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40話 再戦へ



 タピオカという深い業を乗り越えた——乗り越えたのかどうかはわからないけど——私たちは、昼食を後回しにして別の場所へ向かった。タピオカを飲んでいたらいつの間にか時刻は十二時を回っていた。この時間はフードコーナーが混雑する時間なので、お昼を後回しにしたのだ。幸いタピオカを飲んでいて、お腹がめちゃくちゃ空いているってわけでもなかった。

 そんな私たちは、このショッピングモールの中でもアパレルショップが集合しているところまでやってきた。やはりお昼時なので、どこの店も人で混雑しているところはなかった。

 ちなみに過去に楓馬君と来たことあるところではない。あの時は緊急事態で一番近くにあったアパレルショップに入っただけだし、あの時と同じ店員さんがいたら恥ずかしくて顔合わせられないだろうし。


「それで……ここでは何をするの?」


 いきなりこんな場所に連れてきたせいなのか、芽衣ちゃんは不思議がっていた。タピオカという試練を乗り越え、少しだけ仲良くなった気がする私たち。芽衣ちゃんの態度も、少し柔らかくなっていた。


「まぁアパレルショップに来たのなら、服を買わないと!」

「服、ですか。そうですか……」

「あれ? もしかして、あまり興味ない感じ?」

「そんなことない。お兄様の前では、できるだけ可愛くありたいから。ファッションに気を遣うのは当然」


 まぁ普通そうだよね。恋する乙女は、服とかメイクとかかなり気にするからね……楓馬君が実質初恋のような私は、今まで気にしたことなかったけど。


「今着ている服は、お兄様が実家を出る前に選んでもらったものだから。あまりこれら以外を着る機会はないかな」

「そうなんだ……道理でやたら黒っぽいものが多い気もするね」

「お兄様は黒色が好きみたいだよ。自分の口でも言っていたし、物とか選ぶときも無意識的に黒色を選ぶことが多いし」


 その言葉の通り、今日の芽衣ちゃんの服装も全体的に黒っぽい印象がある。無論家に来た時に着ていたものとは違うが、鈍感な人なら同じ服と言っても仕方ないだろう。

私の目からしても、ワンポイントやストライプ等の色が違うなどはあるけど、見た目はほとんど一緒だ。


「それに昨日家に来てわかった……お兄様が一番喜ぶ服が、メイド服だということを」

「あはは……それは、ね……」


 悟ったような表情でそう呟く芽衣ちゃんに、私も同意せざるを得なかった。

 ご主人様もとい楓馬君が一番喜ぶ服を突き詰めたら、最終的に行き着くのはメイド服なのだ。楓馬君の目がキラキラ輝いているときは、大抵私がメイド服着ているときなのだから。


「でもさすがにメイド服じゃあ、外で歩けないよ。私も前同じことして、楓馬君を困らせちゃったし……」

「……なるほど、お兄様にも一応一般的な感性が持ち合わせているのね。芽衣が試す前に知れてよかった、ありがとう」

「どういたしまして」


 なんだろう、あまり感謝されている気がしない。どちらかというと、少し小ばかにされている感じがした。まぁ気にしたら負けか。


「……風見さんの服も、全体的に黒い。お兄様に選んでもらった?」

「え? うん、そうだけど……」


 芽衣ちゃんに指摘されて、私は素直に答える。

 今日私が着ている服装は、以前の買いもので楓馬君に選んでもらったものだ。白いセーターに黒のジャケットを羽織り、足まで届くような黒のロングスカート。どこかメイド服を彷彿させるようなこの組み合わせは、私が気に入っているコーディネートの一つだった。

 五月にも差し掛かり少しずつ暑くなってきているが、できるだけこの服は長く着ていたいと思っている。ファッションは我慢するものって、どこかで聞いたことあるしね。


「……お兄様、芽衣以外の女性の服を……」


 そのことを知った芽衣ちゃんは、どこか悔しそうな表情を浮かべていた気がした。今まで自分だけの特権だと思っていたことが、他の人にもとられていると考えるなら、そんな表情になっても仕方ない。

 私が芽衣ちゃんの立場でも、むくれることくらいはするだろう。


「……わかりました。ではお付き合いしましょう」

「そう! なら……!」

「ただし! 見るのは私たちの服じゃない!」

「え……?」


 そう豪語する芽衣ちゃんは、とある方向を指さした。その指さす方にもアパレルショップはある。だがそのお店はメンズものを中心に取り扱っているお店だ。女性の私たちには無縁であるはず……?




「今回選ぶのは……お兄様に似合いそうな服です!」




「……えぇ⁉」


 まさかのそっち⁉





 というわけで本当にやってきました、メンズもの中心に取り扱うアパレルショップへ。当たり前だが周りのお客さんのほとんどが男性、もしくは恋人連れの人ばかりだ。確実に私たちは異質のお客となっている。なんだろう、男の子がランジェリーショップとかに入るときってこんな感じなのかな、絶対違う気がするけど。


「ねぇ……私たち絶対場違いだよ?」

「そう? まぁ芽衣は完全に場違いだけど、風見さんは女性にしては少し身長高いからまだマシでしょ?」

「そ、そういうものなの……?」

「それに胸も男性みたいだ……いだだだだぁ!」

「それ以上言ったらイケナイ、イイネ?」

「は、はい……」


 一瞬芽衣ちゃんを懲らしめるためにそんな茶番をしたりしたが、できるだけ短く済ませた。これ以上変なことしたら、本格的に白い目で見られそうだし。


「いったぁい……冗談はさておき、これは必要なことなの」

「必要なこと?」

「そ。このゴールデンウィークの最後二日は、お兄様とのデートチャンスがやってくる。三人で一緒か、芽衣たちは別々か。それ自体はわかりませんが……もしかしたらお兄様の服を選ぶ場面が現れる、そういう可能性もなくはない」

「……確かに可能性としてはゼロではないけど」


 楓馬君はどちらかというと、ファッションに対して興味は薄い。だが私や芽衣ちゃんとかが服を選んでいて、次いでに俺もとなる可能性は十分に考えられる。


「そんなときに服のセンスが悲惨的だったら恥ずかしいから……今一度確認しようかと」

「……それは一理あるね」


 現実的なことを言えば、楓馬君はあまりそういうことは言わないだろう。多分楓馬君もメイド服以外のファッションの感性は、前回の反応からしてもそこまで高い印象はなかった。

 だがあらかじめ準備できるというのなら、備えるのに越したことはないだろう。センスがある方に見えた方がいいに決まっているし。


「だからここで勝負しない? どちらがお兄様に似合うコーディネートができるかどうか?」

「お、いいね! 面白そう!」


 芽衣ちゃんの意図を察したところで、芽衣ちゃん本人からこんな提案が飛び出してきた。無論拒否する理由がないので、即了解する。仲良くなりたいとは思っていても、楓馬君のことなら話は別だ。


「まぁ勝ちは見えてるけど。長年お兄様と一緒に暮らしてきた芽衣に、敗北なんてないよ」

「それはどうかな! ご主人様のことを第一に考えるメイドの力、見せてあげるんだから!」


 こうして私と芽衣ちゃんによる、負けられない戦いが幕を開けたのだった。これがメイドとしての資質を問うものかどうかと聞かれると……わからないとしか答えられないけどね。





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