言えない。

 この約一か月の間、風見さんに家事のすべてを任せているせいで、外食はおろかコンビニ飯も食べなくなった俺。正直言って、評判のいい店はどこかなんていう情報は全くない。選択は完全に俺のフィーリングに任されたのだった。

 俺が嫌いなものではなく、芽衣が好きそうなもの……これだけの条件だと結構選択肢は多い。俺が嫌いなものは結構少ないし、大抵のものは食べられる。実際ここにあるお店のものなら大体食べられる。

 となると後は芽衣か。芽衣が好きそうなもの……は正直よくわからない。芽衣が俺に料理するときも、芽衣自身が好きなものを作ったことがないからな。過去に好きな食べ物を聞いても「お兄様と食べるごはん」と言っていたくらいだしな。

 仕方ない、昔母さんに聞いた情報を元に選ぶとしよう。


「んじゃ、ここにするか」

「……え? ここって……」


 俺の選択に、芽衣は軽く驚いているようだった。

 俺が選んで指さしたお店はラーメン屋。しかも野菜や麺の量の多さに定評のある、がっつり系のお店だった。男性ならともかく、あまり量が食べられない女性は寄り付かなそうなお店でもある。


「……なんでこのお店を?」

「え? だって芽衣こういうの好きだろ? いっぱい食べれる系」

「そ、そんなこと……」

「隠さなくてもいいぞ、前に母さんから聞いちゃったし」

「お母さーん!!!」


 衝撃の事実の告白に、芽衣は思わず叫んでしまっている。芽衣の心境を察すれば、致し方ない。

 俺も実家にいた時は、芽衣が結構な大食いなのは知らなかった。ごくごく一般的な量しか食べてなかったし。だが俺が高校進学のため家から離れたのをきっかけに、結構な量を食べるようになったとか。

 最初はやけ食いかと思ったらしいが、それが今でも途絶えてないから本質はこっちだろうと母さんも言ってたしな。そういうことは普通隠しておくものだけど、母さんもポロっと口にしてしまったようだ。


「別に隠さなくてもいいんだぞ」

「だって……いっぱい食べる女の子とか、あまり印象よくないし……」

「そうか? 俺はいっぱい食べる子は好きだけどな」


 自分の個性を押し殺そうとする芽衣を、俺は優しく諭した。

 ちなみにいっぱい食べる子が好きなのは嘘ではない。根拠は風見さん。彼女がいい笑顔をするときは、美味しいものをいっぱい食べているときだ。もう一か月も経って食には困っていないはずだが、多分これは風見さんの素顔だろう。


「……それ、ホント?」

「おう。嘘じゃないぞ」

「そう、なんだ……」


 そしてその言葉をもらった芽衣は、ちょっと嬉しそうな表情をしていた。一時は秘密がバレて焦っていたが、認められれば話は別って感じだな。


「じゃあここにする。もちろん、お兄様の奢りで」

「おう! いっぱい食べろよ!」


 我慢から解かれた芽衣は、元気を取り戻しそのラーメン屋の列に並ぶのだった。機嫌も気分もよくなった芽衣を見て、俺も十分満足したのだった。



 ちなみにこの後、俺が食べたラーメンの倍くらいの量のラーメンを芽衣が平然と平らげたのだが、それはまた別の話。




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