44話 病人誕生
ちょっと短いです
ゴールデンウィーク三日目。折り返しの日となり、世の学生たちは休みの終わりに震えているところだろう。
そんな中俺は既に七時にも関わらず、ベッドから出られないでいた。めちゃくちゃ眠いとか、ベッドから出る気分じゃないとか、そんな生易しいものではなかった。
「あぁ~だりぃ……しんど……」
かすれたような声で俺は一人そう呟いた。
昨日からそんな予兆はしていたが……案の定風邪を引いてしまったようだ。どう考えても熱っぽいし、全体的に倦怠感がひどい。
結構身体は強い方だと自負していたが、さすがに限界がきてしまったようだ。やはり無理してバイト行くんじゃなかった。この感じじゃ今日のバイトは無理だろう。
「とりあえず熱測らないと……」
とにもかくにも、まずは熱を測らないと始まらない。微熱であってほしいが、どう考えても八℃くらいはありそう。
あ、でもこの部屋に体温計ないわ……確か薬箱に入ってるはずだから、リビングか。動くのも億劫だから風見さん呼ぶか……どうせ時間が経てばバレることだし。
あまり大きな声も出せないので、近くにあったスマホに手を伸ばしメッセージを打ち込む。「リビングから体温計持ってきて」と……送信。さっ、あとは風見さんがメッセージに気付くかどうか……今の時間は朝ご飯作っているから見てるかわからないけど。
と、思っていたが。急にドタバタとリビングの方が騒がしくなった気がする。なんの音かもう察してしまった。
「どうしたの楓馬君ッ⁉」
メッセージを読んで大慌てしたのか、薬箱を抱えたまま風見さんが部屋にすっ飛んできた。まさに鬼気迫る、そんな表情をしていた。
そしてその騒がしい足音は、風見さんに遅れてもう一回聞こえてきた。
「お兄様⁉ どうしたのッ⁉」
予想通り芽衣も悲しそうな表情で部屋までやってきた。きっと風見さんの反応を見て、緊急事態だと察したに違いない。
「大丈夫だ……ちょっと熱っぽくてだるいだけだから……」
「それを大丈夫って言わないの! ほらとりあえず熱測って!」
「お、おぅ……」
風見さんに冷静にツッコまれ、俺は押される形で熱を測る。その間中ずっと二人が俺のことを凝視してくるせいで、俺自身はずっと気が気でなかった。美少女二人に見つめられるのは、非常に心臓に悪いわ……
しばらくして体温計から計測終了の音が鳴る。その瞬間風見さんは俺の服の中に手を突っ込み、体温計を引き抜いていく。突然のことにびっくりした俺だったが、体調のせいで大した反応はできなかった。
「……八度二分。めちゃくちゃひどいってわけじゃないけど、微熱でもないね。安全のために安静にしててね」
「おう……」
「もちろんバイトは行っちゃだめだからね」
「わかってるって」
さすがの俺も、この体調で出ていくほど馬鹿じゃない。店長には申し訳ないが、今日は休ませてもらおう。あとでメッセージ送っとかないとな。
「それじゃあ今日は、一日中看病しないとね! 多分病院もやってないし」
「そうだね。お兄様を苦しいままにしておくわけにはいかないし」
そして俺が病人だと確定した瞬間、二人は俺への看病に意気込んでいた。表情は喜んでいる……という風でもなく、覚悟を決めたかのようなものだ。二人からしたら、大事なご主人様が寝込んでいるのに何もしないなんて愚かなことはしないだろう。二人とも自分自身を誇れるメイドと思ってやまないだろうし。
俺としてはそこまで気にしなくてもいいのに……という気持ちが少しある。せっかくのゴールデンウィークなのに、俺のために一日潰すのは非常に申し訳なくなる。
風見さんはまだわかる。仮にも俺のメイドだから、主人の看病も仕事のうちと割り切れることだろう。だが芽衣にそんな責任はない。俺のことは気にせず、のんびりとしてほしい。
……だなんて口にできるわけないし、ぶっちゃけ本気で思っていない。二人の俺に対する気持ちは、既に重々伝わっている。だから俺を看病したいというのは、紛れもなく本心なのだ。むしろ看病を断る方が悲しませてしまいそうだ。
「すまないな……せっかくの休日なのに」
「いいのいいの! 楓馬君は身体を治すことだけ考えてればいいから」
「そうだよ。お兄様は何も気にすることなく、芽衣たちに全て任せればいいから」
「そ、そうか……」
もはや予想さえできたその返答に、一応表情を変えることなく受け答えする俺。彼女たちの逞しさは、言うまでもなく一級品だ。二人とも驚いたのは最初だけで、それからはすぐに最適な行動をとっているのだ。
恋愛不信の俺でも、こんな女性と付き合えたら幸せなんだろうなぁと、ややふらふらな意識なままそう思ってしまうくらいだ。ぶっちゃけ俺が行動すれば、それは現実になるんだけど……やはりまだ踏ん切りはつかんな。
「それにお兄様の体調次第で、明日からのデートもなくなっちゃうし」
「そう! だから大丈夫! 絶対に今日完治させてみせるから安心して!」
「お、おう……」
そしてこの欲望丸出しの答えに、俺はただ適当に反応するしかできなかった。そこだけ聞いちゃえば、欲望丸出しの人にしか見えない。でもまぁどちらにせよ、二人とも俺を想って行動してくれているわけだし。それだけでありがたいものだけどな。
というわけで休日返上の看病タイムが始まったのだった。
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