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48話 調査その二



 その日の夜。体調もほとんど元通りまで回復した俺は、いつもと変わらぬ生活を送っていた。あまり二人の世話になるのも、正直な話申し訳ない気持ちでいっぱいになるしな。まぁさすがに、夜ごはんにがっつりしたものを食すことはできなかったけど。


 そんな感じに今日という一日も、少しずつ終わりに近づいていく。だが俺にはまだやるべきことがある。それを果たすまでは、寝ることなど許されない。そのために俺と風見さんで作戦を立てたほどだ……と言っても風見さんにいつもよりも長くお風呂に入ってもらうだけなんだけどな。

 その風見さんがお風呂に行っている間、俺と芽衣はリビングにて二人きりになる。だが俺が体調を悪化したこともあってか、珍しく芽衣はこの状況にも関わらず静かであった。俺から離れたところに腰を下ろし、スマホを操作していた。

 しかし俺が裏で芽衣のことについて調べていることは、多分バレていないだろう。仮にバレていたら芽衣の性格上、ここから出て行ってしまうのは容易に考えられる。様子から察するに、今は問題ないはずだ。

 んじゃ、早速始めるとするか……芽衣への直接的な探りを。


「なぁ、芽衣」

「なんですか、お兄様?」


 離れたところにいる芽衣に話しかけると、芽衣も顔をこちらに向け俺からの問いかけを待つ。機嫌が悪いわけでもないか……これなら話もできる。


「どうしたのかなって思ってさ、こんなに離れて。いつもならこの状況でグイグイ来るのに」

「いえ、ただ……お兄様から風邪をもらったら、お兄様にも申し訳ないかなって思って……」

「そうか? もうあんまり熱っぽさはないし、咳は元々なかったしな。そこまで気にすることないぞ」

「そうなの? まぁ最悪お兄様から風邪をもらえると考えれば得か……じゃあ……」


 なんだか怪しげな言葉とともに、芽衣は俺が座るソファーの近くまでやってくる。だがいつものようにべったりくっつくわけでもなく、芽衣は間に一人入れるくらいの隙間を空けて座ったのだ。風邪をひいていた俺に対する、最低限の譲歩だろう。


「なぁ芽衣……最近学校どうだ?」

「……突然どうしたの、お兄様? そんな親御さんがしそうな話題を……」


 突然なんの前触れもなしに学校の話を仕掛ける俺。遠回しに聞いても頭ぐちゃぐちゃになりそうだから、さりげなくストレートに聞くのが一番だと思った。

 それに対して芽衣は、特に表情が変えることなく俺の質問の不自然さを指摘する。だが学校の質問をしたのに対し、若干返答に時間を要したのを俺は見逃さなかった。


「いや、なんとなくだよ。芽衣のそういう話、最近聞いたことなかったし」

「そうですか……別に普通だよ。お兄様のいない学校に価値なんてない」

「ひどい言い方だな……」

「……だって勉強も簡単だし、参考になることなんて実技系科目くらい……」

「あぁ……まぁ芽衣の場合そうなるか……」


 ダメだ……「俺のいない」学校というものに対して、あまりにも興味が薄すぎる……芽衣のことを考えれば、わからなくもない話だが。

 ちなみに芽衣は主要五科目や実技のペーパーには滅法強いが、実技はかなり苦手としている。体育とかが典型的な例だ、長距離は完走できればいい方だし、泳ぎとかも溺れるかひやひやするレベル。唯一の例外が得意としている家庭科(調理系)だけだ。


「そういうお兄様はどうなの? 最近の様子は?」

「俺か? 俺はまぁ普通……なんて枠組みから到底外れてるな、ハハッ……」


 芽衣の返しの質問に、俺は乾いた笑いとともに返すしかできなかった。既に俺の学生生活は、普通という枠組み程度に収まるものではなかった。その説明は……もうするまでもないな。


「でもまぁ、最終的にはプラスに落ち着いたと思うぞ。確かな友情の絆を確かめられたし、それにかけがえのない新たなつながりもできたしな」


 その一連のことを思い出し、俺はその思い出に耽る。総合的に見ても内容の濃い出来事だったが、人間的にはすごい成長を感じた。これも風見さんや壮馬、赤羽さんのおかげかな。


「絆……つながり……知らぬ間に、お兄様は前に進まれたのですね。それに比べ芽衣は……」

「そんな卑屈になるなって。芽衣だって友達作ればいいだろ?」

「……別に欲しくない。それに中学でできた友達なんて、卒業したらつながりなんて消えるから」

「それは……そうだな」


 芽衣の口から出てきたそんな悲しいセリフを、俺はただやんわり肯定するしかなかった。だって俺もそうだったし……中学の知り合いなんて、卒業以来連絡とってないしな。多分芽衣も、その姿を見てきたから言っているのだろう。

 そして芽衣は、他とは比べものにならないくらいの声色で一言、こうつぶやく。



「私の人生には、お兄様さえいればいい。それが叶うのならば、他は何も望まない……」



 その言葉を吐く芽衣を、俺はチラッとのぞき込む。その表情はまさに真剣……冗談で言っているつもりなど一切感じないくらいの鋭い眼差しが俺に向けられる。


「……そうか。明日香も、ダメだったのか?」

「……あの人は、風見さんはよくわかりません」


 ここで俺は風見さんのことについても聞いてみた。その言葉が本当なら、風見さんに対しても思うことがあるはずだ。

 だが芽衣の回答はというと……意外にもやんわりとしたものだった。


「もちろん最初はお兄様を狙う敵だと思ってました。けど深く踏み込んでみれば、意外とバカだったり過剰に心配症だったり……一言で表すなら、過保護なお姉ちゃんみたいな感じ」


 お、お姉ちゃんって……確かに昨日デートしてたのは知っていたけど、一体何がどうなったらそんなイメージを植え付けられるんだよ。でもまぁ、全くの他人とか憎い人よりなんかは十分良好な関係を築けているのも事実だ。そのあたりは風見さんホント上手いよなぁ……


「……だから学校にいる人なんかよりは十分いい人、でもお兄様を取るなら、芽衣は絶対に許さない」

「……そうかそうか」

「むっ。なにその小馬鹿にしてるような感じは……」

「違う違う……芽衣も人付き合い良くなったな、って思っただけだよ」

「……むぅ~」


 俺の反応に怪しむ芽衣だったが、芽衣の頭をなでながらなだめることにより芽衣の機嫌が損なわれることはなかった。

 だが今の芽衣のセリフで分かったこともある……『学校にいる人なんかよりは十分にいい人』。この言葉は、芽衣の中で誰かと比較して放った言葉ということになる。さっき友達はいらないというほど、学校での人付き合いのよくない芽衣がだ。

 少なくとも俺が芽衣と一緒に学校に通っていた時には、友達と一緒にいる姿を見たことがない。俺が卒業して以降に友達ができた可能性も限りなく低い……となると芽衣は何らかの形で同級生と接する機会がある。それがいい方向なのかよくない方向なのか……今のところわからない。

 こういうことなら、もう少し踏み込んで聞く必要があるが……もうそこまで風見さんも時間を稼げないだろう。だがこんな時のためにも、俺たちの中では別プランが用意されている。それを実行するまでだ。


「よし、んじゃさっさと風呂入って寝るか! 芽衣も早く寝ろよ」

「う、うん……でも急にどうして……」

「そんなの決まってるだろ?」


 不思議そうな表情をする芽衣に向かって俺は一言、強引な約束を取り付ける。でも俺は知っている……芽衣がこれを絶対断らないことを。




「明日はデートだ! もちろん、二人きりでな!」





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