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46話 恐るべき予測



 その後、何事もなかったかのように部屋の掃除をしたり俺の世話をしたりする芽衣。おそらく俺が芽衣のそれを見てしまったことに、芽衣自身は気づいていないのだろう。芽衣に余計な不安をさせないよう、俺もいつも通り芽衣と接していく。多少不自然さはあったかもしれないが、多分バレていないだろう。

 そうこうしている内に風見さんも帰ってきたので、この場はとりあえずしのぐことができた。芽衣も風見さんが帰ってきたことで、一度俺から離れていく。多分家事とかしに行くんだろうな……

 二人が部屋からいなくなったところで、俺はもう一度眠りに就く。考えなくてはならないことは明確にあるが、まだ体調が万全ではないから一度寝よう。寝てごはん食べて薬飲んでまた寝れば、多分体調もほぼ全快になっていることだろう。


 一時間くらい軽く寝て再び起きた時には、俺の部屋に二人の姿があった。机には自分たちのごはんと、俺のごはんらしきおかゆが置かれていた。時間的にお昼になったのだろう。

 二人に諭されるがままに起き上がり、俺はゆっくりとおかゆを食べ始めた。自力でおかゆが食べれるくらいにまで回復出来てよかった……じゃなきゃ今頃、風見さんと芽衣による「あーん」争奪戦争が勃発していただろう。なんなら今も隙さえあれば仕掛けに行くと言わんばかりだが、あえて気づかないフリをして味の感想を言いながらごまかした。

 食べ終わったら薬を飲んでさっさと寝る。風邪を早く治すのなら、これが一番だろう。昼の時点で朝のような気怠さはほとんどなかったので、多分寝たら全快している気がした。これも二人が看病してくれたおかげだろう。だからその時も安心して寝ることができたのだ。


 それから少し時間が経ち、俺は今日四回目の起床をする。起きた時には、身体に倦怠感がほとんど残っていなかった。ここから普段通りの生活を送っても支障が出ないくらいに。次の日には確実に治っていることだろう。

 そのまま身体を横にずらし、スマホに手を伸ばした。時刻は三時を示しており、またかなりの時間が経過していたことになる。


「あ、楓馬君起きた」


 すると近くから聞き覚えのある声がした。言うまでもなくその声の主は風見さんだ。午前中の芽衣と同じように、俺の部屋で様子を見守ってくれていた。その証拠に机に教科書やノートを開いていて勉強してたしな。


「……今度は風見さんか」

「うん。芽衣ちゃんと相談して、午前と午後に分けたんだ。だから午後……夜ご飯までは私が面倒見るね」

「そうか……じゃあ芽衣は?」

「多分私の部屋で寝てるよ。お兄様が寝てるならやることないって」

「……そうか」


 今芽衣はいないのか……なら都合がいい。俺は風見さんに話しておかなければならないことがある。この話はぜひ風見さんと共有しなければならないからな。


「それはちょうどよかった……風見さんに話があるんだ」

「う、うん。それはいいけど……身体は大丈夫なの?」

「あぁ。完全復活とまではいかないけど、ほぼ問題ないな」


 急にいつもの調子を取り戻していく俺を、いつも以上に心配する風見さん。その気遣いは非常にありがたいが、今はそれどころではない。俺の体調以上に大事な案件があるのだから。


「それならいいけど……それで話って?」

「あぁ。話はな……芽衣についてだ」

「芽衣ちゃんについて?」


 俺がそう切り出したとき、風見さんはあからさまに疑問を浮かべている様子だった。わざわざ二人きりで、もう一人の住人についての話をするからな。風見さんからしたら何も情報がないわけだから、何もわからないわな。


「風見さんが帰ってくる少し前、俺は芽衣に身体を拭いてもらったんだ」

「うん、それは聞いたよ。さっき自慢げに話してたからね」

「……そうか」


 なんとなくその光景が目に浮かんだ気がした。その感じだと出ていく際に盛大に転んだことは話していなさそうだな。まぁ俺が説明するから別にいいんだけど。


「その際に芽衣が転んじゃってな。ちょっと太ももが見えちゃった、なんて場面があったんだ」

「……なんでその話を私に? いくら私でも……」

「違う。違うから話を最後まで聞いてくれ」


 なんか少し恥ずかしそうな顔をしているが、あれは絶対勘違いしている顔だ。ここまでだと俺がただの畜生にしか聞こえないから、ここで話を切るのは止めてくれ……

 あとスカート丈が長い風見さんのメイド服でそれをすると、完全に危ない方向に行くからそれだけは絶対にしない……ってそうじゃない!


「……芽衣の太ももにな。不自然な跡……というか痣のようなものがあった」

「痣……え。それってまさか……」

「あぁ……まだ推察の域だけど、その可能性は高い……




 芽衣は誰かから、いじめを受けている」




 その一言で、部屋の空気が一気に変わる。和やかな空間などどこにもなく、まるで通夜のようなものも感じた。風見さんも俺の言葉を聞いたまま、表情が固まってしまったし。


「芽衣は基本的に、俺に隠しごとはしない。でも俺に迷惑が被りそうなときは、結構隠したりする。思い返せば昔もそんな感じだった……」

「で、でも痣があっただけで決めつけるのは早計なんじゃ……ただ怪我しただけかもしれないし」

「確かにその可能性はぬぐえない……でも両方の太ももにそんな痣があったなら、どうだ?」

「うっ、そう言われるとちょっと怪しくなる……」

「だろ? しかも痣ができていたのは太ももだけ。膝から下は何もない……まるで学生服のスカートで隠せるくらい」

「……それが本当なら計画的すぎるでしょ」


 その意見はごもっともだ。ホント人間って恐ろしいなとつくづく考えさせる。


「あ、でも確か芽衣ちゃんって昔いじめられてたよね? その時ついたものなんじゃあ……」

「それはない。昔は言葉によるいじめが多かったから、身体が傷つくことなんかなかった。最後に一緒に風呂に入ったときも、そんな傷ついてなかったし」

「そんな……」


 少しでもその可能性を少なくしようとする風見さんだが、残念ながら覆すことはできなかった。おそらく風見さんがツッコめそうなことはこれくらいだが、実際俺もこれ以上の証拠を思い出すことはできなかった。


「……俺が高校に来てから、芽衣から学校の話をされたことがない。芽衣は俺たち以外の前じゃ物静かな子だから、友達がいないかもしれないから今まで深く聞いてこなかった。でももしそれが……」

「……いじめられていて、話したくないとするなら……」

「……割とこの可能性は、現実的になる」


 そこまで話したところで、俺と風見さんの視線が交わる。この行動はもはや意思疎通だ。たったこれだけで、俺も風見さんも意見が一致したことだろう。



((芽衣ちゃんを助けないと(きゃ)……!))



 こうして俺と風見さんによる、芽衣に対する一時的な調査と救済が始まろうとしていた。




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