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50話 ド定番



 さてこれから芽衣と初デートをしていくわけなのだが、はっきり言ってまともなデートプランなど思い付くはずがなかった。こちとらまともにデートもしたことないというのに、プランを練ってこいなど、結構な無理難題である。

 一応ネットを駆使したりして、最低限のプランを練ることはした。これで芽衣の前で無様な姿を見せることはないが、これが正解なのかどうかは俺にもわからない。そしてそれが芽衣のお気に召すものなのかも、さすがにわからない。長く一緒に暮らし度々出かけたりしてきたが、いざデートとなると話は変わってくる。

 とにかくここは失敗をしないためにも、俺はド定番の選択をとることにする。


「それでお兄様……まずはどこに行くの?」

「あ、あぁ……まずは映画館でも行こうかなって……」

「映画館、ねぇ……まぁそのあたりが無難だね」

「うぅ……普通のことしかできないお兄ちゃんでごめんな……」

「ううん、お兄様は悪くない……芽衣だって、『デート』は初めてだから……」


 少し落ち込む俺を、小柄な芽衣によって慰められた。だがあまりにも違いすぎる身長差(二十センチ以上)によって、なんとも情けない図ができてしまったが今はどうしようもなかった。

 デートに映画館というのは、非常に無難な選択と言えよう。ザ・セオリー、あまりおっかなびっくりな行動はとらないようにしている……妹とデートしている時点でおっかなびっくりな展開とかそういうマジレスは今はいらない。

 デートに行くのにぴったりなスポットというのは、他にもいっぱいあった。だがその候補というのが、結構な無茶難題だらけであった。動物園や遊園地などあまり俺たち自身が好まなそうなのから、自宅という関係性的に一番意味を成していないものまで。その中でも唯一出来そうだったのが、映画館とショッピングくらいだった。

 ショッピングなら芽衣の行きたい場所に合わせればいいだけの話だし、映画も観ているだけで結構な時間を使うことができる。その時間中芽衣のことについて探れないのが難点だが、ムード作りにおいて必要不可欠なことだと割り切ればいいだろう。

 しかもちょうど今、流行りの恋愛映画も放映しているらしいしな。俺は全く興味ないし内容も全然知らないけど、こういうデートの定番に従ったまでだ。

 そんなことを考えていると、あっという間に映画館の前にやってきた。ゴールデンウィークも終盤に差し掛かっていることもあり、朝から結構な混雑具合だった。


「結構混んでるな……」

「そうだね……それで? 今日は何の映画観るの?」

「あぁ。えっと……あ、これだこれ」


 俺は目的の映画の広告を探し、見つけて芽衣にわかるように指さした。映画のタイトルは「十年越しのラブストーリー」という、なんとも捻りのないものだった。あらすじ等も全然調べてないからこれのどこが面白いのかすらわからないが、今この映画が流行っているらしい……マジでその程度の知識で来たのだ。


「……なんかこの映画、内容が薄っぺらそう……」

「芽衣さんや。気持ちはわからなくはないけど、口に出すのはやめようね……」


 思ったことをストレートに口にする芽衣を、俺はそっと諭したのだった。ここにはその映画を観るために来た人もいるからね。その人たちの耳に届いたらどんな目で見られるかわかったもんじゃない。

 だが血がつながっていないのに感性までそっくりなのは、すごく面白かった。やっぱ育ちが一緒だと、そういうところも似てくるんだな。


「それよりもお兄様。芽衣、観たいのがあるんだけど……」

「お、そうなのか? ならそっちでもいいぞ」


 むしろ好都合なまである。俺は別にどの映画でもいいのだが、芽衣が観たいのがあるならそっちにした方がいいだろう。最終的に芽衣が満足すればいいのだから。


「この映画なんだけど……」

「えっと、何な……」


 芽衣が指さす方に視線を向ける俺だったが、途中で言いかけてた言葉は止まったのだった。芽衣が指さす方にある映画の広告によって。その映画のタイトルとは……




「結ばれぬ運命の崩壊」




 なんだろう、この映画のことについて全く内容を知らないはずなのに、芽衣がチョイスした理由が分かった気がした。その証拠にその映画のポスターには、一組の男女が抱き合っている姿が堂々と写されていた。


「あの……芽衣さん? この映画は……?」

「最近公開されたダークホース枠。主人公と主人公の妹で描かれる禁断のラブストーリー。他の恋愛映画と違って、その兄妹に関わった人間すべてが不幸な運命を辿っていって嘲笑う、斬新なストーリー。大衆受けはしないけど、一部の層には大人気らしい」

「うん、もうなんとなくわかった……」


 芽衣の言葉で予想が確信へと変わった。「兄と妹が織りなす恋愛ストーリー」、芽衣はこの一点だけを見て選んだことだろう。まぁちょっと考えればわかったことではあったけど。


「でもお兄様は、こっちの方が観たそうだけど……」

「え、そんな映画がある……」


 だがここで新たな案が芽衣から舞い込んでくる。おおよそ芽衣がチョイスした映画で決定しそうだが、一応参考程度に見ておくか……そんな軽い気持ちで、俺は芽衣が指さした方向を向いた。

 だがその映画は、つい俺の言葉が止まってしまうくらいに衝撃的なものだった。タイトルは「メイド戦線」。ポスターには焼き焦げた荒野に武装した数人のメイドさんが並んでいる姿が写されていた。

 なぜこんな映画をみすみす見逃していたのだろう……内容は全くわからないが、まるで俺の理想を叶えたようなアクション映画に違いない。もしここに一人で来ていたのなら、有無を言わず三周はしていたことだろう。


「……お兄様?」


 口を開けたまま立ちすくむ俺を、芽衣は心配そうに見つめていた。

 だがここで俺は、再び思考を巡らせた。今回の目的を忘れてはならない。芽衣とのデートのエスコート、そして少しでも芽衣のことについて聞き出すことだ。どう考えてもここで俺の欲に走っても意味がないことはわかっている。ここでとらないといけない選択は、最善の一手なのだ。


「……あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてて……それじゃあ芽衣が観たい映画にするか」

「え、うん……芽衣はそれでいいけど、お兄様はいいの? そっちじゃなくて……」

「うん、大丈夫だよ。多分個人的に何回も観ることになるだろうし……今日は芽衣の観たいのを観ようぜ」

「……お兄様がそう言うのなら、芽衣は嬉しいけど……」

「だろ? そう決まればさっさと行こうぜ。時間も迫っているわけだし」

「あ……」


 話がまとまったところで、俺は芽衣の手を再び掴んでチケット売り場に向かう。チラッと上映時間を確認したところ、そこまで時間に余裕があるわけではなかった。ここで悠長に迷っていたら普通に間に合わない。

 少し強引だったかもしれないが、これで間違いないだろう。芽衣の希望には沿っているつもりだし、なんだかんだで俺と芽衣の感性は似ているから俺が楽しめないということはないだろう。

 これら一連の行動を見て、芽衣はどう思ったことだろう。今まで芽衣と出かける際は、ほぼ百パーセント芽衣の希望に添えるようなことが多かった印象がある。だが今回は起点を変えてちょっとだけ強引さも混ぜてみた。この行動が芽衣にとってどう写ったのか、それは本人に聞くまでわかることはなかった。


 そんないろいろな思考が混じり合っている間に、俺たちは券を買いスクリーンの方に向かっていく。とりあえず今はいろんなことを忘れて、映画を楽しむとしよう。後で面白かった感想を言い合えるくらいには。





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